山寺宏一&水島裕&野坂実のラフィン
グライブ『パパ、アイ・ラブ・ユー!
』稽古場レポート

山寺宏一&水島裕、そして演出家の野坂 実の演劇ユニット「ラフィングライブ」の第4回公演『パパ、アイ・ラブ・ユー』が、11月29日(木)より12月2日(日)まで三越劇場で上演される。
『パパ、アイ・ラブ・ユー』は、イギリスの劇作家レイ・クーニー原作、小田島雄志、小田島恒志が翻訳。2015年に、ラフィングライブの旗揚げ公演でも上演された。初演では連日満員。瞬く間に広がった爆笑&絶賛の口コミにより、最終日には立ち見も出た。
再演となる今回も「豪華すぎる!」と話題の出演陣には、山寺と水島のほか、大塚明夫、桑田亜紀、寿 美菜子、小日向星一、斉藤こず恵、斎藤志郎、坂口候一、関智一高垣彩陽、宮沢きよこが名を連ねる。
2015年以来、ふたたび挑む『パパ、アイ・ラブ・ユー』。稽古の模様を取材するとともに、山寺、水島、そして野坂に意気込みを聞いた。
ワンシチュエーションの傑作喜劇
取材したのは、水島、山寺、寿、斉藤の場面の稽古の模様だ。スタジオには歴史を感じさせる柱や窓のセットが組まれ、重厚感あるソファが置かれている。三越劇場の華やかな装飾と趣きある舞台空間に、このセットがおさまることを想像すると、はやくもワクワクしてくる。
物語の舞台は、英国ロンドンのセント・アンドルーズ病院の、ドクターたちの控え室。山寺が演じる主人公のエリート医師・デーヴィッドは、まもなくはじまる学会のスピーチの練習に勤しんでいる。世界から集まる医師たちに向けて行うもので、今後の出世がかかる大事な局面だ。
しかし季節はクリスマス前。クリスマスの出し物のことで頭がいっぱいの同僚マイク・コノリー医師(関智一)や、ヒューバート・ボニー医師(水島裕)、婦長(斉藤こず恵)や、夫の晴れの舞台をみにきた妻のローズマリー(寿美菜子)たちが、入れ替わり立ちかわり登場し、悪意なくデーヴィッドのスピーチの練習の邪魔をする。
スピーチ本番を約1時間後に控え、ピリピリムードも最高潮のデーヴィッドに追い打ちをかけるのが、かつて愛人関係にあった元・看護師のジェーン(高垣彩陽)の、18年ぶりにしてアポなしの訪問だ。そこでデーヴィッドは、ジェーンとの間に18歳になる息子がおり、その息子が今、院内でデーヴィッドを探し出そうとしていることを知らされるのだった。大事な日に大ピンチ。デーヴィッドは、その場しのぎの嘘に嘘を重ね、皆を巻き込みながら……。
取材をしたのは物語の序盤のシーンであったが、英国発ならではの、大人向けの笑いもふんだんに散りばめられ、山寺演じるデーヴィッドを囲む、水島、寿、斉藤たちのキャラクターも、すでにチャーミング、かつ、際立った存在感を放っていた。
珠玉の脚本✕才能溢れるキャストたち
「翻訳劇は苦手」「だれかの不幸を笑う作品は苦手」という方もいるかもしれない。しかし本作の、実力派キャストたちによる、職人芸のような台詞と笑いのパスまわしは、きっと誰もが大笑いをするはず。なぜなら勢いまかせのギャグやナンセンスではなく、緻密な構成と一流の俳優たちの、たしかな技術で創り出す笑いだからだ。
共演者さえ笑いをこらえるのがやっとなほどで、たとえば水島が演じるヒューバートが、無邪気に「緊張しているの?」とデーヴィッドに声をかけるシーンがある。ヒューバートは優しさで声をかけるのだが、デーヴィッドは、そこまでに積み重なったストレスから「(緊張)してるよ!」とキレる。この「してるよ!」の一言を、山寺、水島、野坂は、丹念に確認していた。
山寺はトーンを操りアクションを変え、デーヴィッドの怒りの沸点を探りつづける。実は取材をする中で、最初の「してるよ」から充分に面白いと感じていた。
それでも山寺は、さらにギアを上げ「してるよ!」のパターンを増やしていったある瞬間、全体の流れがバチっと繋がり、段違いの面白さが沸きあがった。稽古場の全員が、爆笑に包まれた瞬間だった。
レイ・クーニーの『パパ、アイ・ラブ・ユー!』は、世界中で上演される人気の脚本だ。読むだけでも面白い。しかしハマれば、爆発的に面白い。この戯曲のある種の恐さを垣間見る一幕でもあったが、ラフィングライブならば、芸達者な俳優がそろう。このメンバーの手にかかるのだから、全キャラクターのあらゆるシーンに、この稽古場で見たような笑いが生まれるに違いない。
山寺宏一&水島裕&野坂実インタビュー
——第4回公演で、『パパ、アイ・ラブ・ユー!』の再演を決めた経緯を教えてください。
野坂:もともとラフィングライブは、『パパ、アイ・ラブ・ユー!』をやるために結成したユニットです。それくらい僕らにとって、思い入れのある作品です。初演で、あまりにもお客様の反応が良かったので、少し調子にのりまして……。
山寺・水島:調子にのりました!
野坂:はい(笑)。そして第2回にふたたびレイ・クーニー、第3回にその息子のマイケル・クーニーの戯曲を上演してきました。しかし初演を振り返ると、お客様さんには楽しんでいただけたものの、舞台裏では出演者全員が走りまわり、飛び跳ね。ちょっとグロッキーになるくらい過酷でした。でも、いつかもう1回やりたいという思いもあり、皆が若いうちにと。それが、第4回公演で本作を選んだ経緯です。
前回もお話したのですが、レイ・クーニーの脚本は、色々な要素が組み合わさった“ご馳走”です。初演では、僕たちにできる限りの、最高のご馳走を作りました。でも今の僕たちならば、もっと高度な『パパ、アイ・ラブ・ユー!』を創り上げられると思っています。
——再演ならではのプレッシャーはありますか?
山寺:前回以上に面白いものを、という気持ちはあります。でもプレッシャーという点では、新作をやった第2回公演も、第3回公演も、毎回本当に怖かった。前回がウケたからといって、今回もウケるとは限らない、と毎回不安で仕方がなく、初日が開くまで自信をもてずにいました。
その点、今回は『パパ、アイ・ラブ・ユー!』が面白いことに、確信をもてています。あとは我々が上手くやれば、という思いです。
水島:「再演は大変だよ」と言われたこともありますが、僕には、再演の方が気づきも多く、解釈も広がり面白い。あと演出(野坂さん)が捻くれていて、前と同じことはあまりやらないんですよね。初演の時は、立ち位置がここだった。「今回はあっちで」と言われ、なぜかと聞けば、ちゃんと理由を説明してくれる。そこは信頼しています。
欲しかったデーヴィッドが出てきました
——再演の演出プランを伺えますか?
野坂:いい意味で忘れるものは忘れ、新作をやる気持ちで稽古をしています。その中でふと「そういえば前回はここを、こうやっていたね」と思い出すこともあり、面白かったところは、初演の自分たちからパクっています(笑)
——特に変わるのは、どのような点でしょうか。
野坂:初演のデーヴィッドは、もう少しコミカルでした。今回は、少し大人に寄せて、冒頭から少し怒りの感情をもたせようとしています。これは「再演をするなら」と以前から決めていたことです。今日の稽古では、まさにその、イラッとしてて尚且つユーモアがある、僕が欲しかったデーヴィッドが出てきました。
水島:山ちゃんは、初演より大変。序盤から怒らなきゃいけないから。
山寺:今もまだフラフラですよ。本番に向け、沸点のバランスを考えていかないといけませんね。こんなに苦労するとは思いませんでした! (笑)
——第4回公演の見どころ教えてください。
野坂:大きくは2つあり、まずは脚本の魅力。全員のテンポ感、きっかけ、細かいニュアンスまで、すべてが伏線になり笑いにつながる脚本です。それがバチっとはまれば、お客様に楽しんでいただけますし、はまらなければ空中分解する。そのような危うさのある寄木細工のような脚本を、全員で作る作品です。僕らは過去3回、ガチっとはめることに成功してきました。もう1つの見どころは、再演としての魅力です。初演に比べ、役が深まっているところです。動きだけでも細かい、きっかけだらけのお芝居の、細かい体の動きの中にも、感情の動きを作っていきたいです。
演出家野坂が指摘した、山寺のかけ逃げ
——山寺さん、水島さんからご覧になって、野坂さんの演出はいかがですか?
山寺:この人にすべてをかけています。すべての信頼をよせ、身を預け、時々反抗したくもなり……。野坂さんは年齢は下ですが、僕らを引っ張り上げてくれる師匠。野坂塾です。
——塾長・野坂さんの演出で、印象に残る言葉はありますか?
山寺:最初の頃に言われた、「かけ逃げ」。柔道の反則技で、積極的攻撃にみせかけるために、技をかけるポーズだけをして、自分から倒れこんだり、抜けたふりをしたりすることを、かけ逃げと言いますが、野坂さんは、僕の演技が「かけ逃げっぽい」と言ったんです。「笑いをとる素振りはみせるけれど、引っかかっていない。ツボにはまっていない状態で力技に出るのは意味がない」と。
言われた時は、ハァ?! と思いました。でも家に帰り、気がついたんです。自分は「面白いでしょ?」というふりだけになっていた。お客さんにもそれは伝わる。「笑わせよう」という意図が見えるようでは、ダメなんですね。これを「かけ逃げ」という言葉で指摘されたことに、ハッとしました。
面白いくらいに一流です
——野坂さんからご覧になって、俳優としてのおふたりはいかがですか?
野坂:おもしろいくらい、一流です。今日も大塚明夫さん(巡査部長役)とそんなお話をしました。「野坂さん、声のディレクターもやればいいのに」と言われ、「でも、ラフィングライブの感覚では演出できないんでしょ?」と尋ねると「そうだよ。山寺と新人、水島と新人、みたいな組み合わせでしかできないんだよ」と。
——いかに贅沢な顔ぶれか、という意味でしょうか?
野坂:一流ばかりがそろっている、ということです。たとえば演技が初歩段階の方がいると、そこを基準に最低ラインを少しでも上げ、クオリティを担保することが僕の仕事になります。「その状況に、野坂さんは発狂すると思うよ」と明夫さんに笑っていわれました。
水島・山寺:そんな話を……!
野坂:山寺さん、水島さん、大塚さんをはじめ、この現場の方々には、すでに高いクオリティの演技力をおもちです。1つ演出すれば「もっと面白くしよう」と取り組んでくれるので、僕はさらに我がままを言える。もっといきたい、もっとアクセルを踏み込みたいという欲求に駆られる。そんな思いで稽古場にいられるのは、幸せなことですね。
水島:それはお互い様でもあるんです。演出に対して「なぜ?」と聞けば、野坂さんは的確な答えを返してくれる。だから、我々もがんばれるんです。
山寺:まさにチームワークの芝居ですね。出演してくださる皆さんにも、毎回ぼくら3人のわがままにお付き合いいただき、ありがたい限りです!
三越劇場で、笑いの渦へ
——お話を伺い、ますます公演が楽しみになってきました。
山寺:でもまあ、僕は今回もこれで面白くなかったら、これで最後。もう辞めようと思ってますけれどね。今回『パパ、アイ・ラブ・ユー!』が面白くなければ、ラフィングライブだけでなく、他の演劇ももう出ません!  舞台として観ていただく以上、お客さんには、声優としてのキャリアなんて関係ありませんから。ダメだったら、僕はもう声のお仕事と朗読だけでやっていきます!
——そういう覚悟なのですね(笑)
水島:そういうユニットなんですよ(笑)
野坂:話をしていると2人は真逆の性格みたいでしょ?  山寺さんが真面目で水島さんが朗らか。でも根っこは同じで、2人とも本番に向けて限界ぎりぎりまでギューッとやり込んでくるんです。だからこそ声の業界でも、ずっとトップでいらっしゃるのだと学ばせていただいています。皆さんがギリギリまでやるので、こちらも限界ギリギリでやろうとして、3人いつも「辛い辛い」「心が辛い、身体が辛い」と言いはします(笑)。でも、だからこそ稽古が楽しいんです。
——最後に読者の方へ一言お願いします。
野坂:大爆笑していただけて、日常のちょっと辛いな、つまらないなということも「世の中捨てたもんじゃない」と思っていただけるようなお芝居です。そうなるようがんばりますので、ぜひ劇場でお楽しみください。
水島:笑いの渦のなかにいる、快感を味わってください!
山寺:もしつまらなければ……、(突如、謎のかわいい声になり)お代を返すくらいのつもりだヨ~!  返さないケレドネッ!
水島:締めくくりにピッタリのコメントだ! (一同、爆笑)
ラフィングライブ第四回公演『パパ、アイ・ラブ・ユー!』は、11月29日(木)より12日2日(日)まで、日本橋・三越劇場にて上演。
取材・文・撮影=塚田 史香

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