庭劇団ペニノ・タニノクロウにインタ
ビュー「今回の『笑顔の砦』は、ハッ
ピーエンドの話だと思っています」

関西在住の俳優たちを中心としたキャストによる、2007年初演の『笑顔の砦』のリクリエーションを行うため、兵庫県豊岡市の[城崎国際アートセンター]にて滞在制作中の「庭劇団ペニノ」。その稽古場レポートを掲載したのに続き、今回は作・演出のタニノクロウのインタビューをお届けする。本作が「タニノの物語作品の原点」と言われる理由や、初演とは大きく変わった点、稽古場で見た数々の演出の狙いなどについて語ってもらった。

■前回の『ダークマスター』とは裏表。俳優の演技の幅を観られる作品。
──2016年に上演した『ダークマスター』に続いて、この作品をリクリエーションしようと思った理由は何でしょうか。
まず大阪で一つ劇団を作るつもりで『ダーク……』をやって、それによっていい俳優に出会えたし、満足できる作品ができたというのが大きいです。『笑顔の砦』は『ダーク……』(2006年再演版)の翌年に上演したんですが、それは『ダーク……』と同じ座組で、裏表で演じられるように書いたものでした。あっちが陰だとしたら、こっちは陽。そんな対照的な作品をやることで、俳優たちの違った側面や、演技の幅を見てみたいという。
──しかも『ダーク……』は、観客がイヤホンを聞きながら鑑賞するなどのギミックが売りでしたが、こっちは真っ当な会話劇というのも対照的です。
そうですね。『北の国から』みたいな、割とどストレートな会話劇で……あのドラマ、観たことはないんですけど(笑)。ただ初演の時は事情があって、まったく同じ座組ではできなかったんです。なのでこのメンバーで『笑顔の砦』ができたら、かつての狙いが実現できるだろうと。実際、百元さん以外は『ダーク……』に出演した俳優さんばかりです。
あともう一つは、前回の稽古を城崎でやった時に、出身地の富山のことを思い出していたんです。どちらも温泉と海と山があって、さらに同じ日本海側だから海の幸も似ている。『笑顔の砦』は、富山を想定しながら書いた所があったんで、城崎で感じたことを創作に反映できたら、もっと面白くなるんじゃないかなあ、と。そんないろんなめぐり合わせがあって、この作品を選びました。
──さらにこの作品は、タニノさんの作家としての原点と言われてますが。
それは確かに、そうなんです。この作品を書いた当時は、まず舞台美術と小道具を先に作ったアトリエで稽古して、その場で思いついた台詞を俳優に覚えてもらうという感じで、脚本は書いてなかったんです。でもこの作品を作る時に、初めてパソコンを開きました(笑)。
庭劇団ペニノ『ダークマスター2016』より。 [撮影]堀川高志
──いわゆる「ちゃんとした脚本」を、ついに書き始めたと。
それこそ「台本ってどうやって書くんだろうな?」と思って、ハリウッド脚本術みたいな本も読みましたし(笑)。それを稽古場に持っていって「はい、○ページから○ページまで稽古します」みたいなことも初体験でしたね。そういう意味では本当に、メモリアルな作品だったんじゃないかと思います。
──漁師たちと介護家族という、この2つの集団の生活を並列することに、どういった狙いがあったのでしょうか?
まず漁師の部屋は、流れ者の集まりだけど、そこにある種理想的な関係性がある場所を描きたいと思いました。全員へだたりがなくて家族のようで、何か楽しそうな人間関係があるという。その隣は、いろんな理由でお互いの距離感が遠くにある人たちがいる場所にしました。今回は、痴呆によって家族の認識が曖昧な母親と、その介護に熱中する息子と、それに置き去りにされている彼の娘です。この2つの関係を対比して観せる中で、漁師の方の人間関係も少しずつ変わっていきます。
──初演では、介護される人をマメ山田さんが演じてましたが、あれは介護する側/される側の関係が読めなくてミステリアスな所がありました。
やっぱりマメさんですからね、マメさんは(笑)。そこが面白いんですけれど。あの部屋を三世代の家族に変えたことで、リアリティーがすごく強いものになったと思いますね。さらに今回はそれぞれのキャラクターを、より俳優に当て書いた所があります。当初考えていた通り『ダーク……』の裏表としてやれるし、もともと強いリアリティーのある世界にしたいとも思っていたので、そういう所は実現されるんじゃないでしょうか。
庭劇団ペニノ『笑顔の砦』初演より。左側が介護老人を演じたマメ山田。 [撮影]田中亜紀
■一見関係がなさそうでも、互いに影響を受けていることを表現したい。
──具体的にはそれぞれの俳優さんに、どういった当て書きをしたのでしょう?
緒方(晋)さんは、物語の中心となる漁師の剛史を演じますが、僕自身が「こうありたいなあ」と思っている人なんです。何かこう、気持ちのいいバカ(笑)。感受性が高くて、いろいろ考えることもあるけれど、基本的には笑って生きていたいという。僕と緒方さんって似ている所があるんで、多分緒方さんも同じように、気持ちのいいバカに憧れてると思います。
──剛史とつるんでいる、若い漁師の(FO)ペレイラ(宏一朗)さんと井上(和也)さんと野村(眞人)さんは。
ペレイラ君の演じる大吾は、何かあの世代特有なのかな? 一見ドライで、周りに無関心っぽい。でもその中には、緒方さんの世代と同じような人間性があるという感じが、ペレイラ君にもするんです。井上君が演じる亮太は、剛史をサポートすることが幸せで、それに人生を賭けている。もしかしたら維新派にいた頃の井上君も、そうだったんじゃないかなあと思った所があります。野村君が演じる健太は少し偉そうで、自分を大きく見せて人との関係を作ろうとする人。野村君は他の2人とは違って、あまり本人は持ってないというか、あるかもしれないけど普段表に出さない部分を描いています。
──介護側の家族ですが、痴呆老人の瀧子を演じる百元(夏繪)さんは、ペニノ自体初参加ですね。
『地獄谷温泉(無明ノ宿)』に出ていて、うちの劇団のことをよく知ってくれている、石川佳代さんに紹介されました。素晴らしい俳優で、この役は百元さんで良かったと思います。瀧子の息子・勉を演じるたなべ(勝也)さんは、本当に偶然ですけど、家族の介護経験があったんです。だから今、設定が自分と近過ぎるがゆえに、感情のコントロールに苦しんでいるようです。坂井(初音)さんはその娘のさくら役ですが、彼女も別の意味で苦労しています。というのも、さくらは家族に無関心だけど、“家族”という枠組みにいるから一応一緒にいる、という子。でも坂井さんは「いつも一緒にいる人は、いい関係を持ってる人同士のはず」という考え方をしてると思うので……それはとてもいいことなんですけど。
庭劇団ペニノ『笑顔の砦』演出中のタニノクロウ。 [撮影]吉永美和子
──この関係が理解できない。
というのが、多分あるんじゃないかと。愛情とか愛着みたいなものは置き去りにしているけど、でも一緒にいるという関係性って、いろいろあると思うんですよ。まだその感触をキャッチして、臨場感を持って演じられる所までは行ってないので、これからですね。
──役作りに苦労するといっても、自分とかけ離れてるからという人と、しっくりし過ぎてるからという人と、両極があるのが面白いですね。
そう思いますね。でもみんな、どの要素も自分の中に少なからず持っていると思うんです。この作品って、2つの話が並列に流れて、お互い関係ないように思えるけど、実はいろんな些細なこと、間接的なことが、知らないうちに影響を及ぼしあっている……ということを表現したいんです。そのために俳優には、周りのすべての役柄が自分にどう影響しているか、逆にどんな影響を与えているのかということを、想像してほしいと思っています。
たとえば剛史とさくらって、舞台上では直接会うことはないんですけど、さくらの行為が祖母や父だけでなく、剛史の部屋にも影響する可能性があるし、剛史たちもさくらという人間に、何かしら影響を与えてるんじゃないか? と。もっと言えば、照明や音響などのスタッフや、あるいは今日の炊き出しに出てきたもの。さらに城崎の町を散歩したり温泉に入ったり、近くの漁港の競りを見学したりすることが、自分や作品にどういう影響を与えるかという所にまで、イマジネーションを働かせてほしいんです。物語そのものだけじゃなく、このプロジェクト全体や城崎にいる今の環境を、感受性と好奇心を持ってとらえようとすれば、きっと舞台に強固なリアリティーが生まれると思います。
『笑顔の砦』関係者たちが、競り見学に行った時の様子。「漁師の方たちを間近に見たり話したりすることで、よりリアリティーが出てくるはず」とタニノ。 [撮影]吉田雄一郎
■介護施設にいる祖母と母との強烈なやり取りも、今回の脚本に反映。
──その「影響」を、2つの部屋で動きをリンクさせるという方法でビジュアル化している部分があるのが、稽古で見ていて興味深かったです。
やっぱり「影響しあってる」という様を具体的に見せたいし、それが今回の演出の肝になってくると思います。とは言え、テクニカルに合わせてはいても、同時にそれが「偶然」であってほしい。これは直接的にも間接的にも、偶然の影響を連続的に表現し続けるという作品だ思うので。ここをもっと上手くやりたいし、そのために今後の稽古では、0コンマ何秒単位のことを求めるようになるでしょうね。
俳優としては、とても難易度が高いと思います。感情をコントロールしながらドラマを演じるのと同時に、演技をリンクさせるための段取りを、機械的にこなさなきゃいけなかったりもする。その脳味噌のすみ分けは、きっと難しいですよね。でも2つの部屋の演技が合致した時に、登場人物たちの感情の大きな起伏と、別の時間を生きている人たちにも、影響を受けたり与えたりしながら生きている姿が、見事に表現されると思ってるんです。この作品が持つ、大きなうねりというものが。それをどこまでできるかに、今は挑戦している所です。
──一方でこの話は、介護問題を早い段階でテーマにしたことでも注目されましたが。
この作品は、さっき言った通り富山のことを考えながら書いたんですが、やはり地方都市をモデルにすると、高齢化社会のことを意識せざるを得なかったんです。ちょうど(富山在住の)うちの祖母が、介護が必要になった時期というのも重なってましたしね。今は施設に入っていて、よく母と2人で行くんですけど、そこで見た光景とか、祖母が母にかけた言葉とかを、今回加筆しています。なかなか強烈な言葉でしたし、それに対する母の反応も強烈で。僕も台本を書きながら「これは大変だなあ」と思いました。
庭劇団ペニノ『笑顔の砦』瀧子の食事介護の動きを演出するタニノクロウ。 [撮影]吉永美和子
でも前回よりは今回の方が明確に、ポジティブな作品になったと思います。生きていると面倒くさいことがいろいろあるけど、それでも毎日楽しく笑って過ごしたいよね……ということを伝えたい。そこが一番、大きく書き換えた部分だと思います。
──初演は確かに、ちょっと重いモノが残った感触がありましたけど、今回はまさにタイトル通り「笑顔」の話になったと。
そうですね。同時代性とか、社会性みたいなことを作品に込めるというのが、僕自身も演劇の一つの価値観としてあったんです。でも最近、それにちょっと疲れてきまして(笑)。何かもう笑えて泣けてという、単純に感情が揺れ動くものを作りたいんですよね。いろいろ難しいことを考えて作品を作ることもあるけど「まあ演劇って、こんなんで良くないかなあ?」っていう、今の面持ちのまま作った作品ですね。そのことを、剛史を代弁者として書いたという感じはありますし、僕自身はハッピーエンドの話になったと思っています。
タニノクロウ(庭劇団ペニノ)。『笑顔の砦』の舞台セット内にて。 [撮影]吉永美和子
取材・文=吉永美和子

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