毛利亘宏×松田凌「演劇で世界は変え
られるか」 少年社中『トゥーランド
ット~廃墟に眠る少年の夢~』インタ
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話す相手を見つめる視線が、自然と優しくなる。まるで父子のようだ。
少年社中主宰・毛利亘宏。そして、俳優・松田凌。ふたりの間には、確かに父子のような結びつきがある。なぜなら、松田凌が21歳で踏んだ初舞台、ミュージカル『薄桜鬼』。その演出を務めたのが、他ならぬ毛利亘宏だった。松田が役者として産声をあげたそのときから、毛利は彼を見守り続けてきた。
そして、その2本の線が今再び交差する。旗揚げ20周年を迎えた少年社中。アニバーサリーイヤーの最後を飾る第36回公演『トゥーランドット~廃墟に眠る少年の夢~』で松田を主役に迎え、その他豪華な出演者と共に最高の花火を打ち上げる。
舞台は、遠い未来。世界は統一され、争いのない世界となっていた。皆が同じ服、同じ思考を持ち、同じ行動をし、自由な「愛」を謳歌することも禁止されたディストピア。その頂点に君臨するのが、生駒里奈演じるトゥーランドット姫。そして、そんな統一された世界に牙を剥くのが、松田演じる反逆者・カラフだ。カラフは、かつて世界中を熱狂の渦に巻き込んだという「演劇」の力で、世界を変えようとしていた。
演劇で世界は変えられるのか。共に演劇に魅了され、演劇に賭けてきたふたりの男が、今、これ以上ない命題に挑む。
一番盛大な花火を上げたいときは、やっぱり凌だよなって
ーーこれまで20周年記念ということで、毛利さんにとって縁の深いいろんな俳優さんを少年社中に招いてきました。そして、今回がファイナル公演。最後は松田さんで、という想いが毛利さんの中であったのでしょうか。
毛利:そうですね。一番盛大な花火を上げたいときは、やっぱり凌だよなって。
松田:嬉しい! 大きい活字で書いていただきたいぐらいです(照)。
松田凌
ーーでは、このカラフという役は当て書きで?
毛利:凌と生駒(里奈)さんに関しては当て書きです。今回、オリジナルなので、ほぼほぼ全員、当て書きなのですが。ずっとトゥーランドットをやってみたかったんですよ。トゥーランドットって、すごくシンプルな愛の物語。そんな愛をテーマにしたストレートなエンターテインメントを力強くやってみたいな、という気持ちがあって。凌には以前『パラノイア★サーカス』にも出てもらったんですけど、そのときはメインを支える役どころだったので、今度は真ん中のヒーローを力強く演じてもらいたかった。今まであまり掘ったことのないところを掘りたいなと思ったんです。
ーー毛利さんの中で、「松田さん=力強さ」みたいなものがあったんですか?
毛利:凌の中には底知れぬパワーがあって、そこがすごいところ。最初にオーディションで見たときは印象が悪くて、絶対に落としてやると思ったんですけどね(笑)。
松田:もはや語り草ですよね(笑)。
ーーミュージカル『薄桜鬼』のときですよね。ご存じない方のために、改めてそのときのことを聞かせてください。
毛利:あのときの凌はものすごくチャラい感じで。立ち回りもふざけてるし、「コイツ、嫌い!」って思いました(笑)。でも、他のプロデューサーたちが凌を推すから仕方なく……。
松田:毛利さん、俺だけは落としたかったって思ってたんですよね(笑)。
毛利:(笑)。それが稽古に入ったら、すごいなと思わされることばかりで。オーディションでは僕の見る目がなかったんだな、ということがわかりました(笑)。
ーー以前、SPICEのインタビューで松田さんのことを「芯が強く、信念を持っている」と評されていました。松田さんのどんなところを見て、そう感じたのか聞かせてもらってもいいですか?
毛利:凌には折れない心があるというか。自分のやるべきことに対してひたむきで、絶対妥協しないんですね。稽古のときもずっと何かを考えてる。そして何度も何度も納得するまで稽古をする。ワンシーンワンシーン、諦めないで何かを探そうとするところがタフだし、真摯だな、と。だから一緒にやっていて気持ちいいですよね。
松田:それはもう僕が疑心暗鬼な部分が強いからなんですけど。自分の中でこれだという明確なものが出たとして、それが果たして周りの人たちにとってもいいものなのかどうかはわからない。だから、どうしてももっと他に何かあるんじゃないかって試したくなるんですよ。作品の分身である毛利さんが「これでいこう!」と言ってくれるものが出るまでは妥協せず、いろいろ探っていきたいなって。それは他の演出家さんでも同じなんですけど、そういう想いはずっとありますね。
少年社中さんが次に向けて羽ばたいていくための翼を自分がつくれたら
ーー松田さんは、以前、毛利さんのことを「僕の原点になっている方」とおっしゃっていました。そんな毛利さんが率いる少年社中の20周年ファイナル公演を任された気持ちをうかがえれば。
松田:まずは単純に嬉しいという気持ちと。あと、裏を返すような言葉になってしまうんですけど、ファイナルではあるけれど、僕はこれを終わりだとは考えていなくて。確かに20周年の記念公演はここで終わり。だけど、その瞬間から少年社中さんの新しい階段が積み上がっていくわけで。そう考えたら、この公演は「始まり」であるはずだ、と。終わりは、始まり。ひとつの節目を終えて、少年社中さんが次に向けて羽ばたいていくための翼を自分がつくれたらという責任感がありますね。
毛利:嬉しい(照)。
松田:僕こそこのカラフという役が当て書きだったら嬉しいなって思っていたので、本当に嬉しいの一言です。ただ一方で怖い気持ちもあって。これまで少年社中さんの公演には、鈴木拡樹くん、矢崎広くん、鈴木勝吾くん、宮崎秋人くんと、僕がよく知っていて尊敬している役者たちが出ていて。みんなあまりにも嫉妬するお芝居をされるので、自分にできるんだろうかっていう……。それこそ毛利さんは稽古場の段階から彼らを見てきて、いいなと思っているはずだから、やっぱり同じ役者として、彼らには負けたくないな、という気持ちはあります。
ーーさっき、毛利さんが松田さんの「今まで掘ったことのないところを掘りたい」とおっしゃっていましたが、こことのところもうちょっと深掘りさせてもらっていいですか?
毛利:変な言い方ですけど、「カッコいい松田凌が見たい」というか。
松田:おお!
毛利:ピュアで男っぽい松田凌をつくりたいなと思っていて。
(左から)松田凌、毛利亘宏
ーーカッコいい松田凌が見たいと思ったのは、それが似合うようになってきたから?
毛利:そうですね。ずっと可愛さのある役が魅力だと思っていたんですけど、そっちじゃない、もっとカッコいい顔が見たいなって。
松田:出せるかなあ(照)。うわあ、早くやりたいですね。
ーーそれこそ松田さんが経験を積むことで、最初の頃と比べて指導の方法とか稽古場での関わり方にも変化が出てきたんですか?
毛利:明らかに違いますね。(ミュージカル『薄桜鬼』の)斎藤一のときは右も左もわからない素人でしたから(笑)。
松田:僕、今でも毛利さんに最初につけていただいた演出、覚えてます。千鶴とのシーンだったんですけど、千鶴が動くと、僕がその後ろをくっつくみたいについていったんですよ。それを見て、毛利さんが「あのな、凌、舞台っていうのはシンメ(トリー)をとったり、すれ違ったり、いろんな見せ方があるんだよ」って(笑)。
毛利:そうそう、でっかい舞台をひたすら千鶴の後ろをつきまとってね。あれはおかしかった(笑)。そう思うと、すごいな、と思います。東宝のミュージカルに出たり、明治座の舞台にいい役で立ったり。すごく努力したんだろうな、と思います。主役として一緒にやるのは『薄桜鬼』以来? 最初の出会い以来だから、感慨深いものがあります。
松田:あのときの僕たちは何もわからない中で「俺たちの誠の旗を掲げるんだ!」っていう気持ちで何とかやってきた。あのひりつくような毎日をもう一度、という気持ちはすごくあります。しかも今回のテーマが「演劇で世界を変える。世界は変わる」。いつかこういう作品をやらせていただくことが、役者としての夢でもあったので。
これからも演劇をやり続けるぞと宣言をするような作品になる
ーーでは、その主題の「演劇で世界を変える。世界は変わる」について、おふたりでじっくり語っていただきたいと思います。
松田:副題に「廃墟に眠る少年の夢」とありますけど、僕自身がずっと「演劇で世界を変える」ことを夢見ていて、そういう作品にいつか自分も出られたらと胸の内に描いていたので、そのいつかがついに来たというか。それも演出は、自分の役者としての生みの親である毛利さん。ずっと裏テーマとして秘めていたものを毛利さんと一緒にカタチにできることに、これ以上ない喜びと、これ以上ない怖さがあります。
毛利:俺も凌をイメージしながらこのテーマで行こうって決めたから、良かった。凌に合ってたんだってわかって、今すごく嬉しい。
松田:いやあもう、僕こそ本当嬉しいです。
毛利:「演劇で世界を変えたい」ということは、どの作品をつくるときも胸の中に置いていることで、だから特別気負っているわけでもないんだけれど、それでもやっぱり凌がいてくれるなら、こういう青臭い話もまっすぐやれる気がして。凌となら、このメンバーとなら、少年社中でならやれるんじゃないかという想いはすごくあります。
ーー毛利さんの中では、演劇で世界を変えたいという想いが常にある、ということですか?
毛利:ありますね。それは別に何か大袈裟なことでなくて、ささやかな変化でもいいんですよ。たとえば明日も一日幸せでありますようにと思えたとか、何か頑張ってみようという気持ちになれたとか、演劇を観たことがそういう体験になれたらいいな、ということは常に考えています。
映画と演劇が違うのは、演者も、観客も、お互いがものすごい感情を出し合って、それを同じ場で分かち合えること。だから、僕は演劇は鑑賞というより、体験であってほしいんですよ。今回も、そういう演劇体験をお届けしたいし、その上でお互いの世界が変わって見える瞬間をつくり出すことが理想です。
ーーじゃあ、演劇で世界は変えられるか、という問いに対しては。
毛利:YESですね。変えられると思っています。
ーー松田さんはいかがですか。
松田:僕もYESです。今の毛利さんの話を聞いて、だから毛利さんと一緒にやりたいんだなって思いました。それはきっと僕だけじゃなくて、そんな毛利さんだからみんな集ったんだと思いますし、少年社中さんが20年も続いている意味はきっとそういうところなんだろうなとも思います。

毛利:凌がさっき言ってくれたけど、確かに20周年ファイナルと題してはいるけれど、自分の中でも始まりの公演だっていう想いがすごくある。きっと自分自身にとって、これからも演劇をやり続けるぞ、少年社中をやり続けるぞ、という宣言みたいな作品になるはずだと思っているんですね。20年もやっていれば確かに迷った時期もありました。でも、今がいちばん演劇をやりたいと思っているし、演劇の力を信じている。その宣言をするための公演となるだろうし、間違いなく少年社中の代表作になるべき作品。そんな作品がまもなく生まれようとしています。

何だかよくわからないものに、自分もやりたいって手を伸ばしてしまった
ーー演劇というものに魅入られたふたりだと思うのですが、改めてご自身の演劇の原体験みたいなものを聞かせてもらってもいいですか?
毛利:僕の場合、最初の観劇は中学のときに観た劇団四季。もちろん良かったんですけど、原体験という意味では、高校のときに観た夢の遊眠社の『贋作・桜の森の満開の下』ですね。たまたま取れたのが最前列で、こんなすごいものがあるんだって虜になりました。お話としてはよくわからないところもあったんですけど、とにかくずっと感情が揺さぶられ続けて。最後に桜が舞い散るんですけど、最前列だったこともあって、その花びらが僕の頭にも降り積もるんですね。それはもう衝撃的な演劇体験でした。
松田:僕はやっぱりURASUJIですね。毛利さんと一緒で、僕もスズナリの最前列の桟敷席で観たんですよ。正直、話の内容はあんまり覚えていなくて。と言うのも、当時の僕は高校2年生で、少ない人生経験ではあるけれど、その実体験の中で培ってきた想像というのがあって。でもあのとき目の前に広がっていたのは、その想像の範疇を遥かに超えるものだった。それを観てしまったがゆえに、自分もそこに入りたいと思っちゃったんですよ。何だかよくわからないものに、自分もやりたいって手を伸ばしてしまった。きっと毛利さんがおっしゃったのと同じような引力に引っ張られて、今の僕があるんだと思います。
ーーいいですよね。そんなふうに何かの作品が原体験になって演劇の世界に入ったふたりが、こうして力を合わせてまた新しい作品をつくる。そうやって生まれた演劇が、きっとまた誰かの原体験になって、演劇は滅びることなく、続いていく。
松田:おそらく毛利さんはその『贋作・桜の森の満開の下』を観たときに種をもらったんだと思うんですね。それが芽になって、花が咲いた。僕もまだまだ未熟ですけど、少なからずそういう芽になって、花になって。それがつながっていって世界が変わってくれたら、きっとどこかでまた新しい花が咲くのかもしれないですよね。
毛利:そういうつながりの一部に自分もなれたらロマンがあるよね。今、すごくライブパフォーマンスの価値が見直される時代になったと思うんですよ。目の前で役者が演じる価値が上がってきたというか、そうした直接的なつながりが大事だよねと言われる世の中になってきた。そんな時代だからこそ、「演劇の力を!」って青臭いことをカッコつけずに正面切って言うような、そういう作品をつくりたいです。
(左から)松田凌、毛利亘宏
ヘアメイク=林美由紀
取材・文=横川良明  撮影=敷地沙織

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