TRI4TH インタビュー 史上最高にロ
ックしてるジャズバンド、その誕生物
語とメジャー1stアルバムを語る

サックスとトランペットを擁する編成は、ごく普通のジャズクインテット。だがその音は、ロックスピリット溢れるドラムを筆頭に、様々なジャンルを横断してフロアを沸騰させる熱狂のダンスミュージック。ジャズ界の風雲児・TRI4THが結成12年にしてついにメジャー進出し、代表曲の再録音に新曲を加えたニューアルバム『ANTHOLOGY』をリリースする。当初はジャズ未経験のメンバーが、いかにしてジャズ界に旋風を巻き起こす存在へと進化したのか? そのルーツと音楽性を読み解くSPICE初登場インタビュー!
――このバンドは実は相当に長いキャリアを持っているんですよね。結成が2006年だから今年で12年。
伊藤隆郎(Dr):トランペットの織田とドラムの伊藤と、初代ピアニストの3人が結成メンバーですね。ピアノトリオなのにベースがいないという、イレギュラーなスタートでした。
――なんでそうなったんですか。
伊藤:ミュージシャンの友達が少なかったんですよ(笑)。
織田祐亮(Tp):音的にそういう編成を選んだわけではなくて、知人友人で集まったらこの編成だったという。
伊藤:同じ音楽大学に通っていてクラシック音楽をやっていたので、当初はジャズに精通していたわけではなく、ジャズへの憧れだけでスタートしたところがあるので。それをどうやって音楽に昇華していけるか?というのが結成のきっかけです。最初は全然できなかったですもんね。アドリブもできなくて。
織田:全部書いてたんですよ、譜面に。ロックやポップスに近い作り方をしてましたね。
伊藤:2年後にサックスの藤田くんが加入して、その時点でもまだベースがいない。
藤田淳之介(Sax):僕もクラシックをやっていたんですけど、ジャズに興味があって、バンドものをやりたくて。楽しいことがやれそうだと思って加入しました。僕も、ベースがいない違和感はなかったですね。
伊藤:同じ感覚だから、やれたと思うんですよ。“こんなのジャズじゃないでしょ”とか思ってたら、集まってなかった。固定概念がない状態でスタートしたのが良かったのかなと。
TRI4TH 伊藤隆郎(Dr)
――それ、すごい重要なキーワードですよ。このバンドのアイデンティティとして。
伊藤:スタートがそうだったから、今もどんどん変わっていくことに対して違和感がないし、最初からそうだったんですよね。
――そしてついにベーシストが登場。
関谷友貴(B):僕はアメリカでジャズを勉強していたので。本音で話すと、みんなジャズできねえなと思ってました。
伊藤:失礼な男だな(笑)。
関谷:でもみんなクラシック出身で、ジャズ・ミュージシャンでは絶対書けない曲を書いていて、すごく面白いなと。自分が加入するのは、TRI4THが三谷幸喜さんのミュージカル(『TALK LIKE SINGING』/2009年11月に東京とニューヨークで公演)に参加するタイミングで、餃子の王将でヘッドハンティングされました。
伊藤:安いな(笑)。
関谷:餃子につられて二つ返事で入っちゃいました。自分はエレキベースでジャズをやっていたんですけど、バンドに加入するタイミングでウッドベースを始めたので、自分もレベル1からスタートしてる。一緒に成長していける友達が増えたなと思いました。
――そしてラスト・ピースがピアノの竹内さん。
藤田:ピアノが抜けて、メンバー不在の時期があったんですよ。
竹内大輔(Pf):その間に知り合って、半年ぐらいサポートをして、僕はガストで誘われました。
伊藤:安いな(笑)。
藤田:僕は下北沢の五右衛門でしたね。
――庶民派だ(笑)。すごい親近感。
竹内:僕は小さい頃からクラシックピアノをやって、高校からジャズをやってたので、書き譜も読めるし、コード進行でアドリブも取れるんですけど、それを併せ持ったバンドはやったことがなくて。今思えば、刺激的だったことを重要視したんですね。TRI4THはホーンバンドなんですけど、ピアノの役割も重要で、ただのバッキングにとどまらない作り方をしていたので。TRI4THはヨーロピアンジャズもやっていて、ベースとピアノがユニゾンするとか、ほかのバンドではやらないようなことをやっていたので。
TRI4TH 織田祐亮(Tp)
■ライブの3日前にはMC台本を入稿!?
――TRI4THは“踊れるジャズ”を掲げて活動してきましたけど。ざっくり言うと、90年代のクラブジャズのムーヴメントに大きな影響を受けてる感じですか。
伊藤:須永辰緒(DJ、音楽プロデューサー)さんに出会ったのが大きなきっかけで、1st CDをリリースするにあたって「まずこれを聴いて、咀嚼してみろ」という感じで、いろんな種を蒔いてくれたんですよ。それがきっかけでヨーロピアンジャズ、北欧のジャズをよく聴くようになりました。ファイヴ・コーナーズ・クインテット、ハイ・ファイヴ・クインテットとか、いわゆる新しいハードバップを。日本で言うクラブジャズが向こうにあるかどうかわからないですけど、日本と同じような風土と空気感を、ヨーロピアンジャズに感じたんですね。そこで僕らが日本でやるクラブジャズは何かとか、須永辰緒さんの立ち上げた“踊れるジャズ”というコンセプトを、実際に曲を聴くことで理解してきたところがあって、それが最初のきっかけではありましたね。
――ライブパフォーマンスはどうですか。今は、ロックバンドか?と思うくらいガンガン声を上げて、動き回って盛り上げるスタイルですけど、それは当時から?
伊藤:いや、辰緒さんからも「面白くないからしゃべんないほうがいいよ」と言われて、黙って演奏してましたね(笑)。
藤田:ホーンも、スタンドマイクで吹いてたし。
伊藤:そもそも、そういうパフォーマンスをすることに誰も秀でていなかった。僕は今でこそMCをやってますけど、当時は一切しゃべってなくて。織田さんがしゃべってたんですけど、原稿を一字一句しっかり書いてMCしてたんで。
織田:ライブの3日前にはMC台本を入稿するんですよ。それ以降に何か言われても、「もう入稿終わってるから」って断る(笑)。
TRI4TH 藤田淳之介(Sax)
――それがどこかのタイミングでハジけちゃった。
伊藤:竹内くんが加入した頃までは、演奏面のスキルアップに集中してたと思うんですよ。でも3rdアルバム(2013年『FIVE COLOR ELEMEMTS』)から4thアルバム(2015年『AWAKENING』)の間にそれぞれのプロジェクトがあって、僕は個人的に冷牟田(竜之/元東京スカパラダイスオーケストラ)さんのTHE MANというバンドに加入した時期で、冷牟田さんからいろんな話をうかがって、スカパラはどういうステージングをやってきたのかとか、細かくうかがったんですよ。それこそ、上から見てるスタッフがインカムで立ち位置の指示を出すぐらいの時代もあったみたいで、本当にストイックに見せ方にこだわってきたらしくて。スカパラといえばインストを知らない人でも知っているモンスターバンドだし、彼らのライブパフォーマンスの秘密を教えてもらって、それを自分のバンドに持って帰って、この5人で何ができるか?を考え始めたんですね。その一環として、ドラムをただ叩いてるだけじゃなくて、立って叩くのもそうだし、声を使えばもっとインパクトが出せるし、誰もやらないことを一人ひとりがやっていくと、ライブのハイライトも増えるし、パフォーマンスで人を高揚させることができる。そういう意識がそこで芽生えたと思うんですよ。
――ああー。なるほど。
伊藤:そこまでの期間は、演奏スキルやアレンジの完成度を高めていくためには必要な時間だったと思うんですけど、逆に言うともう十二分に準備はできていたし、とにかくライブで圧倒的なパフォーマンスをすれば絶対にお客さんを虜にすることができるという自信がついてきたんですね。
TRI4TH 竹内大輔(Pf)
■“ジャズバンドは何でもできる”ということを示した一枚
――そこから快進撃が始まって、2018年の現在へ。今回初めてのメジャーレーベルからのアルバムとしてリリースされるのが『ANTHOLOGY』で、代表曲の再録音と新曲で構成された、自己紹介的なベスト盤と言っていいですかね。
伊藤:バンド結成12年で初のメジャーレーベルからのリリースなので、今まで応援してくれたみなさんへの恩返しはもちろん、この一枚をきっかけにいろんなフィールドの人が僕たちの音楽を聴いてくれる可能性がすごく高いので、名刺代わりの一枚というか、ライブに来たら何が起こるのかを体感してもらえるような一枚を作ろうと思ったんですね。アートワークを竹内俊太郎さんにお願いしたんですけど、いろんなカルチャーシーンから注目されてる方ですし、本当に素敵な絵を描いてくれてました。
――全員で語りましょう。どんな作品ですか。
藤田:今の僕たちのライブを切り取った作品で、一枚聴いて「楽しいライブだったな」と思ってもらえたらうれしいなと思います。ここからまた進化していくと思いますけど、まずはこれを押さえて、今後を楽しみにしてもらえたらうれしいです。
――個人的に、心の推し曲をぜひ。
藤田:えーっと、そうですね、僕が一番目立つのは4曲目(「Guns of Saxophone」)ですかね(笑)。
――いやー、間違いなくこれでしょう。「Guns of Saxophone」のサックスの破壊力はすごいですよ。
藤田:これを中高生たちがコピーしてくれるとうれしいです。このフレーズはけっこう大変で、同じサックスプレイヤーからも「すごいことやってるね」と言われるので、サックスはいろいろできるんだという可能性を提示できた曲だと思います。サックスは楽曲のベースラインでありメロディもあるということを、楽しんでもらえたらうれしいです。
竹内:セルフカバーした曲に関しては、ライブで何年もやってきたおなじみの楽曲たちばかりなんですね。それがどんどん変化して、アレンジも変わったし、オーディエンスを盛り上げるためにいろいろ変えてきた部分を詰め込んで、今の完成形のアレンジになっているので、それと新曲とのバランスを聴いてほしいです。昔はもっとジャズらしい構成を考えて作ってたんですけど、今の新曲はライブでどう見せるか?が根本的にあってアレンジしてる。両方が一つにパッケージされて、バランスよく収められたアルバムだと思います。
TRI4TH 関谷友貴(Ba)
――心の推し曲、お願いします。
竹内:TRI4THはライブパフォーマンスが激しい曲が多いんですけど、クラシック出身者が多いこともあって、バラードがお薦めです。6曲目(「Green Field」)と11曲目(「Final Call」)が僕が作らせてもらった曲ですけど、音色のきれいさやアンサンブルの良さにも注目してもらえたらうれしいなと思います。それぞれの楽器の役割を考えて、メロディにもちゃんと意味が込められていて、それをいかに歌心あるように吹くかを考えながら作った曲なので、そこを聴いてほしいです。
関谷:TRI4THが今後進むであろう流れとして、ロックフェスに出て行くのが一つの大きな目標で、ロックバンドに引けを取らない音を作ろうというのがあったんですよ。ロック=ディストーションギターというイメージが繋がると思うんですけど、うちはギターがいないので、ウッドベースをエフェクターを使って歪ませたり、いろんな音色を実験しながら何作か作ってきて、今回は史上最高にロックしてるジャズバンドになったと思います。
――おお。言い切った。
関谷:あと聴きどころとしては、これまでレコーディングとミックスのエンジニアが同じ方だったんですけど、今回は曲に合うようにいろんな方を投入してます。個人的に衝撃を受けたのは「FULL DRIVE」で、僕が作曲させてもらったんですけど、ミックスが強烈で、これぞスカ!という最高のサウンドに仕上がってます。
織田:メジャー1作目にお届けするに名刺にふさわしいベストアルバムになりました。最初はクラシック、そしてヨーロピアンジャズから始まって、ずっと学んできたものを踏襲しつつ、メジャーデビューのタイミングでいい形で新しい変化を提示できたんじゃないかなと思ってます。パッと聴いて今までと一番違うのは“声が入ってる”ことで、それも楽曲のかなり大きな割合を占めている。1曲目の新曲「Stompin’ Boogie」が個人的にすごく気に入っていて、サビで曲名を叫ぶのは、ヒップホップ的でもあるし、ギターウルフが「カミナリワン!」って叫んだりとか、そういう良さもあると思っていて。
――ああー。なるほど。
織田:インストシーンにおいて、新しい技を生み出したんじゃないかな?と思うし、もっと面白くしていける手応えを感じてます。

――頭の2曲は強烈ですよ。「Stompin’ Boogie」もそうだし、「Maximum Shout」の<ハイ・ホー・レッツ・ゴー!>も。どこのパンクバンドかと思いました(笑)。
伊藤:「Stompin’ Boogie」「Maximum Shout」には叫び声が入っていて、特に<ハイ・ホー・レッツ・ゴー!>は、聴く人が聴けば誰だってわかるフレーズだし。ただ自分の中で思うのが、僕たちのライブに足を運んでくださる方の多くが、僕たちのルーツをそんなに知らない気がして、そういうところを掘り起こして知らない世代にも伝わるようなキャッチーな方法はないのか?ということを模索していて、それが「Maximum Shout」の<ハイ・ホー・レッツゴー!>だったり、「FULL DRIVE」の<ワン・ツー!>というのも、知ってる人はニヤリとするポイントだと思うし。ルーツを振り返って今の自分たちの音とブレンドして、TRI4TH流の音楽として提示していくことが、今の時代には新しいことなんじゃないかと思ってます。時代はぐるぐる巡るものだし、何もないところからは生まれないと思うので、何かと何かを掛け合わせたら面白くなるということの繰り返しだと思うんですよ。そういった面白さが1、2曲目の新曲には出せてると思います。
――そう思いますね。
伊藤:それぞれのルーツであるクラシック、ジャズ、パンク、ロックンロールとかを取り込んで、“ジャズバンドは何でもできるんだ”ということをこの一枚で披露して、ジャズを好きな人はもちろん楽しめるだろうし、ロックやヒップホップやJ-POPのリスナーも楽しんでもらえる一枚になってるんじゃないかなと思います。再録音した曲に関しても、ライブアレンジがどんどん変わってきてるし、既存の曲を進化させていくことはジャズの大きな魅力だと思うので。バンドのテーマとして、変わり続けていくことと、ずっと変わらずに芯に持ってなきゃいけない信念と、そのバランスがうまく収められたアルバムですね。これをきっかけにライブに足を運んでもらえれば、絶対に楽しんでもらえる自信があります。ぜひ来てほしいですね。
取材・文=宮本英夫

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