KERA・MAP『修道女たち』稽古場レポ
ート 7人の女優と2人の俳優が冬の山
荘で描く物語

KERA・MAPとして8作目となる舞台『修道女たち』が、2018年10月20日~11月15日に東京・下北沢本多劇場で、11月23、24日には兵庫県立芸術文化センター 阪急 中ホール、さらに12月1、2日には北九州芸術劇場 中劇場で上演される。
作・演出は、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)。キャストは、4年ぶり2度目のKERA作品となる鈴木杏をはじめ、緒川たまき、鈴木浩介、伊勢志摩(大人計画)、伊藤梨沙子、松永玲子(ナイロン100℃)、みのすけ(ナイロン100℃)、犬山イヌコ(ナイロン100℃)、そして高橋ひとみ。9月に、キャスト9名とKERAがそろう稽古場を取材した。
【解説&STORY(チラシより)】
宗教とは無縁な私が聖職者の物語を描きたいと欲するのは何故なのだろう。理由はいくつでも挙げられる。
 第一に、禁欲的であらねばならぬというのが魅力的。奔放不覊な人間を描くよりずっと面白い。「やっちゃいけないことばかり」というシチュエーションは、コントにもシットコムにももってこいだ。
 第二に、宗教的モチーフが、シュールレアリズムやマジックリアリズム、或いは不条理劇と非常に相性がよい。不思議なことがいくら起こっても、「なるほど、神様関係のお話だからな」と思ってもらえる。
 時間が無くて二つしか思い浮かばなかったが、かつて神父を登場人物にした舞台をいくつか描いてきた私が、満を持して修道女の世界に挑む。しかも複数だ。修道女の群像劇である。どんなテイストのどんなお話になるかは神のみぞ知る。ご期待ください。
                                        <ケラリーノ・サンドロヴィッチ>
KERA・MAP#008『修道女たち』
雪の日の、暖炉がある部屋
取材は、鈴木浩介と鈴木杏のシーンからはじまった。
暖炉があり、暖炉の上には祭壇のようなものがしつらえられている。暖炉の前でイスに腰をかけているのは、テオ(鈴木浩介)。手紙を読み、笑顔をうかべる。そこに村の女・オーネジー(鈴木杏)が、バケツにいっぱいの薪をもって外から帰ってくる。
舞台は、どこかの山荘の一室。外は雪。テオが読んでいた手紙は、オーネジーが別の人に宛てて書いたものらしい。2人の会話によると、まもなく山荘には、"今年も"修道女たちが巡礼にやってくるらしい。
『修道女たち』稽古場より
言葉による情報以上に、ひしひしと伝わってくるのが、2人の関係性だ。
オーネジーは、かなりマイペースなキャラ。会話は直球で、テオの比喩や冗談は通じない。かと思えば、テオをからかうような言動で、無邪気に笑いもする。そんなトリッキーにもみえかねないオーネジーの一挙手一投足が、テオは、愛おしくてたまらないようだ。
『修道女たち』稽古場より
この場面の稽古で、鈴木浩介と鈴木杏は、台詞の意味合いや、役のバックグラウンドについて意見を交わしていた。微調整を重ねていくうちに、オーネジーの特異な人物像が際立っていく。さらりと通した時には気に留めなかった「ああ」といった一言に、ふたりの背景がみえてくる。
繊細なオーネジーと慈愛に満ちたテオの、ほっこりとしたシーンにも思われたが、随所から心に引っかかる要素と、笑いを誘う掛け合いが生まれていた。
『修道女たち』稽古場より
『修道女たち』稽古場より
KERAと6人の修道女たち
つづいてキャスト9名がそろい、この日に追加されたシーンの本読みと、プロローグ部分の稽古も公開された。
台本はまさに執筆中であり、作品の全容はKERAの頭の中のみにある。それでも修道女役の緒川、伊勢、伊藤、松永、犬山、そして高橋の6人の個性が、充分すぎるほど物語のはじまりを予感させる。
『修道女たち』稽古場より
オーネジーと親しい中の、シスター・ニンニを演じるのは緒川。イタリア・ルネサンスの宗教画から抜け出てきたような雰囲気をまとうが、信心深さゆえの危うさも感じさせる。
修道院長のシスター・マーロウを演じるのは伊勢志摩。意外なことにKERA作品の出演は、これが初めてなのだそう。マーロウは真面目な性格のようだが、その真面目さは、伊勢の演技により可笑しみに変わっていた。
『修道女たち』稽古場より
修道院長のマーロウ以上に、"修道院長然"としているのが犬山演じるシスター・ノイ。修道院長を支えているようにみえなくもないが、結果的に修道院をコントロールしてしまっているようにも見える。
松永が演じるのが、シスター・アニドーラ。公開された場面だけを切り取ると、一歩下がったところで冷静にかまえ、さらりとノイに助け船をだす、頭の良さもうかがいしれる。
『修道女たち』稽古場より
高橋が演じるダルと、伊藤が演じるソラーニは、母子(おやこ)の関係。ふたりはまだ、修道院にはいったばかりらしい。ダルは積極的に修道女たちの中に溶け込もうとするが、年若いソラーニは反発する。そこに登場するのが、みのすけ演じるテンダロ。亡くなった修道女の兄という役どころだ。俗世と縁を切った修道女たちの中に、男性が2人。何が起こるのだろう……と、胸をざわつかせる。
『修道女たち』稽古場より
『修道女たち』稽古場より
絶妙な会話で描き出される修道女たち同士の力関係も気になるが、この日の稽古で、KERAが演出に力を入れていたのは、笑いの部分だった。「このシーンはもっとバカバカしくなるはず」と、KERAは綿密な演出を重ねる。
たとえば、規律の解釈をめぐる修道女同士の対話。台本でみる限りだとなんてことのない会話だが、間合いやトーンを微調整し、歯車があったところから、みるまに喜劇に変わっていく。修道女たちが真面目に語るほど、緊張感は保ったままくだらなさが際立っていき、ギスギス感さえ笑いのエッセンスとなる。稽古場も笑いが絶えなかった。
『修道女たち』稽古場より
修道女たちの会話から生まれる、シュールな笑いに気をとられていたが、KERA・MAPが、心温まる山荘の物語や、大爆笑の修道院コメディーで終わるとは到底思えない。思い起こせば、ちょっとしたキーワードや行間に、虚勢や疑い、うさん臭さが感じられた。
閉鎖的なコミュニティーに属す修道女たちと、それを取り巻く村人たち。彼らに何があり、これから何が起こるのか。実力派のキャストたちが描き出す、雪の山荘の喜劇、または悲劇かその両方を、見逃さないでほしい。
『修道女たち』稽古場より
取材・文・撮影=塚田 史香

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