【夏代孝明 インタビュー】
音楽は生活に必要がないもの。
だからこそ聴いてくれる人に
恩返しをしたい!
動画サイトで圧倒的な存在感を示していた夏代孝明が、ついに全ての作詞作曲を務めたオリジナルアルバム『Gänger』をリリース! 人に寄り添う曲から自分の心を探求し追求した曲など、現在の彼が凝縮された一枚となっている。
ニューアルバム『Gänger』は夏代さんの作品としては、初となる全曲作詞作曲に挑戦した一枚になるんですね。
はい。僕自身、曲作りにむらがあるタイプなので、制作期間中に仕上げることができるのか最初は不安だったんですけど、ドイツ語で“人”を意味する “Gänger”というテーマが決まってからは、どんどん作りたい曲が頭に浮かんできたんです。
“人”をテーマにした理由というのは、普段から日常をテーマにした曲をよく作っているからでしょうか?
そうですね。音楽って人間の生活に必ず必要なものではないと思っているんですよ。それなのにもかかわらず、ちゃんと僕の音楽を聴いてくれる人がいる。だからこそ、僕は曲を書く時にその人たちに恩返しをするため、どんな曲にしようか考えて作っているんです。その結果、完成するのは“人”を描いた曲が多かったんですよ。人と人とのつながりだったり、自分自身はもちろん、誰かのことだったりしていて…人とつながることって刺激もあるけど、どうしても窮屈なものがあったりしますよね。でも、それが愛おしかったりするんです。だからこそ、このアルバムには“人”に向けた感情を詰め込んだ曲をたくさん入れたいと思ったんです。
これまでは提供曲やカバー曲などが多かったですよね。自作曲だけになることでどんなことを感じましたか?
ひとりで曲を作るとなると“自分が思ったことをどこまで表現していくか”という基準が自分自身になるので純度が高くはなりますが、その分、歯止めも効かなくなるんです。その調整は難しくはありますが、すごく楽しかったですね。そこで感じたのが、自分が辿ってきた音楽ってJ-POPの王道だということ。洋楽のテイストを入れつつも聴きやすい曲が自分は好きなんだということも再確認しました。
それが体現されたのが「Gänger」かもしれないですね。
そうですね。この曲を作るまで、ずっと“表題曲になるようなものを作りたい”と思いながらも、なかなか生まれてこなくて悩んでいたんです。でも、自分ができることを詰め込もうと思った瞬間、ラップや洋楽テイストを組み込んで自由に作っていく段階だったので、自分の新たな可能性を感じたんです。結果、この曲ができてから他のアルバム収録曲もどんどんブラッシュアップされて、全体的に引き上げてくれたように感じました。
革新的な曲になったんですね。
はい。サビは中毒性のあるメロディーであることが必須だと思い込んでいて、その考えにがんじがらめになっていたんです。というのも、曲を作ることって僕の中では生きてく証を残していく感覚…爪痕を残していくことだと思っているんですよ。でも、それがサビに限らず、メロディーや歌詞のどこかが引っ掛かればいいと思うようになったんです。もちろん聴きやすさは第一に考えますけどね。
となると、言葉選びも変わってきたのでは?
だいぶ変わりました。高校生の頃に書いていた歌詞は説明的になりがちで、さらに何の不満もない楽しい高校生活を送っているはずなのに“ルールに縛られたくない!”みたいな不満がすごいんですよ(笑)。自分が書いたはずなのに、思い返しても何にそんなに腹が立っていたのか分からないんです。でも、今の高校生もきっと同じような感覚があると思うんですよね。当時の好きな人を思って書いた、今聴いたら恥ずかしくて目を伏せちゃうような曲もあったりもするし(笑)。
あはは。誰もが通る道ですよね。でも、そんな時にこそ聴いてもらいたい曲が「世界の真ん中を歩く」だと思うんです。
「世界の真ん中を歩く」は誰かに寄り添った曲を作りたいと思ってできた曲なんです。でも、その中でも自分らしさを失わないようにすることがすごく難しくて悩みました。2年前にできた曲なんで、今年作った「エンドロール」や「ジャガーノート」とはまったく違う色なんですよ。
確かに。言葉選びもテイストもまったく違いますよね。
はい。2年前は自分自身に悩みが多かったからこそ、聴いてくれる人たちを励ますためにも元気付ける曲が多かったんです。でも、ある時に“誰かのために”って思いすぎてないかって思ったんですよ。それよりも自分自身のことを分かってもらうために曲を書くことが大事だと思って、今年は先述の2曲を作ったんです。
「エンドロール」はとても考えさせられる曲ですよね。
“僕が主役の映画のエンドロールには誰の名前が載るだろう?”と思った時、実は誰もいないんじゃないかって思ったことがあって。友達や家族がいたとしても、そう感じる時って誰もがあると思うんですよ。その時の気持ちを言葉にして、歌にしたんです。
きっと共感する人は多いでしょうね。夏代さんは高校生の頃からカバー動画やオリジナル曲の動画を公開しているからこそ、さまざまな反応が多いと思うのですが。
デビューするまでは毎日石を投げられているような感覚がありました(笑)。実は高校生の頃って“俺が一番歌が上手いはずなのに、なんでこんなことを言うんだろう?”ってむしろ疑問だったんですよ(笑)。今聴き返すと“その歌唱力でよくそんなことを思えるな”って思えるんですけど(笑)。
すごい自己肯定力ですね!
あはは。でも、その漠然とした自己肯定力が今の僕を作ってくれているんです。僕自身も好きなことを続けていたからこそ今があるので、責任は取れないけれど、自分がやりたいことがあるのであれば、そこに対して一直線でいることだと思うんです。僕は何があっても音楽を続けていくので、みなさんが驚くようなことをずっとやり続けていきたいと思っています。
取材:吉田可奈