タイのヤングスター・Phum Viphurit
(プム・ヴィプリット)をご存知だろ
うか?

●タイ・バンコク生まれのシンガーソングライター Phum Viphurit●
2018年、振り返ればノスタルジックな空気をまとった音楽に心を震わされた1年だった。
物事には「平成最後!」という言葉があちこちについて、まさに平成を総括するようなテレビ番組なども数多く、気づけば自分の中でも平成を振り返っているからなのかもしれない。スカートの「視界良好」にくるりの「ソングライン」、あいみょんの「マリーゴールド」など、今年38歳の筆者が青春を過ごしていた90年代後半~00年代前半ごろによく聴いていた音楽の空気感をまとった2018年にありながら懐かしいけど新しい、新しいのに懐かしい気持ちにさせてくれる楽曲を、無意識的にヘビーローテーションしていたようだ。
自分にとってどこかくすぐったいような音楽が今年は気分だな(歳かな……)と思い始めていた今年春の始め、私はPhum Viphuritに出会った。YouTubeの「次の動画」でのことだ。
誰かの楽曲をBGMに仕事をしていた時、「次の動画」に目をやると、女の子の動画が一番上に張り付いているのがどうにも気になったのだ。場所はどこかの海岸の前。淡いイエローのTシャツを着たワンレンボブのキュートなパーマヘアの彼女は、宮沢りえを彷彿とさせるキュートさでそこにいて、思わずクリックしてしまった。その動画というのが、当時公開されたばかりだったPhum Viphuritの「Lover Boy」のオフィシャルビデオだった。

まるでアメリカの西海岸を思わせるようなビーチを歩いていくかわいこちゃん・ヤング宮沢りえ。目の前を通り過ぎていった彼女のキュートさに目を奪われたギターの青年は、ギターをその場に置き去り彼女を追いかけながら彼女の耳元で歌を歌ってゆく。トロピカルでアーバンな香りをまといつつ、なんだか懐かしいメロディーに、いきなり自分の心の奥底のフタがパタリと開いたような気がした。
軽やかなギターのメロディーに乗せて、ヤング宮沢りえに囁くように歌い続ける彼。海岸沿いの風景は、間奏終わりで映像が夜の街並みへと変化を遂げる。終盤に訪れるふたりが噴水の中を手をとって踊るシーンは、90年代のドラマにでも出てきそうなシチュエーションで、これまた懐かしい気持ちにハッとした。さらにラスト、彼が「Call me lover boy…」と囁いてウィンクした時には、あまりの可愛らしさにコーヒーを吹き出した。そのシーンをスーパー可愛いと思うほど、私も歳を重ねたか。音楽は素晴らしく、さらに新しいわ、懐かしいわ、出てくる女の子は可愛いわ、歌ってる彼は超ド級にナイスガイ。一体彼は誰なんだ。「Phum Viphurit」、その時は名前もロクに読めなかった。
Phum Viphurit、プム・ヴィプリットは1995年、バンコク生まれのシンガーソングライターだ。9歳の時に一家でニュージーランドのハミルトンへと移住。母が家や車の中でかけていた曲やMTVから、音楽を吸収していったという。そして、高校時代にバンドで音楽活動をスタート。その後大学への進学をきっかけにバンコクへと帰国し、大学で映画を学びながら音楽活動を本格化させた。19歳の時、バンコクのインディーレーベル・Rats Recordsへデモを送ったことをきっかけに「Adore」でデビューを果たす。
この時からすでにノスタルジーで甘い世界観は構築されているうえ、本人のそこはかとない男前感がエグい。なにより、可愛らしいのもイイ。この「Adore」を皮切りに数曲のシングルを発表し、2017年2月にクラウドファンディングによって製作された1stアルバム『Manchild』をリリースした。
ASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文も注目●
私がPhum Viphuritを知ったのは、1stアルバム発表を経て今年3月に動画がアップされた「Lover Boy」がキッカケだったのだが、実はその時点でとっくにPhum Viphuritは日本の音楽シーンをザワつかせていた。
先にリリースされた『Manchild』に収録されている「Long Gone」のミュージックビデオは、公開からたった半年で200万回再生されるなど、すでに“知っている人は知っている”タイのヤングスターとして日本のWEBニュースを賑わせていたのだ (2018年11月下旬現在、「Long Gone」はすでに850万再生に迫ろうというところ。ちなみに「Lover Boy」は2,700万回以上再生されている) 。そしてこれもまた後追いで知ったことだが、2017年の夏にはASIAN KUNG-FU GENERATIONの後藤正文が、彼の音楽の素晴らしさをいち早く言葉にしていた。
後藤正文は、自身のレーベル「only in dreams」のウェブサイト内で、2017年のベストアルバムとして『Manchild』を挙げるほどの惚れ込みようだった。
おぉ、すでに盛り上がっている。ならば近々来日するタイミングがあるのでは!?  と速攻ググってみたところ、なんと調べた3日後に来日するという。どのWEBニュースも「Phum Viphurit、緊急初来日!」とテンション高めに煽りまくっている。なんて私は幸運なんだろう!今まさに恋に落ちたアーティストの、わざわざ海を渡って日本での初パフォーマンスを目撃できるチャンスに恵まれるなんて。その公演というのが今年の4月24日、東京・渋谷のwww xにて開催された、アジアのインディーロックシーンの交流地点と題されているイベント『In&Out』で、のちにPhum ViphuritともコラボレーションするSTUTSとfeaturing guestにAlfred Beach Sandal、そしてやけのはらの共演が発表されていた。……えーと、やっぱり東京公演のみですかね……? 残念なことに筆者は関西在住、Phum Viphuritの初来日公演は東京の1本のみ。理解はできるが、無情すぎた。3日後に迫る東京公演にトントーンと上京できる環境にはなく、文字通り「涙を飲んだ」のだった。
そもそもの話になるのだが、ポップでアーバンでちょっとアンニュイな彼が、タイをベースに活動しているミュージシャンであると知った時は驚きだった。アジアの匂いがしなかった、と言えばおわかりいただけるだろうか。それが“タイのヤングスター”たる所以だろうか。私の中でタイミュージックのイメージといえば、よく行くタイ料理屋で延々ミュージックビデオが流れているいわゆるタイポップが頭の中を占めており、毎年足を運んでいるタイフェスティバルでライブを繰り広げているアーティストの音楽もこんな様子だったからだ。
初めて目にした「Lover Boy」のミュージックビデオの冒頭は、まるでアメリカの西海岸の様な爽やかさで、まさかそこがパタヤビーチであるなんて思いもしなかった。へー!タイの人なのかあ!ってな感じである。その時思い出したのが、近年バンコクのミュージックフェスティバルに足を運んでいたFLAKE RECORDのDAWAから聞いていた「タイの音楽シーンが面白い」という話のことだ。けれども、個人的にはタイの音楽が面白いという実感がイマイチつかめていなかったところでのPhum Viphuritとの突然の出会いだったのだ。タイの音楽が面白いという話、こういうことなのかもしれない。そのDAWAが今年6月、大阪で今人気を確実のものにしてきているバンド・DENIMSとバンコクの音楽イベント『CAT T-SHIRT5』に行くと聞き、なんとなく彼のインスタやストーリーズからタイの音楽シーンのことも何か感じ取れるのではないかと、期待を抱いていた。
その期待が突然爆発したのは6月4日のことだった。
●バンコクで奇跡が起こっていた●
DAWAがリポストしたインスタに……Phum Viphuritがいる。DAWAやDENIMSのメンバーと一緒に彼が写真に収まっている。遠くバンコクの地に住むPhum Viphuritが、大阪と繋がったということでいいんでしょうか。これは、もしかしたらもしかするのでは……? そしてコメント欄を見てさらに驚いた。DAWAが「この組み合わせ日本で見たいよなー呼ぶよーの話をした」と言っている……そしてその下には後藤正文が「呼んで!」とコメントをしている。なんだこりゃ。もしや近いうちにPhum Viphuritが見られるチャンスが、今まさにバンコクで生まれているのかもしれないと思うだけで心臓がバクバクするのだった。それからしばらく経った頃、DAWAに会う機会があった際、前のめりに「あれ、どういうこと!?」と聞いてみた。
「12月にプムくんがまた日本来るねんけど、大阪はFLAKEでやること決まったで」
脳内でファンファーレが鳴り響いた。そうなのだ。バンコクでの出会いをきっかけに、本当に大阪での初来日公演が決定していたのだ。バンコクのフェスでDENIMSとPhum Viphuritの出番が前後だったこと、DENIMSがPhum Viphuritのファンだったことが縁で2組の交流が生まれたのだそうだ。その待望の大阪公演には、インスタでコメントを残した後藤正文がGotch名義でバンドを引き連れて登場することまで決定していた。なんてドラマチックな!後藤正文自身、Phum Viphurit はもちろん、DENIMSも好きなのだという。DAWAの言葉を借りれば「物語のある3組が集うPhum Viphuritの大阪初来日公演」。大阪の前日にはもちろん東京公演もあり、www xでのワンマンライブとなるのも注目だ。
タイのヤングスター・Phum Viphurit、見るならば今だ。絶対に、今。懐かしいけど新しい、彼のスゥイートな音楽で、己の心の奥底の扉を開けようではないか。私も彼の音楽とキラースマイルが目撃できることを、心から楽しみにしている。
文=桃井麻依子

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