Nothing’s Carved In Stoneが満員の
武道館に刻み込んだ、揺るがぬ在り方
とその魂

10th Anniversary Live at BUDOKAN 2018.10.7 日本武道館
いつ観てもNothing’ s Carved In Stone(以下ナッシングス)は変わらない。
もちろん、ツアーごと、ライブごとにセットリストは変わるものの、演出を含め、ライブのやり方やバンドの見せ方が大きく変わることは、まずないと言ってもいい。ナッシングスのバンドとしての在り方は、硬派とも言えるし、観る人が観たら不器用に映るのかもしれない。しかし、それがナッシングス。メンバーたちは常にそうであることを貫いている。その意味では、変わらないと言うよりは、むしろ揺らがないと言うべきか。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
しかし、ステージに立っているメンバー自身も彼らがやっていること自体も変わらないのに、ライブを観るたび印象が違うんだからおもしろいと言うか、不思議と言うか、そこが幅広さ、あるいは深さといった言葉で表現できるナッシングスの大きな魅力なのだと思う。9月半ば、筆者はとあるフェスティバルでナッシングスのライブを観るチャンスに恵まれたが、その時は踊れるロック・バンドとしての実力を見せつけられた。そして、結成10周年を記念する今回の日本武道館公演も「いつも通りのライブをしようと思って臨んでます!」と中盤、村松拓(Vo/Gt)が観客に言ったとおり、初めての武道館だからと言って、アリーナ・コンサートにありがちな演出にあまり頼らず、質実剛健で硬派な姿を、改めてアピールしながら、またいつもとは違う印象を、僕らに見せつけたのだった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
“Live at BUDOKAN Are you ready?”の文字とともに、バンドのウェブサイトと同じようにステージのバックドロップに映し出された開演までのカウントダウンがゼロになり、ライブは定刻にスタート。ステージの中央に位置する大喜多崇規(Dr)のドラムセットを囲むように生形真一(Gt)、村松、日向秀和(Ba)が向きあい、バンドが1曲目に演奏したのは「Isolation」。イントロから大きな歓声が沸き、いきなりシンガロングが起こる。間奏で村松が客席に投げかけた“Clap your hands!”という言葉に食い気味に激しい手拍子で応えたんだから、観客も1曲目から楽しむ気満々だ。
「よく来たな、野郎ども!」
村松がさらに声をかけ、ダンサブルなリズムがアリーナはもちろん、スタンド席の観客をも飛び跳ねさせ、武道館を文字通り揺らした「Spirit Inspiration」、ナッシングスの真骨頂と言える、敢えて寄りそわない演奏と歌が取っ組み合いながら1つになる「Like a Shooting Star」とつなげ、序盤からぐいぐいと盛り上げていった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
「よく来たな。極度の晴れ男。極度の晴れバンド(笑)」
スタートダッシュから一息ついたところで、村松が言ったこの一言は、この日、台風が関東に接近していたため、大事を取って、この日の午前9時に正式に開催を発表するまで開催するかどうかを協議していたことを受けてのもの。「ひょっとしたら半分ぐらいしか来られないんじゃないか。だったら開催しないほうがいいんじゃないか」と一瞬、延期も考えたという。その分、よけいに感慨深かったのだろう。
「ナッシングスの音楽に共感してくれる、俺たちに似た魂の形を持った人たちがこんなに来たね」とも言った村松は中盤、この日の公演がソールドアウトしたことを発表すると、「同じ感性を持った仲間がこんなにいるなんて、愛みたいなものを感じてます」と、自分たちを武道館のステージに立たせてくれたことに対する感謝の気持ちを改めて語ったのだった。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
この日、ナッシングスが演奏したのは、今年2月にリリースした目下の最新アルバム『Mirror Ocean』の収録曲を中心に、これまでの10年の歩みを振り返る(アンコールを含め)計25曲。ほぼ全曲でイントロが鳴ったとたん、会場中から歓声が上がったことからも彼らがファンに愛されつづけるいわゆる代表曲を、数多く作ってきたことが窺えた。その中から、この日の見どころと言える曲を振り返ってみよう。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
スタートダッシュと言える序盤にいきなり大きな盛り上がりを作ったあと、観客にぶつけたヘヴィなオルタナ・ロック・ナンバー「In Future」はバンドの硬派な一面を物語っていたと思う。1曲前の「 The Poison Bloom」でぐっと熱を上げた演奏がさらに過熱した「In Future」に、客席を盛り上げることに必死になっている他の多くのバンドとナッシングスの決定的な違いを見た気がした。ナッシングスは演奏そのものの熱度で勝負しようとしている。再び武道館を揺らした「Directions We Know」のキャッチーなサビが映えるのは、ズシリとした感触がある「The Poison Bloom」と「In Future」の直前の2曲があるからだ。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
無数のレーザービームが飛び交う中、爽やかな歌を聴かせたバンドを眩い光が包み込んだ「村雨の中で」、「武道館、でかいと思ったけど、みんなの顔見えるし、そうでもない(笑)。(みんなに)愛を込めて歌います」と村松が言った「Red Light」、東日本大震災をきっかけに作った曲がツアーでやっているうちに繋がりの歌になったという「青の雫」――。歴戦のプレイヤーがバチバチと火花を散らす曲だけがナッシングスではない。それらじっくりと聴かせる曲も彼らの魅力の1つであることを、武道館という大きな会場で今一度印象づけたことには大きな意義があったはず。それは生形がスライド・ギターの印象的なフレーズを奏でながら、ミッドテンポの演奏でバンドのスケールを見せつけた「Mirror Ocean」にも言えるだろう。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
そんな多くの見どころを散りばめながら、「武道館に立ちたかったんじゃない。みんなに武道館に集まってほしかったんだ。楽しんで帰ってくれ!」と泣かせる村松の言葉を合図に、バンドの演奏はラストスパートをかけるように「Rendaman」からさらに勢いを増していった。バックドロップにステージで演奏する4人の姿を映し出しながら、「10年やってこられたのはみんなのおかげだ。(俺たちが)ステージで笑うには必要なものがある。それはおまえらの笑顔だ。ちゃんとついてこいよ。最高の花を咲かせられるように」となだれこんだ「きらめきの花」では、ステージ後方から照らすライトがバンドのみならず客席を包み込み、ヴィジョンには観客の笑顔が映し出された。「最高の景色をありがとう!」と村松が言ったこの瞬間がこの日のクライマックスだったことは言うまでもない。
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita
アンコールを求める観客が掲げる無数のスマホの灯りに迎えられたバンドは、アコースティック調のスロー・ナンバーに手数の多い演奏を落とし込んだ、いかにもナッシングスらしい「シナプスの砂浜」ほか3曲を披露。
「10周年をきっかけに2、3年、本気で突っ走ってみようと思ってる。何をするかはまだ言えないんだけど、信じてください。長いバンドになると思ってます。これからもついてきてください」と言った村松をはじめ、大喜多、日向、生形それぞれに簡潔なメッセージを客席に送ると、客電をつけたまま、「Around The Clock」を演奏して、ナッシングスは2時間半の熱演を、冒頭と同じように全員が向かいあい締めくくった。
「ナッシングスの武道館も悪くなかっただろ。みんなわかっちゃっただろ? でかいところが似合うバンドだって」
村松はちゃめっけたっぷりにそう言ったが、この日、武道館という大舞台でもいつもと変わらないナッシングスの演奏から筆者が受け取った印象は、まさにそれだった。決して揺らぐことがない彼らの活動が今後、ガラッと変わることはないと思う。しかし、主戦場としているライブハウスに加え、いろいろなステージで演奏するナッシングスの姿を見ることができそうだ。

取材・文=山口智男 撮影=Yoshika Horita
Nothing’s Carved In Stone 撮影=Yoshika Horita

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