「僕は出し切りたいタイプ。いつも限
界まで歌ってしまうんです」ミュージ
カル俳優・中井智彦にインタビュー

まもなく大阪公演が始まるミュージカル『ナイツ・テイル』にピリソス役で出演する俳優/歌手・中井智彦。ダイナミックな音量と艶のあるバリトンボイスを武器に、『レ・ミゼラブル』『ファントム』『キャンディード』に出演、劇団四季所属中は『オペラ座の怪人』(ラウル役)と『美女と野獣』(野獣役)で共に500公演を超える舞台を務めあげた実力派だ。今回その『ナイツ・テイル』の話と、公演終了後に控えている自身のソロコンサートについて、またライブ音源を収録したシリーズ作品CD『見果てぬ夢』の話を伺ってきた。
『ナイツ・テイル』のすべてにジョン・ケアードの愛を感じる
ーーまずは『ナイツ・テイル』東京公演、お疲れさまでした。今は大阪公演という狭間の期間(取材時)ですが、こういう時間はどんなお気持ちなんですか?
東京公演の千秋楽が終わり、一度頭をリセットさせ、また新たな気持ちで新鮮に大阪公演を迎えたいと思っています。帝国劇場での『ナイツ・テイル』、梅田芸術劇場での『ナイツ・テイル』。劇場が変われば音の響き、客席とステージの空間の捉え方、あらゆることが変わるので、その変化を楽しめるよう、あえてこの間の期間は頭を一度空っぽにして、新たに台本を読み直す時間にしたいです。​
ーーカーテンコールのパフォーマンスで、メインキャスト以外の方々が日替わりでパフォーマンスをされていたのも楽しかったです。
やっている僕らも、とても楽しい時間でした。今回、僕は歌のソロはなかったので、あのような形でカーテンコールにソロを歌うチャンスをもらえる有難さ。演出家のジョン・ケアードが提案してくれた事だったんですが、本当に嬉しかったですね。身体能力の高いダンサーが多く出演している舞台でもありますので、日替わりで皆さんのオリジナルパフォーマンスを見る事ができるカーテンコールは、出演者である僕自身もワクワクしていました。こういうパフォーマンスの時間を作って『ナイツ・テイル』を終わらせたい。すべてがジョンの愛を感じますね​。
ーーそれを聴いてあのパフォーマンスの意味、そして作品全体の持つ一体感の意味が分かり、スッキリしました。何度でもまた観たくなりますね。
ジョンの頭の中を考えて考えて、もちろんジョンを信じて作品を作り上げていく日々が刺激的ですごく楽しかったです。こういう感覚は初演作品だったからこそ。皆がいい意味で探り合ってディスカッションすることで、表現が変わっていきました。
ーー大阪公演では、さらにこうしていきたい、という目標はありますか?
あえて空っぽに、頭の中をフリーにして迎えたいですね。自分がどうこの役に対して向かい合っていったか、その軸だけは忘れずにあらゆる情報を受け取れるようにしていきたいです。そうすることでまたピリソスという役と対峙できる。お客様がどこで沸いていたかとか、演じている側が気にしちゃうと芝居の間もおかしくなっていくので、台本の流れを忠実に。東京公演では予想もしていなかったところで笑いが起きた事が何度もありましたが、ジョンとしては「予想内」の事だったそうです。台本に書いてある事を忠実に作り上げていく事こそが大事、とジョンに教わってきましたね。
中井智彦
ーーちなみに『ナイツ・テイル』を再演したいですか? またそこにご自身も出演したいですか?
東京千秋楽の時に「もしまたやるなら『ナイツ・テイル2』がいいよね」という話がでたのですが、僕も同感です。再演もいいですが、続編もしくは全然違う作品もやりたいですよね。「騎士物語」をこんなに面白いアプローチで取りくめたのだから、新たな作品でまた一から作り上げ、ジョンに揉んでもらいたいです。その時はまたぜひ僕も呼んでもらいたいです(笑)。

ライブCD「見果てぬ夢」に込めた想いとは

ーーさて、『ナイツ・テイル』が終わると、次は中井さんご自身の活動が本格化しますね。
10月17日にライブ収録CDの第3弾をリリースいたします。これは、今年5月に開催した僕のミュージカルライブ『I Live Musical!3』を収録したもので、当日歌った楽曲の中から『ラ・マンチャの男』から「ラ・マンチャの男」と「見果てぬ夢」を、そして『ノートルダムの鐘』から「Someday」を選びました。
ーー通常スタジオなどで録音して作るCDとは異なる、こういったライブ音源のCDに対する想いを聞かせていただけますか?
このコンサートシリーズは歌に物語が入り込む、全ての曲が「一曲入魂」モノ。ライブ空間だからこそ生まれる高揚感、臨場感がふんだんに詰め込まれてます。そんなライブの魅力をもCD作品として残せる。表現者として、こんな幸せな事はありませんね。
ーー収録した3曲について、それぞれご紹介いただけますか?
まず1曲目の「ラ・マンチャの男」。大好きな曲なのですが、これまでライブでは歌ったことがなく、初挑戦の楽曲です。「ラ・マンチャの男」の映画を見るたびに、男としての生き様、そして演劇人としての存在意義など、自分の人生を重ね合わせちゃうんです。
2曲目の「Someday」は『ノートルダムの鐘』の劇中歌です。本来は女性の歌です。エスメラルダという女性が抱く平和への想いに満ち溢れた楽曲です。​優しく、暖かく世界を包み込む彼女の詩は、ジプシーという生き方の中で彼女が導きだした信念。彼女の心を少しでも理解してみたいと思い、今回歌いました。
3曲目にしてラストは「見果てぬ夢」。こちらも『ラ・マンチャの男』からのナンバーです。これまでも何度かライブのラストで歌わせていただいた曲です。この歌には「決して諦めない、あるべき姿に向かって道を突き進む」という信念が込められていると思います。僕が舞台に立ち続けられる限り歌っていきたいですね。
ーー渾身の3曲なんですね。中井さんの歌を聴いてみたいと思う方にはオススメの一枚ができたんですね。
ソロコンサート『I Live Musical!4』で限界に挑む
ーー11月17日に東京で、23日には大阪でコンサート『I Live Musical!4』を開催されるそうですね。今どこまで準備が進んでいますか?
先日、ピアノの長濱(司)くんとドラム&パーカッションのテオクソンくんと打ち合わせをし、二人にとんでもない量の楽譜を渡したところです(笑)。それでも最初の予定楽曲だとどうやっても上演時間が長すぎてお客様に申し訳ないので、昼・夜公演に振り分けてみました(笑)。なので東京の昼と夜とで違う楽曲のメドレーをやろうと思っています。昼は『アスペクツオブラブ』のメドレーを、夜は『レ・ミゼラブル』のメドレーをやろうと思ってます。どちらも20分くらいの長さになりそうで、僕がそれを歌い分けをしながら歌いきってみたいと思います。長濱くんも舞台『ブルックリン』にピアノで参加しているので、そちらが終わった所で本格始動となりそうです。
中井智彦
ーー『I Live Musical!』シリーズでは中井さんが毎回何かに挑戦しているとのことですが、今回の4での挑戦は何でしょうか?
今回は全曲ミュージカルにこだわりました。セットリストを考える際「もし中井的ミュージカルのベスト盤を作るなら?」というテーマを考えてみたんです​。僕の声はバリトンなので、バリトンの声質を最大限に活かしたミュージカルコンサートを作るとしたらどういうラインナップになるかな? と。
ーー先ほどセットリストを少し見せていただいたのですが、ボリューミーで驚きました(笑)。
『I Live Musical!』の翌日はだいたい動けなくなります(笑)。僕は全てをステージで出し切りたいタイプなんです。ロングラン公演だと、やはり身体のメンテナンスをしっかりやって身体の正常位置でやるんですが、『I Live Musical!』だと正常位置だけでは太刀打ちできない曲の変化となるので、この曲はここまで自分の感情を上げたいとか……その結果、コンサート後は灰になります(笑)。
ーー中井さんが「MAX中井」を見せる珠玉の一日になるんですね(笑)。限界に挑戦するとさらに自分のポテンシャルが広がるんじゃないですか?
そうですね。舞台でメインキャストをやりたいのも、そういう想いがあったからなんです。例えば『ファントム』(2008、2010)で大沢たかおさんがファントム役に限界まで立ち向かっていく姿、また初演の『ルドルフ』(2008年、2012年)の時も井上芳雄さんが役に立ち向かっていく姿を拝見し、自分も味わってみたい、でも自分はアンサンブルの一人だったのでその状態をもどかしく感じていました。
劇団四季に入って『オペラ座の怪人』のラウル役をやらせていただいた時は本当に嬉しかったですね。一人の役を1つの舞台でやりきる。僕自身がそういうものを求めていたことに気づかされた舞台でした。
僕は舞台が大好きで、ここから出るときに、自分の中で役のスイッチが入る瞬間がたまらなく好きなんです。『ナイツ・テイル』の時もピリソスとは別に台詞のない役も演じていましたが、台詞がないからこそ、この役はどういう人物か、それに集中してスイッチを入れて舞台に出る……その楽しさを味わっていました。この感覚は自分のコンサートの中で様々な楽曲を歌う時にも感じています。この歌はこんな人物が歌う、次の歌はまた別のキャラクターへのスイッチを入れて……と切り替えて歌ってるんです。
ーーそんな気持ちの切り替えをしながら、灰になるまで歌い上げる中井さんの姿をまた楽しみに待ちたいですね!
中井智彦
取材・文・撮影=こむらさき

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