米沢唯&渡邊峻郁が新国立劇場バレエ
団『不思議の国のアリス』を語る~「
アリスとジャックはピュアな存在」

新国立劇場バレエ団が2018/19シーズンの開幕作品として、満を持して取り組む話題の新作『不思議の国のアリス』。去る9月24日に行われた公開リハーサルで「カンパニーの力が試される作品」とアリス役の米沢唯が語ったように、現在バレエ団は11月2日の初日に向けて、一丸となって意欲的にリハーサルに取り組んでいる。ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』を原作とするこの作品の、振付家クリストファー・ウィールドンならではのオリジナルのエピソードがアリスとハートのジャックの心のふれあいだ。米沢、そしてジャックを演じる渡邊峻郁に、作品について話を聞いた。(文章中敬称略)
米沢唯(アリス役)、渡邊峻郁(ハートのジャック役) [撮影:西原朋未]
■今までやってきたことがこのためにあったよう
――公演まであと1カ月を切りましたが、リハーサルはどのあたりまで進んだのでしょうか。
米沢 一部を残して大体の振り付けが終わり、1幕ずつまとめていくところにはいっています。
――そうすると、振り付けを身体に入れて、そのうえでキャラクター像を肉付けしていく作りをしていくという感じなのでしょうか。
渡邊 場面によっては、振り付けのなかに明確に演技の方向が決められているんです。踊りの中にアリスやジャックのキャラクターの細かい心情が決められていて、指導の先生の頭の中にはウィールドンさんがどうしたいのかというのがしっかりあるんです。
――アリス像、ジャック像というのはあらかた決められているわけですね。その振り付けを解釈しながら、おふたりなりのアリスやジャックを作っていくわけですね。ところで米沢さんは文学好きと伺っていますが、今回の原作であるルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』は読まれてますか。
米沢 「アリス」の原作は小さい頃から読んでいました。子供の頃からイギリスの児童文学が大好きで、『不思議の国のアリス』や、『メアリー・ポピンズ』、『ナルニア国物語』もよく読みました。少年少女たちが新しい別世界に入り込んでいくお話が多くて、それがすごく好きでした。扉を開けたらその向こうが違う世界だったり、空から降りてきたメアリー・ポピンズを通して、知らない世界が開けていくところにワクワクしました。
米沢唯(アリス役)
――「アリス」もウサギの穴を通って新しい世界に出会いますね。米沢さんが子供の頃に体感した世界を、今度はご自身で演じる……米沢さん流に言うと「舞台で生きる」ことになるわけですね。
米沢 ずっとやってきたことや好きだったものが、今なんとなく繋がってきている感じです。私が昔から何も考えずにふれてきたことが、バレエなどいろいろなことに繋がってきていて、人生に無駄はないんだなと思いました(笑)。
■アリスとジャックのピュアな思いを踊りでしっかりと
――渡邊さんはフランスのトゥールーズ・キャピトル・バレエに在籍されていたときは、カデル・ベラルビ監督振り付けの『美女と野獣』の主役や、『海賊』のパシャ役など、数々のコンテンポラリー作品を踊られ、その後、新国立劇場バレエ団に入団後は、逆にクラシックをかなり踊られてきたかと思います。そういった中で今回はウィールドンの「アリス」という現代作品を踊るわけですが、ウィールドンの振り付けの印象はいかがですか。
渡邊 今まで踊ってきた作品とはまた別物という感じがします。ただ、実は僕のやるジャックの踊りは意外とクラシックの要素が多いんです。今までクラシックをやってきた以上に、クラシックの踊りを意識するところがあり、結果的に自分の踊りを改めて見つめ直す機会にもなっています。「これが自分には足りない部分だったんだな」ということを改めて感じるような……。また指導の先生がそういった「足りない点」に気づき、リハーサルでそれを指摘してくださる。振り付けはすごく難しいのですが、先生方は僕があきらめそうになっても、「ここはこうしたほうがいい」などいろいろアドバイスをしてくださって、とても励みになっています。
渡邊峻郁(ハートのジャック役)
――今まで積み重ねてきたことにさらに新しいものが加わった、新しい踊りとの出会いという感じなのでしょうか。
渡邊 僕がこれまでフランスでやってきたことは完全にクラシック作品、あるいは完全にコンテンポラリー作品と、色が明確に分かれていました。でもこの「アリス」はコンテンポラリー的な動きもありますが、クラシックの型にしっかりと入っていなければならないんです。
米沢 とくに私たちアリスとジャックは、物語の中でピュアでなければならないんです。このバレエはいろいろなキャラクターがたくさん出てきて、どのキャラクターも独特。多種多様な色彩を放つキャラクターたちをそれぞれ際立たせるためには、私たちアリスとジャックの存在はとてもピュアでなければならないし、だからこそ、アリスとジャックを踊るときにはクラシックの型を崩してはいけないのだなと思います。アリスとジャックがクラシックの型をしっかり出せるということが、作品の中ではとても強い意味合いを持ってくるんだと感じています。
米沢唯(アリス役)、渡邊峻郁(ハートのジャック役) [撮影:西原朋未]
――なるほど。最後に、アリスとジャックは物語の中で唯一ピュアであるといううえで、どのようにアリス像、ジャック像を表現していきたいかをお願いします。
米沢 ストーリーの中でアリスとジャックの関係がウィールドンさんのオリジナルな部分であり、一番強く出したい部分だと思うので、恋しあって出逢うふたりのその関係を、しっかり出したいなと思います。
渡辺 さらにそれを踊りの中で見せられればいいなと思います。演技だけではなくて、踊りの中にどう心情を落とし込まなければいけないかというのはすごく大事なことなので、それをきちん表現したいです。
――本番までがんばってください。お忙しいところありがとうございました。
米沢唯(アリス役)、渡邊峻郁(ハートのジャック役) [撮影:西原朋未]
先日の公開リハーサルでは「アリス・アローン」という、アリスのソロについて「誰もが持っている "Who am I?(私は誰?)" という問いかけがあり、この作品の筋となる大事な部分。ここを大切に踊っていきたい」と語っていた米沢。また振付指導のジェイソン・ファウラーはウィールドンの振り付けの特徴を「動きだけで深い喜びや悲しみといった感情を伝えることができる」と、ジャクリーン・バレットは「細部のこと細かな描写にとことんこだわる」と話していた。
米沢と渡邊、そしてもう一組の小野絢子&福岡雄大のアリスとジャックをはじめ、新国立劇場バレエ団のダンサー達がどのような「アリス」の世界をみせてくれるのか。大いに期待したい。
取材・文=西原朋未

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