《取り持ち女》が日本初来日! 大阪
では過去最多の6点が展示『フェルメ
ール展』大阪会場 記者発表レポート

2019年2月16日(土)〜5月12日(日)まで開催される特別展『フェルメール展』の記者発表が、9月10日、大阪市立美術館で行われた。本展は2018年10月5日(金)〜2019年2月3日(日)まで東京・上野の森美術館に続き開催される巡回展。昨年11月、本展の開催が発表され、今年7月には東京展で展示される8作品と概要が明らかになった。今回の記者発表では、新たに日本初公開となる作品、そして大阪展の概要が発表された。登壇した吉村洋文大阪市長と篠雅廣大阪市立美術館館長は、19年ぶりに大阪で開催される『フェルメール展』への意気込みや、来日作品の紹介・解説を行った。
大阪では19年ぶりのフェルメール展。約70万人の来場者数を想定。
17世紀オランダ絵画の黄金期を代表する、ヨハネス・フェルメール(1632〜1675年)は、現存する作品が35点とも言われ、その希少性と神秘的な魅力から世界中で人気を誇る画家。大阪でのフェルメール展開催は、2000年に同美術館で開催された『フェルメールとその時代展』以来19年ぶり。前回は会期中の3ヶ月間で60万人の来場者が会場を訪れ、フェルメールの人気ぶりを知らしめることとなった。

記者発表は会場となる大阪市立美術館で行われた

今回、大阪展で展示される作品は、前回の展覧会の5点を上回る、計6点。関西でも過去最多の展示数となる。しかも、新たに来日が決定した《取り持ち女》は、本邦初公開。
大阪展でのみ展示される《恋文》と、東京展の9点をあわせると、現存する35点のフェルメール作品のうち、実に10点が日本で鑑賞できることになる。まさに日本美術史上、最大規模のフェルメール展。世界各国に点在するフェルメール作品を巡る、いわゆる“フェルメール巡礼”を行う人も多いという。超人気画家の作品が日本に集まる、大変貴重な機会だ。「西日本ではこれ以上の展覧会は難しいと思う」と述べた篠館長。吉村大阪市長は、「80年の歴史のある、この歴史深い大阪市立美術館でフェルメール展を開催できることを嬉しく思っている。天王寺エリア一帯はもちろん、大阪全市をあげて広報を行い、ぜひ『フェルメール展』を成功させたい」と意欲を見せた。

吉村洋文 大阪市長
門外不出の《取り持ち女》が初来日、本邦初公開!
会場では、フェルメール人気の火付け役となった1990年代後半のアメリカ・ワシントン、オランダ・デンマークで行われた大規模な展覧会や、93万人の来場者数を記録した2008年東京での展覧会を映像で回顧。また、今年7月に東京で行われた本展の記者発表の様子も流れたあと、大阪展で展示される作品の紹介と解説が、篠館長によって行われた。ここからはその内容を紹介していこう。
来日作品の解説をする篠館長
《取り持ち女》
今回の記者発表で来日することが決定した《取り持ち女》。貸し出しが難しく、門外不出と言われた本作が、ついに日本にやってくる。これはフェルメールが24歳で制作した、キリスト教の主題「放蕩息子」を描いた作品。初期の頃から宗教画・物語画に取り組んでいたフェルメールがはじめて描いた風俗画であり、制作年とサインが入っている。初来日で、非常に貴重な機会になることから、「なかなか見れるものではない」と篠館長も興奮気味に語った。《取り持ち女》は大阪会場では全期間を通して展示、東京会場では1月9日〜2月3日までの期間限定展示となる。
ヨハネス・フェルメール 《取り持ち女》1656年 油彩・カンヴァス 143x130cm ドレスデン国立古典絵画館 bpk / Staatliche Kunstsammlungen Dresden / Herbert Boswank / distributed by AMF
《恋文》
明るい室内でリュートを膝に乗せ、手紙を受け取る婦人の後ろで、召使いがいたずらっぽく微笑んでいる。身分を超えた2人に、どこか親しげな雰囲気がただよう。後期作のひとつである本作は、部屋の中を覗き見ている感覚になる不思議な構図の作品で、リュートを弾く婦人に召使いが手紙を届ける場面を描いている。床の市松模様や手前のドア、カーテンが奥行きを生み出し、「遠近法を効果的に使用している」と篠館長。また、「モップや楽器、壁に飾られた画中画など、小道具をふんだんに盛り込んでいるのがフェルメールの大きな特徴」とも説いた。楽器は恋をあらわすモチーフであることから、この手紙が恋文であることがわかる。本作は大阪展でのみ展示される。
ヨハネス・フェルメール 《恋文》 1669-1670年頃 油彩・カンヴァス 44×38.5cm アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. Purchased with the support of the Vereniging Rembrandt, 1893
《マルタとマリアの家のキリスト》
キリスト教を主題にした初期作で、フェルメール作品の中で最も大きいサイズである。イエスの話に聞き入って、食事も家事もしない妹マリアを、姉のマルタがたしなめるが、イエスは「自分の教えを聞くマリアの態度は正しい」と、マルタを諭す場面が描かれている。「画面後方のマルタと、手前のキリスト、マリアの間にひかれている白いクロスは、“生と俗のはざま”を表す」と篠館長は言う。“光と影の魔術師”と称されるフェルメール独自の光と影の表現の開花を感じさせる1枚だ。
ヨハネス・フェルメール 《マルタとマリアの家のキリスト》 1654-1656年頃 油彩・カンヴァス 158.5×141.5cm スコットランド・ナショナル・ギャラリー National Galleries of Scotland, Edinburgh. Presented by the sons of W A Coats in memory of their father 1927
《リュートを調弦する女》
リュートを調弦しながら、窓の外を見る女性。外にはフェルメールが生涯を送ったデルフトの街が広がる。画中には恋愛を寓意する楽器や、当時の世相を表す大きな世界地図が描かれている。17世紀オランダ黄金時代に、世界地図を飾る家庭は多かったという。フェルメールは当時の国民の暮らしをありありと筆に落とし込んだ。篠館長は「様々な小道具を画中に取り入れるフェルメールならではの仕掛けが隠されていて、楽しめる作品」だと話した。
ヨハネス・フェルメール《リュートを調弦する女》1662-1663年頃 油彩・カンヴァス44×38.5 メトロポリタン美術館 Lent by the Metropolitan Museum of Art, Bequest of Collis P. Huntington, 1900(25.110.24). Image copyright (c) The Metropolitan Museum of Art. Image source: Art Resource, NY
《手紙を書く女》
日本初公開の作品。女性が手紙を書きながらこちらを向いて微笑んでいる。これは当時の最新技術、カメラ・オブスキュラを活用したもの。15世紀頃から絵を描くための道具として利用されはじめた。篠館長曰く、「珍しくて不思議な作品。カメラ・オブスキュラが、人間の視界以外の新しい空間を生み出した。それをフェルメールはいち早く作品に取り入れた。明らかにカメラ目線になっている」。同じくフェルメール作の『青いターバンの少女』もカメラ目線だが、人物の感情が伝わるような情景を描いた作品は他に類を見ない。篠館長は「新しい視角的世界をキャンバスに塗りこめることができたのは、フェルメールの天才的な力だと思う」と語り、いかにフェルメールが突出した才能を持っていたかを説いた。
ヨハネス・フェルメール 《手紙を書く女》 1665年頃 油彩・カンヴァス 45×39.9cm ワシントン・ナショナル・ギャラリー National Gallery of Art, Washington, Gift of Harry Waldron Havemeyer and Horace Havemeyer, Jr., in memory of their father, Horace Havemeyer, 1962.10.1
《手紙を書く婦人と召使い》
手紙を一心不乱に書く婦人と、完成を後ろで待つ召使い。床にはぐしゃぐしゃになった手紙が転がっているが、気にする様子はない。召使いは早く手紙を書いてほしいな、と窓の外を眺めながら待っている。「人間の真理的ドラマが描かれているのがこの作品の見どころ」と篠館長は述べた。フェルメール晩期の独創的な作品である。
また、大阪展示作品の6点中、3点が手紙にまつわる主題であることから、篠館長は「フェルメールは手紙の画家と言われる。17世紀にオランダが独立したあと、郵便制度が非常に発達した。手紙は今のSNSと同じこと。書く、読む、届ける、返事をする。当時の作家も、手紙を使って仕事にしたり広報をした。当時の風俗がありありと表現されていて、歴史の深い軸を感じることができる」と語った。
ヨハネス・フェルメール 《手紙を書く婦人と召使い》 1670-1671年頃 油彩・カンヴァス 71.1×60.5cm アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo (c) National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4535
《フェルメール以外の主な作家の作品》
本展覧会は、肖像画、神話画と宗教画、風景画、静物画、風俗画、そしてフェルメール作品の全6章で構成され、トータルで45点前後の作品が一堂に会する予定。フェルメールと同時代を生きた画家の作品も展示される。今回は、その中から4点が紹介された(いずれも国宝級)。
ヘラルト・ダウ 《本を読む老女》 1631-1632年頃 油彩・板 71.2×55.2cm アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. A.H. Hoekwater Bequest, The Hague, 1912
ピーテル・デ・ホーホ 《人の居る裏庭》 1663-1665年頃 油彩・カンヴァス60×45.7cm アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)
ハブリエル・メツー 《手紙を読む女》 1664-1666年頃 油彩・板 52.5×40.2cm アイルランド・ナショナル・ギャラリー Presented, Sir Alfred and Lady Beit, 1987 (Beit Collection) Photo (c) National Gallery of Ireland, Dublin NGI.4537
ヤン・ステーン 《家族の情景》 1665-1675年頃 油彩・板 48.5×40cm アムステルダム国立美術館 Rijksmuseum. On loan from the City of Amsterdam (A. van der Hoop Bequest)
「フェルメール以外に注目している作家は?」と問われた篠館長は「メツー。フェルメールよりも少し早い時期の画家。同じ《手紙を読む女》という題材を扱っているが、フェルメールとどう違うのか見て欲しい」と述べた。また、「フェルメールと同時期のデ・ホーホは、何気ないオランダの日常風景を描いた画家。いかに自然や日常生活を愛していたかということがわかる」とコメントした。
記者発表の様子
ちなみに東京展では、展覧会構成に従い、第6章の最後の1部屋にフェルメール作品を集めて展示することがアナウンスされている。大阪展では展示方法は未定だが、1つの部屋での展示はしないという。「展示方法について構想はあるのか」との問いに対し、篠館長は「作品にふさわしい室内があると思う」と答えた。どのような構成になるのだろうか、楽しみにしておこう。
また、東京展では日時指定入場制を導入しているが、大阪展ではこのシステムは行わず、夜間開館や、週末の開館時間の延長など、1人でも多くの人に見てもらえる工夫を行う予定。
日本美術史に残る過去最大の『フェルメール展』
質疑応答では、「一番好きなフェルメールの作品は?」と問われると、篠館長は「大阪に来ない作品で……《牛乳を注ぐ女》です。時間が永遠に止まったという感じがする」とはにかみながら回答し、会場の笑いを誘った。「それから、《デルフト眺望》(フェルメールの描いた風景画/1660-61年頃 マウリッツハイス美術館蔵)は門外不出なので、作品を見るため30数年前にオランダに行った。また再会したい」と、自身の若かりし頃の思い出を目をほころばせながら語っていた。
篠雅廣 大阪市立美術館館長
吉村市長は「大阪でしか見れない作品を是非オススメしたい。光と影の印象がものすごく強いので、空間に非常に魅力を感じる。フェルメールの世界に吸い込まれるよう。私も本物を見るのは初めてなので、実際の光と影の魅力を肌で感じたい」と述べた。
最後に、本展に対する意気込みを聞かれ、「フェルメールは1作品につき10万人の来場者が見込まれるという。70万人の来場者数を想定しているが、事故がないように環境整備につとめたい。気持ち良く来て帰っていただけることが私たちのモットー」と篠館長。吉村市長は「大阪の皆さん、関西の皆さん、西日本の皆さんはもちろん、東京展で見れなかった方も大阪に来ていただけるぐらい、キャパシティをフルに活用して盛り上げていきたい。3ヶ月間とても楽しみにしている」と熱い姿勢を見せた。
篠雅廣・大阪市立美術館館長と吉村洋文・大阪市長
『フェルメール展』は2019年2月16日(土)〜5月12日(日)まで、大阪市立美術館にて開催。チケットは10月5日〜11月15日まで、早割ペアチケットが2枚3000円で販売される。一般発売は11月16日からとなっている。
取材・文・写真=ERI KUBOTA

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