《前編》メディアの異常なタモリ礼賛
を考える

国民はタモリを求めてなかった?

 ついにというか、やっとというか、あの黒メガネが「お昼の顔」の座を後進に明け渡してくれるとか。重い漬物石のせいで発酵が進みすぎていたお笑い業界も、これで新鮮な空気を取り入れることができるようになる。そういう意味ではいいことだ。
 1982年から32年もの間、放送し続けてきた『笑っていいとも!』が2014年3月をもって終了。単独司会者による生放送番組としてギネスにも登録されるほどの長寿番組であったことは、「お疲れさまでした!」のひと言なのだが、逆を言えばここまで長く放送し続けるほどの番組だっただろうか?

 実際、視聴率のピークは80年代の後半で、近年はなんとか5~6%を維持するのがやっとの状態。同時間帯でも、TBS『ひるおび!』や日本テレビ『ヒルナンデス!』に遅れを取る日が多数。1日のギャラが150万円とも噂されるタモリをはじめ人気タレントを多数揃えてこの結果では、もっと早く打ち切りにならなかったのが不思議なぐらいだ。『いいとも』終了はフジテレビ社員はもちろん、実は多くの国民が望んでいた既定路線なのだ。
 5%前後という視聴率が、人気や注目度の低さを如実にあらわしていたのに、終了が決まった途端、急に「国民的人気番組」だの「ギネス級お化け番組」だのと持ち上げるのが、世間のおかしなところ。特に司会を務めてきたタモリを手放しで褒め称えるメディアが多すぎて、かなり不自然に感じてしまう。

低視聴率で番組打ち切りなのに褒めすぎ

 たとえば、『アエラ』(2013年11月4日号)。不人気になったバラエティ番組の打ち切りという、ごく当たり前な現象を「タモロス」などという言葉を使い、「大きな喪失感」と大まじめに語っている。同記事にコメントを寄せているコラムニストのペリー荻野などは、「失って初めて大切さに気づく」とも。
 しかし5%そこそこの低視聴率しか稼げていなかったのだから、それだけニーズがなかったのは事実。ニーズがないものに、「喪失感」「大切さ」とは……。求められていないものが消えるのだから、世の中への影響も少ないはず。
 同じく『アエラ』で「『いいとも』のようなバラエティショーが存在しづらい時代になってきたということに、得も言われぬ不安を覚えます」と語るのは東海大学でメディア論を教える水島久光教授。なんとも大袈裟な発言だが、「存在しづらい」のではなく、単に「存在する価値がない」ほどにつまらなかったと解釈するべきだ。低視聴率が示していたとおり、つまらないバラエティ番組を無理矢理に延命させる方が、よほど不気味で不安を覚える。

 番組終了が決まるまで、『いいとも』やタモリを礼賛する声など皆無。それどころか、低視聴率ぶりや打ち切りの噂を煽る論調が主流だったのに、これほどあからさまな変容ぶりはどういったわけだろうか。
「タモリへのギャラが4億円、そのほか制作費として1億円。タモリの『いいとも』出演で、所属事務所は年間5億円を得ていたと見られています。それが一気になくなるのですから、大きな痛手となるのは間違いない。そうした背景を考えると、『いいとも』終了発表後に溢れだした礼賛記事の数々は、いま一度、タモリの価値を上げるためのプロモーションのようにも思えてしまいます」(週刊誌記者)
 件の『アエラ』の記事では、かつてタモリと「昼の顔」の座を争ってきたみのもんたにも触れ、みのを落とすことでタモリを浮き上がらせようとしているように思えてしまった。

(文・編集部K)

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オススメムック:『AERA (アエラ)』2014年1/13号[雑誌](朝日出版新聞社)

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