前山剛久、小松準弥、佐伯亮が語る、
舞台『妖怪アパートの幽雅な日常』の
魅力「心に響く言葉の力を伝えたい」

コミック、アニメとしても幅広く愛されてきた香月日輪の児童文学『妖怪アパートの幽雅な日常』が、いよいよ舞台に登場する。この“青春妖怪ファンタジー”という個性的な物語世界に挑むのは、稲葉夕士役の前山剛久、長谷泉貴役の小松準弥、龍さん役の佐伯亮。すでに芽生えている熱い原作愛を持ち寄り、“3人だから”出せるファミリー感を再確認しつつ、新たなステージへの意気込みを語り合った。
この物語は“自分を映す鏡”
ーー始めにみなさんの役どころを教えてください。まずは……前山さん演じる稲葉夕士。両親を亡くし、親戚の元を離れ、格安家賃のアパートで一人暮らしを始める高校1年生の青年です。
前山:夕士は3年前に両親を亡くしてしまって、孤独で、ふとしたとこから〔妖怪アパート〕に住むことになって、そこでひとりの人間として成長していくって役なんですけど……正直最初に見たときは、自分とまったくイメージ違う、真逆かな、と思いました。舞台ですし、まずビジュアルから見ちゃったんですけど、そのときに「あ、今まで自分がやってきたタイプではないなあ」と感じました。
ーー前山さんは近作ではどちからというとキラキラしたタイプのキャラクター、ビジュアルも個性的な役が続いてましたからね。こうしたごく普通の高校生役は、確かにちょっと新しい印象です。
前山:自分としてもこれは挑戦だなって思いました。でも、真っ直ぐで、若くしてひとりで生きていこうと頑張っている夕士の内面には共感できる部分がすごくありました。原作を読んだ感触も併せ、なんか……いい役どころだなぁと。こういう人間臭いキャラクターは演じてても楽しいし、より深く掘り下げていけるお芝居ができることに、今からやりがいを感じています。
前山剛久
ーー小松さん演じる長谷泉貴は夕士の幼なじみで親友。容姿端麗、頭脳明晰、そして、大会社の重役の息子。
小松:「完璧」って感じですね。だから……その……すいませんっ(笑)。僕、「黙ってればいい感じだよね」ってよく言われるんですよ。黙ってれば頭よさそうにも見えるし、ちょっとクールだしね、みたいに。でも喋っちゃうとボロが出ちゃうといいますか(笑)、それが、本来の僕です。今回長谷泉貴を演じるにあたっては、そこもちゃんと……喋ってもカッコいい、なにしても完璧なエリート高校生になれればなって。
ーー見た目だけじゃないぞ、と。
小松:(笑)。エリートで完璧な長谷ですけど、とはいえまだ高校生。妖怪アパートの仲間と接していく中、様々な出会いを通じて長谷自身も知らない世の中のことを知ったりと、人生の新たな景色も見えてきます。その心の動きもみんなで共有しながら表現したいです。自分が原作を読んで印象に残っている長谷の魅力、彼の人間味を大切に感じながら演じていきたいです。
ーーそして佐伯さん演じる龍さんは、さらにまたスタイリッシュな青年!
佐伯:もうね、圧倒的存在感が、すごい! 龍さんが来るたびにみんなが思わず振り向くというか……。
ーーなんかちょっと、風が吹いちゃう感じですね。
佐伯:そうですね。音が鳴るというか(笑)、なんかそんな感じもありますし、外見はやっぱり「美しいな」っていう印象が一番でした。そして内面は……すごく意思が強いしっかり者。それってたぶん周囲のみんなが経験してきたことないようなことを、すでに誰よりもたくさん経験していているからなんでしょうね。だからこそ発言にも説得力があるし、頼れる人なんだと思うんです。
ーー妖怪アパートの先住者で、霊能力でもある。
佐伯:そうです。その能力犯罪組織の捜査も手伝ってたりとかするんですよ。
前山:それ、すごいよね〜。
佐伯:すごいんです! すごすぎてまだちょっとわからない部分も多いので……。
前山:たしかに未知なんだよね、龍さん。
小松:原作を読んでてもわからない部分がいっぱいあるからね。
佐伯:本名も不詳、年齢もわかんない、とてもミステリアスな存在。稽古を通してできるだけ謎を解明していければと思います。
佐伯亮
ーー物語の舞台は幽霊や妖怪が出るかなり不思議なアパート。そこでファンタジーでありながら日常のリアルも満載な青春ストーリーが繰り広げられていきます。原作に触れた印象は?
前山:始めにアニメを全話見て、なんかハートウォーミングというか……僕はほんとに「道徳」の教科書に近いなって感じたんです。
ーー例えば……教科書で読む『ごんぎつね』、みたいな?
前山:はい。「人はこう生きるべき」みたいな大きなテーマがあって、そこを妖怪の視点から見た人間だったり、逆に人間の視点から妖怪だったりってところから描いていく。綺麗ごとだけじゃなく、同じアパートに妖怪が人間と住んでて、嫌なこともあるけど、それもそれで楽しんでるっていう描写もあったりとか。
ーーそこから“人間の素敵なところ”を再確認していく。
前山:そうなんですよ。なんか嫌なこともいいことも受け入れていくのが人間なんだよねってところをちゃんと表現してるし、僕らのほかに出て来るキャラクターも、僕らが住む現実世界にいるいろんな人のイメージを何倍もわかりやすくデフォルメして描かれていて……人とちゃんとしゃべれないとか、少し外れた道に進んでいたり、人間関係がいびつだったり。そうすることで「なんかこういうふうに生きたほうがいいよ」とか、「こういうふうになっちゃ駄目だよ」とかが、よりストレートに伝わって来るんですけど、そのわかりやすさが「道徳」っぽいなって。
(左から)佐伯亮、前山剛久、小松準弥
ーーテーマが明確に伝わって来るのは、児童文学ならではかもしれないですね。
前山:今はその原作のほうを読んでるんですけど、アニメはハートウォーミングなテイストが強かったけど、原作はそこにより内面的な描写……人生の重さだったり、命というモノに対してすごく考えさせられるエピソードがあって。そこもたぶん読む人によって感じる角度も変わってくるんだろうな、という提示の仕方なんです。だからこの作品は「鏡」ですね。自分を映す鏡。僕も読んでいて、あ、ここ共感できるな、ここはちょっとすごいな、まだわかんないなぁとかいう部分がさまざまにあります。ホントに今までどう生きてきたかで受け止め方が変わって来るのがこの作品の面白いところ。大好きですね、もうすでに(笑)。
小松:僕はこの作品には“生きていく中でのヒント”みたいなモノがたくさん散りばめられてるなっていう印象を持ちました。だから今、前ちゃんさんが「道徳の教科書みたい」って言って、それ、すごくいい例えだなって思いました。やっぱり僕たちも生きていく中で、その瞬間瞬間感じることはいろいろありますけど、「どうしたらいいんだろう」ってわかんないときとかあるじゃないですか。絶対。でもそういうとき、狭いところでばかり考えずにちょっと広い視野で見てみたら、同じ悩みでも違う捉え方ができるかもしれない。『妖アパ』を読むと、そんなふうに一歩引いてもう少し楽に人生のことだったりとか、生き方についてとかを考えられるようになれるというか……。この先もふとここに立ち返りたくなるような言葉、忘れたくない人間の姿、妖怪の姿っていうのがあるので、そういうところを大切にしていけたらなって思います。

ーー大きく頷いてらっしゃいますね。

佐伯:はい。僕も二人の言う通りだと思います。読んでいて、僕ももうちょっと早くこの作品に出会っていたら、また一味違ったんじゃないかと──
小松:まだ早い、まだ早い! 一番年下だからね。
小松準弥
前山:そうそう(笑)。
佐伯:(笑)。でも若いからこそ余計に視野が狭くなりがちですよね。そういうときに周囲の人からの助言だったり助けだったりを得られたら、もっと柔軟に考えることができるはず。例えば僕は高校生まで広島に住んでいて、広島での世界しか知らなかった。でもこうして新しい土地=東京での暮らしを知って、いろんな人と出会ったらまたいろんな考え方が生まれて……っていうのが今の状況。それって夕士が妖怪アパートに来て、住人たちと出会って影響されて……という日々とちょっとなんか重なるところがあるから、個人的にもすごく物語に感情移入できています。自分に重ねれば重ねるほど、ここに込められている“生きることの大切さ”が伝わってくるんです。
現実でも“幽雅な日常”が!?
ーー知らない同士、違った同士がそれぞれの思いを持ち寄って交流するのはとても豊かな経験。しかもそこに人間だけじゃなく幽霊や妖怪が加わることで、より「人間ってこんなにいいじゃん」という部分を教えられてしまう。ちなみにみなさん個人は幽霊や妖怪、お好きですか?
前山:幽霊はいる、と思ってます。見えたりも──
小松:あります?
前山:たまにね。
小松:そうなんですか!
前山:ほんとたまに……舞台上とか。
佐伯:ああ、そうなんだ。
前山:僕が台詞を喋ってるとき、視線の端に……舞台上に白いなにかがずっといたりとかってこともありました。まあ、気のせいかもしれないですけど。でも僕、それは『妖アパ』と一緒で、悪いものだとは捉えてないです。守護霊とか、そういう守ってくれる存在なのかなって。
小松:舞台で見る、というのもよく聞きますよね。
前山:よく聞くし、僕はなんか舞台ってそもそもそういう存在と密接に関わってるのかなって思うんですよ。役者もある意味、妖怪とか幽霊に近い職業かもしれないですよね。
前山剛久
ーー観客を別世界に誘ってくれる人たちですからね。「舞台」はそういう世界に通じる扉のひとつなのかも。では、“幽雅な日常”も全然ありで。
前山:はい。幽霊とは仲良くできそうだと思うんですけどね、僕(笑)。
小松:それ、夕士じゃないですかっ!
前山:うん。受け入れ態勢ばっちりっていう話ですよ(笑)。
佐伯:僕も見たことあります。幽霊というか……数年前に祖父が他界したんですけど、四十九日まではちょいちょい家の中で会ってました。
小松:まじ? ちょいちょい?
佐伯:ふとしたときに「あ、おじいちゃんいる」って感じ。気配があるんです。それは「また会いにきてくれた」ってめっちゃ嬉しかったし、僕も悪いモノとは思いませんでした。
前山:いいじゃん。龍さんにぴったり。
佐伯:そうだね。
小松:僕も……受け入れ体勢ばっちり、です、よ……。
前山:ビクビクしてるから!
佐伯:(笑)。
小松:でも、僕もおじいちゃん見えたことあります。3歳の頃に亡くなっちゃったんですけど。火葬場に移動するバスの中からおじいちゃんが見えて、母親に「おじいちゃん見えるから、おじいちゃんついてきてるから泣かないで」って言ったのを今でも覚えてて。だから僕も信じる派。住みたいですもん、このアパートに。環境、めっちゃいい。
小松準弥
前山:いいよね。だってお風呂広いんだよ。るり子さん(賄い担当の幽霊)のご飯も食べてみたい。
佐伯:ああ、ね、食べてみたい!
小松:日常がもう、みんながあたたかすぎて、ほっこりしません? 見てて。
前山:ほっこりする。いいな、こういう……アパートのみんなが家族みたいな感じ。なんかそういう人間関係って今、すごく薄れてきてるし。妖怪だけど人間らしい関わりっていうのがまたじんときて……今の時代だからこそ染みて来るエピソードですよね、全部。
生きる力が湧く“本当”を伝えたい
ーーみなさんは『あんさんぶるスターズ! オン・ステージ』でも共演されています。チームワークはすでにまったく不安ナシですね。
前山:そうですね。一緒にお芝居の話とかもすごくしてきた仲間だし、お互い信頼してるし。もちろん役は違いますけど、僕と小松くんはそっちでも幼なじみ設定だったりっていう通じるモノもあったり。でも馴染んでいるということに甘えず、ここはここでちゃんと納得したお芝居を出し合えるよう踏ん張っていきますよ。
小松:前ちゃんさんはリーダーシップがありますし、僕はもうすごく信頼しています。まずはこれまで通りちゃんと腹割ってお芝居のことや役のこと、いろいろ話し合っていけたらいいなって思いますね。あとは……僕は今回、長谷泉貴として、ちゃんと夕士を支えられるような存在になれたらいいな。頼る側ばかりじゃなく、一生懸命集中しつつ、でもどこかで一個そういう部分を……余裕を持ちながら真剣に全力を注げる自分でありたい、しっかり経験を積みたいです。
佐伯:前山さんは妥協しないってところがやっぱすごくて……何事にも真っ直ぐに取り組んで、なおかつ、みんなをまとめてくれる。絶対大変なはずなのに僕らにはそれを見せずにぐいぐい引っ張ってくれて。そういう前山さんの圧倒的存在感を、僕は端からずっと見てました。なので、今度は龍さんとして僕がそれを持たなきゃなっていう使命を感じてます。これまで築いた関係を大事にしつつ、また違った形で頑張っていけたらなって、すごく思ってます。

佐伯亮

ーーお稽古も楽しみですね。
前山:僕、2.5次元舞台は何作かやってきましたけど、今までは「原作」と「舞台ならでは」を半々でやるっていうのを心がけてきました。でも今回は命の大切さだったり人間が生きることだったりとテーマ自体がしっかりしてるから、そこを伝えることに重きを置いたほうがいいだろうと思っていて。より演劇としてちゃんと伝えることを考えたいな、と。夕士というひとりの人間としてみんなとどう対話するか、どう会話するかっていうことを全体で創って、それでやっと伝えられる“本当”がある。笑えるシーン、泣けるシーン……とにかくお客さんが楽しめるように、みんなで“気持ち”で創っていくっていうことを特に重要視したいなって考えてます。
ーー生身の人間が演じる、生身の人間ドラマに集中していく。
前山:アニメや漫画の絵じゃなく、小説の文字じゃなく、舞台で視覚的に立ち上げることで初めて伝えられることって絶対あるので……原作のメッセージを大事にしながら、舞台版の『妖怪アパートの幽雅な日常』だからこそ伝えられる作品の新たな一面っていうのをぜひ表現していきたいです。
小松:僕が特に大切にしたいと考えているのは「言葉」。さっきも言った“生きるヒント”に繋がる名言みたいなモノが、ここにはたくさんあるんです。原作を読んでそういう言葉の数々が僕に強く響いたように、言葉ひとつで自分の世界が広がっていくような気持ちになれたように、今回舞台を見に来てくださる方々の心にも、ここにある素敵な「言葉」がひとつでも多く届けばいいですね。そのためにはやっぱりどこまで自分の気持ちをリアルに持てるか、どこまで自分を試せるかだと思います。いっぱいディスカッションして、どんどん悩んで、どんどんもがいてあがいていけば、前ちゃんさんがいうように、舞台でしか表現できない『妖怪アパートの幽雅な日常』が創り出せると信じてます。
佐伯:小松さんとちょっとかぶるんですけど、僕も原作を読んでいてホントに言葉の力はすごいなって思ったんですよ! 龍さんの台詞にも「世界は広いよ」「だからこそ肩の力抜いていけ」っていうのがあって、確かにそうだよなって。自分じゃ気付かないことを誰かが自分に対してちゃんと言葉で言ってくれる。そして、その言葉を受け止めたからこそ一歩前に進めるという説得力のある言葉=説得力のある台詞を自分も発していきたい──夕士に対しても、観ているお客様に対しても。だからこそ……もっと自分自身がいろいろ経験し、考え、言葉を大切にしていかなくちゃいけないので……本番までにそこをどこまで深められるのか。もう、今から試行錯誤していきます。
ーーみなさんそれぞれの真摯な覚悟が伝わってきます。
前山:嫌なことも全部受け入れ前に進んでいく。そんな強さを教えてくれるホントに大切な物語。老若男女関係なく、観た方みなさんに生きる力が湧くような、あったかい涙が流れるような舞台になると思います。この仲間だったらきっと素敵な作品が届けられるはず。どうぞ楽しみに待っていてください。

(左から)佐伯亮、前山剛久、小松準弥

取材・文=横澤 由香 撮影=岩間辰徳

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