笹本玲奈『マリー・アントワネット』
今の時期にマリー役と出会えたことに
奇跡みたいなものを感じる

1998年に『ピーターパン』でデビューし、ミュージカルの舞台を中心に活躍している笹本玲奈。今年で芸歴20年を迎えた彼女は、現在、新演出版ミュージカル『マリー・アントワネット』の舞台に出演中だ。06年の初演では、フランス革命に身を投じる女性、マルグリット・アルノーを演じた笹本だが、今回はマリー・アントワネットという、立場が180度違う役に挑んでいる。初演とは大きく変わったという新演出版の魅力やマリーの役作り、芸能活動20年目のタイミングでこの役に出会ったことへの思いなどを、大阪の記者会見で大いに語ってくれた。
『マリー・アントワネット』2018PV【舞台映像Ver.】
■マリー・アントワネットのイメージが打ち砕かれるし、彼女に共感できる
──開幕しましたが、実際に舞台に立ってみての感想は。
お客様からは「新作を観ているようだ」という言葉を、最も多くいただきます。今回のために曲が追加されたり、脚本が大きく書き直されていますので、私自身も稽古中から「新作のようだな」と思っていました。そして、いざ開幕してみると、マルグリット、フェルセン、ルイ16世と、相手役にWキャストが多く​(※名古屋・大阪公演では、フェルセン伯爵役は古川雄大のみ)。日々組み合わせが異なると​、本当に一回一回が初日のような感覚ですし、これ程に新鮮さを感じる作品は珍しいですね。そして一回一回、マリーの38年間の人生を本当に無我夢中で生きていて、疲労感でいっぱいになります(笑)。
──今回印象が一番変わったと思われる所は?
一番「すごいな」と思ったのは、マルグリットがすごく強く描かれるようになっていることです。特に今回、新しく書かれたエピローグが……何ていうんでしょう? どんでん返しっていう言葉が正しいのかどうかわからないですけど、お客様はマルグリットにすごく驚かされると思いますし、あのラストで作品の印象自体が大きく変わったと思えます。
──今回マリー・アントワネットを演じますが「いつかこの役を演じることがあるかもしれない」と、想像したことはありましたか?
今回のお話をいただくまで、一欠片も考えたことがなかったです(笑)。日本でマリー・アントワネットといえば、宝塚歌劇団の『ベルサイユのばら』や、最近だと『1789 -バスティーユの恋人たち-』でも、宝塚ご出身の方が演じることが多い役なので。私が演じる機会はないかなあと思っていたので、すごく驚きました。
──マリーのキャラクターや、人物に対する印象は。
マリー・アントワネットが登場する他の作品と異なり、マリー・アントワネットも普通の女性だったんだね、普通のお母さんだったんだねっていう、当たり前のことなのですが、意外に感じられる一面がすごく描かれていると思います。今回の上演では、マリーが実際にベルサイユ宮殿のプチ・トリアノンの庭園に、人工的に作らせた村でのシーンが追加されたんです。公式の目から遮断された、彼女にとっては唯一の憩いの場所で、一人の女性としての気持ちを爆発させます。もし王妃じゃなかったらこういう暮らしをしたいという気持ちが、ずーっと彼女の心の中にあったんだなあというのが、すごく切なく映ってくるんです。「マリー・アントワネットってこういう人」という固まったイメージが、そのシーンですごく打ち砕かれるだろうし、女性として共感できるんじゃないかと思います。
──Wキャストでマリーを演じる花總まりさんは、他の作品でもマリー・アントワネットを演じられたことがありますが、何かアドバイスはありましたか?
花總さんは立ってらっしゃるだけで王妃様そのものなので、見て学ぶことがすごく多かったですね。稽古期間中に、お芝居で参考にさせて頂きたい所のメモを取っていたんですけど、気づいたらメモ帳の半分が埋まってたぐらい。直接のアドバイスも……特に横張りのドレスを着た時の動きや裾のさばき方、扇子の持ち方などは、花總さんからご指導いただきました。私は宝塚の研一(研究科1年)さんぐらい(笑)、何もわからない素人の状態でしたけど、聞いたことをすべて優しく教えてくださったので、花總さんにはものすごく感謝しています。
──王妃になりきるために、私生活でも心がけたことはありますか?
こういうコスチュームものの作品って、私はなるべく形から入りたいって思うタイプなんです。お稽古もドレスで行いましたし、普段もなるべく王妃らしい生活を……年間13億円もかかってたという、実際の王妃の生活にはほど遠いですけど(笑)。でも、気づいたらダメージのあるデニムは履かず、スカートばかり手に取っているとかはありましたね。あと今回、マリー・アントワネットの一人称をプライベートでも、公式のシーンでも​「わたくし」に統一したんです。そうしたら私生活までふとした時に「わたくし」って言ってしまうことがあって「何だ?わたくしって?」と自分で笑っちゃいますね(笑)。
また、なるべくゆっくりしゃべることを心がけています。それはいかなる時も、彼女は「自分は王妃である」という誇りを決して忘れなかったということが、作品の一つのテーマでもあると思うので。怒る時も、悲しい時も、錯乱状態の時も、どんな時も言葉遣いや、しゃべる声色やスピードに気をつけようと。それを心がけていたら、普段のしゃべり方も「すごく落ち着いたね」と、友人から言われることが多くなりました。
■重々しさよりも希望や、自分なりの考えを持って帰れる作品だと思います
──芸歴20年という節目に、この役にめぐり会えたことをどう感じていますか?
『ピーターパン』でデビューした時は13歳で、本当に少年のような状態で舞台に立つことができましたし、(『レ・ミゼラブル』の)エポニーヌや(『ミス・サイゴン』の)キムも、自分の年齢と見事に合ってる役だったんです。でもそれ以降は、自分の年齢より若い役を頂くことが多かったです。
その葛藤というか、今の自分の年齢や経験に合った役をやっていきたいと思っていた時に、声をかけていただきました。本作では、彼女の32~38歳までが描かれているし、さらに母親であるということとか、すごく自分と重なる所が多い役。めぐり合わせというか、今の時期にこの役と出会えたことに、すごく奇跡みたいなものを感じています。
──先ほど「マリー役は疲労感がいっぱい」とおっしゃられていましたが、大変なポイントというのは。
衣裳が重いので体力が必要ということもありますが、やっぱり精神的に結構ボロボロになります。これだけの壮絶な人生を、たった3時間で舞台の上で生きるというのは、ものすごくエネルギーを使います。あとは彼女の最後のシーンでは、周囲からひどい誹謗中傷を受けるんですよ。本当に舞台の上でも、心を平静に保っているのが精一杯というか。しかも彼女が裁判にかけられた訴訟内容は、ほとんどがねつ造されたもので、その中には母親としてすごく屈辱的なものがあるんです。それはもう、自分自身とどうしても重なってしまって、今まで感じたことのないような憤りを感じます。自分なのかマリー・アントワネットなのかわからないぐらいの気持ちになって、本当に辛いです。
そのどっしりとした重みは、家に帰ってもなかなか取れないし、ギロチンが夢にまで出てくるという(笑)。なのでもう家に帰ったら、大好きな白いご飯と納豆を食べて、子どもに癒やされながら面白いテレビを見るという普通の生活をして、できるだけ作品のことを忘れるようにしています。博多公演の時は、劇場の隣の[アンパンマンミュージアム]に行って、丸いフォルムに癒やされてましたし(笑)。とはいえやっぱり、毎日そのシーンに向き合わなきゃいけないという辛さがあるので、もう心を健康に保つのでいっぱいいっぱいという日々ですね。
──物語は、マリーだけに焦点を当てると暗い一面がありますが、作品全体を通してみると前向きなものも感じますね。
そうですね。それがまた、結構前回と変わった所なんじゃないかなあと思うんです。マリー・アントワネットが歴史通りに処刑されました、で終わるのではなくて、その先のこと……この時代に、誹謗中傷によって人生が終わってしまった女性を目にすることで、今現代に生きる私たちは、そういった今にも通じる問題にどうやって向き合って生きていけばいいのか? あるいはそれが未だになくならないのは、どうしてなんだろう? ということを、悲観的ではなく前向きに、いったん立ち止まって考え直すことができる作品だなあという風に思っているんです。
たとえば『レ・ミゼラブル』も登場人物の多くが死んでしまうけど、決して嫌な後味のまま劇場から帰るってことはないですよね? この作品も、重々しい気持ちよりも、何か一つの希望や、自分なりの考えを持つことができる。また、様々なジャンルの曲が散りばめられた音楽が素晴らしくって、耳に残る曲が多いので、口ずさみながら帰ることができるんじゃないかなあと思いますね。「革命モノ」というどっしり感よりは、新しい希望を持って家に帰ることができる作品だと思います。

取材・文・写真=吉永美和子

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