山崎育三郎 インタビュー “表現者
”として新たな音楽スタイル=“ミュ
ージカルPOPS”を打ち出したアルバム
を紐解く

ミュージカルや舞台に加え、現在ドラマなどへも出演している山崎育三郎。俳優だけでなく、歌手としても活躍する彼が7月にオリジナルアルバム『I LAND』をリリースした。今作には多彩な楽曲が11曲収録されており、新しい音楽スタイル=“ミュージカルPOPS”を打ち出した会心の作品となっている。そんなアルバム『I LAND』と、同作を引っ提げて行なわれる全国ツアー『山崎育三郎LIVE TOUR 2019~I LAND~』についてたっぷりと語ってくれた。
――2年の制作期間を経て生まれた、山崎さんにとって初となるオリジナルアルバム『I LAND』。無比で多彩な“ミュージカルPOPS”を確立できた手応えは、とても大きいのではないでしょうか。
まさに、僕がずっとやってきたミュージカルの要素をちりばめた、自分にしかできない新しい音楽スタイル=“ミュージカルPOPS”を打ち出せたので。役者としての仕事をしながらの制作で時間はかかってしまったんですけど、ミュージカルやドラマや映画の現場でいろいろなことを感じて、変化していく流れの中で楽曲を作っていけたし、ひとつの型にはまらない、エンターテインメントとして楽しめる作品にできたんじゃないかな、とは思っています。
――なおかつ、曲ごとにガラっと異なる表情を見せていて本当に表現が豊かなのは、演技経験を多く重ねてきているからこそ、ではないかなと。
歌うとき、どちらかというとお芝居をする感覚に近いというか。自分の見えている景色やイメージを明確にしながら、歌詞を大事にきれいな日本語で歌うということは心がけているので。そう感じていただけて嬉しいです。
――なかでも、発見があった曲や新しい扉を開けられたなと感じられる曲を挙げるとすると?
「宿命」ですね。
――シリアスで歌劇的な楽曲にして、なんと兄弟ゲンカから迷子になってしまった子ども時代の思い出が歌詞のモチーフとなっている曲ですね(笑)。
そうです(笑)。聴いてくださった方からも、一番反応のあった曲で。子ども時代のエピソードを面白おかしくミュージカル調の楽曲にできないかというところから始まり、自分ひとりで重ねたコーラスにしても然り、レコーディングしながら自分のやりたいことを形にしていって。
――閃くまま、ワクワクしながら作れたわけですか。
本当に、自分自身が遊びながら作っていきましたね。舞台の稽古にしても、現場で盛り上がるとそれはお客様に伝わるということはいつも感じているので。スタッフも含め、ああでもないこうでもないと言いつつゼロから作り上げていく作業は、もちろん大変さもあるんですけど、面白さを感じながらやっていました。
――「これ実話なんです」と山崎さんが切り出すセリフ部分にしても、アドリブだったりして?
完全なるアドリブですね。何もないところから思いつくままに入れてみたら、「今のいいんじゃない?」って。最後の高音を伸ばすところにしても、「どこまで伸ばすの?」ってみんなが笑っている中、僕が自由に歌っただけです(笑)。
山崎育三郎
――何度聴いても、本当に楽しい曲です(笑)。かと思うと、「Turning point」では実体験を踏まえてのリアルなメッセージを感じられたりもします。
「Turning point」は、高校時代、2000人の生徒がいる中で日本人はおろか、アジア人もひとりもいないアメリカのミズーリ州に留学したときの経験を基にした楽曲で。一度レコーディングしたものの、何度も自分で聴き直すうちに、芝居っぽくポツポツしゃべる方向で歌いたいと思って、録り直したんですよ。
――どうりで、歌い出しからして寂しさや孤独感がひしひしと伝わってきます。
ミュージカルで歌うときなんかも、しゃべりたいときは語尾をあまり伸ばさないんですね。すると、よりストーリーに入っていけるっていう。ミュージカル俳優は歌うというよりはセリフとして言葉をとらえて、芝居的な感情を意識しているから……。
――その経験が生きたわけですね。ただ、想像するにとても難しそうです。
いやぁ……難しいですね。でも、僕はやっぱり歌詞を伝えるということにこだわりたいし、特に「Turning point」には芝居的な要素を取り入れたいなと思って。自分なりに試行錯誤をしました。
――“あの時の勇気が あの一歩が僕を変えてくれた”という一節然り、自分次第で状況を変えられる、未来を切り拓いていけると、力をもらえる曲でもあります。
どんな状況に置かれていたとしても、多くの人に当てはまる言葉なんじゃないかなと思うし……そうですね、前向きなメッセージになればいいなと。実体験や自分が感じてきたことを歌うというのは初めてのことでしたけど、より深いところで言葉を伝えられたんじゃないかな、という感覚はあります。
――また、「I LAND」では作詞に参加し、「ヒカリ」はご自身で作詞・作曲もされていて。「I LAND」はアルバムの幕開けに相応しく、早速夢の世界へと誘われてしまいます。
期待感に胸を膨らませて劇場に足を踏み入れ、幕が開いてオーケストラの演奏が始まり、役者が舞台に登場した瞬間に物語の世界に入り込めるのが、僕の好きなミュージカルの醍醐味。『I LAND』というアルバムの幕開けも、そういうワクワクできるものにしたかったんです。
――日常を忘れ、すっかり魔法にかかってしまいますから。
“ちちんぷいぷい”という意味のおまじないの言葉<Hocus Pocus>はシンデレラを、<I can fly so you can fly>というフレーズはピーターパンをイメージして。去年は『美女と野獣』の吹替版キャストをやらせていただきましたけど、僕自身、日常を忘れてその世界に浸れるディズニー作品やディズニーランドの世界観が大好きなんですよ。そういう非日常の夢のような世界、ディズニーランドならぬ“I LAND=育三郎ランド”にみなさんを誘いたいという想いを込めました。

――いっぽう、「ヒカリ」はつながれた命、愛を、今度は自分がつないでいくんだという温かな決意に満ちていて。
ミュージカルの色が濃かったり、エンターテインメント性が強かったり、ドラマティックに歌い上げる曲が多い中で、1曲、等身大の自分が感じていることを、大事なものを包み込むような温かくて優しいメロディと歌詞で、素直に歌いたいなと思ったんです。小さな命に“ヒカリ”を感じたからなんでしょうね。ピアノでメロディを作り始めてみたら、自然と“家族”をテーマにしたいなという想いが芽生えて。親に愛されて、守られてきた自分が大人になってみれば、こういう想いでいてくれたのかということを初めて感じたりもするし、その感謝を伝えたいという気持ちもあって、手紙を書くように書いた歌詞でもあります。
――本当に、色鮮やかで心動かされる作品なわけですが、オリジナルアルバムを初めて作ってみれば、ますます創作意欲がかきたてられていたりもして?
そうですね。自分から生まれるものに対してはより想いが入るから、もっともっと自分で歌詞や曲を書いてみたいと思いますし。自分の声や響き、好きなメロディや得意な音域を活かした曲を作っていきたいなという意欲はあります。
――10月1日からは、作詞を担当された「こどもこころ」がNHK『みんなのうた』にて聴けますし。
『みんなのうた』、初登場させていただきます。目にするもの耳にするものすべてがキラキラ輝いて、毎日ワクワクしている子どもの頃の気持ちをいつまでも大事にしてほしいなという願いを、自分なりの表現で子どもたちに届けたいなと思っていて。また新たなチャレンジとなりますが、子どもたちにどんな感じで響くか、僕自身すごく楽しみですよ。
――それにしても、どんなに忙しい中だろうと、山崎さんの表現欲・挑戦欲は途切れることがないのですね。
お芝居と違うお仕事があることで、自分の中に生まれるものが大きくなっている感覚もあるんです。お芝居をすると、その役を通じてあたかも自分が経験したかのような気持ちになって、それが自分をすごく成長させてくれるというか。表現方法は違えど、役者と音楽活動はつながっているな、と感じます。
――相互作用があり、相乗効果もあると。
間違いないです。そして、役者だとか、ミュージカル俳優だとか、歌手だとか、タレントだとか、いつかそういう垣根がなくなればいいな、とも思います。今はまだ、テレビに出ると“ミュージカル俳優の”と紹介していただくことが多くて、それは多くの方が僕に対して抱いているイメージであり、そうやって認識していただいていることはとてもありがたいんですけど。僕の好きなヒュー・ジャックマンさんは、アクションもこなすハリウッドスターでもあり、ミュージカル俳優としてブロードウェイにも立って、歌も歌うし、司会もするし、映画のプロデューサーでもするし……いろいろな顔があって、そのときどきで、自分が表現したい場所や表現できる場所に行っているわけで。
――当てはまるのは、きっと“表現者”だったり“エンターテイナー”という言葉ですよね。
そうそう。舞台でもドラマでも映画でもバラエティでも、どこであろうと、第一に考えているのは受け手にどうしたら楽しんでもらえるか、喜んでもらえるかということ。僕もいつでもそう在りたいと思っているし、自分が表現したいこと、表現できることがあるなら、どんどんチャレンジしていきたいんです。
山崎育三郎
――2019年1月からは『2nd LIVE TOUR 2019 ~I LAND~』が始まりますが、東名阪を巡った『1st LIVE TOUR 2018 ~keep in touch~』よりも規模が拡大して、初の全国ツアーとなりますね。
そうなんです。『I LAND』の楽曲はもちろんのこと、今回のツアーではミュージカルの舞台で歌ってきたナンバーも取り入れようかなと。歌手としての山崎育三郎もミュージカル俳優としての山崎育三郎も、どちらも見せたいなと思っています。
――いち観客として考えると、なんと贅沢な。
これまで行ったことのない場所も多いので、僕がステージに立つ姿を初めて観る方たちはじめ、みなさんにどちらの顔も観ていただきたいし、楽しんでいただけるようなものにしたいです。
――ステージに立ってお客さんを巻き込みながら歌うライブは、山崎さんにとって格別の楽しさを感じる場所でもあったりして?
もう、すごく楽しいです。ミュージカルの舞台に立つのも大好きですけど、お客様との一体感・高揚感は、ミュージカルでは味わえないものだったりもしますから。100%セリフだと思って歌っているミュージカルと違って、歌手としてライブをするときには、アップテンポの曲は特に、お客様の顔を見ながらみなさんを巻き込んでいったりとか。なので、『1st LIVE TOUR 2018 ~keep in touch~』のときには目を見て煽ってくる僕の姿に戸惑うファンの方もいらっしゃったんですよ。ミュージカル観劇の場合、ペンライトを持ったり、立ち上がったりすることもないですからね。「本当にペンライトを振ってもいいのか、立ち上がってもいいの?」みたいな雰囲気もあって(笑)。1曲終わったらお客様が静かに座ったり……。
――まだまだいきます!というところで(笑)。
そうそう(笑)。でも、そうやってファンの方たちと一緒にライブならではの高まり方を見つけていくというのもまた、歌手としてのライブの楽しいところで。もちろん自分次第という緊張感はあるものの、ライブは自分にとってのご褒美。やっぱり僕は、お客様がいて自分がなにかを表現するということが大好きなんだと思います。今、撮影をしているドラマ10『昭和元禄落語心中』(NHK総合/10月12日より放送開始、助六を演じる)でもお客さんを入れての落語シーンがあって、それもすごく楽しいんですよ。
――伝統的な話芸である落語も、ものにしてしまっているとは。すごい!
いやいや、楽しいものの苦戦していますよ!? これまで、落語を聞くことはあっても自分で話したことなんてなかったし。それなのに、いくつもの演目をマスターしなくてはいけなくて。もしかすると、『モーツァルト!』(主役であるヴォルフガング・モーツァルトを演じた)よりもセリフが多いのかな? しかも、『レ・ミゼラブル』のマリウス、『ロミオ&ジュリエット』のロミオだったり、西洋の人物を演じることの多い僕にとって、古典落語の江戸言葉はまったく使い慣れていないので。本当に難しいし、おまけに僕が演じる助六は“天才落語家”なんですよ。正直言って、過去最高に追い込まれています(笑)。
――しかし、山崎さんはきっとその高すぎるハードルも飛び越えてしまうのでしょうね。
なんとか飛び越えたいと思いますので、そちらもぜひ、ご覧ください!
――楽しみにしております! 『2nd LIVE TOUR 2019 ~I LAND~』の準備は、その収録が終わってから?
ということになりますね。
――演出面でも、ご自身でアイデアを出されたりとか。
そうですね、演出面にもしっかり関わって、曲それぞれの世界観を大事にしながら見せ方を考えたいなと思っています。
――『2nd LIVE TOUR 2019 ~I LAND~』でまた、新たな見つけものに出会えそうですね。歌手として、今現在思い描いている夢もあるのでしょうか。
武道館での単独公演は、いつかやりたいですね。あと、日本古来の楽器を楽曲に取り入れたりとか……。
――『I LAND』ではピアノやストリングス、管楽器といった西洋的な彩りが花を添えていますが、山崎さんの歌終えと和要素との組み合わせも素敵なことになりそうです。
きっとまた新たな色合いが生まれるだろうし、和とのコラボレーションにすごく興味があります。ほかにも、作曲家さんに“ミュージカルPOPS”をテーマにした楽曲を書いていただきたいなとか。ひとつのアルバムが大きなストーリーとなっているような、コンセプチュアルな作品を作るのも面白そうだなとか。これからも自分ならではの表現、音楽を追求していきたいし、それをみなさんに楽しんでいただけたらいいなと思っています。

文=杉江優花

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