大川豊総裁が語る大川興業の〈暗闇演
劇〉、シリーズ第7弾が、東京に続き
、まもなく名古屋・神戸で上演!

観客全員イヤホン装着で、人質を疑似体験!? イヤホンが主役の〈暗闇演劇〉新バージョン
名古屋・神戸での上演は、前回のハーフブラックシアター『The Light of Darkness』以来、2年ぶりとなる大川興業の〈暗闇演劇〉。主宰で作・演出を手掛ける大川豊の発案により、完全暗転の中、通常の公演同様に舞台上で芝居が展開されるこのシリーズ。2003年の第1弾『Show The BLACK』から本番と同じ状態で稽古を行い訓練を重ねてきたことで、役者たちは真っ暗闇の中でも自在に動き、セリフを応酬することができる特異な身体感覚を取得し、これまで6作品を発表してきた。
音や匂いを駆使するだけでなく、暗闇ボクシングを繰り広げたり、〈暗闇演劇〉でありながら“光”を主役にしたり…とさまざまな表現に取り組んできたが、第7弾となる今作『イヤホン』は、その名の通り観客全員に片耳にイヤホンを装着していもらい、そこから聴こえてくる登場人物の声や環境音と、実際の舞台の生音の両方を聞きながら観劇(視覚は遮断されているが)してもらうという、またひとつ新たな試みに挑んだ作品だ。
大川興業 暗闇演劇『イヤホン』チラシ表
物語の舞台は、テロリストに占拠された暗闇の劇場。そこで人質となった私たち観客は、本来は芝居を観るためのガイドとして配布されていたイヤホンが唯一の外部との接触ツールになり、警察や家族の声を聴くことができる、という設定である。昨年10月には東京「ザ・スズナリ」で初演され好評を博し、そこから約1年の時を経て東京で再演、そして9月27日(木)・28日(金)は「愛知県芸術劇場 小ホール」、10月12日(金)~14日(日)には「神戸アートビレッジセンター」での上演が予定されている(14日はトークライブのみ)。
電車内や街中など、どこにいてもひとたびスマホやPCなどと耳に繋げば外界を遮断し、「リビング」や「書斎」「オフィス」「映画館」「ゲームセンター」「漫画喫茶」といった自己空間として結界を作ることができるイヤホン。そんなイヤホンを主役として、“聴覚”にポイントを置いた本作がどのように構想され創られていったのか、また東京公演での観客の反応などについても大川総裁に話を伺った。
── これまでいろいろな方法で〈暗闇演劇〉を展開されてきましたが、ついにイヤホンまで使われたのかと。
これはもう、ずっとやりたかったんです。もともとの考えとしては、お客さんによってSEを変えたり、上手と下手のお客さんや、前の方の席と後ろの方の席で二つの物語が展開されてそれぞれ別のBGMが流れていて…というようなこともずっとやりたいと思っていたんですけど、「イヤホンって強力じゃないかな。芝居を壊すんじゃないかな」と。しかも同時でやるということ自体が難しいので悩んでいた頃に、電車に乗ったら全員イヤホンをして座っているんですよ。ゲームをやる、動画を見る、ニュースを読んでいる…と皆それぞれで、見ていたら「この駅で降りなきゃ」と気づいた人が慌てて降りようとしてドアに激突しまして。それぐらいイヤホンというのは結界を作れるんじゃないか、ということを改めて認識して、自分が電車に乗っている時に座っているところをゲームセンターにしている、リビングルームにしている、書斎にしている、映画館にしている、という風にすごく感じさせられたので、ここはちょっと勝負をかけようと思って、お客さんにイヤホンを装着してもらってのお芝居を始めました。
物語はですね、テロリストが劇場を占拠する事件が起こるんですけども、イヤホンからは交渉人の声が聞こえてきて、「この劇場の中に犯人がいる可能性も考えて今話しております」とか言うんです。今まで歌舞伎の音声ガイドとか、UDキャスト(視覚障害者が映画を観るための音声ガイド)、ブロードウェイミュージカルの日本語ガイドとか全部体験してみたんですけど、映画も壊さないし、歌舞伎はあれがないと逆に芝居自体がわからないです。「ここで今、若旦那が踊ります」とか言われて、「そうだ、若旦那だ」って(笑)。そういうこともあって、意外と本人の認識が大切なんだなと。要するに、寝ている時は時計のカチカチという音は聞こえなくなるじゃないですか。だからお客さんが集中すれば、これはイヤホンで会話している主役の人、と認識をしてくれる。舞台の方は生音で小道具も舞台装置も全部あるので、生音とイヤホンから聴こえてくる音との激しい融合であったりバトルであったり、ということが展開されるわけです。最初はお客さんが途中でイヤホンが邪魔になって外すんじゃないかな? と思ったんですけど、そういう人は全くいませんでした。
── イヤホンから聴こえる音や声の内容というのは、ガイドのようにサブ的なことなんでしょうか?
いや、メインですね。人質側もイヤホンの向こうの交渉人に対して、「あなた交渉人なんですか?」「交渉人のフリをした犯人なのではないですか?」と語りかけるわけですね。そうすると交渉人が「私はこの街の出身なんです」と。それで人質が「今、近くにいるなら街のノイズを聞かせてください」と言うわけです。そうすると交渉人が窓を開けて街のノイズを聴かせるとか、そういう駆け引きがある。私はこれを“サウンドサスペンス”と言ってるんですけど(笑)。
── 遊園地に、音だけで恐怖を体験させるサウンドホラーアトラクションがあって、それは部屋の中で椅子に座ってヘッドフォンをするだけなんですが、後ろから近づいてくる足音や恐ろしい囁き声、チェーンソーの音などが聴こえてくるという。ものすごく怖いアトラクションなんですが、今回の作品はそういうタイプのものだったらどうしようかと(笑)。
いやぁ~、本当はホラーもやりたいんですけど、ちょっと怖いですね。俺が出来ないです、怖くて演出が(笑)。今回の『イヤホン』はお客さんを怖がらせることはないですけど、それに近いものはありますね。東京公演の時、お客さんは(実際は暗闇だが)「交渉人の方の部屋は明るく見えた」と言っていました。考えてみればそうですよね。街中でイヤホンをして電話していて、他人にぶつかっている人を見たんですよ。電話の相手がその人にとっては目の前にいるわけですよね。だから実際に目の前にいる人のことは認識していなくてぶつかる(笑)。歩いている人でもイヤホンをすると、音だけで集中できるんだと思いましたね。お客さんの中には「声を出したかった」という人もいました。「俺、犯人じゃねぇよ」って。そこまで入り込めるんだなと。
前作『The Light of Darkness』舞台写真
── 〈暗闇演劇〉では、上演中に途中で退席したい方や観客の安全確保のためにスタッフの方が暗視ゴーグルで客席をご覧になっているということですが、今作では上演中のお客さんに、これまでの作品と違った反応などはありましたか?
皆さんの集中力がすごいのと、お客さんによってで全員ではないですけど、交渉人が語りかけるとなぜか後ろを向く人とか。実際に交渉人が後ろにいるわけではないんですけど。個人個人の見方がすごく強力かな。お客さんの動きからだけですけど、それは感じますね。
── 音作りにはかなり凝られたんですか?
交渉人がSWAT(アメリカ合衆国の警察の特殊部隊)みたいにいろいろなものを身に付けているのでベストを着ていて、そのポケットのマジックテープの音などをサンプラーでパンっと入れようと思ったんですけど、ダメでしたね。クリアに音が聴こえるイヤホンなので、やっぱり役者が演技しながらジャリジャリっとマジックテープを剥がす音がして物を取り出す、という本物のノイズをマイク越しにちゃんと入れないといけなかったり。すごく演技に集中するので、稽古中に「これ、作った音でしょ」と言う役者もいたんです。〈暗闇演劇〉の場合はきっかけでセリフを言うわけではなくて、気持ちが最優先で言葉を発するという稽古なので。人質側と交渉人も別々で稽古しなきゃいけないんですね。同じ場所でやると生音が聞こえちゃうのでとか、いろいろな苦労が。あと経費が(笑)。
── 観客分のイヤホンを揃えるだけでも大変ですね。
そうですよ。音声ガイドでさえ、みんな1000円預けるじゃないですか。それぐらい高価なので大変ですけども、やる価値はあったなと思います。
── 東京公演の反応としては、他にどんなものがありましたか?
ビックリしたのが、高校生とか来るようになりましたね。演劇部の先生が心配して、「どういった演劇なんでしょうか?」と問い合わせがあったり。あと面白かったのは、美術館の音声ガイドで絵の解説を聞いていたら作者の顔が浮かんだ人がいたらしくて、「なんで浮かんだんだろう? と思っていたのが、この作品を観てわかりました」とか。耳からの情報を介すと、何か認識が変わっていくのかなぁと。余談ですけども、今回イヤホンを使ってみて、これは街中に出ても出来る芝居じゃないかと思ったんです。観客全員にイヤホンを通して一斉に同じセリフを入れられるので、名古屋で言えば大須や今池の商店街とか、そこで男女の別れ話みたいな物語をやっても芝居として成立する可能性はかなりあるんじゃないかなと思います。お客さん全員に探偵になってもらって、「今、ホテルから奥さんとスーツを着た男性が出てきました」とか(笑)。
── 観客と普通に街を歩いている人が入り混じって区別がつかない、というのは面白いですね。
ぜひやりたいですね。昔はそういうのをやっていたんじゃないかなと思うんですよね、寺山修司とか。今は皆さん、お客さんの動員を考えるから落ち着いたお芝居を創らないと続けていくことが難しくなっていると思うので、うちらだけはトチ狂った感じで、このまま突き進もうかなと思っていますね(笑)。
── 作品の構想は次々と浮かんでくる感じですか。
それで困りますね。どんどんお金が掛かっていくので。「まずはこの『イヤホン』をちゃんとやってください」といつも言われます。
── 先ほど、観る場所によって物語やBGMを変える演出もしたいと仰っていましたが、イヤホン演劇に於いてこういうこともやりたい、というお考えは他にもありますか?
SEとかBGMを流すだけではなく、楽器といいいますか、何かそういったこともうまく使えればなぁとは思っています。今のイヤホンはすごく優秀で、音のレベルをかなり広域で流せたりとか、奥行き感を出すイヤホンもあるんですね。オルゴールには、人間の耳には聞こえない周波数の音が入っているんです。人間の脳幹に響くような。本来、滝とか森とか自然の音にも、人間の耳には入らない音がちゃんと流れていて、レコードもそうだと思うんですよ。だからそういう、舞台上では人間の耳には認識できない音もちゃんと流して、イヤホンではどうしても人間に聞こえる範囲のデジタルな音になるので、それと融合するようなことはやりたいなと思っているんです。オルゴール療法というのも実際あるみたいで、CDよりレコードの方がノイズがするけど実は楽しめたり、同じ曲を聴いてもレコードの方が心が落ち着く人がいたり。まぁ人ぞれぞれだと思うんですけど。
── いろいろな構想をお持ちで拝見したいものばかりですが、全部上演していくのは大変ですね。
東日本大震災や熊本地震、西日本豪雨の現場などで復興支援をずっと続けているので、そこからもいろんな物語が作れるなぁとか。〈暗闇演劇〉ひとつとっても、例えば震災後みたいなこともやりたいんですよ。それはなぜかというと、信号も何もかも明かりが一切消えるからです。真備(西日本豪雨の被災地となった岡山県倉敷市真備町)でもそうだったんですけど、本当に停電して、雲が出ていて星も見えなくてこれは大変だと。ぬかるみがあって足が抜けなかったり、方向がわからない。携帯の電源も落ちてライトが消えて、現場でそんなこと言っちゃいけないんですけど、〈暗闇演劇〉そのものじゃないか、みたいな。東日本大震災の時に気仙沼でもそういうことがあったんですね。物語を作ろうと思って現場に行っているわけではないんですけど、いろいろなことが起こって、そこから何かできそうだと。〈暗闇演劇〉だけでなく、明るい場所でやりたい芝居も浮かんでいるので宝クジでも早く当てて、年2回公演をやりたいなと思っていますね。
取材・文=望月勝美

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