INTERVIEW / Kllo 「不安を持つこと
は強さでもある」――このしなやかさ
こそ、夜に融けゆく電子音楽の泉なの
か。注目の従兄妹デュオが“今”を語
ってくれた

現在、ワールド・ツアーの真っ只中にあるKllo(クロー)は、オーストラリア・メルボルン出身の従兄妹によるデュオ。彼らが今年5月にリリースした新シングル「Potential」は、昨年のデビュー・アルバム『Backwater』までとは異なる一面を魅せてくれた。この変化というのは、ふたりの人生観と音楽がこれまでよりずっと密接になってきたことに理由があるのではないか。また、それが最もはっきりと現れるのはリリックだ。
そこで、今回のインタビューに関しては、ボーカル/作詞を務めるChloe Kaulの“パーソナルな部分”が最大の焦点になるだろうと踏んだ。もちろん、“表現者としての考え”も答えてくれているので、ぜひ本記事の行間を読んでみてほしい。なぜなら、全部で11あるQ&A項目の関係性から、彼女の率直な見解――「今の自分たちのあり方をどう捉えているのか」について――が得られるはずだから。
例えば、「世界中のファンとのコミュニケーション」と「故郷への想い」。一見、相反していそうなふたつの間には何が読み取れるだろう。私は一貫したものを感じたけれども……各々が考えを巡らせる機会となれば嬉しい。
ところで、「Potential」にも少し触れておこう。インタビュー本文中でも指摘しているが、オルタナティヴR&Bやダウンテンポの要素が色濃く表れた楽曲となっている。実際のところ、以前までは(エクスペリメンタルの雰囲気はありつつも)エレクトロニックで、2stepな2人組というイメージが強かった。それだけに、この度の方向転換にはかなり良い意味で驚かされた、のもまた事実。特定のフィールドに固執しない方がおもしろい。まあ、すべからく彼らの場合はもっと自然な形で行われたわけだが――
だからこそ、眼前に迫る初来日公演が俄然楽しみになってくる。夜を踊り明かすなか、果たしてどのタイミングでこの新曲が投入されるのか、それがどういう快感をもたらすのか、今から気になって仕方ない。9月7日(金)、ともにKlloのふたりを迎えよう。
Interview & Text By hikrrr
Interpreter by bacteria_kun
ーーまず、新シングル「Potential」について。今年6月に公開されたインタビューでは、 「(同曲には)まだ、私たちが自然に振る舞うようなノスタルジアがある」(http://www.undertheradar.co.nz/news/14497/Interview-Seven-Questions-For-Melbournes-Kllo.utr) とおっしゃっていますね。実際のリリックはもの憂げに聞こえるものの、上記の発言は肯定的に捉えられると思います。つまり、本楽曲は一種のカタルシスとして機能するということでしょうか?
Chloe:その通りね。この曲、そして私たちのほかの多くの楽曲は、感情を浄化させるためにあるんだと思う。こうして世界を巡ってショーをしている時も、夜ベッドルームでただビートを作っている時も、音楽はいつだって私たちの感情の捌け口なの。どれもすごくパーソナルな部分から湧き上がってくるものだけど、時を重ねるにつれて、言葉の中、そして音楽の中へそれを解放することに自信を持てるようになってきた。だから、カタルシスとして機能しているというのはすごく的を得ているし、「Potential」の歌詞はもちろん自分たちの現在のパーソナリティを反映しているのだけれど、もっと楽な気持ちでいられるの。
ーーなるほど。だからかもしれませんが、私は今作から沈滞したイメージとすがすがしいイメージを同時に受け取りました。それは デビュー・アルバム『Backwater』で醸成した世界観から地続きにあるものと、バンドの未来像(つまり“可能性”)のような気がしています。過去と未来を提示することで、間接的に“今”を描き出すといった意図はありましたか?
Chloe:私は未来についてよく空想するし、過去を振り返るのも好きで、昔のことをいつまでも引きずっていたりするんだけど、その分“今”について考えることを忘れてしまっていることがあるの。それが自分にとってベストなことだとは思っていないけど、過去と未来からインスピレーションを得ているのは確かね。逆に、もし常に“今”を生きているタイプだったら、きっと私はクリエイティブではなかったと思う。
ーー「インスピレーション」という言葉が出てきましたが、これに関して、「Potential」制作中のエピソードを何か聞かせてもらえますか?
Chloe:私たちはニュージーランドのレッドブル・スタジオで「Potential」の制作に取りかかったの。現地でショーをやった翌日で、私たちはしばらくの間ふたりで曲を作っていなくて。知らない土地で新鮮な空気を吸って、いつもとは違った頭の部分が刺激されたみたい。おかげで、Klloはバンドとしても、それぞれの私生活においても、次の章に進むための準備ができたように思う。
ーーそうした環境が新たなスタイルの楽曲に繋がったんですね。例えば他にも、前作『Backwater』から今作までの約7ヶ月間で新しく発見したこと、気づいたことは何かありましたか? 音楽にまつわることでなくても結構です。
Chloe:アルバムをリリースしてから、制作への取り組み方や音楽との向き合い方みたいなものが、自分たちの中で大きく変わったのを感じてる。ひとつのアイデアに固執して数日を無駄にするようなやり方をやめて、上手くいかないと判断した時点で気持ちを切り替えて、次のことに取りかかれるようになった。順調に事が進むってことは、それが私たちに合っていて上手くいっているってことだし、もし停滞してしまった時には一旦別のことに取り組んで、そのアイデアが再び新鮮に感じられるようになった時に手をつければいいんだと思えるようになった。
ーーところで、世界中をツアーで回るという経験を経て、出身地であるメルボルンに対しての気持ちや価値観は変化しましたか?
Chloe:メルボルンはこれから先も、私たちのホームであることに変わりない、とても美しいところよ。でも、色々な国をツアーで旅してみて、故郷に対する見方はやっぱり変わった。オーストラリアがどれだけ小さなところなのかを思い知ったし、制作のやり方が変わったのも、それ以外の世界の広さや多様な価値観に触れたから。みんなが成功するために、どれだけの努力をしているかってことを身をもって感じて、甘えていた自分に蹴りを入れられた感じ。頑張らないと色々なことを実現させることはできないんだってことを思い出させてくれて、目を覚まさせてくれる環境に身を置くことは大切ね。当たり前に聞こえるだろうけど、周りの雑音に気を取られるとすぐに見失ってしまうから。メルボルンでなんとかやっていくというのは簡単で、それも気楽でいい生き方なんだけど、目標に専念してそれを成し遂げるための環境に居続けることは難しい。だからこうして、自分たちの作り上げた作品を通じて世界を巡るチャンスが持てたことが本当にうれしいわ。
ーーメルボルンでバンドを始めた時の“初心”を、ある意味、世界が思い出させてくれているんですね。素晴らしいことだと思います。それでは、音楽活動におけるどんな要素に対して、あなた方は希望を感じ、そして不安を抱きますか? これまでの質問とも関連して、環境や経験がどのように感情と思考へ影響しているのかについてより深くお聞きしたいです。
Chloe:このバンドはすでに自分たちが思い描いていた場所よりも遥か先のところまで来ていて、今こうしていられること自体がすごくラッキーだと思ってる。それでも私たちはふたりとも些細なことで時々すごくナーバスになってしまう。でも、それは、元々そういう性格なんだと思う。それに、不安を持つってことは脆さでもあるけど、強さでもあるわ。そのおかげで、私たちは作品を完璧にしたいという思いが強くて、納得できるまで決して止まったりはしない。ただ、自分たちの思ったように形にできない時には、その分苦しんでしまう。私たちはすごく心配性だから、ハードルを乗り越えるまでに時間がかかってしまうことがあるの。
ーー「不安を持つことは強さでもある」という部分、すごく共感します。そうしたことも楽曲に反映されていくのかなと思いますが、コンセプトを伝えるために(今作に限らず)特に意識していることはありますか?
Chloe:あまりない、というよりも、考えすぎないことを意識しているかな。頭であれこれ考えるより、心に従うようにしてる。考えすぎると、何かに従わされているような気がして、音が機械的になってしまう。表現すべきことをそのまま伝えるために、即興的でいるようにしているわ。
ーー“即興”から派生して。ライブ・パフォーマンスのなかで、どんな風に観客とコミュニケーションできるのが理想だと考えていますか? Klloの楽曲には、オーディエンスの身体に訴えかけるダンス・ミュージックが数多くあります。その一方で、「Potential」はR&Bやダウンテンポの色が強く、どちらかと言えば“想いを伝える”のに適した曲に仕上がりました。
Chloe:繰り返し同じ曲を同じように演るのでは飽きてしまうから、自分たちにとっても刺激となるようにセットにはいつも変化をつけていて、新しいやり方にチャレンジしているの。私たちの音楽はたくさんのジャンルを行き来しているから、その多面性を上手くセットに織り込んでみせることも意識してる。雰囲気を保ちながらも可能な限りダイナミックでいたいと思っているわ。
ーー次に、従兄でもあるSimonさんについてお聞きします。バンド・メンバーとして信頼しているポイントはどこですか?
Chloe:従兄妹としても友達としても、幸運なことに互いに多くの信頼があって、全てが愛とサポートで成り立ってる。私はどちらかといえばルーズな方で、音楽的にはソウルやポップに影響を受けてきたけれど、Simonは思慮深くロジカルなタイプで、音楽的なバックグラウンドはロックとジャズね。私たちは全然似ていないし、でもふたりの異なる部分がKlloを成立させているんだと思う。ふたつの世界が共存しているの。
ーー人としても活動としても、お互いを尊重し合うことが信頼に繋がっているということでしょうか。以前、おふたりは 「新しい音を探しているというより、人としての自信を探っている」、「私たちは常に(音の)方向性を変えている」(http://www.undertheradar.co.nz/news/14497/Interview-Seven-Questions-For-Melbournes-Kllo.utr) というお話をされていました。私はこれを、「人は変わるものだし、人間として魅力的になるにつれ音楽の内容も豊かになっていく」という風に理解していて。そうした点も踏まえて、Chloeさんの尊敬している人が知りたいです。
Chloe:Little DragonのボーカルのYukimi。彼女の声に、私は一瞬で恋に落ちた。彼女の持っている声色はそれまで感じたことのない方法で私に強く響いたの。彼女には本当に特別な何かがあって、初めて彼女の声を聴いた瞬間の鮮烈な衝撃を、この先もまた感じるような出来事があればいいと願っているけれど、あそこまでの感動はそう簡単には訪れないものね。Yukimiとの出会いは、自分も歌い手として本物でありたいと思わせてくれた。それほど強く、感情を揺さぶられたの。
ーー最後に。9月7日には初の来日公演が控えていますが、それに向けて今の心境を聞かせてください。
Chloe:もう待ちきれないわ! 日本のみんなの前でプレイすることはずっと夢だったし、それを遂に叶えることができてすごく嬉しい。新曲はもちろん、ちょっと昔のリリースされていない曲なんかもプレイするつもり☺︎
私たちふたりの好みが反映された、多彩なセットになるはず。もちろん、私たちのデビュー・アルバム『Backwater』からもね! みんなに会えることをとても楽しみにしているし、一緒に踊ってもらえたら最高!
【イベント情報】

“OMSOC feat. Kllo”

日時:2018年9月7日(金) OPEN / START 24:00
会場:東京・渋谷 TSUTAYA O-nest
料金:前売 ¥3,000 / 当日 ¥3,500 (1D代別途)
出演:
[5F Live]
Kllo (Australia)
Dorian
monjoe from yahyel &荘子it
PARKGOLF
BUDDAHOUSE
ホワイトタイガー (OL Killer)

[6F DJ]

HOWL(NEON)
iitoomouyo
HARU (JUKE)
Pico (Negative Cloud)
EUREKA (Negative Cloud)
※未成年者の入場不可・要顔写真付きID
※チケット発売中(e+)
主催:(株)シブヤテレビジョン
協力:THISTIME / PLANCHA / MOORWORKS / SPLUCK
[info]
TSUTAYA O-nest 03-3462-4420

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