Wakanaが軽やかに見せた「歌い続ける
」という誓いと決意 ツアーレポート

2018.10.17(Wed) Wakana Live Tour 2018 ~時を越えて~ マイナビBLITZ赤坂
Wakanaが初の単独ライブツアー『Wakana Live Tour 2018 ~時を越えて~』を無事に終幕させた。
Kalafinaとして活動して10年、初の単独ツアーは追加公演を開催するほどの盛況ぶりとなり、東京・福岡・名古屋・大阪を終えたWakanaはツアー最後のステージ、マイナビBLITZ赤坂へと戻ってきた。
筆者は当日は二階席での観覧となったのだが、その後方立ち見席も出るほどの盛況ぶり、超満員の会場は静かに期待にあふれている。既に各地をWakanaと共に回ったファンもいるだろうが、それでもこの微かな緊張感は久しぶりの感覚だ。
開演時間、「Overture」のメロディーが響く中、ステージ後方から照らされる光の中Wakanaが現れる、そのまま歌われるのはKalafinaの楽曲「九月」「カンタンカタン」だ。バックバンドのサウンドと共に歌われるその声は変わらず高く響き、聞くものの耳だけではなく全身を包み込む。決して重苦しくなく、軽やかに観客の心の扉を開くように音楽を奏でる。
「Wakanaです。今日は追加公演!!たくさんの方に来ていただけて嬉しいです。お久しぶりです!」
MCでは拍手が巻き起こる。Wakanaだけが喋るというのがちょっと不思議な感じだ。単独コンサートなのだから当たり前なのだが、三人で行っていたものを一人で担当する、それだけでも今まで見えてこなかったWakanaのパーソナルが見えてくるような気がした。
「曲を頂いてから、そこに言葉を当てはめるのが楽しい」と語る彼女は、今回披露したソロ楽曲の全てを作詞している。その中から最初に披露されたのは「君だけのステージ」。明るくポップな曲調は、明らかに今までWakanaが歌ってきた楽曲とは違う明るさを持っており、それを自分のものとして堂々と歌いこなす姿はやはりどこか楽しげだ。
続く「僕の心の時計」では一転して深みあるバラードを聞かせにくる。Kalafinaではなかった音の高低を使いこなすボーカリストとしてのテクニカルな部分も、今だからこそ楽しめるWakanaの魅力のような気がする。
「少し歌の話をしようかな」と切り出したMCでは「スピッツさんが好きなんです。男の人の声は自分にはないので憧れる。小田和正さんも好きですね」と語ったWakana。その小田がボーカルを務めるオフコースから「この季節に聴くと切なくなる曲」ということで「秋の気配」をカバー曲としてチョイス。
別れを感じさせるこの曲も、Wakanaの歌声によって新たな魅力を感じさせるものになる。しかし聞いていて思うのは、Wakanaがポップスを歌っているという事実だ。
今までWakanaが歌ってきたのはポップスではないのか? と言われると困るのだが、FictionJunctionもKalafinaも一言でポップスのグループ、と言い切ってはいけないくらい多様性があった。やはり根底にある梶浦由記の存在、梶浦が生み出す音楽を具現化してきたWakanaの存在というのは、アニソンという枠を超えて音楽界に与えたインパクトが凄いものがあったと思っている。
梶浦が作る音楽はどこか民族的な響きを持ち、梶浦語とも言われる造語を使った音楽としての言葉の使い方、そしてストリングスの妙などで聞き手をここではないどこかに連れて行くような荘厳な響きを持っている。しかし、今日Wakanaが選んだカバーは小田和正が41年前に作った小さな男女の恋の話なのだ。その後に歌われた坂本九の「見上げてごらん夜の星を」、中島みゆきの「糸」もそうで、彼女はある意味での普遍性を持つポップスというジャンルを自分色に染められるかの挑戦をしているように見えた。
何度もMCで「やっぱり歌が好きだから」と話したWakana。いつものように明るくて、ちょっと天然な感じの会話の中に見え隠れするシリアスな本音。FictionJunctionの楽曲から「水の証」「Where the lights are」を久しぶりに披露したあとにKalafinaから「明日の景色」を披露する。
「自分にとってターニングポイントは梶浦さんの曲との出会いです」。そういうWakanaが後半に見せたのは「夢の大地」「believe」「むすんでひらく」というKalafina楽曲三曲連続メドレー、壮大な世界観を持つ『歴史秘話ヒストリア』エンディング「夢の大地」から『Fate/stay night [Unlimited Blade Works]』エンディングテーマでもある「believe」を歌い上げる。ステージを左右に煽るように移動しながらのこのイントロが流れた瞬間に客席は待ちかねたように立ち上がる。さっと移動した上手の立ち位置が見慣れて見えるのは仕方ないことなのだろうか? Wakanaが一人で紡いだKalafinaの音楽は、どこか久しぶりに聞いた懐かしさと共に新しい楽曲のように客席に降り注ぐ。
以前行ったインタビューでも大好きな楽曲と語っていた「むすんでひらく」を歌いきった後にその日一番とも言える歓声と拍手が巻き起こる。やはりファンはこれらの楽曲を待っているのだと思う。しかしWakanaは前を向く、エキゾチックな雰囲気を持った新曲「翼」に引き続いて、8月のローマ・イタリア管弦楽団とのコンサートで披露したはじめてのソロ曲「時を越える夜に」を披露する。
歌う前にこの曲がビクターエンタテインメントからソロデビューシングルとして年明けに発売されることが本人の口から発表されると、また万雷の拍手。この大事な発表を緊張したのか、噛んでしまったため「もう一回ね!」と仕切り直したのもWakanaらしいエピソード。その後も「いつか喋るライブもやりたいな!」「私のこと忘れないでくださいね?」とあくまでマイペースで客席と対話していくWakana。アンコールではピアノ一本で「とんぼ」をしっとりと歌いきり、照明がホワイトアウトする中、光をまといながら最後に披露したのは「ひかりふる」。
心配していたファンも多いだろう、不安だった人も、楽しみにしていた人も多いツアーだったと思う。しかしステージに登場した瞬間から、最後までWakanaは軽やかだった。跳ねるようにステージで歌い、笑い、存在していた。やはり彼女を動かす原動力は「歌いたい」という願い。それを叶えられるステージの上こそがWakanaが輝ける場所なのではないか。
鳴り止まぬ拍手の中ダブルアンコールで再登場したWakana。初日の東京以来という彼女が最後に見せたのは、今回のツアーの音楽監督を務める武部聡志氏を迎えての歌唱。武部氏から白い花束をサプライズプレゼントされ「やっぱり緑はいいなぁ」と微笑んだ彼女が「一つ一つ積み重ねていくのがライブ」という言葉とともに歌唱されたのが新曲「あとひとつ」。
今できる全てをステージで見せたWakanaは、少しだけ寂しそうに「来年きっとまた会えるから」とファンに約束を残し、「もっとたくさん歌を届けられるようにがんばります!」と笑顔で去っていった。
不安もノスタルジーも期待も喜びも、ほんの少しの寂しさも、様々な感情が渦巻いていたライブだった気がする。Wakanaはただ前を向いて音楽を届けてくれた。まるでスキップするような彼女は、新しい音楽の世界の扉も、きっとその明るさで軽々と開けていくに違いない。それがどこに行くのか、見届けたいと思う。
文・レポート:加東岳史

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