【公演レポート】かわいいコンビニ店
員飯田さん『手の平』~家族という関
係性からにじみ出る現実と未来 

今後の活躍が期待される若手劇団を集めた企画公演として2001年より継続的に行われ、今回で19回目を迎えたMITAKA “Next” Selection。今年の参加3団体のうちの一つで、メンバーが現在3人という企画団体「かわいいコンビニ店員飯田さん」による公演『手の平』は、静かな余韻と共に一筋縄ではいかぬ後味を残す。
かわいいコンビニ店員飯田さん『手の平』舞台写真 photo by bozzo
小さな町の商店街にある電気店が都市開発のため立ち退きを命じられるが、店主である父親はそれに応じようとしない。市役所の都市開発課に勤める長男が説得を試みるも、互いに本音を隠したよそよそしい態度で、話は平行線をたどるばかり。長男の上司も、店を手伝っている長女も、その様子をやきもきしながら見守っている。
かわいいコンビニ店員飯田さん『手の平』舞台写真 photo by bozzo
父親と長男を中心に、家族ならではの距離感、素直になれずにすれ違ってしまう様を、長男の妻や長女の夫、父親と同居している次男、近所の住人なども交えながら描いている。母親の不在により父と息子の関係性に焦点が絞られ、さらに息子自身も妻が妊娠中で近々“父親”になるという、世代の継承がテーマとして浮かび上がる。
かわいいコンビニ店員飯田さん『手の平』舞台写真 photo by bozzo
一つ一つのエピソードが魅力的だ。ありふれた日常の風景の形を取りながら、人間の心の機微が丁寧に描かれている。現代社会におけるテクノロジーの発達により顔と顔を合わせて話す機会が失われていくことや、古き良きものが破壊されていくことへの憂いと反抗を、あくまで声高にならずに描くつつましさが好ましい。ただ、文章としては上手さのある表現でも、それが演劇というアプローチになるとうまく伝わらない場合がある。脚本を舞台上に立ち上げたとき、より具体的にイメージを提示するのか、あるいは思い切って表現を切り捨てるのか、そこの精査がもう一歩欲しい。
かわいいコンビニ店員飯田さん『手の平』舞台写真 photo by bozzo
誰もが都市開発に対して疑問を抱いているのに、それでも止めることができない。この都市開発計画は机上の空論だ、と断罪する人物が、対抗策として自身の決意を語る。その決意の方こそ夢物語のようで現実味を感じられないものであるが、果たして現実として推し進められて実現するからといってそれが正しいという証明になるのか、という問題提起に感じられる。人間らしく暮らしたいという願望が理想論として片付けられてしまい、顔の見えない強者により少数派は切り捨てられる。夢物語すら語れない世の中では次世代はますます生きづらさを背負い込むばかりだろう。少子化、高齢化社会、貧困格差等々、現代社会が抱える問題は少なくない。実際、劇中の彼らの未来も明るいかどうか疑わしいところだが、それでも夢を抱くことを諦めない姿は、まだまだ世の中捨てたものではないのかもしれない、と思わせてくれた。
かわいいコンビニ店員飯田さん『手の平』舞台写真 photo by bozzo
公演ごとに出演者を集めるため適材適所の俳優が揃い、バランスよくまとまりのある座組になっている。父親役の高川裕也の自然体の演技が穏やかでありながら引き締まった空気感を生み出し、近所の独居老人を演じた若松武史の飄々とした中に哀愁を漂わせる佇まいが作品に深みを加えている。
取材・文=久田絢子

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