『世界ゴールド祭2018』は、世界のゴ
ールド世代が集い、高齢社会にクリエ
イティブな潮流を巻き起こすべく開催
される舞台芸術の国際フェスティバル

「どんなことが起こるのだろう?!」。その名を初めて聞いたときにはそう思ったが、それは次第に「すごい!」に変わっていった。彩の国さいたま芸術劇場が初開催する、日本初となる高齢者による舞台芸術の国際フェスティバル『世界ゴールド祭2018』。世界からゴールド世代が集い、高齢社会にクリエイティブな潮流を巻き起こそうとしている。
昨今、社会の高齢化は世界の多くの国々に共通する課題であり、アートの力で新しい社会のあり方を〈想像/創造〉しようという気運が高まっている。彩の国さいたま芸術劇場では『世界ゴールド祭2018』を機に、「さいたまゴールド・シアター」「ゴールド・アーツ・クラブ」の活動をはじめとする日本の取り組みと世界のムーヴメントをつなぎ、交流によって熱気と知見の交換・発展を目指している。担当の事業部・請川幸子氏に聞いた。
さまざまな国の取り組みと交流し、お互いが刺激を受けるために
――ゴールド世代のアート活動というのは、それこそ「さいたまゴールド・シアター」の旗揚げによって知らしめた感がありますが、『世界ゴールド祭2018』に向かう経緯を教えてください。
請川 彩の国さいたま芸術劇場が故・蜷川幸雄芸術監督の発案でゴールド・シアターを始めて今年で12年目を迎えます。当初は蜷川さんも私たちも手探り状態でしたが、その活動が国内のみならず、海外にも知られるようになり、パリに2度、そして香港、ルーマニアに招いていただくようになり、世界の方々との交流が始まりました。また、世界からゴールド・シアターを視察に来てくださるようにもなったのです。一方で、私たちも、世界の劇場や芸術団体の方々が高齢者の芸術活動にどう取り組んでいるのか、初めて知るようになりました。ゴールド・シアターを始めたころは、日本ではまだ高齢化社会ということが言われ始めた時期でしたが、たった10年のうちに超高齢化社会に突入してしまいました。そうこうしているうちに2020年の東京オリンピック・パラリンピックが決まり、特にパラリンピック関連で日本の舞台芸術界も障害者や社会におけるマイノリティの人びとの活動に目が向き始めたと思います。私たちはダンサーの近藤良平さんを中心に障害者の方ともにハンドルズという取り組みを行っていますが、劇場としては高齢者の分野に力を入れてやってきたので、なんらかの形で発展させていくことができないかということで考えたのが『世界ゴールド祭2018』でした。
――海外との交流がだいぶ刺激になっているわけですね。
請川 そうなんです。いろいろな国の方々と交流も始まる中で、特にイギリスでは社会包摂が長く議論されてきていて、また実践例も非常にたくさんあるんです。そうやって20年、30年、40年と取り組まれてきた方たちが、ゴールド・シアターを見て「自分たちにはこんなクオリティではできない」と驚いてくださる。私たちも彼らの取り組みを見て、こんなこともできるんだ、そこまでリーチしているんだと驚くことがたくさんあるわけです。本当にきめ細かく支援がなされています。外に出てこられないような方たちにも手を差し伸べている。お互い交流することで、お互いのプログラムがよくなっていく、新しい展開が生まれていくという関係を目指すことができればと思っています。
ワークショップ「世界ゴールド祭 キックオフ!」2017年9月より (c))宮川舞子
――彩の国さいたま芸術劇場では、ゴールド・アーツ・クラブという新たな展開もスタートしていますよね?
請川 『1万人のゴールド・シアター』後に、参加された方に「表現活動を続けませんか」と募集し、手を挙げた方を母体に結成したものです。1600人が出演されていたんですけど、登録者は1000人強になりました。その年その年のプロジェクトに参加されるのは、いろいろ都合や事情もあるので800人くらい。昨年度の『病は気から』のワークショップ&成果発表に800人程、今回も738人が参加してくださいます。
 このアーツクラブの発想も実はイギリスの劇場が取り組んでいるスタイルをヒントにしたものです。イギリスは高齢者だけでなく、さまざまなコミュニティを対象に行なっています。可児市文化創造センターが提携されているウェストヨークシャー・プレイハウスには会員が3、400人いるアーツ・クラブがあって、演劇だけでなく、地域のカルチャーセンターを標榜しているんです。今回、『世界ゴールド祭2018』に参加するサドラーズ・ウェルズ劇場も、第一線のプロのアーティストを呼んでそのクラブのためにトークやワークショップなど舞台芸術に特化したプログラムを組んでいます。私たちも、「ゴールド・アーツ・クラブ」を単発の公演で終わることなく、続けてやっていきたいと考えています。ダンスがやりたい方、音楽がやりたい方などいらっしゃるので、いろんなジャンルに分かれていくことも視野にいれています。
共感するライフ・ロング・クリエイティビティ
――海外にもこうしたフェスティバル的な取り組みはあるんですか?
請川 イギリスは盛んです。でも国際フェスティバルというよりは国内の活動を紹介していく形がメインですね。ここまで広範な国や地域から集う形のものはまだないかもしれません。スコットランドには『ルミネイト』という、スコットランド全域をカバーする高齢者の芸術フェスティバルがあります。プロフェッショナル枠があったり、もっと草の根的な手作り感ある取り組みの枠もあります。サドラーズ・ウェルズ劇場はダンスの劇場としてトップクラスなので、海外の高齢者のダンス・グループを招へいしつつ、プロのダンサーがどうやって生涯踊り続けていくかというようなことにも焦点を当てています。「ライフ・ロング・クリエイティビティ」というキャッチフレーズで、プロもアマチュアも関係なくみんなでクリエイティブな生涯を送りましょうという趣旨ですね。
――『世界ゴールド祭』のプログラムはどのように考えられたのですか?
請川 日本からはゴールド・シアターとゴールド・アーツ・クラブの企画がそれぞれあります。ゴールド・シアターの方たちがこれまでやったことがないことに挑戦したら面白いかもという発想からスタートしました。それが菅原直樹さん作・演出による『よみちにひはくれない』浦和バージョンと、デービッド・スレイターさん演出の『BED』です。『BED』は本当に街の中にベッドに寝たお年寄りが置き去りにされるというパフォーマンス。『よみちにひはくれない』は浦和の街を歩きまわる徘徊演劇です。ゴールド・アーツ・クラブは、ノゾエ征爾さん演出の群集劇『病は気から』です。
 今回は1回目ですし、テーマを掲げてしまうとそこからこぼれていくものも生じますから、できればいろんな可能性をすくい上げたいということで、とにかく面白そうだなと思った作品やアーティスト、グループをバラエティに富むように選んでいます。それから今回はもともとアマチュアだった方が高齢になって始められたもの、舞台で見せるものということをカテゴリーの基準にしています。アマチュアの方たちでもここまで豊かな表現になるんだ、ご覧になった方のインスピレーションを起こすような役割を果たしていきたいので、クオリティも重視してセレクトしました。
 それでは各公演・催しについて紹介しよう!
《日本》
さいたまゴールド・シアター✕菅原直樹
徘徊演劇『よみちにひはくれない』浦和バージョン
さいたまゴールド・シアター × 菅原直樹(日本)「よみちにひはくれない」 (c)hi foo farm
菅原直樹がOiBokkeShiの旗揚げ公演として2015年に発表した『よみちにひはくれない』は、特別養護老人ホームでの勤務経験などを取り入れながら、岡山県和気町の商店街を舞台につくり上げた作品。首都圏初上演となる今回は、再開発が進むさいたま市浦和駅周辺に舞台を移し、さいたまゴールド・シアターやネクスト・シアターのメンバーらとともに「浦和バージョン」として上演する。観客は俳優とともに実際に浦和の街を歩きながら、街や人のさまざまな姿を目撃していく。
数年ぶりに浦和を訪れた男の前に現れたのは、子供のころに顔なじみだった近所の老人。聞けば、認知症の妻がいなくなったので探しているとか。「見つけたら連絡する」と言ってその場を離れた男は、かつて住んでいた家のあたりを懐かしさからめぐり始める。思い出される過去の記憶と現在の街や人の姿。「徘徊」する男はどこへたどり着くのか――。
また関連イベントとして「老いと演劇のワークショップ」を行った(終了)。
《日本・英国》
さいたまゴールド・シアター ✕ デービッド・スレイター『BED』
さいたまゴールド・シアター × デービッド・スレイター(英国)「BED
街角に突如として現れるベッド。そこにはお年寄りが横たわっている。普段通りの風景の中で、〈高齢社会〉という現実が否応なく人びとの視線をとらえる。英国各地で議論を巻き起こしてきた話題作に、〈さいたまゴールド・シアター〉が挑む。
《日本》
ゴールド・アーツ・クラブ✕ノゾエ征爾『病は気から』
ゴールド・アーツ・クラブ『病は気から』(月組) (c)宮川舞子
『1万人のゴールド・シアター2016』から派生した、60歳以上のための芸術クラブ活動〈ゴールド・アーツ・クラブ〉。数百人のメンバーとともにノゾエ征爾の演出で大群集劇を上演する。原作のモリエール『病は気から』は、自分が病気だと思い込んでいる中年男を主人公にした喜劇。
《英国》
インターナショナル・ショーケース
サドラーズ・ウェルズ劇場 カンパニー・オブ・エルダーズ『新作2018 トリプルビル』
サドラーズ・ウェルズ劇場カンパニー・オブ・エルダーズ(英国) (c)Jane Hobson.jpg
世界のダンスをリードするサドラーズ・ウェルズ劇場がプロデュースする高齢者ダンス・カンパニーが、英国の気鋭振付家による新作3作品を上演。老いと若さの化学反応に注目! 関連イベントとして「カンパニー・オブ・エルダーズ ダンス・ワークショップ-Sadler’ s Wells Company of Elders Dance Workshop―」を開催(予約不要)。「エルダーズ」の舞台を観る前に気軽に参加できるプログラム。
《オーストラリア》
インターナショナル・ショーケース
マチュア・アーティスト・ダンス・エクスペリエンス『フロック(ドレス)』
マチュア・アーティスト・ダンス・エクスペリエンス(オーストラリア)「フロック」 (c)Terence Munday
オーストラリア・バレエの巨匠グレアム・マーフィーが心酔する、エネルギッシュな高齢者ダンス・グループが登場。大胆不敵なパフォーマンスは必見! 関連イベントとして「ムーバーズ&シェイカーズ ワークショップ-Movers and Shakers Workshop-」を開催(参加者、見学者の募集は終了)。
《シンガポール》
インターナショナル・ショーケース
グロウワーズ・ドラマ・グループ『カンポン・チュンプダ(チュンプダの村)』
グロウワーズ・ドラマ・グループ(シンガポール)「カンポン・チュンプダ」
シンガポールの高齢者演劇をリードする劇団が、急速に近代化が進む多民族国家シンガポールで、時に頑なに、時にしなやかに人生を生き抜いてきた高齢者の姿を、ユーモアを交えて描く。
《英国》
ネオン・ダンス ワークショップ&成果発表
もっと踊りたい、創作をしてみたい!  カンパニー・オブ・エルダーズの作品も手がける振付家と、クリエイティブなダンスに挑戦! ワークショップの成果発表を一般公開(参加者の募集は終了)、成果発表観覧者(定員100名)を募集中。
《日本・英国・オーストラリア、ほか》
「シンポジウム」
シンポジウム「世界ゴールド祭 キックオフ!」 2017年9月より (c)宮川舞子
高齢社会におけるアートの可能性をめぐり、各国の先駆者たちがリポート。海外のさまざまな事例を共有し、議論を深める。29日は二つの基調講演とパネル・ディスカッションを、30日は事例報告を開催。
「交流会」
世界ゴールド祭に参加される皆さまが交流を深め、自由に意見交換・情報共有を行っていただく場を設定。

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