ユアネス 新EPリリースインタビュー
 『Ctrl+Z』+『Shift』に彼らが込
めたもの

福岡県発の4ピースバンド・ユアネス。今年3月にミニアルバム『Ctrl+Z』をリリースし、全国デビューを果たした彼らが、この度、初のEP『Shift』をリリースする。“Ctrl+Z”、からの“Shift”といえば、パソコンをよく触る人ならば馴染み深い並びだろう。実際、彼らが生み出したこの2作も密接に繋がった作品同士であり、続けて聴くと一つのフルアルバムのような趣になる。いわば、現時点での彼らの手札が明らかになったといえるこのタイミングで、SPICEではメンバー全員にインタビューを敢行。バンドを前進させる、冷静と情熱の存在に迫った。
――元々はネットを介して知り合ったんでしたっけ。
古閑翔平(Gt):そうですね。僕と田中はGREEで知り合ったし、黒川とはTwitterで知り合ったので。元々は僕と田中が高校生のときに知り合って、そこから一緒にバンドを組もうという流れになりました。そのあと2人とも福岡の専門学校に入学したんですけど、そこで初期のドラマーを誘って、まず3人のメンバーが決まって。じゃあボーカルをどうしようかってなったときに、入学前、Twitterで片っ端からフォローしていた中にいた黒川が、どうやら歌えるらしいという情報が流れてきて。そこでダイレクトメッセージを通して「歌っている動画があれば、もしよければ送ってください」っていうふうに連絡をしました。
――ユアネスは全国リリースをする前の段階から、SNSを通じて自分たちの楽曲を全国に広げていっていましたよね。
田中雄大(Ba):自分たちで自主でCDを出していた頃は、基本的な「ああしよう」「こうしよう」を決めるのは古閑くんで、器用でいろいろソフトを使える黒川がパソコン周りのことをやってました。
古閑:でも当時は作戦を立ててそういうことをやっている感覚はなかったんですよね。元々GREEでメンバーを誘うぐらい自分がネットを好きだったというか、ネットの影響力の大きさというものを昔から知っていたから、そうしただけというか。自分たちが音楽を知るきっかけが SNSやネットだったから、だったら自分たちが知らせるのもそれなんじゃないかなっていう感覚ではありました。
――結成当初からそういうふうに発信していたんですか?
古閑:いや、ちゃんとまとまるようになったのは、ドラムの小野が入ってからですね。そのとき、バンドのミュージックビデオを撮影しようという話になったんですけど、そのカメラマンさんが元バンドマンの人で。その人から、バンドのスケジューリング、ネットの公開のしかた、どうやったら見やすいのかなど、全部教わったんですね。それから自分たちでもそういうことを結構意識するようになって、変わってきたのかなって思いますね。
――黒川さんの弾き語り動画はどういう意図で始めたんですか?
黒川侑司(Vo/Gt):あれに関しては意図はなくて、本当にただの趣味で……(笑)。僕、すごく目立ちたがりというか、人に褒められたらそれだけでテンションが上がるタイプなんですよ。きっとそういう声が欲しかったんだと思います。
ユアネス・黒川侑司 撮影=風間大洋
――ユアネスはホームぺージに歴代アートワークを掲示していますし、音楽以外の部分にもバンドの世界観を反映させてる印象がありますが、その辺りの意識が芽生えたのはいつ頃ですか?
古閑:それも同じぐらいの時期ですね。しらこさんっていうイラストレーターの方がいて、その人のイラストに影響を受けて自分が書いた曲が「色の見えない少女」という曲なんです。色覚障害を題材にした作品だったので、作品が広がるにつれて「そんなに簡単に治るものではない」みたいな否定的な声も上がってきて、しらこさん自身、傷を負ってしまった時期があったんですよ。だけど、「クリエイターとして、私は自分の作品に対してこういうふうに熱を持っているんだ」っていう話を自分にしてくれて。そのときに、自分も曲を作る側として、ちゃんと隅々までこだわろうっていうふうに思ったんですよね。そこから多分そういうふうになっていったんだと思います。
――アートワークと楽曲だったり、曲と曲との関係性だったり、ユアネスはバンドの作品を作るうえで一連の“繋がり”を大切にしているように思います。
古閑:僕は元々ゲームがめちゃめちゃ好きだったので、裏設定というか、そういう仕掛けがあったら面白いのかなっていう感じですね。それで、イラスト・タイトル同士を組み合わせてみたり、隠し文字や縦読みを取り入れたりしていて。CDが売れないと言われる時代だからこそ、どういうものを手に取ってもらいたいかっていうことを考えたときに、こういう発想に繋がったのかなと思います。
――小野(貴寛/Dr)さんは2017年に加入したそうですが、例えば『RO JACK』で優勝したり、そこからバンドを巡る状況が好転していったような印象があって。
古閑:確かに、その年が一番変わったよね。
黒川:うん。そうだね。
古閑:その頃、これからの人生どうしていきたいかっていうことをちゃんとメンバー同士で話し合う機会を作ったんですよ。
黒川:バンドの方向性についての話は、普通に日常会話でできるんですけど、どうやって生きていくのかとか、そういう本当に重い話をしました。
田中:そのタイミングで、それぞれが改めて気合いを入れ直すじゃないけど、そういう感じがあって。
古閑:自分たちが音楽でこれから生きていくためには、自分たちが伝えたいことをよりよく伝えるためにはどうしたらいいのかっていうことを全員で考えていきましたね。そこからいろいろなことが進んでいきました。
ユアネス・古閑翔平 撮影=風間大洋
――そもそもユアネスは、将来的にこれでやっていこうという心持ちで組んだバンドだったんですか?
田中:いや、最初は違うんじゃないですかね? 僕と古閑は最初っからそういう話をしていたし、そういう意識の下でやっていたんですけど。そもそも彼(黒川)は PA科だったんですよ。
――そうなんですか! いつ頃から意識が変わっていったんですか?
黒川:明確な時期は分からないんですけど、やっぱりライブをしていくにつれて――僕、「ファン」っていう言い方はあんまり好きじゃないんですけど、お客さんがついてきてくれる・求めてくれるような立場になっていっている実感はあって。ボーカルってやっぱり、バンドの顔になって前に立っていく立場じゃないですか。そんな中で「これはもう覚悟を決める時期だな」と思うようになったというか。いつそうなったのかっていうのは分からないし憶えてもいないんですけど、いつの間にかそういうことに気づいていきました。
――ライブだと物理的にお客さんと対面せざるを得ないじゃないですか。それによって、感じたことは大きかったりします?
黒川:そうですね。SNSでは分からないことが逆にライブだとすごくよく分かるというか。実際に現場に出てみないと分からないことが、すごくいっぱいあったなぁっていうふうに思います。
――そうして今年3月に初の全国流通盤『Ctrl+Z』をリリースしたユアネスですが、この度、初のEP『Shift』をリリースします。今回のタイトルもショートカットキーネタですね。“Ctrl+Z+Shift”で“やり直す”というコマンドです。
古閑:やっぱりパソコンで曲を作っているとそのボタンをよく使うんですよね。だから『Ctrl+Z』というCDが出来てタイトルが決まった段階で、もう1枚CDを出すんだったら『Shift』というタイトルがいいかなっていうふうに考えていました。なので、1枚のフルアルバムを作るようなイメージで制作をして。
黒川:『Ctrl+Z』で無かったような味が『Shift』ではいっぱい出ていると思うので、『Shift』単体でも楽しめる作品になっていると思うし、もちろん『Ctrl+Z』と一緒に聴いてもより楽しめるんじゃないかと思います。
古閑:曲と曲とをバラバラに組み合わせて自分なりのストーリーを作ってもらうのも面白いかもしれないですね。
――実際に出来上がってみて、改めて、どのような作品になったと感じていますか?
小野:前作よりもさらにパワーアップした、新しい歌モノのEPになっていると思います。やっぱりうちのバンドはボーカルが武器なので、そこをしっかり基盤としつつ、だけどボーカルだけを押し出すんじゃなくて、全部のパートが押し出されているというか。
古閑:そうですね。前作に比べて、自分の結構無茶ぶりやわがままを結構詰め込んだCDにはなったかなと思ってます。みんなのギリギリのラインを叩き出せたのかなっていう。
ユアネス・田中雄大 撮影=風間大洋
――というと?
古閑:曲は自分が全部打ち込みで作っているんですけど、基本的にみんなに渡すフレーズは腕がもう1本ないと演奏できないようなものだし、そこにさらに付け加えてもらったりすることもあるんですよ。それをスタジオで合わせていくんですけど、音源とスタジオでは聴いた感じもやっぱり違うというか、違和感を覚えてしまうことが結構あるんですね。なので、そこから1個1個楽器をばらして聴いていって、「ここのハット、もう少し難しく叩いて」「じゃあここ、スラップでめっちゃ弾いて」みたいなことを、その場で(メンバーに)言っていくんですよ。「難しく叩いて」「めっちゃ弾いて」って言っても、いや、意味分からなくない?とは自分でも思いつつ……(笑)。
小野:それで「おお、分かった」って言いながらこっちもやるんですけど(笑)。
古閑:そういうふうにその場でひたすら叩いてもらって、「あ、そのパートカッコいい」と思ったフレーズを取っておく、みたいな。だから小野と田中には結構、“フレーズの引き出しをその場で出させる”という意味で無茶を言いましたね。
――それってかなり大変じゃないですか。
小野:でもめっちゃ楽しいんです、自分のパワーアップにも繋がるし。やっぱり「できない」と言うのは悔しいじゃないですか。だからとりあえず思いっきりやってみるんです。そしたら意外とできたりすることもあるので。
――田中さんはどんな感じなんですか?
田中:僕はそもそも“褒められると嬉しいから”っていう理由で楽器を始めたので、やっぱり、100を求められたら120で返したいっていう気持ちがあるんですよね。(古閑からの注文に対して)悩む時間がもったいないから、できるだけいつでも対応できるように、練習もするようにしていて。そこでバッと出したものが「あ、いいじゃん」って言われたら、まあ2、3日は幸せに過ごせる(笑)。
古閑:ははははは!
――そのやり方で行き詰まることはないんですか?
田中:全然あります。今回で言うと、「日々、月を見る」は頭の中にフレーズが全く出てこなかったです。そういうふうに分からなかったときは、もう(古閑)本人に「どうしてほしい?」っていうふうに聞いて指示してもらうようにしてますね。古閑は一旦こっちに投げてくれはするんですけど、自分の中での正解はちゃんとあるんですよ。それがすっごく助かるというか。
――でもそれだったら、最初から古閑さんが答えを教えてしまった方が効率は良いような気もします。
古閑:そうですね。でも自分一人で完結させていたら、自分の想像を超えるものが生まれないと思うんです。それにどうせだったら面白くしてみたいから、その場でみんなの出せる限界をちょっと見てみたい(笑)。
黒川:そういう意味で僕は「夜中に」がすごく手こずりましたね。バラード調の楽曲は僕の得意ジャンルだと自分では思っていたし、レコーディングのときも「やっぱりいいテイクが録れたなあ」と思っていたんですけど、古閑から「もうちょっといけるでしょ」「もっと切ない感じ出せるでしょ」っていうふうに言われて。そのあと本当にずっと録り直してましたね。
ユアネス・小野貴寛 撮影=風間大洋
――それは何がいけなかったんですかね?
黒川:休憩中、昔、宅録で録っていたデモとかを聴かせてもらったときに、そっちの方が下手くそではあるけど感情が出ているというか、声がちょっと裏返っていたとしてもすごく熱があったんですね。自分では気持ちが乗っているつもりだったんですけど、それよりもっと良いものを知っているメンバーがいたというか。だからもっと行けるっていうふうに言ってくれたんだと思います。
――古閑さんは基本的にメンバーを焚きつける役割なんですね。
古閑:はい、焚き付けます(笑)。
黒川:僕は焚き付けられると分からなくなっちゃうこともあるんですけど、でもその方が勉強にもなるし、成長にもなるし、作品にとってもいいことだと思うので。
田中:案外、自分で自信のないところが「すごく良い」っていうふうに言われたりもするよね。
黒川:そう。それに結構びっくりさせられたりもします。
――「夜中に」はドラムの手数もかなり少ないので、今までと違う部分が求められたんじゃないかなと。
小野:そうですね、一番こだわりがつまっている曲です。スティックのストロークってあるじゃないですか。自分はそれを10段階で区分けしていて、表現のしかたというか、スティックの当て方、弾き方などを細かく決めているんですけど。その、さらに繊細な部分が求められる曲が「夜中に」で――
田中:ドラムマガジンじゃないんだから、そんな専門的なことを話さなくても(笑)。
小野:そっか! でもすごくこだわってます!
田中:小野ちゃんは一番熱い男なんですよ。
――なるほど。古閑さんは特にどの曲が思い入れが強いですか?
古閑:やっぱり「凩」ですね。この曲は結成当初ぐらいからあったんですけど、音源にするってなったときに、ちょっと物足りなさがあったんですよ。自分が何に対して物足りなさを感じているのかもよく分からなかったから、アレンジもすごく迷っていたんですけど、こうやって活動を続けてライブでやっていくうちに「あ、こういうリードがあったらいいのかもしれないな」みたいなことを考えるようになって。とても思い入れの深い曲になりました。
田中:昔から来てくれているお客さんから「「凩」はいつ音源になるんですか?」っていうふうによく訊かれていたので、なかなか形にできなかったことに対して、申し訳なく思っていたんですよ。なので、今回こうして満を持して、本当に納得のいくアレンジで収録できてよかったです。
――『Ctrl+Z』と『Shift』の2枚が出揃って、ここからさらに活動が加速していくんじゃないかなと。そういえば『Ctrl+Z』をリリースしたときはよく「目標は特にない」というふうに仰っていたかと思いますが、それは今も変わらないですか?
古閑:変わらないよね。
小野:うん、変わらないですね。
田中:でも、別にやる気がないわけじゃなくて、全部頑張りたいんですよ。
古閑:壁が出現したらとりあえず倒していきましょうみたいな、ドラクエみたいに進んでいっているような感覚なんですよね。
――そこもゲームなんですね。
黒川:でも今一番思うのは、いろいろなサウンドに挑戦していきたいっていうことですね。作曲をする古閑にしろ、他のメンバーにしろ、そういう気持ちがとても強いので。音楽一筋に、どんどん追求していけたらいいのかなと思っています。

取材・文=蜂須賀ちなみ 撮影=風間大洋
ユアネス 撮影=風間大洋

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