BIGMAMAインタビュー 迷いなくバン
ドの今を詰め込んだ最新アルバム『-
11℃』を掘り下げる

メジャーレーベル初アルバム。という意識に関わらず、今やりたいことをやり切ったアルバム。BIGMAMAの通算8作目『-11℃』は、ルーツへの回帰と新たな挑戦と無意識と計算とがせめぎあう、とことん痛快なロック・アルバムになった。先行シングル「Strawberry Feels」を“心臓”とし、全12曲が“手”“足”“目”などカラダのパーツをモチーフに作られた、コンセプチュアルな完成度の高さも実にBIGMAMAらしい。バンドの新しい扉を開く最新作について、金井政人(Vo/Gt)と柿沼広也(Gt/Vo)が語ってくれる。
――もう、1曲目の一音でのけぞりましたよ。「ズダーン!」「うおおおおお」っていう感じ(笑)。曲調は多彩だけれども、全体的にものすごくエネルギッシュでパワフルなロック・アルバム。
柿沼:ありがとうございます。特にこの1曲目「YESMAN」はそこを大事にしていて、今までと違うサウンドのアプローチが、曲が持っている世界観とうまく結びついた。幕開けにふさわしい曲になったかなと思います。
――環境も変わったし。そういう意味での幕開け感もあるような。
柿沼:どうですかね。あるとは思うんですけど、このアルバムだけにすごく力が入っていたわけではなくて。「メジャー最初のアルバムだから」とかよりも、「今までやってきたように自然に」という感じでしたね。もちろんコンセプトは考えましたし、二人で話していたのは、自分たちが昔好きだったアルバムって「すごくシンプルだね」と。たとえばギターも(ほかの楽器と)一緒に録ってるねとか、「そういうアルバムって気持ちいいよね」という話から、サウンド感を変に広げずに作ってみようかという、大きな流れはありました。
――はい。なるほど。
柿沼:でもやっていくうちに、曲が持っている方向性を探っていくと、たとえばギターの歪みも全部一緒じゃないし、ドラムの響きも違う。大きくイメージしていたところの「気持ちいいアルバム」というものはキープしつつ、10年間やってきた経験を入れられたので、それが幕開け感につながってるのかな?という気はします。
金井:狙いすぎない、というのが自分の中のテーマでした。今言っていた、自分たちの音楽の入り口になった洋楽のアルバムと、自分たちが作るときと、どんなシチュエーションの差があるか?というと、シングルを出してアルバムに繋げるというタームで区切られていることで、最終的にアルバムに帰着したときには、いろんな音色が鳴っている。それが自然になりがちなんですね。でも自分たちが聴いてきたバンドって、そういうことはまったく関係なく、1枚のアルバムとして作ってると思うんですよ。そこに対して自分たちは、日本のリリース・タイミングのサイクルに乗っかって、いつのまにかそうなっていた気がしていて。
BIGMAMA・金井政人 撮影=AZUSA TAKADA
――ああー。
金井:シングルを出して、アルバムを出すときに、その時々の振れ幅や、楽曲の賞味期限や、無意識にバランスを取ってきたと思うんだけど、あらためてこのタイミングで、軸足をもっとしっかり置きたいなと思いました。今までも好きなことしかやってないんですけど、好きなものの中でもっと好きなもの、一番得意なものに焦点を合わせる。自分たちが音楽を志すきっかけになったアルバムに近づく方法はそれだし、それがこの先の自分たちの指針になって、迷わない秘訣になると感じたことがきっかけだったと思います。
――なるほどね。
金井:別の取材で「原点回帰なんですか?」と言われたこともあって、それも別に狙ったわけじゃない。結果的にそう受け取られたら、あなたにそう聴こえたんですねという話であって、自分たちが意図的に後ろを向いて作った気持ちは一切なくて。今の自分たちの身についてるものの中で、迷わないように作ったというか、このタイミングだからということを意識しすぎないように気を配っていた気がします。
――会社の人を喜ばせたいとか、俺たちの実力を見せてやろうとか、そういう意図はない……とか言っちゃいけないか。
金井:いや、それはあるんですけど、その方法がこれだと思ってます。関わった人を損させたいなんて絶対思ってないし、うちのバンドにベットしたコインを絶対当てたいと思ってますから。それを当てる方法として、一番誠実な方法がこれだと思います。
――その、さっき言っていた、最初に出会った洋楽のかっこいいアルバムって、たとえば何だったりするのかな。
金井:それこそイエローカードとか。
柿沼:ゲット・アップ・キッズ、ジミー・イート・ワールドとか。その人たちの作品の中でも「このアルバムのこの音色」というものがあって、それって今でもすごく思い出せるんですね。「あのアルバムのサウンド感ってこうだったよね」という話ができるんですよ、僕ら。ジミー・イート・ワールドのアルバムの中でも、このアルバムはギターが渋いよねとか、歪み具合が全然違うよねとか。でもたぶん、今までの僕らのアルバムって、そういうふうには話せなかった気がするんですよね。
――そうかな。
柿沼:「そのアルバムが好きだった理由って何だったんだろう?」というところへ立ち返ったときに、実は、そういうことってすごく大きい気がしていて。そこを意識して作ることによって……正直、個人的にこのアルバムを今までのアルバムと聴き比べて、一番するっと聴けるんですよね。最初に話していたよりも、ワン・トーンのアルバムではなくなったんですけど、それは楽曲が持っている良さを生かすためで、結果的にいろんなサウンド感になったんですけど、それでもアルバム全体をするっと何回も聴ける自分がいて。それはやっぱり、そういうところに意識を置いていたから、アルバムとしてちゃんと機能してると思うんですね。シングルの寄せ集めでもないし、ただ曲を並べたわけでもない。正直自己満足かもしれないし、今は楽曲が切り売りされる時代ですけど、でもこうやってアルバムというものを出す意味として、僕らの中では良さを出せたんじゃないかなと思ってます。
BIGMAMA・柿沼広也 撮影=AZUSA TAKADA
――このアルバムには「カラダのパーツ」というテーマが掲げられてますよね。BIGMAMAの場合は毎回コンセプトがあって、前の『Fabula Fibula』の時は“街”だったけれど。今回の「カラダのパーツ」というのは、どういうふうに思いついたのか。
金井:「Strawberry Feels」を作ってる時から、漠然と次のアルバムへの思いがあって、この曲が起源であるべきだと思ったし、文字通りアルバムの核として「Strawberry Feels」が心臓になると思ったんですよ。そして、少し前に作っていた「CRYSTAL CLEAR」は“目”になるなと思ったときに、そこからは心の中で合体ロボのパーツを作っていくというか、必殺技の名前を考えるというか、そういうイメージでした。目的がなく絵を描くこともできるけど、そういう理由がないと頑張れないというか、そこに“心臓”と“目”があると自分の中で思えていたら、じゃあカラダのパーツに名前をつけていこうか、という感じでした。手、足、鼻、耳……はないか。
柿沼:耳、ないね(笑)。
金井:耳だけ書き忘れたんですよ。
――そうなの?(笑)
金井:いや、書き忘れたんじゃなくて、どうしても書けなかった。それはいろんな理由があるんですけど、とにかく心臓と目ができて、バランスをとるために、次に書いたのが“足”の「Ghost Leg」でした。そうすると体全体が見えてきて、「あ、アルバムが作れる」と思いましたね。ただ、そこにどんな意味を持たせたのかとか、講釈を垂れることはできますけど、それをしたいわけじゃなくて、1枚の作品ができあがったときに、何か象徴するものにする必要があっただけで。今回のアルバムに限らず、曲同士が関わり合ってほしいと思っていたから、それを繋ぎとめるキーワードが必要だったということで、自分の理屈は自分の中できちんと成就させてますけど、それ以上に、骨格として筋が通ることが一番重要なので。
――人体だけに、まさに骨格。
金井:体をモチーフにしたときに、僕が思っていたのは、数字と宇宙だったんですね。よく言うじゃないですか、体の中には宇宙があるとか、化学記号や数字があるとか。そういう法則性を持って書くべきだと思いました。それは僕の中ではおまけというか、最後のスパイスだととらえてもらえばいいんですけど、ただそこに命を賭けるから。無駄なところに本気を出すのが一番面白いじゃないですか。
――(笑)。ですね。
金井:ということなので。この作品を色づけるものと、これまでの1枚目から7枚目を引き寄せるものとして機能すれば、それでいいやと思ってました。
――僕の聴き方で言うと、シンプルに1曲目「YESMAN」にヤられましたね。プログレかと思うようなハードで壮大なロック・チューンで、<あなたの全てにYES/I’ m YESMAN>という、全てを肯定する言葉がとても美しい。
金井:「YESMAN」を1曲目にしたかったのは、バンドのエゴですね。
柿沼:うん。俺と金井が考えてることは、ちょっと違うかもしれないけど。
金井:俺が「1曲目にしよう」と言って、カッキーが「うん」と言った。この二人が「うん」と言えば、まず覆らない。
BIGMAMA・金井政人 / 柿沼広也 撮影=高田梓
柿沼:この曲は、僕が思うBIGMAMAの“今”を更新している曲だと思っているので、これで入りたかった。最初から推し曲だったし、今ライブでどの曲を演奏したいですか?と言われたら、「YESMAN」で。それぐらい、今の音楽シーンをこれで突き刺したいという気持ちがあったので、これで始めたかったんですね。前回のアルバムの1曲目「ファビュラ・フィビュラ」ができたとき、すごい手応えがあったんですけど、その曲を信じ切れなかった自分がいて。金井が「これを推そう。これでミュージックビデオを録ろう」と言ったときに、今までのBIGMAMAからすると新しすぎて、ビックリさせちゃうんじゃないか?というところも含めて、信じ切れなかったところがあって。
――ああー。そんなことが。
柿沼:でも結局、ライブでもすごく自信を持ってできる曲になった、そういう経験があったから。今回の「YESMAN」にも同じような感覚を持っていたので、今度は迷わずに、「これからのBIGMAMAのスタートの1曲はこれだ」と思いました。
金井:歌詞を書く人間として、<あなたの全てにYES/I’ m YESMAN>というのは……他人は俺のことをどう思ってるかわからないけど、自分は自分のことを究極にYESMANだと思ってます。こいつ、めちゃめちゃ言うこと聞かないのに何言ってんだって、思われてるだろうけど。
――何も言ってないけどね(笑)。
金井:僕の中では、僕は究極にYESMANなので。<あなたの全てにYES>というのは、絶対肯定主義というか、自分を自分たらしめる表現として、1曲目のサビとして、ライブをイメージしたときにも、そこにいる人たちを絶対的に肯定するところから始めるべきなんじゃないか?ということを思ってました。BIGMAMAに出会って、CDを聴いた人に対して、何から始めるの?といったときに、<あなたの全てにYES>から始めようと思いました。
――それは強く感じました。聴き手への呼びかけだなと。
金井:自分自身の生きざまを投影したアルバムの、1曲目のサビの言葉は、そういうことを覚悟した上で書くべきだと思うので。そう思った上で書きました。
――そして11曲目「CRYSTAL CLEAR」も肯定の曲でしょう。個人的にはこの2曲があることで、アルバムの感触が温かいものになるんですよね。
金井:-11℃なのに。
――そうなんだけど(笑)。「YESMAN」で力強く始まって、様々な曲調を経て、透明で温かいムードの「CRYSTAL CLEAR」から、もの悲しく美しい「High Heels,High Life」で終わる。絶妙な流れだと思います。
柿沼:この曲順になって、金井らしいと思うんですね。金井は前向きな人間ではあると思うんですけど、全肯定な人ではないと思うから。最後に「High Heels,High Life」があって、金井のあの歌い方で歌ってるのが、俺は逆にしっくりくる。この曲、好きなんですよ。
BIGMAMA・金井政人 撮影=AZUSA TAKADA
――めちゃくちゃいい曲ですよ。最後の曲としては、せつないにも程があるけど。
柿沼:そうですね(笑)。でもそこからまた「YESMAN」を聴くと、「YESMAN」が最後の曲っぽく聴こえるんですよ。それがまた、俺は好きなんですけど。
――「High Heels.High Life」の主人公は、女性言葉だから、女性なのかな。
金井:歌詞を書くときに、人さまの仕事を請け負って書くときは、すっと書けるんですよ。でも「BIGMAMAの歌詞を」というと……僕は作家のつもりでいるから、冗談も書きたいし、思ってないことも書きたいんですけど、どうしても「この人は今こういうことを考えてる」ととられちゃうじゃないですか。だから嫌だなとずっと思っていて。
――あー、そうだったんだ。
金井:そういうときに、女の人になるんだと思います。ちょっとだけ俺と離れて、でもBIGMAMAの表現の中に落とし込めるから。自分の中で、地声とファルセットの間で歌うようなテクニックを使って、中性的なゾーンでメロディを書くとか、今まで何度か起きてることなんですけど。
――作家としての、表現の幅。
金井:ドキュメンタリーにはしたくないんですよね。恋愛ものの小説のつもりで書いたことが、自分のことだと思われたら本末転倒というか、そこにはずっとイライラはしているので、それをさせない方法として、女になるというのは、わかりやすい方法なんですね。
――ソングライターの宿命かな。歌ってる内容を、「今こう思ってるんですか?」と聞かれるのは。
柿沼:確かに。
――「YESMAN」を聴いて「金井さんは全肯定的なモードなんですね」って、まさに今それをやってるけど(笑)。
金井:俺はむしろ、ずっと真逆なことを歌ってるみたいなところがあって。調子のいいときに、調子の悪い曲を書きたくなるし、バランスを取ってる。
――わかりますよ。何なんですかね、それって。
金井:自分がすごく満たされた状況にあるときに、「満たされてます」という曲なんて書きたいと思わないですよ。どこかでバランスを取らないと。「もうそろそろ不幸になるんじゃないか」「嫌なことが起きるんじゃないか」と思うことって、人間として健全だと僕は思うので。逆にすごく悪いことが続くと、「そろそろいいことないかな」と思うことが、僕の中で普通なんですよ。それをアーティストとして、書きたいものとして歌詞を書いていくときに、僕にとってはそっちが自然なんですね。なので、常々そういう誤解についてはあきらめてるし、覚悟もしてるんですけど、女性的にものを書くというのは、技術的に自分を助けてくれることというか。
――なるほどなあ。ネタバレしちゃいましたけどね。
金井:いいですよ。
――逆転して聴いてみるのも、ときには面白いかもしれない。音楽ですからね。受け取り方は自由。
金井:自分の中でミュージックビデオを描くように聴いてもらえたらいいんですけど。なかなかそうはならないので。
BIGMAMA・柿沼広也 撮影=AZUSA TAKADA
――最後に、アルバムタイトルの『-11℃』というのは?
金井:カラダのパーツというところで、数字の話をしましたけど、温度にしようと決めたのは最後の最後です。最近読んだ小説で、ピカソは自分の画のタイトルを決めたことがないという、本当かどうかは知らないけど、画商がタイトルを決めていたという話があって。本人は描きたいものを描いていて、最終的にあとで名前がつく。僕もそれに近いと思います。作りたいものがあって、それがまとまって、これが何と言ってるのか?という決め方です。記号として、パッと見て人が見つけやすいものであってほしいと思うし、それだけではなく、BIGMAMAを好きな人と僕らとを繋ぐワードだとも思うし、そういうふうに楽しんでいただければと思います。
――マイナスだから、冷たいわけでしょう。体感として。
金井:うーん、BE COOLということは、作ってるときになんとなく思っていたかな。でもそれよりは、意味を持ちすぎないこと。「これ」というふうにカテゴライズすることは、野暮かなと思いました。これぐらいの記号のほうが、冷たくていいなと思いました。
――BIGMAMAは深読みしてなんぼだから、良い意味で。掘れば掘るほど、もっと面白くなる。今回は特にそうだとみなさんには言っておきます。リリースツアーは楽しくできそうですか。
柿沼:アルバムの曲だけに固執しないツアーになると思うので、過去曲と今の曲が繋がるような仕掛けは作っていきたいなと思います。スリリングなところもいっぱい作って、楽しめるんじゃないかと思います。
金井:アルバムの楽曲と今までの楽曲の、溶け具合を見せたいです。今までのアルバムは、一つ軸があって、そこから広がる枝や葉があるものだとしたら、このアルバムは幹だけで通したアルバムなので。軸の部分で曲を作り切ったと思うので、全部の作品と繋がってくると思うんですよ。そこを見せたいです。

取材・文=宮本英夫 撮影=高田梓
BIGMAMA・柿沼広也 / 金井政人 撮影=高田梓

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