『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス?』演出・
本広克行×脚本・鈴木聡が語るももク
ロ論。「舞台では生き生きとした彼女
たちを見せたいし、見たい」

映画監督の本広克行が『幕が上がる』の映画版、舞台版(PARCO制作)に続いて、ももいろクローバーZを主演に迎え、彼女たちの楽曲をふんだんに使った“ジュークボックス・ミュージカル”を手がける。ラッパ屋の鈴木聡が脚本を書き下ろした『ドゥ・ユ・ワナ・ダンス ? 』だ。モノノフを自認する鈴木と、あくまでモノノフではないと主張し続ける本広。二人の対談はテレ合いながらも、熱く盛り上がっていく。
––僕は本広さんと鈴木さんは、エンターテインメント性という部分で相性がすごくいいのではと勝手に思っているんです。今回、本広さんが演出のミュージカルというお話が来たときは鈴木さんはどんな印象でしたか?
鈴木 僕からすると、本広さんは圧倒的にメジャーな人ですよ。
本広 え?!
鈴木 大メジャーな人ですよ。
本広 そうなんすか?!(笑)。鈴木さんだって朝ドラ(「あすか」「瞳」)とかやられているじゃないですか!
鈴木 でもなんていうか……ホームグラウンドはやっぱり小劇場だなって思うんですよ。
本広 僕は鈴木さんが主宰しているラッパ屋も何度も観ていますし、ラッパ屋の俳優さんに「踊るシリーズ」に出てもらったり、『FABRICA(ファブリカ)』という舞台で役者さんに出てもらったときは鈴木さんが観に来てくださったり。鈴木さんに対しては演劇界の偉い人というイメージです、僕の中では(笑)。
鈴木 ありがとうございます。実は僕、本広さんの映画はあんまり見てないんですよ。
––そんな素直に言わなくても(笑)。
鈴木 そうでしたね(苦笑)。もちろん、『幕が上がる』は見てますけど。
鈴木聡
––鈴木さんもお好きだそうですね、ももクロ。
鈴木 僕はだってラッパ屋で、2012年に『おじクロ』という芝居をやっているくらいですから。まさにその年にハマってしまったんですよ。ももクロに夢中になって、ももクロのことしか考えられない数カ月があった。
––恋しているみたいな?
鈴木 そうとも言えます。それで、そのころラッパ屋の脚本を書かなければいけなかったから、ももクロの芝居にすればももクロのこともずっと考えられるじゃないですか。
本広 ハハハ!
鈴木 いや、本当にラッパ屋のことを考える余裕がなかった。それで、ももクロファンのおじさんたちが「怪盗少女」を踊るという芝居にしたんです。
––何がきっかけで恋するようになったんですか?
鈴木 ドランクドラゴンの塚地武雅さんがももクロのライブを見て、すごく幸せそうな顔をしている写真をネットで見つけたんですよ。人間こんなにも幸福な顔ができるのかと。
本広 フフフ
鈴木 塚地さんのことは俳優として素敵だと思っていたので、ももクロってどんな女の子たちなんだろうと調べたんです。そしたらファンのコメントがアツい。号泣するとかそんなことばっかり書かれている。それで、みんながここまで言うんならCDやDVDを買って勉強しようと思ったんです。そしたら号泣ですよ。まあそのあたりからいろいろとですね。
本広克行
僕と鈴木さんではまったく選ぶ曲が違うんです(本広)
最終的な曲選びは僕が妥協しました(鈴木)
––ところでお稽古はどんな感じですか?
本広 まず僕が楽しんでますね。ミュージカルにあまり興味がなかったんですけど、お芝居、歌、振付の時間がそれぞれあって、こんなにすごくて面白いんだって思っていますね。1幕目は2日で芝居をつけました。
鈴木 快調じゃないですか!
本広 快調です! 『幕が上がる』のときはまったくせりふを覚えられなかった彼女たちが3日目にはもう台本を手放してましたから。
鈴木 うそー?!
本広 本当に。そのぐらい鈴木さんが書かれたせりふが入りやすいんですよ。スラスラ言えちゃうんです。
鈴木 それはよかった。
本広 始めは荒く演出をつけていたんですけど、こちらが焦るくらいに早かったですね。
−−ジュークボックス・ミュージカルをやる上では曲のセレクトはすごく重要なわけですが、そのへんはお二人で話し合って?
鈴木 最終的には僕が妥協しました。
一同 笑い
本広 物語の流れ上、この曲は外せないというものはお願いして変えていただきました。やっぱり僕が見たい画があるんですよ。
鈴木 本広さんは映像の方だから、画のイメージに対してはかなり頑固なんです。だからもう言うことを聞くしかない(笑)。
本広 アイドルのコンサートを見る時にセットリストはめちゃくちゃ重要なんですよ。
鈴木 いわゆるセトリってやつです。
本広 そう、ライブを一緒に見にいって「これ入れられないかなあ」「これは入れたほうがいい」とか、お互いにセトリを構築してみたんです。そうしたら好きな路線が違う。
鈴木 選曲がまったく違いました。僕がハマったときはまだアルバムも「バトル アンド ロマンス」の1枚しか出てなかったから、あれをものすごく聴き込んだんです。だから1番好き。
本広 多くのモノノフはメンバーが6人から5人に減った、衝撃的にももクロに勢いがあったときの曲を聴き込んでいるんです。でも彼女たちは新しいものにどんどんチャレンジしている。だから新しい世代の曲と初期の曲をミックスしている状態です。
2015年舞台「幕が上がる」 写真提供:株式会社パルコ 撮影:阿部章仁
趣向のたくさんあるライブだと思ってもらえばいいかもしれない(鈴木)
––脚本を拝見したらいきなり4人とも死んでしまうので驚きました。
鈴木 普通そう思いますよね(苦笑)。そのアイデアは本広さんの提案なんですよ。それで最初、僕はそういうのは苦手だなって思ったんです。
本広 ハハハ! 
鈴木 僕の作風ってもっと中間管理職の悲哀だったり庶民的じゃない? ファンタジーなことってあんまり起こらないでしょ。
本広 確かに(笑)。当初は鈴木さんにストーリーをいろいろ考えていただいたんです。でも僕の中でだんだんこういうふうにしたほうがいいんじゃないかと思うようになって。今まで与えられた本をどう映像化するかが僕の仕事だと思っていたんですけど、初めて自分の思いをぶつけて書いていただいたんです。ももクロって輪廻転生みたいな曲がいっぱいありますよね?
鈴木 あるある。
本広 リボーンもある。それが大きかったんです。
鈴木 僕は僕でモノノフではあるけれど、職業脚本家として、お客さんと共有できる要素は使わせてもらおうと。そういう意味ではメンバーのキャラクターをそのまま生かしたほうが話は早い。物語ではダンス部の仲間という設定なんですけど、ももクロの4人だから絆があって当たり前じゃないですか。その4人全員が事故で死んでしまうんだけど、3人はどこかで生まれ変わるのに、夏菜子ちゃんだけは元の人格のまま取り残されてしまう。生まれ変わると仲間たちの記憶を失ってしまうんだけど、夏菜子ちゃんだったらそんなの絶対いやだって言いそうじゃない? ほかの3人は、もし歌手になっていなかったらどんな職業になっていただろうかということを考えたり、あーりんついては『幕が上がる』の設定を引き継いだり。
本広 はい、はい。
鈴木 そのメンバーを夏菜子ちゃんが探し歩く話なんですけど、前世やパラレルワールドがごっちゃになっているのは夏菜子ちゃんがおバカだから(笑)。つまりちょっとズッコケ転生ものなんです。
本広 それが夏菜子ちゃんはやりやすいみたいですね。
鈴木 あ、そうですか!(うれしそうに)
本広 楽しいー!って。稽古場は笑いが絶えないですよ。
鈴木 あぁ良かった。僕としては彼女たちを生き生きとさせたい、それだけなんです。なぜなら僕が生き生きとした彼女たちが好きだし、見たいから。僕らを元気にしてくれるももクロの魅力を描きたかったんです。
––虚実ない混ぜな展開もモノノフ心をくすぐるのかなと。
鈴木 うん、ももクロのコンサートも虚実が同居しているんですよ。エンターテインメントとしてやっているけれど、いつも彼女たちの実人生が投影されている。そしてそれがすごい魅力になっている。そこがおそらくほかのグループと大きく違うところでもあると思うんですよね。
––2幕では4人が再びそろって、ヘヴンという架空のグループとして行うコンサートシーンもあります。客席は一緒に盛り上がってもいいですか?
本広 2幕は冒頭から全開になっているんです。ですから踊りたい人は踊っていただければいいし、ちゃんと見たい人はゆっくり見ていただければいいですよ。僕はライブに行っても立てないんですけど。恥ずかしくて踊れないんです。
鈴木 でも見えなくなっちゃうから仕方なく立つんだよね。コンサートがあって、そこにドラマが乗っかるんだと。趣向のたくさんあるライブって捉えていただければそれでもいいなって思いますね。どんな見方をしてもらっても楽しく見ていただけると思います。
取材・文:いまいこういち

《本広克行》高校を卒業後、映画学校、映像制作会社を経て、1996年に初の映画監督作品『7月7日、晴れ』で劇場デビュー。2003年に公開された映画『踊る大捜査線 THE MOVIE2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』では、日本映画(実写)興行収入記録歴代一位の座を獲得。その後もドラマ・演劇・アニメ・ゲーム・MV・ショートムービー・CMと、活動の場は多方面にわたる。2013年「さぬき映画祭」ディレクターに就任。最近作は2015年公開の映画『幕が上がる』(平田オリザ原作・ももいろクローバーZ主演)。同作の舞台版でも演出を担当した。最新作は映画『亜人』、『曇天に笑う』、HTB開局50周年ドラマ『チャンネルはそのまま!』(2019年3月放送予定、Netflix独占先行配信、および北海道地区 )
《鈴木聡》​早稲田大学卒業後、広告会社博報堂に入社。コピーライターとして活躍。1984年サラリーマン新劇喇叭屋(現ラッパ屋)を旗揚げ。現在は、演劇、映画、テレビドラマ、新作落語の脚本執筆など幅広く活躍。主な作品は、ミュージカル『阿 OKUNI 国』、松竹『寝坊な豆腐屋』、パルコ『恋と音楽』シリーズ、NHK連続ドラマ小説『あすか』『瞳』、テレビ東京『三匹のおっさんスペシャル』。ラッパ屋『あしたのニュース』、グループる・ばる『八百屋のお告げ』で第41回紀伊國屋演劇賞個人賞、劇団青年座『をんな善哉』で第15回鶴屋南北戯曲賞を受賞。

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