矢野聖人

矢野聖人

【インタビュー】『ボクはボク、クジ
ラはクジラで、泳いでいる。』矢野聖
人 舞台「身毒丸」から8年…イメー
ジを覆す好青年役に自信

 和歌山県に実在する「くじらの博物館」を舞台に、クジラと人間との交流を描いた映画『ボクはボク、クジラはクジラで、泳いでいる。』で、主人公の鯨井太一役を演じた矢野聖人。舞台「身毒丸」(10)で注目を浴びるも、その後はけがをしたこともあって伸び悩む日々が続いたが、本作で“夢”をかなえ、新たな一歩を踏み出そうとしている。撮影時を振り返るとともに、役者への足掛かりとなった「身毒丸」のエピソードや、役者としての今後の展望などを語ってくれた。
 矢野といえば、藤原竜也が鮮烈なデビューを飾り、幾度も上演を繰り返した、蜷川幸雄演出の舞台「身毒丸」の3代目身毒丸。参加したオーディションは、「高校を卒業してフリーターをやっていたので、早く職に就きたかったし、今の生活から抜け出すチャンスだと思った」という理由から受けたそうで、「蜷川さんのことも、有名な舞台であることも、全く知りませんでした。ただ、『藤原竜也さんがデビューした舞台』『賞金がついてくる』。これが僕のモチベーションでした」と笑った。
 そんなこともあり、8523人の中から栄冠を勝ち取り、稽古に参加するも、「本当につらくて、自分に、この世界は向いていない…と思って、公演が終わったら俳優は辞めようと考えていました。『最近の若者は打たれ弱い』とか言われるけど、まさにそういう人間でした」と回顧した。
 しかし、初日公演後のカーテンコールで、「みんなが拍手をして自分のことを見ていることがすごくうれしくて、また味わいたいと思いました」と俳優・矢野聖人の誕生の瞬間を語ると、蜷川の「自分を信じるな。多角的に物事を考えて自分の殻を破れ」という言葉を今でも大切にしていることも教えてくれた。
 大舞台を踏んだ後、「知名度をさらに上げたい」「もっと上に行きたい」ともがいていた矢野。「それでも、ここ3年ぐらいで流れは変わってきている」と分析すると、技術的にも、ドラマ「BORDER 警視庁捜査一課殺人犯捜査第4係」(14)に犯人役で出演した際、「今までできなかった逆上がりが急にできるみたいに、やりたいと思っていた演技が突然できて、それが小栗(旬)さんとの一対一でのシーンでもあったから自信につながりました」と笑みをこぼした。
 そしてついに、念願の映画初主演を手にした矢野は、「20代のうちに、ドラマ、映画、舞台の主演をやりたいと考えていたので、それが達成できるうれしさはありました」と喜びをかみしめた。
 本作は、クジラだけを飼育している、和歌山県南部にある「太地町立くじらの博物館」を舞台に、クジラを愛する青年・鯨井太一が、仲間と共に集客に苦戦する博物館を盛り上げようと奮闘する姿を描いた物語。
 クジラにのめり込む太一役は、ともすれば自閉症の青年のように見えるため、役作りには苦労したようで、「(藤原知之)監督からは天才っぽい雰囲気を出してほしいと言われましたが、人とは違うという微妙なラインを表現することが難しかったです」と打ち明けつつも、気持ちを込めて作り上げた太一役に胸を張ると、唯(武田梨奈)と心を通わせることで太一がナチュラルに変化していく様子にも自信を見せた。
 注目すべきはクジラの調教シーン。吹き替えなしで全て自分で行ったというが、「それほど難しくはなかったです」とサラリといってのける一方、「自分の指示に自信がなかったり、クジラの機嫌が悪かったり、おなかがいっぱいだと言うことを聞いてくれないので、そういう部分では大変でした」と思い返した。
 本作を通じて、「最近は、殺人犯とか主人公の敵といったダークな役か、コメディーかの両極端が多かったので、さわやかで天然な青年役という初めてのジャンルで引き出しが増えました」と喜ぶ矢野は、「主役を担う責任とか重大さを感じることができてよかったです」とも。
 さらに、犯人役が多いことから、「学生の頃から『影がある』とよく言われたし、僕に求められているイメージはこれなんだなと捉えて、そのニーズに応えたい」と意気込んだ。その半面、「もちろん、女性にモテる役もやりたい」とにこやかに話すと、「まだやったことのないジャンルだし、僕のことを知らない若い年代に知ってもらうためには、キラキラしたものに出演することがいい」と策略家の一面ものぞかせた。
 とはいえ、今一番興味があるのは「映画『告白』(10)を見て、すごいと感動した」という中島哲也監督。“キラキラ”とはテイストが違うことを指摘すると、「そうですよね。やったことがないから、キラキラ系の監督が分からないです…」とはにかむが、その笑顔は、好青年もイケメン役も十分にはまるほど魅力的だ。過酷で有名な蜷川の舞台を経て、さまざまな壁も乗り越えてきたのであれば、新たな夢をかなえる日もそう遠くはないだろう。
(取材・文・写真/錦怜那)

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