岡幸二郎インタビュー ミュージカル
・コンサート、今年も華やかに開催 
抱負=「チケット代以上のものを持っ
て帰っていただく」

ミュージカル界で唯一無二の輝きを見せる岡幸二郎が、今年も、フル・オーケストラをバックに歌う岡幸二郎スペシャル・プレミアム・コンサート2018『ベスト・オブ・ミュージカルIV』を開催する。『レ・ミゼラブル』で共演した島田歌穂石井一孝に加え、ソプラノ歌手林正子をゲストに迎え、今年生誕120周年を迎えたジョージ・ガーシュウィンや、生誕100年のレナード・バーンスタイン、そして生誕70周年となるアンドリュー・ロイド=ウェバーの楽曲などをきらびやかに贈る。贅沢な一夜にかける意気込みを聞いた。
ーーこのコンサートも4度目の開催、すっかり恒例となってきました。
もともとは、2014年、デビュー25周年を機にCDを制作し、その記念コンサートとして開催したのが第一弾だったんですね。そのときから、自分のコンサートというよりは、劇場にいらした方にいかにミュージカルを楽しんでもらうか、そんな気持ちで取り組んでいて。ゲストをお招きするにしても、ただ、どなたかをお呼びするということを超えて、毎回異なる方向性を作っていこうと思っています。
今回は、島田歌穂さん、石井一孝、そして林正子さんという大人の皆さんがゲスト。歌穂さんは、私はこういうコンサートでご一緒するのは意外にも初めてで。一孝は前にも出演してもらったことはありますが、『レ・ミゼラブル』も新演出に変わった、そんな中で、自分で言うのも何ですけれども、『レ・ミゼラブル』の一時代を築いたメンバーだと思うんです。歌穂さんなんてまさにレジェンドですから。けれども、それだけでは懐古コンサートになってしまう。そこで、林正子さんに来ていただこうと……。もちろんクラシックの方なのでそちらの楽曲も歌っていただきます。それと、『レ・ミゼラブル』『ミス・サイゴン』の作曲家であるクロード・ミシェル=シェーンベルクは、『ミス・サイゴン』のもとであるオペラ『蝶々夫人』の作曲家ジャコモ・プッチーニの音楽をいっぱい取り入れているので、じゃあ、林さんに『蝶々夫人』の「ある晴れた日に」を歌っていただいて、そこから『ミス・サイゴン』の曲につなげていこうと。林さんには他に、本来クラシックの方のために書かれた、ガーシュウィンの『ポーギーとベス』も歌っていただきます。
それから、今回、会場が東京オペラシティコンサートホールなので、ホールのパイプオルガンを使って、『オペラ座の怪人』の「ザ・ファントム・オブ・ジ・オペラ」を二人で歌おうと思っています。あの会場でやるからこそ聴ける音、声を入れ込みながら、今までよりちょっと対象年齢層高めの、厚い、熱いコンサートをお届けしたいと思っています。熱いのは、一孝もいるから(笑)。ミュージカル・コンサートが本当に増えた中で、他のものとどう違ったものをお届けするか、毎回非常に考えますね。コンサートだと、お客様も、いろいろな曲を聴けるということで足を運びやすいのは確かですし。人選の方向性はありつつも、私は、出ていただくゲストの方に対して、それはやめてくださいとかは言わないんですね。出てくださる方が一番気持ちいい状態でコンサートが終わるのがベストだと思っているので、無理にこの曲を歌わせるとかそういうことはしない。みんながストレスフリーなコンサートにしたいなと考えています。
岡幸二郎
ーー「岡幸二郎コンサート」と銘打ちながらも、岡さんがホスト役として非常に気をつかわれているという。
つかいますつかいます、今回も気をつかう方しか出てません(笑)。自分がちょっと多めには歌いますけどね。でもね、気をつかわない方だけだったら、文化祭みたいになっちゃうので。お友達同士でやっていて、歌は上手でもトークがなあなあだったりすると、お金とらないでとか思うじゃないですか。気をつかう、緊張感があるくらいが、お客さんも一番心地いいと思うんですよね。ホールの格と、オーケストラの格、それに衣装一つにしても、本当にちゃんと考えないと。観に来る方だってせっかくだからおしゃれして行きたいだろうと思うし、実際、おしゃれして行きたいと思ってもらえるような内容にしないと。
いろいろなところで言っていますが、自分自身が、大学に入って東京に出てきて、少ない仕送りの中から毎月25000円はチケット代のためにまず分けておいて、余ったお金で生活していた人間なので、チケット代の重みってすごく感じるんですよね。今回のコンサートは一番高い限定プレミアムシートで13000円ですが、だったら最低でも15000円分の何かは観に来て下さった方に持って帰っていただきたいなと。それは毎回すごく思います。歌はもちろんのこと、視覚的要素も含めて。ああ、今日のコンサートはよかった、と思っていただけるのがベスト。ゲストにしても、この並びはなかなか観られないなとか、この二人が一緒に歌うところはなかなか聴けないなとか、その方々によって醸し出される相乗効果であるとか、チケット代以上のものを持って帰っていただけるようにしたいんですね。やっぱり、変なものを観ると、高いお金を払って失敗したと思うじゃないですか。私は、何が一番嫌だって言うかというと、時間がもったいないことなんです。チケット代で、時間を買っていただいているわけですよね。だから、その間、どう充実した時間を過ごしていただけるか。それはもう本当に考えますよ。51歳になったばかりですけど、今まで生きてきた年数より、これから生きていく年数の方が絶対に短いわけで、そうなってくるともう絶対時間を無駄にしたくない。最近特にそう思うようになりました。
ーー今回、今年がメモリアル・イヤーであるガーシュウィンとロイド=ウェバーの楽曲も多く取り上げられていらっしゃいます。
コンサートで、一曲だけ歌うとなって持ってきたとき、ロイド=ウェバーってやっぱり派手で華やかですよね。最近、音楽が録音されているミュージカルが増えてきていて、オーケストラと言っても10人くらいの編成が多かったりして、なかなか、それ以上の人数での編成のオーケストラがミュージカルの楽曲を演奏しているのを聴く機会がないと思うんです。でも、本来はそういう大人数の編成のために書かれた楽曲なわけで。2014年にリリースしたCDの企画意図がまさに、作曲家が本来想定していた編成で、想定していた音を再現するというものだったんです。それは贅沢なことだと思うんですよね。本来はこんなに豊かな音なんだというところをぜひ感じていただきたいなと。『レ・ミゼラブル』に出ていたとき、稽古場ではピアノだけでやっていたのを、オケ合わせの日、聴くと、最初の一二音だけでもう、うわあーって感動しましたから。重さが違う。生の音って、やっぱり全然違いますからね。
林さんとは舞台はご一緒したことがないんですけれども、ある新人発掘のオーディションで一緒に審査員をしていたというご縁があったんです。海外でも活躍されていますが、すごくおもしろい方なんですよ。「ザ・ファントム・オブ・ジ・オペラ」の最後のあの音って、ミュージカルの人も、出せる人でもあんまり歌おうとしないし、クラシックの方もあまり歌わないし。それが今回、フル・オーケストラをバックにして、あのホールで聴けるわけですから。『オペラ座の怪人』は、初演から何回観たかわからないくらい好きで、在籍3年間ですが劇団四季にいた時代にラウルも演じましたし。『アスペクツ・オブ・ラブ』に出ていたときに、「お前、明後日『オペラ座の怪人』に出す」と言われて、自分の役を他の人に移して、それで当日一時間半だけ時間をもらって、初日公演に出たんです。終わって、日生劇場の神棚の前で、意味もなく泣いたという(笑)。やりたかった役で、とりあえず無事終わったんですが、もうちょっと何か欲しかったなっていう(笑)。それで、これでやっとラウルできるな~と思いましたが、14回しか演じてないんです。「お前、中国語しゃべれるよな」と言われて、「はい」と答えたら、『李香蘭』中国公演に通訳を兼ねて出ることになってしまったので。だから、いろいろな意味ですごく印象に残っている作品ですね(笑)。ミュージカルの中で、男性が主役の作品は多いですが、『オペラ座の怪人』って何か特別で、やりたい気持ちが大きいです。それで、今回は「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」と、続編の『ラブ・ネバー・ダイズ』から「君の歌を聴けるまで」を原曲キーで歌います。
岡幸二郎
ーー今年お亡くなりになられた浅利慶太さんのお話が出ましたが、劇団四季在籍3年間だけとはいえ、何だか実に濃厚なご経験をしていらっしゃるような……。
めちゃめちゃ濃厚ですよ~。お亡くなりになったとき、公演中で、しんみりしましたけれど……。四季に在籍していた期間は、爆笑の3年間でしたね。本当におもしろくて充実していて、ロイド=ウェバー先生もたくさん来日してくれていて、すごくいい時期でした。自分は劇団四季の舞台を観てミュージカルをやろうと思った人間なので、まずは浅利慶太ありきなんです。それで、一番思い出深いのは、浅利さんに料理を作っていたことですね。「胃袋おさえて役とった」って、今でも公言してますから(笑)。浅利さんは戦中派だから、かぼちゃとか芋とか食べないんですよ。それを聞かされてなくて、浅利さんの長野の別荘に行ったとき、里芋の煮っころがしを作ってしまって。周りははっとしたらしいんですけれども、浅利さん、食べてくださったんですよ。その後に、鶏肉にマスタードを塗る、小悪魔風っていうのを作ったんですが、それをすごく気に入ってくださって……。
劇団四季は納会があるんですが、そこに一人一品ずつ持ち寄っていたんです。そのとき、「岡は三品」って必ず浅利さんに言われて、まず私の料理から食べてくださっていたんです。そして、年末別荘に連れていってもらうようになり、別荘のおばちゃんと一緒におせちを作るようになって(笑)。みんなゴルフとか行ってるのにね。浅利さんには怒られましたよ。別荘では、外のつららでウィスキーをロックで飲むんですが、外に取りに行って、汚いよなと思ってちょっと洗って入れたら、「お前、洗っただろ!」って怒鳴られて。食事のときも、20分間、小川で冷やしたワインを飲むんです。だから、食事が始まる時間から逆算して冷やしに行くんですけど、その時間がズレたりすると、小川から引っこ抜きに行ったり。もちろん、演出家、社長としての顔にも接しましたけれども、そういうプライベートの部分も見たので、けっこうかわいいじいちゃんだなと思っていました。「死んだ親父の若いころに似ている」って言われたこともありました。退団するときには「お前も馬鹿だな」と言われて。後で聞いたら、オーディションで最初に私を見たとき、「あいつを『ウエストサイド物語』のトニーにする」っておっしゃってたそうなんですけど。いい思い出しかない3年間ですね。数年前、最後にお会いしたときも、ちゃんと覚えていてくださったので。
四季にいたときだと、『レ・ミゼラブル』のオーディションを受けに行く話もおもしろいんです。オーディションがあると、ある子役のおばあ様に教えてもらって、応募したんですね。だけど、いざ最終審査となったとき、『クレイジー・フォー・ユー』のアトリエ稽古が入ってしまったんです。四季ってなにかを察知するのか、そういうとき必ず大事なことを入れてくるんですよ。それで、どうしようってそのおばあ様に相談したら、「何時から?」と聞いてきて……。当日、稽古をしていたら、「岡、お前のおじいさんが危篤だそうだ」と知らせが入ったんです。ピンと来ました。あのおばあ様が嘘の電話をしてくれた、って。すぐに「顔だけ見てきます」と言ってアトリエを出て、最終審査を受けることができました。その後、日生劇場で『クレイジー・フォー・ユー』に出ましたが、そのとき演じていたのが、椅子を重ねて、その上に昇った主役に旗を渡す、ムースという役で。「お前、何やってんだよ、フランス・ミュージカルやるわけじゃあるまいし」なんて言われる男。そんな『レ・ミゼラブル』のバリケードの場面のちょっとしたパロディ・シーンがある役だったんですね。当時はまだ携帯電話がないので、劇場から自分の家の留守電を聞いたら、メッセージが入っていて。それで、楽屋の公衆電話から電話したら、合格していた。でも、ここでは喜べない。その日の夜公演、「フランス・ミュージカルやるわけじゃあるまいし」とセリフで言われて、赤旗を持ちながら、内心「やるんだよ」と思っていたという(笑)。
その『クレイジー・フォー・ユー』は、四季ではちょっと珍しい、明るい作品で、ダンス・ミュージカルと聞いていたので、キャスト発表の日、関係ないと思って家に帰ったんですよね。そしたら、「キャスティングされてますから」と電話で呼び戻されて。「でも、ダンス・ミュージカルですよね」と言ったら、「一枠だけ踊らない役があります」と返された(笑)。ウッドベースを弾く役で、難しいけれどもその稽古もして。そのウッドベースが縁で、後に、やはりウッドベースを弾くシーンがある『シュガー』というミュージカルにキャスティングされたり。そんな思い出がある『クレイジー・フォー・ユー』から、今回、「サムワン・トゥ・ウォッチ・オーバー・ミー」を歌います。ガーシュウィンはもう、スタンダードですよね。歌っていて楽しいし、気持ちいい。
岡幸二郎
ーーお話をうかがっていると、岡さんの中に、日本のミュージカル史が脈々と流れていることを強く実感します。
今回出演する歌穂さんと一孝も、『レ・ミゼラブル』を1994年からご一緒した二人で、初めて歌穂さんの「オン・マイ・オウン」を聴いた瞬間とか、今でもはっきり覚えてます。「これか!」と思いました。歌穂さんの場合、歌いながら瞬きするところも、歩くところもすべて決まっているんです。今回どう歌われるのか、自分でも本当に楽しみなんですよね。それに、一孝と初めて二人で舞台に出て行ったときのことも覚えています。名古屋公演だったんですが、初日、とにかく名前の売れていない二人で出ていく、あの空気感。でも、終わった後、すごい拍手をいただいて。それで、オーディションのことを教えてくれた例のおばあ様が名古屋まで観に来てくれていて、ホテルのロビーで会うことになっていて、行ったら、今年お亡くなりになったミュージカル評論家の小藤田千栄子さんも偶然いらして、「あなた、スター誕生ね」と言ってくださったんですよね。その時代の人たちが今回集って、約四半世紀ぶりに同じ曲を歌う、その喜びがありますね。
ーー自分のレパートリーを育てていくという観点からはいかがですか。
昔のCDを聴くと、今の方が技術的にはもっと上手い歌を歌えますが、こんなきらきらした声はもう出ないなとか、思ったりしますね。でも、聴く方の中にはそのイメージがあるわけだから、それをどう裏切らないで歌うか、それが難しいです。劣化したなとは思わせないように、でも、24年分の何かはつけて歌いたい。欲張りですね。でも、それは、三人とも思っていることだと思います。歌穂さんなんて、イギリスのエリザベス女王の前で歌った方ですからね。世界中のエポニーヌが、島田歌穂の歌い方の真似をしたというくらいの人ですから。
ーー岡さんご自身が今回のコンサートを非常に楽しみにされていることが伝わってきます。
私自身、ずっと変わっていないと思うのは、常に観客目線であること。やりたいことを見せるという部分ももちろんゼロではないですけれど、それよりも、お客様にどう楽しんでいただけるかを常に考えます。やりたいことでも、お客様から見ればつまらないだろうなと思ったら、私はやらない。いらした方にとにかくチケット代以上のものを持って帰っていただく、それが、私にとっては一番なんです。
取材・文=藤本真由(舞台評論家)

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