THE ORAL CIGARETTES 最新作『Kisse
s and Kills』の核心へと手を伸ばす
、ツアー初日を観た

Kisses and Kills Tour 2018 Live house series ~Directly to various places~

2018.9.18 Zepp Tokyo
オリジナルアルバムを引っ提げたワンマンライブこそ、バンドの本質が浮き彫りになる。フェスや対バンライブでは断片的にしか捉えることのできない“バンドの今のモード”が、ありのままに炙り出されるのだ。THE ORAL CIGARETTESが6月にリリースしたアルバム『Kisses and Kills』を携えて、アリーナ公演を含めた全国19ヵ所をまわる『Kisses and Kills Tour 2018』の初日となったZepp Tokyo公演は、まさに今のオーラルが、バンドとしての音楽的挑戦はもちろん、最新アルバムに込めたメッセージ、そこで軋む迷いも含めて、“今のモード”を集まったお客さんたちと共有する、ワンマンの醍醐味が詰まったライブだった。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
まだツアーは序盤を終えたばかりということで、以下のレポートでは、演出やセットリストのネタバレは最小限に留める。だが、今回のツアーを通じて、『Kisses and Kills』という作品に徹底的に向き合おうとしたバンドの覚悟や、ここ1年でアリーナ単独も経験したオーラルが、ライブハウスだからこそ見せた表情などを中心に書いてみたいと思う。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
満員のフロア。隣の人と肌が触れ合う距離感で埋めつくされたお客さんの頭上を鮮やかなレーザーが激しく駆け抜けた。軽やかなシンセとダンサブルなビートが弾んだ「容姿端麗な嘘」をはじめ、ライブは、アルバム『Kisses and Kills』の楽曲を中心に進む。鈴木重伸(Gt)が奏でる瑞々しいギターにのせて、ポジティブなメロディに揺れた「もういいかい?」、スタイリッシュな女性コーラスと山中のファルセットが絡み合う「What you want」など、ブラックミュージックや海外ポップシーンのトレンド感も取り入れながら、新しいオーラルのロックサウンドを追求した楽曲たちは、彼らにとって大きな挑戦だ。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
デビュー初期のオーラルと言えば、「起死回生STORY」や「狂乱 Hey Kids!!」に代表されるように、圧倒的なサビの爆発力や聴き手の心を鷲掴みにするキャッチーなフレーズで、根こそぎフロアをジャンプさせるのが得意なバンドだったが、今の彼らが目指すのはそれだけではない。あきらかにあきら(Ba)と中西雅哉(Dr)という腕利きのリズム隊が繰り出す表情豊かなグルーヴを最大限に生かして、フロアを自由自在に踊らせる。この日、ハンドマイクで歌う山中が、ゆるやかに横に揺れながら歌う姿が多かったのも新鮮だった。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
MCでは、『Kisses and Kills』というアルバムについて、「人間の感情を大切にしようということを歌ったアルバムです。今日は一人ひとり、辛いでも、悲しいでもいい、各々の感情を持って帰ってください」と、山中が説明。アルバムのリリース時のインタビューでは、「プラスの思考もマイナスの思考も、真逆のことだけど、そこをしっかりと持ってこそ人間なんだよっていうことを伝えたかった」とも言っていた。詳しくは書かないが、その世界観を伝えるために、ライブ自体をかなり大胆にコンセプチュアルな構成にしたことは、今回のツアーにおいてオーラルが挑む大きなチャレンジのひとつだ。悲しみと寄り添いながらも、大切な仲間たちと隣り合って生きることを大らかに歌い上げる「トナリアウ」から、自称サイコパスが蔓延する社会への違和感をダークなサウンドに叩きつけた「PSYCHOPATH」へ。両極端に振り切っていく楽曲たちは、オーラルが描く偽りのない人間像なのだと思う。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
『Kisses and Kills』の楽曲だけではなく、「せっかくツアーに来てくれたんやし、昔の曲もやる? ちょくちょく挟んでいくわな(笑)」(山中)と、この日は、個人的にはライブで初めて聴いたようなレアな曲もあったし、バンドにとって大事な曲を今までにないかたちで披露する場面もあった。いろいろな意味で見たことのないオーラルを目の当たりにするライブのなかで、いつになくMCがナチュラルかつ気さくな雰囲気でお客さんと積極的にコミュニケーションをとる姿も印象的だったし、「ふふふ、楽しい!! おかげさまで、めちゃめちゃ伸び伸びと自由にやらせてもらってます!」(山中)と、素直に喜びを口にするシーンがライブ中に何度もあった。そうやって、いつになくリミッターを振り切って、感情を解放するような表現の仕方を選んだのも、『Kisses and Kills』という作品のコンセプトと無関係ではないと思う。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
さらに『Kisses and Kills』が初めてウィークリーチャート1位になったことに触れると、「これからも、みなさんの期待を越えていくCDを出していきます」と、山中らしい言葉で感謝を伝え、これからのバンド活動への想い、だからこそ抱く迷いまで、その場所にいるお客さんと全てを共有するために語りかける場面もあった。そして、中でも大合唱を巻き起こした「ONE’ S AGAIN」が素晴らしかった。自分のなかにある弱さを認め、だからこそ差し伸べられる手の温かさを知る。“この歌を僕らの覚悟にしよう”と、バンドの決意を込めた楽曲は、より広い会場、より遠くのステージ、より深い表現のかたちへと挑戦し続けるTHE ORAL CIGARETTESの揺るぎない信念の証として、長く歌い続ける楽曲になりそうな気がした。
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)
「マジで最高です! 1ヵ所目からここまで燃え上がるとは思ってませんでした。東京、お前ら、予想を超えてきました!」(山中)、「いままでのツアーの初日でいちばんやと思う!」(中西)と、メンバーが口にするほど最高のスタートダッシュを切ったツアー初日。『Kisses and Kills』で表現した“人間の感情”と格闘する今回のツアーは、この先、これまで以上に集中力と精神力が問われる内容にもなっていくと思う。このライブハウス編を乗り越えたあと、オーラルは初のアリーナ4公演をまわる『Kisses and Kills Tour 2018 - 2019 Arena series ~Directly in a wide place~』に挑む。『Kisses and Kills』というアルバムが、本当の意味で完成するのは、そのツアーを全て終えるときかもしれない。

取材・文=秦理絵撮影=Viola Kam (V’ z Twinkle)
THE ORAL CIGARETTES 撮影=Viola Kam (V’z Twinkle)

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