The Birthday、スペアザら9組が前人
未踏の大阪の地でフェス開催『たとえ
ばボクが踊ったら、♯002』イベント
レポート

『たとえばボクが踊ったら、♯002』2018.9.16(SUN)服部緑地野外音楽堂、服部緑地スポーツ広場A特設ステージ
「こうやって開催しているのは奇跡的で……」と、RHYMESTERの宇多丸とMummy-Dが、MCで何度もそう言っていた。それほどまでに台風の被害が大きく、開催が危ぶまれていたライブイベント『たとえばボクが踊ったら、♯002』が、9月16日に服部緑地野外音楽堂+服部緑地スポーツ広場A特設ステージにて無事開催された。出演は、The BirthdaySPECIAL OTHERS、RHYMESTER、SOIL&"PIMP"SESSIONS、PUSHIM韻シスト、 韻シスト、lecca、Ovall、jizue。ロック、ジャズ、ヒップホップとジャンルを超えた豪華なラインナップ。何がどう“奇跡的”だったのかも踏まえたうえで、なんとか当日を迎えることができた同イベントの魅力を、ライブ写真と共にじっくりとレポートしたいと思う。
一昨年に、「関西で魅力的なキモチいいフェスしたい」との想いから、服部緑地野外音楽堂でThe BirthdayとSPECIAL OTHERSの2マン形式で開催されて以来、2年ぶりとなる『たとえばボクが踊ったら、』。今年は、服部緑地野外音楽堂に加え、同じ服部緑地公園内の10分ほど歩いたところにある、服部緑地スポーツ広場Aに特設ステージを作って2会場で開催。出演者数も大幅に増え、正真正銘のフェスとしてパワーアップしての開催となった。因みに、このスポーツ広場にステージを組んで、イベントを開催するのは公園にとっても史上初の試みだという。今回の大きな魅力のひとつは、この特設ステージだ。
そもそも服部緑地公園がどこにあるのかというと、大阪の北部にある豊中市にある公園で、大阪市内からなら電車で20分程度、新大阪駅からは約15分なので東京からでも日帰りで遊びに来れるほどのアクセスのいい場所にある。緑豊かな広大な敷地には、野外音楽堂の他、アウトドアが楽しめるスペースも多くあり、関西の音楽好きなら誰しもが、「ここでフェスをしたらいいのに……」と、勝手にイメージを膨らませたことが多少なりともあるはず。その想像を、理想として頭の中でとどめることなく、実際に行動に起こして創造されたのが『たとえばボクが踊ったら、』というわけだ。野外音楽堂でのライブイベントは数あれど、運動場のように広いこのスポーツ広場Aを使ってのイベントは先述した通り今回が初めて。未開の地というだけあって、主催者と公園スタッフが開催を実現させるまでには、想像もつかないほどの苦労と試行錯誤を繰り返したのではないかと思う。ただ、「この場所でフェスがしたい」という強い想いは、当日参加した人たちは身をもってすぐに理解できただろうし、このレポにある素晴らしい写真からも伝わるのではないだろうか。
この公園の魅力は、昼は緑に囲まれた開放的な雰囲気の中、アウトドア気分で音楽を楽しむことができるし、夜は月夜とステージの灯りだけが視界に入り、大阪府内とは思えないほど幻想的な景色が広がる。緑に遮られたスポーツ広場内は、まるで山奥に遊びに来たような非日常を体感させてくれるので、よりリフレッシュした気分で音楽に身をゆだねることができるのだ。
ステージ最前で踊り狂うもよし、アウトドアチェアを持ち込んでゆっくり楽しむもよし。また、フードのラインナップもこだわりが光り、ミシュランのビブグルマン掲載された北新地の本格中華「幸菜福耳」と創作串揚げ「Kushiage 010」をはじめ、梅田や難波ではテッパンの「炭火焼き鳥 えんや」、福島の焼肉「Da-Wa」、西大橋の「うれしい居酒屋 酒歌」など、普段使いして間違いなしな大阪屈指の人気店がそろうので、美味いフェス飯とお酒を堪能したり。大空と緑の中で、自由にマイペースに、老若男女が過ごしやすいように細部まで工夫され尽くしていて(細かいところでは、段差にオリジナルの黄色いテープを貼って注意喚起するなどの気遣いも)、「大阪でこんなフェスの楽しみ方ができたなんて!」と驚いたのは、きっと僕だけでないはず。
それだけ魅力的な会場が用意されたにも関らず、全国で暴風雨の猛威を振るった台風21号の影響で直前まで開催が危ぶまれていたことも、知っておいてほしい。電気が復旧したのはなんと開催数日前だったそうで、それほどまでにギリギリの状態だったという。未だに公園内の木は根こそぎ倒れたり、施設の屋根やオブジェが破壊されていたりと、多くの傷跡が被害の甚大さを物語っていた。それでも「想定外の状態でも開催する!」と決して諦めなかった主催者の強い想いと、公園スタッフの尽力のおかげで復旧が行われ無事開催されるにいたったのだ。前置きが大変長くなってしまった……。ここまでは、「関西で魅力的なキモチいいフェスしたい」という想いの環境面の話。
そうしてなんとかして開催に至った『たとえばボクが踊ったら、♯002』。MCを務めるFM802・DJの加藤真樹子(『UPBEAT!』/毎週月〜木11:00-13:00)と竹内琢也 (『BEAT EXPO』/毎週月・火19:00-20:48、『WEEKEND PLUS』/毎週金、土29:00-31:00))の呼びかけで、開催にこぎつけてくれた主催者と公園スタッフに感謝の声と拍手を送るところからスタートした。参加した人々は台風の被害も知っているし、どれだけの想いをもって開催に至ったかを知っているからこそ、とにかくもう今日という日を迎えられたことの喜びを分かち合うような、祝福ムードと興奮が入り混じった盛り上がりをみせていた。その喜びと感謝の気持ちは、アーティスト陣のライブからもヒシヒシと伝わってきた。
jizue
jizue
服部緑地スポーツ広場A特設ステージのトップバッターを飾ったのは、京都を拠点に活動するインストゥルメンタル・バンドのjizue。井上典政(Gt)が、「徐々に温めていこうと思っていましたけど、野外だと皆さんと一緒で我慢できないんで」と言い放って、テクニカルかつパッショナブルな音を織りなしていく。服部緑地野外音楽堂の幕を開けたOvallはファンキーなサウンドをうならせ、MCの脱力感とは裏腹に緊張感あるライブで観客を引き込んで会場をこれでもかと揺らしていた。

Oval

『たとえばボクが踊ったら、』は各アーティストの持ち時間が、約1時間とフェスでは珍しいロングセットも魅力的だ。だからこそ、フェスとは言えたっぷり時間をかけたライブ展開やセトリを楽しめる。MCをたっぷり語る者もいれば、じっくりと音で語る者もいる。勢いよくけしかけてもみくちゃになる熱狂とはまた違う、じわじわとグルーヴが高まっていくのを全身で感じ、一心不乱に踊ったり、ビールを飲みながら腰を揺らしたり……、と好きなスタイルで興奮と多好感を共有できるところが醍醐味だろう。そんなアーティストが作り上げる音世界のより深いところまでたどり着くことができる楽しさは、ロングセットならではだと思う。この構成は、主催者がそれぞれのアーティストのことを心底好きで、自分自身ならこれぐらいたっぷりと楽しみたいという思いと、その魅力を多くの人に知ってほしいという想いの表れではないだろうか。
lecca
約1年ぶりとなるleccaのステージは、「おかえりー!」「待ってたよー!」と復帰を待ちわびた観客の声が絶えず、大合唱とタオルを振り回す強固な一体感を生み出す温かみ溢れるムードに。災害についても触れ、披露された「きっと大丈夫」、そして「マタイツカ」が歌われた頃には涙を拭う観客の姿が絶えなかった。
lecca
野外音楽堂は、普段なら閉じられているステージ後方の屋根付きエリアが解放されているため、めったに観ることができない舞台袖や楽器や機材の細部まで間近で観ることができる。因みに、一昨年の初回開催時は、突然の大雨のためこのエリアを急きょ開放。観客に雨宿りの場として提供した背景もある。その背景もあってか、今回はスタート時から解放されており、強い日差しを凌ぐ熱中症対策に活用している親子もいた。これは裏側を観れるファン精神くすぐる粋な計らいであり、いざという時の避難場所としても非常に助かる心遣いだと思う。
Oval
ステージ後方からアーティストの表情はもちろんほとんど見えないが、観客の表情や様子も良く見えたので、Ovallのライブをはちきれんばかりの笑顔で踊って楽しむ人や、leccaと共に涙を流しながら熱唱する人の姿が個人的にはより印象に残った。
lecca
韻シスト
先ほど、ロングセットについても触れたが、アーティスト同士のセッションともなると超ロングセットになるのも見逃せない。地元大阪の韻シストは、結成20周年を記念したニューアルバム『IN-FINITY』から「GOOD FEEL」や「Don't worry」などをエモーショナルにたっぷりと届けた後、まだまだこれからですよと言わんばかりに、同じく地元大阪出身でレゲエ界を代表するシンガー・PUSHIMを呼び込みコラボ。
PUSHIM×韻シスト
初めて共演した「Don't Stop」はもちろん、PUSHIMが「たとえば私が韻シストの曲を歌ってみたら?」と、「Dear」をカバーしてみせるなど、それぞれの楽曲を披露して会場を大いに沸かせる。
PUSHIM×韻シスト
さらにMCでは、「たとえば……Shyoudog(Ba)が踊ったら?」と無茶ブリしたり、関西人らしくタイトルをもじった大喜利を皆で楽しむ場面から、気心知れた関係性が垣間見え心温まった。
韻シスト
RHYMESTER
超ロングセット・セッションはこれにとどまらず。キング・オブ・ステージことRHYMESTERが登場して、野音のトリが開幕して独壇場に。台風被害を気にかけながら、「今日開催できたのは、もう奇跡的だよ」と感嘆した様子の宇多丸とMummy-D。
RHYMESTER
そして、いかにこのイベントがアーティストへの愛がある「最高のフェス」であるか、その愛は、セッションする枠すらもタイムテーブルにワンマン規模のロングセットで初めから設けているところに表れていると語っていた宇多丸。
RHYMESTER×SOIL & "PIMP" SESSIONS
今度はRHYMESTERと入れ替わってSOIL&"PIMP"SESSIONSが登場し、負けじと「SUMMER GODDESS」「Pride Fish Ball」などを畳み掛けながら、エネルギーに満ち満ちたスケールある音像をぶつけていく。約30分ずつのライブをそれぞれ終えると、主催者と観客の期待に応えんと全員登場のジャムセッションに!
RHYMESTER×SOIL & "PIMP" SESSIONS
ライブだけでなく共に音源もリリースもするなど、盟友ともいえるこの二組。実は、2011年のFM802主催「MEET THE WORLD BEAT」の打ち上げでセッションしたのがきっかけということもあり、大阪とは縁深い関係性のコラボを見届けなければと、気づけば野音の会場に入りきらないほどまでに集まっていた観客みんなが大歓喜。
RHYMESTER
1曲目の「I Believe In MiraclesThe Choice Is Yours」のマッシュアップを完璧にキメたり「この夏の散々な思い出を思い返して、今日の夜、美化しましょう!」と「フラッシュバック、夏。」を披露。何が起こるか分からないヒリヒリした緊張感のアツいライブを、トータルで2時間近くも繰り広げた。
The Birthday
そして、『たとえばボクが踊ったら、』といえばこの二組。真っ黒の衣装を身にまとった、The Birthdayが登場して、会場の空気がまたガラッと変わった1曲目の「FULLBODY の BLOOD」。
The Birthday
前回出演時は大雨となり、この曲の演奏中は雷鳴も轟いていたという、そんな楽曲からのスタートに特別な想いを感じる。血の通った音が、全身に突き刺さり、血を滾らせる。ゆったりと楽しんだ時もあれば、今度は衝動のままに拳を突き上げている自分がいた。これほどボーダレスに音楽を堪能できることもなかなかないなと、また嬉しくなりながら、極上のロックンロールを喰らう。
The Birthday
晴れ切った空の下、チバユウスケ(Vo/Gt)が「降りゃいいのによぉ」といじらしく笑ったり、とにかくご機嫌に掻き鳴らし歌っていた。その様子は、今日という日を待ち望んでいたかのようで、誰よりも楽しみながらステージに立っていた気がする。
The Birthday
SPECIAL OTHERS
そして、今回のオーラスを飾ったSPECIAL OTHERSのステージは、すっかり暗くなった服部緑地にぴったりな眩いセットに。淡々と緻密に、次から次へと紡がれる音と弾けるリズムが、この日1日の高揚感をさらに彩っていくようで。
SPECIAL OTHERS
そして、なんとか無事開催を実現してくれたスタッフ陣に感謝を込めてねぎらうように、温かく、寄り添うように打ち鳴らされる。ようやく繰り広げられたMCでは、『たとえばボクが踊ったら、』はれっきとしたフェスになったということと、「こんな気持ちいいフェスで、音楽ができて嬉しい」という心境をありのままに伝えられた。
SPECIAL OTHERS
とにかく、この“気持ち良い”という言葉に、尽きるイベントだなと、この時改めて思った。“気持ちよさそうに踊る”という表現が、これほどまでにピッタリで、それが絶え間なくこのオーラスのステージまで続いているイベントはなかなかないと思う。
SPECIAL OTHERS
それはやはり、冒頭に記した通り、イベントの環境面がそうさせてるところもあるだろうし、何よりアーティスト自身が気持ちよくライブを楽しんでいるのが伝わってくるからこそ、観ているこちらも肩ひじ張らずナチュラルに気持ちよくなれるのだろう。そんな真面目なことを考えてみたのもつかの間、「大阪の人は家のカレーで牛肉を使うことを当たり前だと思っている。東京はポークですよ」という県民性についてのなんでもない話題に移るゆるさに、また親近感が湧いてしまう。気づけばラストナンバーとなる「LIGHT」が鳴らされ、あっという間にアンコールへ……。じんわりと心地よい余韻を、胸に残してくれる最高の締めくくりで、来年の開催への願いと期待の火も灯してくれた。
SPECIAL OTHERS
終演後、バックステージで主催者がビール片手に「今日は、やったよ!」と自信を満面の笑顔で満足げな表情を浮かべていた。韻シストはMCで、「今日、なんだか満たされる感じがあるね」とも語っていた。服部緑地の非日常な空間でアーティストと分かち合い、贅沢な“気持ち良い”感じを体感した人たちは、特別な想いで満たされて家路についたんじゃないかと思う。それは、後日公式アカウントによりアナウンスされた通り、イベントに足を運んだ1人1人の協力によって、会場のみならず公園内のゴミがほとんど落ちていなかったというクリーンな結果が物語っている気がする。きっと誰しもが『たとえばボクが踊ったら、』のようなイベントをこれまで求めてきていて、実際に参加してみて満足して、また次も開かれてほしいと願って、自然とそうしたのではないかなと感じた。台風にもくじけなかったイベントだ。またいつの日か、服部緑地公園で『たとえばボクが踊ったら、』その先には、どんな景色が広がっていて、どんな気持ちで満たされるのだろうかと、これからに期待せずにはいられない1日だった。
取材・文=大西健斗 写真=オフィシャル提供(渡邉一生、ハヤシマコ)

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