紹介した雑誌:『新潮45』2018年10月号(新潮社)

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『新潮45』のここがひどい:ロマン優
光連載118

ロマン優光のさよなら、くまさん
連載第118回 『新潮45』のここがひどい『新潮45』の特別企画「そんなにおかしいか『杉田水脈』論文」に寄稿された小川榮太郎氏の論文「政治は『生きづらさ』という主観を救えない」。その文章の一部が切り取られる形でネット上で取り上げられ、氏に対して多くの批判が浴びせられています。論文の一部だけを恣意的に取り上げて批判するのは確かに良くありません。全文を繰り返し読み、深く考察を加えてから批判すべきです。全体を読み込めばわかるはずです。氏は痴漢擁護なんかしていません。LGBTの人々を犯罪者である痴漢と同様に扱うという侮辱的な表現、差別的な表現をしただけで痴漢擁護ではないのです。さらに読み込めばわかります。氏の論文が杉田論文擁護にすらなっていない、本当にトンデモないものであるということが。切り取られている部分が、その主張のおかしさが伝わってくるくらい、まだ何を言いたいかは意味がわかる程度にマトモな部分であったということが。
 私が小川氏を奇妙に感じたのは、今回の問題を性にまつわる問題であるという解釈をしているところ、もっとはっきり言えば性行為にまつわる話を延々と続けているところです。そもそも、この問題に批判的な人も、杉田氏を擁護する人も、杉田氏も、誰一人として性行為にまつわる話をしている人はいませんでした。それなのに、なぜか一人だけそんな話を……。まったくもって意味がわかりません。 言うまでもないことですが、性的志向と性的嗜好では意味が全く違いますし、小川氏が性行為にまつわる話をしていることから考えて、小川氏は意図的に性的嗜好という言葉を使っていたと考えるのが自然です。その区別がつかないような人が小林秀雄の研究をしているなんて、さすがにあり得ないとは思うのですが。
 LGBTの人たちの権利の主張を、性行為にまつわる話を人前でしていると解釈する小川氏。人前で性行為の話をするのはよくないという主張は時と場合によってはわかるんですが、誰もそんな話をしてないし。「人間ならばパンツは穿いておけよ」と言う小川氏。ようするに卑猥な話を人前でするのはやめなさいということなのでしょう。なのに、突如、自身の性的嗜好を「おぞましく変態性に溢れ、倒錯的かつ異常な興奮に血走り、それどころか犯罪そのものでさえあるかもしれない。」と言い出します。いや、本当に解釈に困りますよね。
 人前で性的嗜好の話をするべきでないという話なら、小川氏の性的嗜好が、世間の多数派に属するものだろうが、極めて独自性の高いものだろうが、関係ない話です。どっちにしろ言うべきではないというだけの話です。それなのに、わざわざ小川氏が自分の性的嗜好が変態性に満ちたものであるという可能性を示唆するのは何の必要性があるのでしょう?
 このように、氏はことあるごとに性行為にまつわる記述を必要もないのに挿入してきます。あらゆる性行為は他者から見ると醜いものだと書けばいいのに、わざわざ「男と女が相対しての性交だろうが、男の後ろに男が重なっての性交だろうが」という文章を入れてくる。レナード・バーンスタインはゲイ人脈によって世に出たと言えばいいだけなのに「チンなる枕交わし」という言い回しで露骨に男性同士による性交を表現する。そればかりか、「性行為に関する後ろめたさと快楽の強烈さは比例する。同性愛の禁断、その妖しさは、快楽の源泉でもあるだろう。」と突然言い出す始末。性交が気持ちよくなるから日陰の身でいた方が良いとでも言いたいのでしょうか? 意味がわかりません。それこそ、タブーに触れることで性的に興奮するという、氏の性的嗜好の吐露でしかないのではないでしょうか。
独自の結婚観がキモい また、氏は結婚について「暴力と隠匿に付き纏われる性という暗い欲望を、逆に最も明るい祝福の灯のもとに照らし出し、秩序化による安定と幸福の基盤となす」人類の叡知であると表現されています。性に対するネガティブなイメージもそうですが、結婚の根底の理由は性行為だと言わんばかりの記述にびっくりしてしまいます。少なくとも現代において、人はセックスすることを第一の理由にして結婚するわけではありません。中にはそういう人もいるかもしれませんが、一般的ではないでしょう。情愛とか恋愛とか、そういう部分について全く考慮せず、セックスを主体に結婚を考えるというのは理解し難いものがあります。だいたい、結婚しないでも性行為はできるものです。今時、個人の選択で独身時代に性行為をしないのではなく、結婚しなくては性行為ができない縛りを受けているのは特定の宗教を信仰している人ぐらいだと思うのですが。
 氏は性行為にまつわる話を人前でするのはよくないと主張しておきながら、自分はなぜか必要もないのに下品な下ネタや偏見に溢れた性的オブセッションを披露していきます。披露しているというか、本人が自覚がないままダダモレしているといったほうが良いかもしれませんね。言ってないつもりで、確かに明確なことは言ってませんが、言葉の端々にそれが漏れてしまっています。これは「制御不可能な脳由来の症状」によるものかもしれません。 小川氏は「パンツを穿いておけよ」と主張されているわけですが、新潮論文での氏の姿は、パンツを穿いてはいるけれど膨張した男性器がはみ出てしまっている人に見えてしまいます。
 LGBTのみならず、様々なものに対する無知と偏見。無知であることを開き直る不誠実さ。濃厚な差別意識とそれに対する無自覚さ。人権意識の低さ(平たく言うならば、シモジモのものは偉い人の言うとおりにしておけばよく、権利の主張などもってのほかであるという考え方の人物であると思われる)。 そういった小川氏の思想信条に関わる部分に関しては、これから様々な人から氏に対して反論や批判が出されることでしょう。そして、それ以外の部分も本当にトンデモなかったのです。
  政治的主張以前の部分であまりにひどい内容のこの論文がなんで誌面に載ることが許されたのか? この原稿のあまりのインパクトの強さによって杉田論文がまともに見えてくるという効果を狙ったのか? まあ、そんなことはなくて単に没にできなかっただけだと思います。編集部もさすがに変だと思ってると思いますよ。モラルよりも売れ行きを選んだとしても、さすがに最低限の能力ぐらいは残っていてほしいものです。
 あまりにトンデモなさに笑っちゃう原稿でもあるわけですが、そんな原稿が筆者が政権に近い関係にあるという理由で伝統ある出版社の発行物の誌面に掲載されているとしたら、哀しい話です。もっともらしく取り繕うという段取りすら踏まずに、トンデモないものがスッと通ってしまうというのは末期的な状況だと思います。 
(隔週金曜連載)
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【ロマン優光:プロフィール】
ろまんゆうこう…ロマンポルシェ。のディレイ担当。「プンクボイ」名義で、ハードコア活動も行っており、『蠅の王、ソドムの市、その他全て』(Less Than TV)が絶賛発売中。代表的な著書として、『日本人の99.9%はバカ』『間違ったサブカルで「マウンティング」してくるすべてのクズどもに』(コアマガジン刊)『音楽家残酷物語』(ひよこ書房刊)などがある。現在は、里咲りさに夢中とのこと。twitter:@punkuboizz
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