音と映像、朗読、スマホを駆使し“新
言語秩序”プロジェクトを総括した、
amazarashi初の武道館公演

amazarashi Live『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』 2018.11.16 日本武道館
11月16日、amazarashiがキャリア初となる日本武道館公演『朗読演奏実験空間“新言語秩序”』を開催した。“言葉”を題材とした物語性の強いステージは、“現代の詩人”=秋田ひろむの真骨頂であり、また、CD、ミュージックビデオ、アプリ、映像を駆使した一連のプロジェクトは、先鋭的なメディアアートとしてのamazarashiの真骨頂でもある。間違いなく、ひとつの到達点となるライブだった。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
まずは、この日に至るプロジェクトの全貌を振り返ってみよう。遡ること3週間前の10月23日、「新言語秩序」というアプリを公開。秋田書き下ろし小説によって、今回の物語が、過激な言葉やネガティブな言葉を検閲し規制する“新言語秩序”と、生きた言葉を取り戻そうとする“言葉ゾンビ”の対立を背景とするものであることがわかり、それぞれの重要人物として、実多と希明の存在が描かれる。また、この小説はユーザー自身がアプリを通じて検閲を解除することによって、読み進められるようになっていた。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
その一週間後の10月30日には、ニューシングル「リビングデッド」の“検閲済み”のミュージックビデオを公開。これは新言語秩序によるプログラムによって楽曲にはノイズがのり、歌詞約20万曲の日本語楽曲を解析した“テンプレート歌詞”に置き換えられてビジュアライズされているもので、実際の曲はほぼわからないのだが、アプリで検閲を解除することによって、本来のミュージックビデオが見られるという仕組み。言葉ゾンビと思われる女性が、新言語秩序による“再教育”という名の拷問を受けるショッキングな映像も大きな話題を呼んだ。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
そして、11月7日にシングル「リビングデッド」が発売され、“言葉”を題材とした3曲を収録。この中には「独白(検閲済み)」が収録されていて、ごく一部を除き、歌詞はほとんど聴き取れず、歌詞カードも黒く塗りつぶされている。この曲が何を意味するのかは謎のまま、ライブ当日を迎えることとなった。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
日本武道館の場内に入ると、2016年に幕張メッセで行われた『amazarashi Live 360°虚無病』のときと同じ、4面の巨大透過性LEDに囲まれたステージが中央に設置され、それを取り囲むようにオーディエンスの席が並べられている。本番前にはアプリ=検閲解除ツールの動作確認が行われ、客席のスマホが一斉に光ると、「オー!」という大きなどよめきが起こる。嫌が応にも、この夜が特別な体験になるであろう期待が高まっていく。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
本編の一曲目を飾ったのは、“言葉”をテーマとしたライブらしく「ワードプロセッサー」。スクリーンに映し出される文字には検閲がかけられ、その多くが黒く塗りつぶされているが、2曲目の「リビングデッド」では検閲解除ツールが作動し、光とともにスクリーン上の検閲が解除されていく。この日のテーマソングとして作られた「リビングデッド」はスケールの大きな一曲で、秋田の歌も、バンドの演奏も熱量が高く、メンバーの気合いがヒシヒシと伝わってくる。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
この後もスクリーンには曲に応じた様々な“言葉”が映し出されて行く。SNS、看板、新聞記事、TVニュース、哲学書、音楽雑誌、履歴書、遺書……その多くは検閲がかけられ、黒く塗りつぶされているが、検閲解除ツールによって検閲が解除されると、その度に会場が美しい光で包まれる。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
また、ライブ自体はバンドの演奏に、秋田による「新言語秩序」の朗読を挟む形で進行。言葉のディストピアとなった世界は、数多くのミュージシャンに影響を与えているジョージ・オーウェルの『1984』がモチーフとなっていて、全体主義の恐ろしさを伝えるが、さらに物語のキーとなっているのが、“一般市民同士の監視社会”であるということだ。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
「権力や大きな企業が支配する監視社会がよく描かれますが、今回問いかけたいのは一般市民同士が発言を見張りあう監視社会です。そしてそれは、現在のSNS上のコミュニケーションでよく見る言葉狩りや、表現に対する狭量さをモチーフにしています」と秋田自身がコメントしているように、「新言語秩序」は実多をはじめとした“言葉に殺された”経験を持つ一般人から始まったもので、現実とも結びついた問題の根深さを伝えている。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
ライブ終盤では、一度新言語秩序に捕らわれた希明が“再教育”を抜け出し、言葉ゾンビたちと大規模なデモを起こして、再び実多と対峙。最初の遭遇時の「君は言葉を殺すことで、君自身の未来を殺しているんだ」という希明の台詞が胸に響く。そして、最後に「独白」が演奏され、検閲解除ツールが作動すると、この曲が実多による「独白」であることを想起させる曲だとわかる。秋田は曲の最後で「再び 私たちの手の中に 言葉を取り戻せ」と何度も叫び、この話が現実でもあるということを訴えているかのようだった。
amazarashi 撮影=Victor Nomoto
コンセプチュアルなライブであるがゆえに、一歩間違えればバンドの演奏がBGMとなってしまう危険性もあるわけだが、そうならないのは、弾き語りも含めたこれまでのライブにおいて、演奏と歌の説得力をひたすら磨き続けてきたからに他ならない。言葉と、演出と、演奏と、歌と、すべてが絡み合って初めて起こる未知のカタルシスを、日本武道館にいたすべてのオーディエンスが感じていたはずだ。

取材・文=金子厚武 撮影=Victor Nomoto
amazarashi 撮影=Victor Nomoto

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