稀代のシンガーソングライターになり
つつある湯木慧に区切りとなるアルバ
ム「蘇生」リリースに伴って彼女の「
今」を聞き出す

2018年6月、湯木慧は20歳になった。もう、なのか、まだなのか……しかしひとつだけはっきりしているのは、「“新しくより良い作品や音を産み出さなきゃ“という前へ前へと躓く急ぎ足に伴って見失いかけていた何かに気づき」、彼女は過去に目を向け、原点をみつめ直そうと思ったということだ。そして、廃盤となっている自主制作CD3枚から数曲と、CDには収録されずにライブなどで歌っていた曲などを、自分が尊敬するアレンジャーにアレンジを依頼し“reborn”。さらに、これまでの曲を、カタカナ表記に変え、弾き語りやアコースティックバージョンに変化させ、『蘇生』というアルバムを作り上げた。彼女が“次”へ向かうために、どうしても必要な作業であり、作品だった。なぜ今『蘇生』だったのかを、本人に聞いた。

湯木慧
――今なぜ『蘇生』だったのかから教えてください。
今のレーベル(LD&K)に所属した時から、こういうコンセプトのものは作ろうと思っていました。湯木慧として自主制作で3作、レーベルに入って2作しか残していないのに、廃盤になったアルバムの中にも、大切にしている曲が入っていて。ライブで歌っていた曲も廃盤になっていて、ファンの方にもよく「音源ないんですか?」って聞かれるんです。廃盤にしたものを新たなものにするって、今のタイミングじゃければ相当後になると思いました。私はいつも新しいことをやっていきたいので、今回も色々な出会いがあって、納得いくものができて、スッキリして、次へ進むことができます。
――大切な立ち位置のアルバムということですよね。
そうですね。次、考えていることに繋がるような感じにしたいと思って。だからこの『蘇生』というタイトルも悩みました。呼吸→酸素→酸素マスク→蘇生という風に思って、生まれ変わりとか、新たな形、死というイメージもあるので、『蘇生』というタイトルが生まれました。『蘇生』は『再生』でもあって、同類語でもあり、対義語でもあると思っていて、新たに生まれるという意味合いを含めたかった。このタイミングが区切りという感覚もあったので、でも当たり前ですが、次も湯木慧だし、大切にしていた原点みたいな感覚は、なくなっていないんだよって、自分にも外に向けても言いたかったです。
――湯木さんはちょっと前に九州・大分に「蘇生」しに行っていましたよね。
大分の自然の中にある知り合いの家に、2週間ほど行ってきました。ちょうどレコーディング中だったのですが、どうしても行きたくて。20歳になっても期待していたわりに実感がなくて、自分を見つけにいったというか。でも大分に行って、色々なことを感じて、踏ん切りがついて、よしやるぞって気持ちになりました。学校をやめてから、人との出会いがめっきり減った気がしていて、それまでは新しいものの摩擦のような感覚が色々あったのに、少なくなっていきました。でも自分から行動しなければいけないという状況に気づけなくて、新しいものに出会うために行動するということが、自分の仕事のひとつなんだということに気づけたことがすごく大きかった。だから大分から帰ってきて、これからやることがわかったというか、20歳になれたというか。
湯木慧
――東京に帰ってきたときの<東京の空気が汚すぎて息するのがキツすぎてついて早々泣いてる>という湯木さんのTwitterのつぶやきが印象的でした。「蘇生」して帰ってきたとってことかな?
そういうことだと思います。でも大分に行ったから曲ができたというよりは、「蘇生」できたというか、気づけた。仕事だから曲を作るのではなく、心を沸々とさせることを仕事にしなければいけないなって。今活動の中心になっている場所、東京が、新しくて新鮮な場所だったと思っていたけど、一度大分の自然の中に戻ったことによって、帰ってきたときに一瞬、東京がすごく嫌になったんです。そこに気づけたことはすごく嬉しくて、傷つくことや嫌だと思うことって、すごくエネルギーになると思うので、今回、東京に帰ってきたときに嫌だと思ったことが嬉しかった。東京の空気が嫌で泣けたっていうのが嬉しかった。大分に行く前と帰ってからでは、レコーディングの時もエンジニアさん曰く、全然違ったみたいで、制作してる時も、行く前は「湯木の熱量が感じられない」って言われていました。でも私は雲をつかむような状態だったので、どうしてそうなっているのかもわからなくて。だから大分から帰ってからは全然違っていて、それは曲を通しても気づいてもらえると思います。それがいいか悪いかは別として、そういう部分でも、あからさまに感情の蘇生というのができていると思います。大分で何かあったんだなっていうのがわかる、分岐点のアルバムになっているんだなって、後々気づきました。
第二の形として生まれ変わるということを伝えたくて
湯木慧
――楽曲のアレンジを一曲ずつ違うアレンジャーさんに依頼したのは、どういう狙いですか?
今までの作品はどちらかというと、全体的にコンセプトが決まっていて、聴きやすいものを目指して作っていた気がします。でも今回は真逆。きれいにまとまっていない方がいいと思ったので、アレンジャーさんにお願いしたというのもあります。自分の方から、一緒に創作したいですって、第三者の方を引き込むことをしたことがなかったので、そういうこともトータルでやりたいと思いました。曲を作るだけでなくて、その曲がどういう方向に進んでいくのかとか、CDのジャケットも含めて全部をやることが、湯木慧になるんだなって。だからアレンジャーさんにお声がけするところからが、作品作りだと思って、是非やっていただきたいと思うかた、おひとりおひとりに手紙というか、ラブレターを書き、お願いしました。
――自らが動いて、自分が尊敬するアレンジャーとの出会いを作ったんですね。
そうですね、本当に「蘇生」したと思っています。感情も音源も新しい表現ができるようになった湯木慧がそこにいて、本当に「蘇生」できた、美しいものになっていると思います。
――アレンジャーが入ると、曲のメロディがより新鮮に映りました。
新しい方とやるというのは面白い発見があり、学びになるし、聴いているみなさんも面白いと思います。
湯木慧
――アレンジャーさんが手掛けたものは“Reborn”という表記になっています。
リアレンジって、前のものがよくなくなったからアレンジするというイメージを勝手に持っていて。そんなことはないんですけど、新たに生まれ変わるというか、第二の形という感じ。前のものは前のものとしてのよさがあって。声変わりもしているので、あの頃の声は出せないし。だから一番最初のものが一番いいという人の気持ちもわかるし、でもそういう方向性であること、第二の形として生まれ変わるということを伝えたくて、“Reborn”にしました。曲名を全部カタカナ表記にしても、前の曲は存在しています。全く違うものというか、同じ言葉なんだけど、表記が違うというところで、貫いているものとか、変わらないものと変わるものを表したいなって。変わってしまった部分の中に、声や言葉、残っているものを探してもらいたいという気持ちもあります。カタカナだと冷たく感じるかもしれないし、どう向き合っていいかわからなくなるかもしれませんが、でも聴いてみて欲しい。どこが貫いたものなのか、変わった部分なのか、全部を説明するわけではないですが、ちょっと違和感を感じる部分があれば、考えてほしいという思いを込めています。
これこそが新しいものに出会うための行動だと思う
――「蘇生」した湯木さんの、アルバム発売記念のワンマン個展ライヴ「残骸の呼吸」も楽しみです。
私は20年しか生きてないし、少ししか活動していないけど、でもスランプというか、今まで作ってきたものがわからなくなってきた時期があって。しかも出会いも少ない、インプットが何もないという感覚もずっとあったので、それに直面してるときに、真っ白なキャンバスにいくらいい絵を描こうとしても描けなくて。描いては消して、絵の具をつけてはティッシュで拭いて、を繰り返していたら、その汚れて丸まったティッシュがめちゃくちゃきれで、これが作品じゃんと思って。そういう、“枠”の外側にあるものってめちゃくちゃきれで、それは本当は捨てるはずだったもので、発想の違いだなって思って、こういうのは探せばいっぱいあるだろうなと。ゴミを美しくというか、廃れたものこそきれいという感じが自分の中にあって、そういうもので個展をやりたいと思いました。廃盤になった曲、廃れたものの「蘇生」、捨ててしまうものを殺してしまうのではなく命を吹き込むという意味での「蘇生」と、沸々とした感情から”もの”が生まれるんだという、気づく「蘇生」が、感情の「蘇生」にもなってほしくて、個展と今回のアルバムが、色濃く繋がっていると思います。
――この『蘇生』というアルバムと「残骸の呼吸」という個展ライヴを経て、次のステップに行けそうな感覚がありますか?
はい、やっと。これこそが新しいものに出会うための行動だと思う。早く次の新しいものに取り掛かりたいのですが、でもこのライヴが終わるまではこっちに集中したい。でも次への伏線も張っていたりするので、変にガラッと変わらないように、新しい、面白い方にいけたらなって。どんどん変わり続けることはいいことだと思うので、区切りはちゃんとやっておきたい。
――理想的な活動ができるようになってきたようですね。
やっとです(笑)。
湯木慧
編集後記
この湯木慧という才能に出会って1年半あまり、SPICE主催のイベントにも出ていただいたり、順を追って取材もずっと行わせてもらった。もちろん最初に見たライブから、頭を金づちで叩かれたような衝撃があったのだけれど、彼女の場合はそれだけでなく、その鈍痛がずーーっと残っていることが何よりも印象的だった。そしてその衝撃からの鈍痛は、自分の中で確信となり、いつしか当たり前のようになってくる。でもまた前よりも大きな刺激となる作品が次々とでてきて。。。と、こうやって人はその表現をなくてはならないものとしていくのだろう、というメソッドを、改めて感じさせてもらった。楽曲や、歌詞がいいということだけでなく、彼女が向かい合う「表現」そのものに「興味」がわいてしまう存在。既に名を残す稀代のシンガーソングライターである椎名林檎aikoなどに共通することかもしれないが、受け取らせるキャッチーさと、バックボーンが気になる度合、そしてちょっとのほの暗さ、なんかこの要素が色濃くなってきた湯木慧。ちょっととんでもないことになりそうな予感だ。
SPICE総合編集長
秤谷建一郎
取材・文=田中久勝  Photo by 三輪斉史  編集=秤谷建一郎

SPICE

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