【インタビュー】GOING UNDER GROUN
D、同じ場所に留まることなく今なお
転がり続ける最新アルバム『FILMS』

前作『真夏の目撃者』(2017.10.25)から1年弱という短いスパンで、ニュー・アルバム『FILMS』を完成させたGOING UNDER GROUND。現在の彼らの真骨頂ともいえる抒情的かつメロディアスなナンバーを軸としながら新機軸も含めた多彩さを見せ、さらにすべての楽曲が独自のテイストに仕上げられた本作は、ジャンルや世代を超えて幅広い層のリスナーに響く好盤といえる。今年20周年を迎えながら同じ場所に留まることなく、今なお転がり続ける彼らの最新の声をお届けしよう。

■今回はプリプロも結構ガッツリやって歌詞もガッツリ書いて
■あとは演奏するだけという状態に持っていったんです

――『FILMS』の制作に入る前は、どんなことを考えていましたか?

松本素生(以下、松本):僕らの場合、こういうアルバムにしようと決めて制作に入ると、そういうアルバムにしかならないというのがあって。歌に重点を置いて…みたいにテーマを決めてやると、なんだかんだ出来てしまう。それは、自分たちの中で、あまりいいこととは思えないんですよ。そうじゃなくて、自分たちもなぜこれを作ったんだろうとか、なんでこういうアレンジになったんだろうと思うようなもので構成されたアルバムにしたかった。だから、今回はアルバム用に作った曲というよりは、元々自分がストックしていたもの……たとえばiPhoneの中に入っていた曲とかをみんなでいじって、いいねとか、ダメだなと判断するということをしていきました。『FILMS』は、その結果できあがったのを集めたものです。

――自然体で取り組んで、多彩な楽曲を形にする辺りはさすがです。そういう作り方をしつつアルバムのキーになった曲などはありましたか?

松本:メンバーそれぞれ違うと思いますけど、僕は2曲目の「うたかた」です。この曲は僕のiPhoneの中に結構前から入っていたけど、前作の『真夏の目撃者』のときは、これは違うと思って自分の中でボツにしたんですよ。でも、ずっと気に入っていたんですよね。で、今回は自分の中でのトライアルというか、“俺は、なぜこれをボツにしたんだろう?”というようなものも全部ピックアップして、いいか、悪いかを判断しようと思ったんです。「うたかた」は、すごくシンプルな音像をイメージしていたり、今までの曲よりもちょっとキーが低めだったりとかいろいろあったけど、それを中澤とプリプロしたら、いいなと思えるものになって。その時点で、歌詞もすでにあったんです。それで、このテンションだったら自分はアルバムを楽しんで作って、しかも今までと肌触りの違ういいアルバムになるかもしれないと思ったんです。そういう意味で、僕の中では大きな1曲になりました。
――「うたかた」は抒情的な楽曲でいながら都会的な洗練感が漂っていることや、キャリアを重ねてきたバンドならではの深みなどが印象的です。

松本:自分たちが若かったら、音像とかも含めて、これは何かが足りないんじゃないかと不安になると思うんですよ。やっていることも全然難しくないし。でも、今の自分たちは、バッキングはアコギだけにすることや凝ったことをしないアプローチを、ちょうどいいと感じられる。そういうところを活かせたというのはありますね。

――等身大であるということが、いい方向に出ましたね。「うたかた」は。すれ違いがちのうまくいかない恋模様を綴っているようで、人間関係全般を描いているように取れる歌詞も秀逸です。

松本:僕はゲイの友達がいるんですけど、「これ、私達のことでしょう?」と言われました(笑)。

一同:ハハハッ! マジか?

松本:うん(笑)。そういうつもりはないんだけど、そう取ってもらえたなら、あり難いなと思った。だから「うたかた」は、広い意味でのラブソングですよね。自分が大事に思う人みんなに向けたラブソングです。

中澤寛規(以下、中澤):僕の中でキーになった曲は、いくつかあって。いま話がでた「うたかた」もそうだし、あとは「HOBO」「プラットホーム・ノイズ」。その辺りは制作の最初の頃にできた曲で、今回は制作の入り方が前作までと大きく違っていたんです。今回は(松本)素生が、歌詞がほぼできている状態で曲を持ってきたんですよ。制作に入る段階で、素生にそうしてほしいと言ったんです。今まではメロディーとコードだけで持ってきて、先に土台を作ったり、アレンジをして、歌録りのギリギリに素生が歌詞を書くという感じだったけど、今回は詩がある程度書けた状態になるまで曲を聴かせてくれるなと言っていて。素生がそれを受け入れてくれて、歌詞ができあがっていないにしても、この曲はこういうことを歌いたいんだとか、こういう匂いのする歌なんだということがわかる状態で曲を持ってきてくれたのはすごくデカかったですね。

松本:そういう制作の進め方をするのは、僕も賛成でした。レコーディング中に疲れたり、煮詰まったりすると、曲にその怨念がこもるんですよ。

一同:怨念って(笑)。

松本:いや、本当に。それで闇に葬られた曲とかもあって、そういうことになりたくないという気持ちがあった。だから今回はプリプロも結構ガッツリやって、歌詞もガッツリ書いて、あとは演奏するだけという状態に持っていったんです。そうすると楽しい思い出しかないから、ずっと演奏できるんですよね。これからはそうしていきたいなという気持ちがあって、それはいい傾向だと思います。
▲松本素生

――『FILMS』を聴いて、今まで以上に映像的だったり、絵画的な印象があるなと思ったんですね。それは、先に歌詞があったことも要因の一つになっている気がします。

中澤:それは、あると思いますね。それに、今回そういうやり方をして、すごく健全だなと思いました。「うたかた」にしてもほぼ歌詞がある状態で聴かせてもらったからこそ、シンプルな構成や音像でまとめられたし、僕が弾くエレキギターも裏メロをなぞるようなアルペジオという具体的なイメージが素生の中にあったんです。そういうリクエストにしても、詩があることで、どんな雰囲気の裏メロを弾けばいいのかがすぐに見えたんですよね。制作の入り口ではそういう曲が多くて、「LOVE WARS」もそうだった。「LOVE WARS」は素生とプリプロをしながらどんどん歌詞を書いていって、サビの最初に出てくる言葉が“LOVE WARS”と決まったときに、だったらファズだと思ったんです、直感的に。今回は、そういうふうに歌詞にインスパイアされて出てきたものが多かったんですよ。それが映像的な仕上がりにつながっているとしたら、すごく嬉しいです。

石原聡(以下、石原):僕の中でデカかったのは「HOBO」です。今回は素生と中澤が二人でそれぞれの曲をある程度作ってくれて、それをスタッフも含めた皆に聴かせるという流れになっていたんですね。それで、初めて「HOBO」を聴かせてもらったときに、アルバムができたなと思った。勝手に、ですけど(笑)。それくらい、「HOBO」を聴いたときはインパクトがありました。

中澤:でも、素生は「HOBO」は出さないつもりだったらしいんです。

松本:そう。これもずっとiPhoneの中にあって、ちょっとフォーク過ぎるというか、いなた過ぎる気がしていたんです。でも、さっきも話したように、そういうことは考えずに、これも一度やってみようと思って。それで、中澤と二人で、まずはクリックに合わせて歌とギターを録って。で、ここで、こういうドラムが入ってさ…みたいな感じで作っていった。そうやって、スタジオでプリプロをしていたときに、コーラスを重ねたりとか、思いついたことをどんどんやっていったんですよ。そうしたら、そんなにいなたくないかもと思って、もうちょっと進めてみようという気持ちになったんです。

――「HOBO」はフォーキーな素材を、シューゲイザーに通じるようなテイストの曲に仕上げていることに衝撃を受けました。

松本:それは、後ろでドローンみたいに重低音のシンセが鳴り続けているからですよね。僕が「HOBO」について思っていたのは、アコギの弾き語りで始まるということがいなたさを増しているんじゃないかということだったんです。ドローンみたいなものが最初からいると、印象が変わるんじゃないかなと思ったんです。それで、とにかく“ブーッ”といわせようという(笑)。
▲中澤寛規

――柔軟なスタンスを採ったことで、新しい扉が開きましたね。皆さんがあげてくださった曲以外にも注目曲は多くて、たとえば「ペパーミントムーン」は、オールディーズに通じるテイストを活かした洒落たナンバーです。

松本:「ペパーミントムーン」は、歌っていて最高に気持ちがいいんです。この曲を作ったのは、いま東京都美術館で開催されている『BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン』がきっかけになりました。そのイベントをプロデュースしている小倉ヒラクさんという発酵デザイナーの方に、テーマソングを作ってくれませんかというお話をいただいて、そのときに作った曲がドゥワップだったんですよ。リズムは足で床を蹴っていて、あとは一人でコーラスを多重録音していって…という曲。元々僕は50年代とか60年代のドゥワップやティーンエイジ・ポップみたいな甘い音楽が好きなので、これなら楽しく遊べるかもと思って作って、すごく出来も良かったんですよね。それで気持ちが高揚していたのか、ミックスを待っている間にスタジオでギターを弾いていたら「ペパーミントムーン」ができちゃったんです。その場でiPhoneに録ったんですけど、最後に「これ絶対いいよね、ナカザ(中澤)!」という声が入っていました(笑)。

中澤:入ってた(笑)。「ペパーミントムーン」は演奏はすごくシンプルに作ろうと思って、アレンジも“パッ”と湧いたものをそのまま活かした感じでした。オーセンティックな部分はピアノに任せることにして、ドラムの音などは実はそんなに昔っぽい音ではないんですよ。鍵になっているのは、この曲はコーラスがいっぱい入っているんですよね。それは、素生がお弁当の曲を作ったときに楽しくなっちゃったことを、この曲でもやりたくなったんだと思います(笑)。

松本:それは、ある(笑)。『BENTO おべんとう展』のテーマソングでやったことを、バンドというファーマットでやってみたいというのがあったから。あと、この曲を作るにあたってGateballersというバンドでベースを弾いている本村(拓磨)君に手伝ってもらったんですけど、彼がビンテージのテープエコーを持っていて、それを使わせてもらったんです。『BENTO おべんとう展』のテーマソングもそうだったけど、要は1個1個のトラック全部に一度テープエコーを掛けていくんですよ。キックとかベースにも掛かっていて、そのリバーブ感が相当いいなと思っています。「ペパーミントムーン」は、楽しく遊んでいるという感じでしたね。

石原:「ペパーミントムーン」はベースも楽しく弾けました。この曲に限らず全体を通してそうだけど、今回はベースの細かいニュアンスにこだわったんです。ちょっとしたスライドや入り口のタイム感、抜け方とか。「ペパーミントムーン」も、それが効いているんじゃないかなと思います。

――ノスタルジック感を醸し出しているベースやギターなどはさすがです。「ペパーミントムーン」は、“今の東京感”を入れ込んだ歌詞もいいですね。

松本:“なぜならここは東京だから”という歌詞にしたのは良かったと自分でも思っています。この曲はオールディーズっぽい素材を、オールディーズのフォーマットでやっています。僕は近田春夫さんがロカビリーみたいなことを敢えてやって、歌詞は今っぽい東京のことを歌っていたりする感じが好きだったんですよ。それが、ずっと自分の中に残っていたんでしょうね。そういう手法を活かすことで、「ペパーミントムーン」はオールディーズでもあるし、J-POPでもあるという曲になったと思います。
■インスパイアされたものがあったとしても
■極端にそこには寄せていかないし編集もしない

――中澤さんが作詞/作曲を手がけられた「スターシェイカー」も、アルバムのいいフックになっています。

中澤:これは、もうフックになることしか考えなかった(笑)。素生と9曲仕上げたところで素生がちょっと力尽きたのか、もうこれでいいやと思ったのか、「今回のアルバムは、この9曲でいいんじゃない?」と言い始めたんです。でも、9曲というのは収まりが悪いなと思って、「じゃあ、俺が1曲がんばって作るわ」と言って。それで、昔自分で作っていたデモを聴き返したときに、この曲をやってみたいなと思ったんです。デモテープはもうちょっと8ビートっぽい感じだったけど、素生に聴かせたら「もうちょっとハネた感じのビートにしたら、もっとカッコ良くなるんじゃないかな」と言われて。それは自分の中にはなかったイメージだったけど、試しにやってみた結果すごく良くなりました。

松本:ビートをハネさせたら、ブリット・ポップっぽくなるんじゃないかなと思ったんですよ。90年代のオアシスやブラーとかではなくて、クーラ・シェイカーやメンズウェア、シェッド・セブンといったバンド。ああいう、ちょっとB級感のあるブリット・ポップのバンドみたいにしたらいいんじゃないかなと。

――個人的には、グラムロックの匂いを感じました。

松本:ああ、そう言われると、たしかに。

中澤:ブリット・ポップに寄せる前の土台は、グラムっぽい雰囲気がありましたね。

松本:中澤はグラムロックとか似合いそうだよな。

中澤:うん、好き。でも、モロにグラムではないところに落とし込めたのは良かった気がする。他の曲もそうだけど、今回は本人が思っていない方向に行くことで独自のものに仕上がった曲が多いから。

石原:この曲のベース録りは、印象に残っていますね。スタジオにあったベースが合うんじゃないかという話になって、そのベースで弾くことにしたんです。それで録り終わったんですけど、帰り際に「このベースちょっとピッチが悪いから、明日録り直して」と中澤に言われて。それで、“ええっ?”という(笑)。でも、録り直したときに中澤と「こんな感じで、どう?」とかディスカッションして、フレーズを変えたりしたんですよ。それでさらに良くなったので、録り直したのは良かったと思います。
――ファットにうねるベースが心地好いです。「スターシェイカー」は、中澤さんがボーカルも取られていますね。

中澤:歌いました。ギターも全部自分で弾いたから、素生はこの曲のレコーディングには参加していないんですよ。でも、全く参加していないというのはなんとなく嫌だなと思ったので、インター・パートに電話している素生の声を入れることにしました。あれは、実は元々は違う曲で使う予定だったんですよ。インストみたいなものを作ろうかと言っていたんだよね?

松本:インストというか、ポエト・リーディングみたいな曲はどうだろうという話をしていたんだ。

中澤:そうそう。それで、俺がアルペジオを弾いていて、裏で素生が電話していて…みたいな話になって。それを形にすることはなかったけど、一つのアイディアとして、なんとなく雰囲気だけ録っておいたんです。それで、この曲の電話の声を入れちゃおうかなと思って、持ってきました。

――電話の声や、展開パートのドリーミーな雰囲気なども絶妙です。この曲の歌詞についても話していただけますか。

中澤:歌詞に関しては、僕は基本的に言いたいことがないんですよ。鳴らしたい音はすごくあるけど、言いたいことはさほどない。だから、ちょっと抽象的というか、フワフワした感じの歌詞になっています。

――それも往年のロックっぽさにつながっていて、いいんですよね。70年代とかのバンドマンは基本的にナンパな不良だった気がするんですよ。

松本:ああ。中澤はナンパな不良ですから(笑)。

一同:ハハハッ!(爆笑)

松本:“元”ですけど(笑)。

――なるほど(笑)。いろいろ責任とか負いたくないけど、君のこと好きだし…というような歌詞になっていますね。

中澤:そう、そういうスタンスの歌詞です(笑)。

――それが曲調にマッチしています。

中澤:なら良かった(笑)。歌詞も含めて「スターシェイカー」は、ギタリストの歌う歌という感じになっているんじゃないかなという気がしますね。

松本:名曲じゃ、いけないんだろう?(笑)

中澤:うん、名曲はダメ(笑)。

――でも、「スターシェイカー」は、最高にカッコいいです。オリジナリティーということでは、静と動の対比を活かした「もしも」もGOING UNDER GROUNDらしさをまとった幻想的な曲に仕上がっていますね。

松本:あまりないものになったことは感じています。今は編集ソフトとかがあるから、何かに寄せようと思えば、誰でも簡単にできてしまう。そうやって作った曲というのは、できた瞬間は“おおっ! これだよ!”みたいになるけど、少し経つと誰がやっても一緒なんじゃないかという気がしてくる。そうすると原点に戻るというか、自分たちの匂いみたいなものは常に残していたいと思うんですよね。それは、今回のアルバムを通して結構気にした部分かもしれない。インスパイアされたものがあったとしても極端にそこには寄せていかない、編集もしないという感じで。流行りの音にするということに関しては、今の若い人には勝てない。だから、自分たちは自分たちの道を行くべきだなと。そういう覚悟が芽生えたかなというのがあって、「もしも」はそれが反映された曲といえますね。
▲石原聡

――独自の世界観が光っています。「もしも」の原曲は、どんなふうに作られたのでしょう?

松本:『君の名前で僕を呼んで』という映画がすごくいい映画で、最後にテーマソングみたいな曲が流れたときに、こういう感じはいいなと思って。その後、家でなんとなくギターをつま弾いていたら、ギター・フレーズとメロディーと“もしも”という歌詞が同時に出てきたんです。それを中澤に聴かせたら、「よし、1回録ろう」ということになりました。今回の中澤はどんなものを出しても、1回録ろうだったんですよ(笑)。

中澤:ハハハッ! いや、最初に“バッ”と湧いてきたものって意外と良かったりする。その瞬間を捉えておこうと思って。それで、“よし、録ろう”というのが今回はキーワードみたいになっていました。それで、「もしも」も最初のアルペジオとメロディーを録って、そこから先をその場で作っていったんです。

石原:僕は「もしも」みたいな曲調が一番好きなので、デモを聴かせてもらったときに……。

松本:アルバムができたなと思った?(笑)

石原:うん(笑)。こういう曲もアルバムに入るんだと思って、気持ちがアガったことを覚えています。

松本:あと、「もしも」は歌詞のテイストが、ちょっと他の曲と違っていて。この曲の歌詞はギターをつま弾いていたら自然と出てきた言葉そのままなんです。だから、なぜこういう歌詞を書いたのかは自分でもよくわからない。でも、なんとなくわかるんだよな、こういう感じ…というのがあるから、それでいいやと思ったんです。“蛍光ピンク”とか“弱い生き物”といった言葉から、なんとなくイメージが浮かんできますよね。その二つの言葉が出てきたときに、自分の中でピンときたんです。

――日常の中にあるナチュラル・トリップした感覚を描いた曲という印象です。続いて、『FILMS』を録るにあたって、それぞれプレイや音作りなどでこだわったことも話していただけますか。

石原:さっきも話したように、今回はちょっとしたニュアンスや、ちょっとした抜け方にこだわりました。歌を大事にしたいという気持ちはいつもと同じようにあって、その上でニュアンスということを自分の中で意識しましたね。そこに関しては、音源を聴いたときに自分でもニヤッとするようにはできたかなと思います。

中澤:今回はなるべくギター2本とドラム、ベースで成立するようなものにしたいという気持ちがあったんです。前作はバンド以外の音も思いついたものは全部入れようというスタンスだったんですよ。それで、こだわらずに打ち込みの音とかも入れていった。今回も打ち込みが入っている曲もあるけど、最低限で成立したらいいよねとか、曲のサイズも短いほうがいいよねという話をしながら作っていったんです。だから、ギターもメリハリを考えた……というか、メリハリしか考えていなかった印象がありますね。あと、曲によっては素生にギター・ソロを弾いてもらったり。

――えっ、そうなんですか?

中澤:はい。「LOVE WARS」のちょっとヘロッとした感じのギター・ソロは素生が弾いています(笑)。

松本:僕はギター・ソロは弾けないので、自分の中にソロのイメージがあるときは中澤にニュアンスを伝えるんですよ。こういうスライドで入って、こういう感じで展開して…みたいな感じで。そうしたら、中澤に「それで、いいじゃん」と言われたんです(笑)。

中澤:素生が弾いたソロは、すごく味があったんですよ。僕が素生がイメージしているものを汲み取って、整理して弾いても面白いものにはならないなと思って。それで、「頭の中で鳴っているものがあるなら、自分で弾いたほうが絶対いいよ」と言って、素生の気持ちをノセて、彼が弾く方向に持っていきました。

松本:そう言われて、ちょっと練習したんです。そうしたら、練習はしなくていいと言うんですよ(笑)。それで、「しなくていいの?」と言いつつ(笑)。あと、「LOVE WARS」のソロは、スタジオにただただ掛けられていたOrvilleのSGを使いました。このギター、いいんじゃないかという話になって(笑)。

中澤:そう(笑)。それくらい軽い気持ちでいこうよという。今回はそういうテイクを結構残しましたね。「HOBO」のど頭に入っているピック・スクラッチも二人でプリプロをして、初めて曲を持ってきて、「よし、録ろう!」となったときのピック・スクラッチを活かしたんです。そんなふうに、今回は鮮度を、かなり大事にしましたね。
――それもアルバムの生き生きした味わいに繋がっていることは間違いないと思います。ギターは、先ほど話が出た「LOVE WARS」に限らず「もしも」や「プラットホーム・ノイズ」などでファズを効果的に使っていることもポイントです。

中澤:それぞれの曲に合わせて、いろんなファズを使い分けました。レコーディング・スタジオにエフェクターがいっぱいあったんですよ。スタジオのオーナーが自作したみたいで、使ってくださいよと言ってくれて。ファズも三つくらいあって、どれも面白かったので使いたくなったんです。“この曲調にファズ?”みたいな使い方をしている曲もあるけど、それは別に狙ったわけではなくて。現場で鳴らして、“カッコいい! よし、これでいこう”みたいな感じでした(笑)。

松本:歌はテイクを重ねないことと、極力直さないことを意識したというのがあって。「HOBO」は、ほぼ1テイクです。「マイクの状態を見たいので、一回歌ってくださーい」と言われて歌ったら、これでいいんじゃないかということになって。もう1回歌わせてもらっていいですかといって一応2テイク目を歌ったけど、全然良くないスね…みたいな(笑)。

中澤:さっきメチャクチャ良かったから、あれでいいんじゃないかと言いました。

松本:「なんで、もう一回歌ったんですか?」みたいな(笑)。今回は本当に歌録りは早くて、大体1曲30分くらいのペース。あと、ちょっと歌の重心を下げたかったので、キーも自分の部屋で歌ったままのキーで録音するようにしました。「うたかた」が、まさにそうでしたね。バンドのボーカルの人はわかると思うけど、バンド・サウンドに混ざって歌うとなるとキーを上げたくなるんですよね。それを、今回はやめました。

――こうしたほうがいいんじゃないかと思ってしたことが、すべていい結果に繋がりましたね。歌は「返信」でオート・チューンを使っていることも印象的です。

松本:そう。最初は掛け録りじゃなくて、しっかりしたボーカル・テイクを録ったんですけど、「返信」は新聞を見ていたらすごく嫌なニュースがあって、それでできちゃった曲なんですよ。だから、自分の中で生々し過ぎるように感じてしまって、これはなんとかならないかなと思ってオート・チューンを使うことにしたんです。オート・チューンをかけるとちょっと距離が遠くなるというか、他人事みたいにしてくれるから。それで、エンジニアさんにオート・チューンを掛けてもらったら、自分の念がこもり過ぎている感じが薄まって、いい感じになりました。オート・チューンを使いたいというよりは、念を薄めたいと思った結果、オート・チューンにいき着いたんです。

――“オート・チューンありき”ではないというのはいいですね。さて、『FILMS』は最新のGOING UNDER GROUNDの魅力を味わえる一作に仕上がりました。アルバムのリリースはもちろん、10月から12月にかけて行う全国ツアーも楽しみです。

松本:今回は自分たちがやりたいようにやって、本当に1stアルバムぶりくらいに、“これは俺たちの匂いじゃん”みたいな音源になったと思うんです。気負うわけでもなく、本当にロックンロール・バンドに憧れてバンドをやっているんですけど、そうなれるかもという気がしている。『FILMS』の曲たちだったらステージ上でそういう気持ちになって演奏できるかもと思っていて、それが本当に楽しみです。それに、今の自分たちにとってライブはすごく特別なことなので、嫌な感じにはもう絶対にしたくないというのがあって。僕の場合、明日はライブだと思ってワクワクする感じがずっとなかったんですよ。でも、三人になって、また自分たちでやろうぜといってやり始めて、次のライブを指折り数えて待つようになっている。20年バンドをやってきて、そういう感覚になれるというのは、本当に貴重なことだと思って。自分がそういう状態にあるということは、ライブを観にきてくれた人にパワーを与えることにつながるんじゃないかなと思うし。そういうことも含めていいツアーになると思うので、期待していてほしいです。

中澤:『FILMS』は、ライブ映えする曲が多いと思っていて。さっきも話したように前作はいいと思った音はなんでもかんでも詰め込んだので、ライブで演奏するときにシーケンスを回したりたりする曲も多かったんですよ。今回はバンド然としたサウンドでやりたいという気持ちが元々あって、そういうアルバムにできたので、ライブが楽しみです。よりエモーショナルなライブになるだろうし、ライブだとまた違った聴こえ方をする曲もあると思うので、そういうところも楽しんでほしいです。

石原:ツアーをサポートしてくれるメンバーもレコーディングに参加してくれて、彼らも含めていい雰囲気ではあるなと思っています。そういうものは、自然とライブにも出るんですよね。「スィートテンプテーション」を出したときに20年前のライブDVDを付けたんですけど、自分たちのことをほぼ誰も知らない状態でステージに立っているんですよ。その頃の自分たちはメンバー内で楽しんでいるオーラが出ていて、僕はそれがすごくいいなと思ったんですよね。今度のツアーはそういう感じになるんじゃないかなという気がしていて、早くツアーに出たいです。

取材・文●村上孝之

リリース情報

『FILMS』
2018.9.19 RELEASE
YRNF-0012¥2.778(tax out)
1.HOBO
2.うたかた
3.LOVE WARS
4.ペパーミントムーン
5.アワーハウス
6.スターシェイカー
7.もしも
8.返信
9.プラットホーム・ノイズ
10.スウィートテンプテーション

ライブ・イベント情報

<GUG 20th ANNIVERSARY RETURN OF THE ICE CREAM TOUR>
10/27(土) 千葉LOOK
10/28(日) 宇都宮HEAVENS ROCK
11/02(金) 仙台enn 2nd
11/04(日) 名古屋CLUB UPSET
11/11(日) 福岡Queblick
11/18(日) 心斎橋JANUS
12/01(土) 代官山UNIT

関連リンク

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

連載コラム

  • ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲!
  • これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!
  • これだけはおさえたい洋楽名盤列伝!
  • MUSIC SUPPORTERS
  • Key Person
  • Listener’s Voice 〜Power To The Music〜
  • Editor's Talk Session

ギャラリー

  • 〝美根〟 / 「映画の指輪のつくり方」
  • SUIREN / 『Sui彩の景色』
  • ももすももす / 『きゅうりか、猫か。』
  • Star T Rat RIKI / 「なんでもムキムキ化計画」
  • SUPER★DRAGON / 「Cooking★RAKU」
  • ゆいにしお / 「ゆいにしおのmid-20s的生活」

新着