正直に、自然体で――活動10周年を迎
えたそらるが放つシングル「銀の祈誓
」を紐解く

そらるが11月28日にシングル「銀の祈誓」をリリースした。自身で作詞作曲を手がけている「銀の祈誓」と、アコースティックバージョンの「嘘つき魔女と灰色の虹」が収められている今作を紐解いたインタビュー。そして今年活動10周年を迎えたそらるに、この10年間を振り返ってもらった。
――2018年7月22日に活動10周年を迎えられたそらるさんですが、10年の活動を経て、今はどんなことを感じているのでしょうか。
9年から10年に突入した瞬間、なにかが変わるみたいなことはなかったし、特別大きな心境の変化はなかったですけど……長くやってきたんだな、ということはあらためて思います。
――以前そらるさんは、「もともと歌は好きだったけれど、歌手になりたいとは思っていなかった」とおっしゃっていたように記憶していますが……。
そうなんです、歌手としてやっていくつもりはそもそもなく、気づいたらそうなっていたというか。自分だけではそうなっていなかったし、自分の歌を楽しみにしてくれている人がいて、その数が徐々に増えていったから、この道を進んでこれたんです。昔は本当にただの趣味、遊びで始めたし、自分の人生はこれなんだ、音楽と一緒にあるものなんだ、って腹をくくるまでは時間がかかりましたけど、今はやれるところまで挑戦してみよう、と思うようにもなりました。
――覚悟を決めるきっかけとなった出来事や出会いはあったりするのでしょうか。
どうだろう……なにか決定打があったわけではない気がするんですよね。音楽を仕事にしたい人や、音楽を仕事にしている人と関わる機会は多くあったし、そういう人たちといろいろな話をする中で、“自分もより責任感を持って音楽に向かわないとこの先はダメだ”と、だんだん意識するようになっていったというか。
――関わる人の数が増えていったり、ライブのキャパシティが上がっていく中で、プレッシャーを感じて逃げたくなったり、怖くなってしまったりはしなかったのでしょうか。
いやぁ、どこに逃げるんだっていう感じで(笑)、逃げ場もなかったですからね。ただ、そもそも歌は趣味・遊びで始めたものだったので、やめたくなったらやめればいいものなんだ、って自分で思うようにはしていました。やめられないものだ、って思うと余計にやめたくなったり、楽しくなくなっちゃいそうだったし。実際、楽しんで作った曲、楽しんで歌ったもの、楽しんだライブが、一番いいと思うんですよ。
――そらるさんは、ソロ活動だったり、まふまふさんとのユニット・After the Rainとしての活動だったり、動画投稿だったりといろいろな表現をされていて忙しいとも思うのですが、そのどれもが楽しいから、精力的に活動できているわけですか。
自分なんて、本当に多忙な人に比べたら追い詰められずにいろいろできているというか……わりとゆるくやれているほうだと思うし、本当にいやなことはやらないので。とはいえ、どんなに好きな仕事を選んだとしても、ポジティブな側面だけではないと思うんですね。
――確かに、好きなことだけするのでは仕事として成り立ちませんね。
たとえば絵を描く仕事を選んだとして、色を塗るのは好きでも線画が好きじゃない、とか。でも、トータルしてそれを仕事にできているということに満足して、幸せを感じられるなら、“どちらでもいいことはやる”ということは、腹をくくったときに決めました。たとえば人前に出ることとか……僕はそもそも人前に出ることに慣れていないので、苦痛ではないものの得意ではないんですよ。
――以前もそうお聞きしましたが、ライブを重ねたくさんの場数を踏んで、横浜アリーナやさいたまスーパーアリーナといった大きな会場に幾度も立った今も、ですか。
昔よりは慣れましたけどね、やっぱり苦手です(苦笑)。でも、最近はライブで楽しいが勝るようになったかな。それはいろんな要因があって、たとえば横浜アリーナにひとりで立ったときには、それこそプレッシャーもあったりしましたけど、ワクワク感のほうが大きかったし。目の前に1万人いても100人いても、緊張することに変わりはないというか、むしろ大きい会場のほうがやりやすいっていう感覚もあったりします。
――そんなそらるさんがこの10年を振り返って、もっとも印象深い出来事を挙げるとするなら?
今話したこととかぶっちゃいますけど、ソロでの横浜アリーナ公演ですね。そもそもアリーナ公演ってやる予定のものではなかったし、まさか自分がアリーナでライブをできるなんて夢にも思っていなかったから、やると決めたときはすごく怖くて。それだけに、自分ひとりを観るためにこんなにたくさんの人たちが来てくれるんだ、自分のやりたいことを形にしてそれを喜んでくれる人がこんなにいるんだ、っていう驚きとか感動が、すごく大きかったんです。10周年のときよりも横浜アリーナ公演のときのほうが、ここまできたか、っていうことを強く感じました。
――そして、動画やSNSでの支持の広がり、CDを手に取ってくれるリスナーやライブに足を運んでくれる人たち……ファンの方たちの存在は、そらるさんにとってとても大事なのですよね。
ずっとありがたい存在です。聴いてくれる人がいるから、支持してくれる人がいるから活動できるわけで。ただただ感謝しかないです。
――ファンの方たちはファンの方たちで、そらるさん自身が自分を偽らず、本当にやりたいことを形にしてくれているから、好きな気持ちがずっと色褪せないのだろうな、とも思います。
そうだといいな、とは思います。あまり無理せずでしかやれないので、これからも無理せずにやっていくだろうし、それでもいいと受け入れてもらえていることにしても、本当にありがたいです。
――本当に、素敵な関係性ですよね。今後も、ソロアーティストとしての活動も、After the Rainはじめ仲間との活動も、自らの考えや想いに正直に、型にはまらずに続けていかれるのですよね。
結局、自分に嘘をついたり無理をしていたりしたら、10年続けることができなかっただろうな、とつくづく感じるので。この先も、自然体のままでやりたいことをやっていきたいなと思っています。
――そらるさんのそうした正直で、実直で、誠実なところ、本当に音楽ににじんでいるなと、あらためて感じます。
嘘をついていたら、ちょっとしたほころびも取り繕えないと思うんですよ。だから、シンプルに正直に向き合いたいなって。
――そういう精神性をはらんだ言葉や音こそ、人の心を動かしますよね。10th Anniversary Year第1弾シングル「銀の祈誓」にしてもそう思いましたが……表題曲はアニメ『ゴブリンスレイヤー』のエンディングテーマでもありますね。
タイアップのお話をいただいて、どういう曲にしようかというところからスタートしたんですけど、僕はもともと原作のファンだったので。まさか自分がエンディングテーマを担当させていただけるとは、っていう嬉しさがあったし、作品のファンの方たちに喜んでもらえるものにしたいなという気持ちがありました。
――作詞・作曲も手掛けられていて、歌詞は『ゴブリンスレイヤー』の世界観を大事に書かれたのだろうなと感じます。
原作の中から印象的な言葉を全部書き出して、そこからふくらませていって。自分なりの解釈とか、自分が経験したときにどう感じるかっていう目線とか気持ちを織り交ぜました。
――どんな苛烈な運命にも抗うという凛とした強さ、そらるさんの中にもあるわけですか。
そこまで立派なものではないと思いますが……近いものはあるのかもしれません。ないと、言葉として自分の中から出てこないと思うので。基本的にはいろんなことがどうでもいい人間なんですけど(笑)、それは本当に大事なことを大事にできていればあとはどうでもいい、と思っているからで。自分にとって大切な人が傷つけられることは許せないということが原動力になっている『ゴブリンスレイヤー』の登場人物に、自分の気持ちが自然と重なって歌詞を書いたというところはあります。
――仲間を大事に思うそらるさんらしいですね。また、ロックでドラマティックに展開していくトラックも、『ゴブリンスレイヤー』という作品にぴったりで。
これまで自分ではロックな曲をあまり書いてこなかったので、曲を公開したら「こういう曲も書けるんですね」とか「こういう曲を聴いてみたかったから嬉しいです」とか、反響がたくさんあって。ドラマティックだと感じてもらえたのは、『ゴブリンスレイヤー』の世界観がそうさせてくれたんですよ。
――サビの歌は、すごくエモーショナルですし。
そこまでは淡々と俯瞰した感じですけど、曲調と歌詞がリンクするサビでは感情をただ吐き出すみたいな。ファンタジックな要素はあるけれど激しさや泥臭さもあるという幅広い表現が、1曲の中でできていたらいいなと思います。

――いっぽう、そらるさん作詞・作曲の「ゆきどけ」は、なんて美しくて、なんて切ないロックバラードなのかと。
自分はとにかくロックバラードが好きで、一番歌いたいなと思っていたんです。
――ただただきれいに仕上げることもできるのでしょうけど、ロックバラードであることで、より感情が揺さぶられるのかなと。
だったら……よかったです。あんまり難しいことを考えずに作った曲なんですけど、1作目のシングルだし、書きたい曲をそのまま出してもいいのかな、って。
――歌詞には大切な人と過ごした時間、胸を締め付けられる別れが描かれているように感じますが、そらるさん自身の体験の一部が反映されているのか、まったくのフィクションなのか……どうなのでしょう。
どちらも、ですね。自分が歌詞を書く場合、フィクションで包み隠して自分の体験を語るというか、自分の経験や考えを基にストーリー性を持たせるという傾向があって。「ゆきどけ」は、命のタイムリミットが決まっている人との物語を、いつかとけてしまう雪にたとえて書いたんです。
――<真っ白なシーツで小さな体を そっと包んだ結婚式>だとか、聴いていて画(え)が浮かぶ表現に、どんどん感情移入してしまって。
えっと……作者が楽曲の解説をするのは少し野暮でもあるのですが……それって、病室なんですよ。で、大切に想っている人に残された時間はもうないけど、現実から目をそらしてお互いのことだけを見ている間は幸せ、っていう。歌詞を書くとき、ただただ事実を書くよりも、そうやってストーリーと合わせて書いたほうが自分好みなんです。
――大人になればだんだん“鈍く”なってしまうように思うんですけど、10年活動を続けてきてもそうしたイノセントな表現ができるそらるさんは、やはり感受性が豊かなのでしょうね。
いや、自分も“鈍く”なっていますよ。ただ、それって意識的に鈍くしているからなんじゃないかな、とも思っていて。そうじゃないと辛すぎるというか、自分の場合は“鈍さ”がある意味での防衛手段というか。わかりやすいところで言うと、ネットで活動をしているといろいろな人が思うままに言葉を投げかけてきたりして、嬉しいこともあれば、そうじゃないこともたくさんあるんですよね。それをそのまま受け止め続けるのって無理だし、心を成り立たせるためには鈍感にならないとやっていけないですから。きっと、みんな子どもの心を失いたくはないけど、子どもの心っていうのはとてももろいものだから、鈍感にするしか生きていく方法はないんですよ。それこそ、子どものころって小さなこ とでたくさん悩んだじゃないですか。
――今振り返ればどうしてあんなことでと笑えるようなことでも、当時の自分にとっては一大事だったりしました。
そうそう。そのときはもう生きていけない、って思いつめてしまったりもするし。それだと生きていけないから、鈍感になるんですよ。だからでしょうね、自分が書く歌詞の中の登場人物や語り手は、基本的に子ども。感受性が一番豊かで、素直で、純粋だったころの自分が自然と出てきたり、そう在りたいと思っているから、そうなるんでしょうね。
――聴く側としても自然と“あのころの自分”に戻されるから、音楽の力ってすごいですよね。
だったら嬉しいですね。もっと戻せるような曲を書いていけるようになりたいです。
――それから、「嘘つき魔女と灰色の虹-acoustic ver.-」も収録されますが、こちらはそらるさんのボーカロイドデビューと曲となった原曲とはガラっと異なる、大人っぽいアレンジで。
「曲の持つ空想的なところを生かしてください」というお願いをしたら、Sunny(Mr.Childrenやゆず、Superflyのキーボーディストとしても活躍)さんにとても素敵なアレンジをしていただけました。
――途中のジャジーなピアノソロも素晴らしいですよね。
そうなんです、もともとはギターソロだったんですけど、こういうアプローチがあるんだ、という発見もできて。
――そらるさんの温かみのある声が耳に心地いいし、胸躍るファンタジーの世界へといざなわれてしまいます。
僕はやっぱり、空想的な世界が好きなんですよね。歌に関しては、以前歌ったものよりよくなっていたらいいなと。ライブで歌ってきたから、ライブ感みたいなものも出ているんじゃないかな、とは思います。
――ちなみに……先ほど、好きなことを仕事にしても楽しいこと、そうでないことがあるという話がありましたが、そらるさんにとって作曲や作詞は楽しいことですか?
楽しい部分も、辛い部分もあるというか。自分の中からなにも出てこなくて苦しい時期もあるから、楽しくて楽しくてしょうがないという感じではないです。でも、歌入れまで終わって完成が見えてきたとき、やっぱりいい曲になってくれたと自分で思えたら、すごく嬉しくなりますね。歌を入れてみるまではわからなかったりもするし、なんか違うなって思うこともあるんですよ。
――もしそうなったら……。
メロディをがらっと変えたり、少しずつ歌詞をいじっていったり。歌を入れながら歌詞が変わることもあります。
――妥協なく追い求めていくわけですね。
自分で満足できるものにしないと、という気持ちはあります。曲作りに関して僕はまだ不慣れな部分がありますけど、これから作詞・作曲の面でも経験値を重ねていって、もっと楽しいめるようになっていったらいいなと思っています。
――さて、『SORARU SPRING TOUR 2019(仮)』と題し、2019年春にはソロツアーが開催されますが、どんなものにしたいと考えていますか?
ずっと応援してくれている人たちに喜んでもらえて、新しく僕を知ってくれた人にはこれまでの歴史を知ってもらえるような、活動10周年の集大成的なツアーにできたらいいなとは思っていて。1本1本、温かいライブにしたいです。
――心待ちにしております。ライブはもちろんのこと、ほかにもツアーにおける楽しみがあったりするのでしょうか。
それはやっぱり、その土地その土地の美味しいものを食べることですね。そもそも、僕はご飯を食べるのが大好きなので。いろいろな土地に行ける機会ですからね、ご当地ならではの美味しいものに出会えることも楽しみにしています。

文=杉江優花

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