ジャイアント馬場とアントニオ猪木の迷

 今も昔もプロレスラーは迷言・珍言の宝庫だ。なかでもアントニオ猪木は名言も多いが、迷言も多い。猪木は試合会場などで自作の詩を読むことがあり、詩集も出版している。「この道を行けばどうなるものか……」で始まる『道』などが有名だ。そんな猪木の詩のなかで、特にインパクトがあったのが2002年12月23日、PRIDE24福岡マリンメッセ大会で発表した「泣かす男が悪いのか、泣いた女が悪いのか、刺しつ刺されつ玄界灘」という詩だ。
 一見、ちょっとユーモアのある普通の詩のようだが、なんとこの詩、1ヶ月前に別れ話のもつれから恋人に背中を刺され、瀕死の重傷を負った棚橋弘至を目の前にして読んでいるのだ。棚橋が刺されたのは、いわゆるプロレスの演出ではなくれっきとした殺人未遂という刑事事件である。それを、事件後たったの1ヶ月で「刺しつ刺されつ」とか言ってしまう感覚は、猪木特有のものだ。もはや迷言を超えて不適切発言のような気もするが、これぞスキャンダルを起こし続けてファンを魅了してきた、猪木のエンターテイメント、まさに猪木イズムを極めた名言ともいえる。ちなみに、この詩を読まれた棚橋は、その場で闘魂ビンタを受けたあと、上半身裸になって筋肉ポーズを作り、観客に刺された傷跡を見せつけた。

 猪木と人気を二分したジャイアント馬場も、迷言の多さで知られている。なかでも「赤べこ事件」は、ファンの度肝を抜いた。1988年から1996年まで放送された日本テレビの人気番組『クイズ世界はSHOW by ショーバイ!!』のレギュラーだった馬場は、そのとぼけたキャラで人気となっていた。
 だがある日、「何を作っているのでしょうか?クイズ」のコーナーで伝説は起きた。このクイズはその名の通り、ある物を作っている製作中のVTRを見て、何を作っているのか解答者が早押しするもの。VTRがスタートし、馬場以外の解答者が次々と早押しボタンを押して答えていったが、誰一人としてその問題を正解できなかった。結果、馬場以外の解答者は全員3回不正解で回答権をなくしてしまい、馬場だけがゆっくりとVTRを最後まで見て答えられるという状況になった。
 これまで馬場はこのクイズ番組で優勝したことはなかったが、その時の点差は正解すれば優勝という微差。馬場は表情ひとつ変えず、VTRを終わり直前までためて凝視していた。正解はVTRの途中の段階で、誰が見てもボクシンググローブだと解っていた。そして馬場がボタンを押した。ついに馬場の初優勝がきたかと誰もが思った瞬間、馬場は「赤べこ」と答えたのだ。赤べこは福島県に伝わる郷土玩具。馬場のあまりの珍回答に、司会の逸見正孝をはじめとする出演者は悶絶してしまい、しばらく喋ることができなかった。何をどう見間違えたらボクシンググローブが赤べこになるのかは、いまだに謎である。

(文・編集部)

オススメ書籍:『アントニオ猪木自伝』(新潮文庫) [文庫]/著:猪木寛至

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