民藝ってヤバイ! その魅力と感動を
共有できる、『民藝 MINGEI -Anothe
r Kind of Art展』レポート

東京・六本木の21_21 DESIGN SIGHTで、2019年2月24日まで『民藝 MINGEI -Another Kind of Art展』が開催中だ。プロダクトデザイナーで日本民藝館館長である深澤直人氏がディレクターを務め、日本民藝館の所蔵品を中心に約150点をセレクト。映像や写真を交えて「民藝」を紹介する内容となっている。
率直な生の感動を共有したい
「『民藝はヤバイ!』。この感覚、生の感動を、来場者と共有したい」と、本展の企画動機について語る深澤氏。日本民藝館の館長に就任して6年。民藝を見るたびに、デザイナーである自分自身が作り手として驚くことが多いという。展示品を前に「民藝ってすごいよね」と、民藝の魅力をみんなで語り合いたいというのだ。
本展をディレクションした深澤直人氏
そもそも「民藝」とは、民衆が使う日常品の中に美を見出した柳宗悦(1889-1961)が、無名の職人たちによる民衆的工芸に対して名付けたもの。それまでの美術史上では評価されてこなかったものに光を当てた、まさに“Another Kind of Art”だ。
展示会場入り口には、本展企画にあたって深澤氏からのディレクターズ・メッセージと、柳宗悦が日本民藝館を創立した際の声明文のほか、日本民藝館の館長室で使われているテーブルなども展示されている。
柳宗悦による「日本民藝館案内」
左手前が日本民藝館館長室で使われているテーブル 柳宗理がデザインしたもの
さらに会場を進むと、柳宗悦が短い句で心のうちを表した「心偈(こころうた)」のひとつ、「打テヤ モロ手ヲ」の書が迎えてくれる。両手を打って素直に喜びを表現し、直感を大事にモノを見よという、柳宗悦のメッセージが込められたものだ。
柳宗悦「心偈」より「打テヤ モロ手ヲ」(1950年代)
現代の暮らしの中に生きる民藝の姿
柳宗悦の書の先にある展示室へと進むと、深澤氏が個人で蒐集したコレクションがずらり。器の数々をはじめ、かわいらしい狛犬やブッダ、ガネーシャなどの像が並ぶ。

これらは、深澤氏が日本民藝館館長に就任する前からアジア諸国で集めてきたものだ。中国・宋時代の器に魅かれたのが蒐集の始まりだという。「たとえレプリカだとわかっていても、当時の形で作られていることとその美しさに魅了された」と深澤氏は語る。器にいたっては、深澤氏が日々の食事に使っているものもあるとのこと。まさに「用と美」を実践しているといえる。

深澤氏の個人コレクションの反対側では、「モノの裏側にある人」をテーマに、現代の民藝のつくり手やその土地の日常をとらえた映像を上映している。当然だが、モノの背景には、必ずつくり手である人がいることを改めて深く認識させられた。
説明はいらない、民藝は直感に訴えてくるもの
本展の展示で面白いのが、民藝を小難しく学術的に紹介するのではなく、鑑賞者の直感に訴えてくるところだ。
時系列や地域別など体系的に展示するのではなく、深澤氏の直感的な切り口でグルーピングして展示しており、その切り口を見ているだけで楽しい。そこには細かいキャプションは不要だ。各展示台に記されたキャプションは、深澤氏が展示品をセレクトした際に出てきた言葉からなる。
それらの言葉は「確かにそう、そう」と共感するものや、「なるほど」と納得するものばかりだ。たとえば、きらびやかな装飾などは一切ない、三重塔と厨子の展示台には「シンプルだ!」のひと言。その言葉に、より一層フォルムの美しさが際立って見えてくる。
また、下記左奥の器にもご注目を。深澤氏の「柳宗悦は、こんなものも集めていたんだ。デュシャンの泉みたいだ」という言葉に激しくうなずきながら作品リストを見ると、「白釉便器」とのこと。本当に便器だったとは、驚いた。
「こんな形は思いつけない。意図的に生み出された美とは違う大胆さに、自分は敵わないと脱帽した」。そう深澤氏がコメントするのは、パッと見には鐘のように見えるこの代物。
実は、これは火鉢で、1940年代に出雲地方で船で暖を取るのに使われていたという。深澤氏は「自分でデザインするのに、こんな発想はできない」と感嘆し、民藝のすごさに感動したという。
こうして深澤氏の視点を通して民藝の品々を見ていくと、たとえ一人で見ていたとしても、誰かと感想や新しい発見を共有した気分になる。そんな思いを胸に展示室をさらに進んでいくと、展示終盤で、またしても柳宗悦の「心偈」、「今見ヨ イツ見ルモ」という言葉と出会う。これは「いつも新鮮な思いでモノを見よ」という意味だ。そうすることで、今まで見えていなかったものが姿を現わすという。柳宗悦が日常品の中に美を見出せたのも、常にうぶな目で見つめていたからなのだろう。やはりここでも直感が大事なのだと思い知らされる。
柳宗悦「心偈」より「今見ヨ イツ見ルモ」(1950年代)
感覚的に民藝のすごさを体感できる本展は、民藝初心者から長年の民藝ファンまで誰でも楽しめる内容だ。ぜひ仲間で連れ立って各々の直感を働かせながら、「すごいね」「かわいいね」など言い合いながら見てほしい。

SPICE

SPICE(スパイス)は、音楽、クラシック、舞台、アニメ・ゲーム、イベント・レジャー、映画、アートのニュースやレポート、インタビューやコラム、動画などHOTなコンテンツをお届けするエンターテイメント特化型情報メディアです。

新着