climbgrow 何が飛び出すかわからな
いスリル、4作目『CROSS COUNTER』に
表われた変化と進化

順調にリリースとその後のツアーを重ねながら、滋賀県出身の4人組、climbgrow(クライムグロー)は成長を続けている。タフなロックンロール・バンドというバンドの芯はもちろん変わらないものの、4作目となる今回のミニアルバム『CROSS COUNTER』でも、さらに新たな一面が表われてきた。まだ若いバンドだ。あらゆる可能性を探りながら、自分たちに正直に曲作りに取り組んでいるんだろう。だから、何が飛び出すかわからないスリルとおもしろさがある。前3作同様、全6曲を収録した『CROSS COUNTER』もロックンロールを演奏する以外は、退屈と虚しさを持て余していると思わせ、突然、ストレートに<I LOVE YOU BABY>と歌って、こちらを慌てさせる。果たして、今回はどんな心境の変化があったのか。照れたり、斜に構えたりしながら、訥々と語る言葉から、彼らの想いを受け取ってほしい。
ライブ中に僕がけっこう暴言を吐いてしまうんですよ。やめようと思っても止まらないんです。お客さんに対して、愛が足りてないなってところがあった。
――最初に『CROSS COUNTER』というタイトルについて聞かせてください。そのタイトルは、2曲目の「未来は俺らの手の中」の<差し込めクロスカウンター>からつけたんじゃないかと思うのですが、リリース後に東京と大阪で開催するレコ発自主企画イベントのタイトルが『No Guard』。クロスカウンターでノーガードと来ると、僕の世代は、どうしても『あしたのジョー』を連想してしまうのですが。
杉野泰誠(Vo&Gt):おとんが好きやったんですよ(笑)。その影響で、僕もずっとマンガもアニメも見てたんで、そこから取りました。
――そうか。お父さんが好きだったのか(笑)。他の3人は『あしたのジョー』は知ってました?
田中仁太(Ba):知らないです。
杉野:そこはもう俺が無理やり(笑)。
――『あしたのジョー』のどんなところが好きだったんですか?
杉野:ドヤ街からボクシングで駆け上がるところが好きでしたね。かっこよくないですか? 男臭くて。
――クロスカウンターを、自分たちの作品のタイトルにつけたのは、どんな理由から?
杉野:パンチのあるタイトルにしたかったんです。これしかないと思いました。パンチって言葉が出てきたんで、もうストレートに(笑)。
谷口宗夢(Dr):そこは掛けてるんだ。パンチの意味が違ってきちゃってるけど(笑)。
――『あしたのジョー』のクロスカウンターって、自分の身を斬らせて、相手を倒す必殺技じゃないですか。そんな気持ちもあるんじゃないかと想像しましたが。
杉野:魂を削ってる感じを出せればいいかなって。
――『CROSS COUNTER』ってタイトルを提案されたとき、3人はどう感じましたか?
谷口:しっくり来ましたね。
田中:強そうだなって。
谷口:何個か候補はあったんですけど、ぱっと(字面を)見たとき、めっちゃいいやんって思いました。意味合い的にも。反撃とか、ここからのし上がるとか、そんな感じがあるじゃないですか。
――まだまだ、のし上がっていかなきゃいけないな、と。
杉野:クロスカウンターでがんばろうと思います(笑)。
谷口:え、ずっと? ずっと、ずっとクロスカウンター?
杉野:そう、クロスカウンターで。
谷口:技を変えろよ(笑)。
――『あしたのジョー』にはダブルクロスカウンター、トリプルクロスカウンターもありましたね?
杉野:だから、次の作品は『DOUBLE CROSS COUNTER』にします(笑)。
谷口:今回、すでに4枚目やけどな。
杉野:いやいや、ここから始まるから。
田中:わからんことになるやんか(笑)。
――その<クロスカウンター>という言葉が歌詞に入っている「未来は俺らの手の中」は、今までにないタイプの曲でちょっとびっくりしたんですけど、新境地なのか、元々持っていたものが今回、たまたま出ただけなのか、どっちでしょうか?
杉野:元々あったと言えば、あったんですけど、出してなかったかもしれないです。だから、自分らとしては、そんなに変わったという意識はないんですけど。
――何か考えがあって、こういうタイプの曲は出してこなかったんですか?
杉野:いや、考えはないです(笑)。こういう曲、少なかったんで、この機会に出しておこうかなって。
――曲調ももちろんなんですけど、目の前のお客さんに語りかけているような歌詞も今までとは違いますよね。
杉野:それはありますね。
――それはどんな心境の変化があったんですか?
杉野:ライブ中に僕がけっこう暴言を吐いてしまうんですよ。やめようと思っても止まらないんです。お客さんに対して、愛が足りてないなってところがあったんで。
――ああ、せっかく足を運んでくれてるんだから。
杉野:その気持ちはあるんですよ。でも、暴言を吐いてしまうんで、あれやなって思って、作りましたね。
谷口:曲にしたらな。
――素直になれるから?
杉野:曲にしたらこっちのものなんで(笑)。
――5月13日に下北沢ReGで、前作『FREEDOM』のリリースツアーのセミファイナル公演を見せてもらった時は、暴言は吐いてなかったと思うのですが。
杉野:あの時はもう気づき始めてたんで。
谷口:そうなんや(笑)。
杉野:それで、この曲を作ったんですけど、今でもたまに(この曲を)やらない時はけっこう言うてしまいますね。
谷口:そうか、この曲をやったらええんや。
杉野:ワンマンみたいに尺が長いと言わないんですけど、短いとボロカス言うて帰るんですよ(笑)。あれは何なんですかね。
田中:ほんまにヤバい時は引きますけどね(笑)。“そんな言う!?”って。
杉野:一度怒られましたもん。
――でも、お客さんの気持ちを駆り立てるために言うわけでしょ? 自分もステージに立って、気持ちが高ぶっているし。
杉野:高ぶってますね。
――別にお客さんから苦情が……。
杉野:来てるわけじゃないです。
――お客さんもそれを。
杉野:待ってるかもしれないですね。
谷口:全員Mなの? 言われたいから来てるの?
杉野:この曲を作ったからおとなしくなるわけじゃなくて、たぶん、これからも言うと思います(笑)。
――暴言を吐いたことを埋め合わせるためにきれいごとを書いたわけじゃなくて、本当に思っていることを書いたわけですよね?
杉野:そうですね。はい。
――<くだらない話でもしようぜ 笑えればいい それだけでいいと思った>と歌っているじゃないですか。いろいろな気持ちを伝えているけど、最終的にはバンドとお客さんがお互いに笑えればいい、と?
杉野:はい。そういうつもりで音楽をやっています。
――「未来は俺らの手の中」は、もうライブでやっているんですよね?
杉野:ちょいちょいやってますね。
――お客さんもびっくりしているんじゃないですか?
杉野:割とシーンと。ちゃんと聴いてるなっていう感じになりますね。でもこの間、短めのセットにこの曲を入れたとき、“めっちゃ情緒不安定やん”って大阪のライブハウスの人に笑われました(笑)。“ほんますね”って言っておきましたけど。
谷口:いやいや、“ほんますね”じゃないって。
――でも、曲はいろいろな感情の中で作ってるから。
谷口:それを情緒不安定って言われてもな。
――THE BLUE HEARTSに「未来は僕らの手の中」という曲があるじゃないですか?
杉野:ありますね。そこは敢えてつけました。もちろん、リスペクトもありますけど、超えたいっていう気持ちも込めて、このタイトルにしましたね。
谷口:敢えてってところがいいよな。
――<光れ俺らの時代だ>という歌詞がありますが、そういう気持ちはあるわけですね。ロックシーンにはいろいろな先輩がいるけど、これからは自分たちの時代だ、と。
杉野:そうですね。俺らの時代です。そろそろ退いてくださいっていう(笑)。
――1曲目の「革命を待つ」、そして「未来は俺らの手の中」のような曲がある一方で、『FREEDOM』の延長と言える「LILY」とか、「GOLDEN HOUR」とか、「PAPER PLANE」とか、タフなガレージロック/ロックンロール・ナンバーも収録されていますが、今回、どんな作品になったという手応えを感じていますか?
杉野:けっこうレンジが広いって自分では思いますね。いろいろな曲がそれぞれを引き立てているように思います。
谷口:聴かせられる曲が増えたっていうのは、バンドにとって大きいと思います。「未来は俺らの手の中」もそうですけど、「BABY BABY BABY」もけっこう聴かせられる曲なんじゃないですかね。
――曲の作り方が変わったんですか?
近藤和嗣(Gt):今回は基本、泰誠が弾き語りで歌詞からきちっと作ってきたんですよ。
杉野:だから(聴かせられる曲が)増えたのかもしれないです。
――確かに「革命を待つ」も、「未来は俺らの手の中」も弾き語りで始まりますね。
杉野:基本、弾き語りで作るんですけど、歌詞がつかないうちにスタジオに持っていってやると、弾き語りの濃度が薄くなるんですよ。今回、歌詞もちゃんとつけていったんで、弾き語りの濃度が濃くなったというか、聴かせる部分が強くなったというか。
――なぜ、歌詞をちゃんとつけていったんですか?
杉野:ツアー中に作ってたっていうのもあって、機材車の中でギターを持てない代わりに歌詞を考えるっていうことが多かったんですよ。
――「BABY BABY BABY」も明るいロックンロールに乗せて、ストレートに<I LOVE YOU BABY>と歌っているところがclimbgrowには珍しい。
杉野:こういう曲はなかったですね。今回、割と新しいことやってるなって、今、思いました(笑)。“新しいことをやろうぜ”なんて考えてなかったから、作っている時はそんな実感なかったですけど。
――楽器隊のアプローチはいかがでしたか?
谷口:レコーディングは割と早かったですね。
杉野:全曲早かったですね。
田中:「LILY」のノリを出すのは難しかったですけど。疾走感をどうやって出すかっていうところで、どの楽器が前に出たら疾走感が出るのかいろいろ試しましたね。
――「LILY」はベースソロもありますね。
田中:ドラムがジャジーになるって、普段あまりやらないんでけっこう苦労しましたね。
近藤:「LILY」はいかにもなサビがないんですよ。♪ジャジャ・ジャージャってリフの間を縫うように泰誠が歌うところが一応、サビなんですけど、あまりサビっぽくないんで、ギターソロを、もう一つのサビみたいに聴こえるように弾けたらいいなと思いながら入れましたね。あとは「PAPER PLANE」は最後、何かおもしろくしたいと思って、ギターだけ音量がそのままで、他の楽器がフェイドアウトしてくんですけど、思ってた以上にいい感じになりました。
杉野:紙飛行機感が出てるよな。
近藤:ふぁ~って夕焼け空に飛んでったな。
――ギターが単音フレーズになって、余韻を残すところがいいですね。ドラムはいかがでしたか?
谷口:「GOLDEN HOUR」の2番の終わりで、泰誠のギターがひとりになって。
近藤:バリいかついところね。
谷口:そこにドラムがバッと入っていくんですけど、むっちゃかっこいいです。
杉野:♪ジャラジャ・ジャラジャってところね。
――「LILY」には杉野さんの咳が入っていますけど、あれは偶然?
杉野:偶然です。<片付けるのさ>って歌詞があるから狙ったわけではなく、歌ってたら、ほんとにむせたんですよ。“これ重ねてください”ってエンジニアさんにやってもらったら、めちゃめちゃぴったり合って、“使うしかないよね”って、元々そこにあった歌詞を削りました(笑)。
田中:意味深になったよな。
杉野:片付けてる感あるなと思って。
谷口:片付けてる感? 何それ?(笑)
――「GOLDEN HOUR」で歌っている、どこかエキゾチックな景色は、どんなところからのものなんですか?
杉野:僕の家の近くなんですけど、見たまんま書きましたね。
谷口:そんなに治安悪いの?
田中:悪すぎるやろ。
杉野:多少、町に対する自分の見方もあるんですけど、見る人が見たら、こう見えるかもしれないですね(笑)。
田中:自分の町ってやばいな(笑)。この曲。
近藤:そうなんや(絶句)。
――滋賀のどこなんですか?
谷口:滋賀じゃないんですよ。
杉野:京都の✕✕✕✕ってとこにいるんですけど。
――✕✕✕✕って、こういうところなんですか?
杉野:こういうところです。駅前にジャマイカのかっこうしたレゲエみたいなボロボロの親爺がいるんですけど、めちゃめちゃ息が酒臭いんですよ。
谷口:何、近寄ってんねん。
杉野:近づいてくんねん。“よぉ~”って言うてくるんですよ。ビールを飲みながら(笑)。そういうところです。
谷口:どういうところやねん。
杉野:来たらわかるから。
――杉野さんだけ京都で、他の3人は滋賀なんですか?
杉野:俺も元々滋賀なんですよ。
田中:電車だったらすぐなんですよ。だから、ほぼ滋賀みたいな。
杉野:京都の人も“✕✕✕✕は滋賀だ”って言ってるぐらいの。“あんなん滋賀や”って言われるところです。ぜひ✕✕✕✕に来て、レゲエのジジイに会ってほしいです。たぶん、住んでる人やったら“あ、あのジジイ?”ってなります。
谷口:そんなに有名?
杉野:めっちゃ有名。見たことある?
近藤:わからん。話にはよく聞くけど。
田中:似た感じの人、いっぱいいるやん。駅前に(笑)。
杉野:言えへん人もいますね。その人は割と言えるほうですね。
――じゃあ、今度、その言えない人のことを。
杉野:歌にします(笑)。
――レコーディングは早かったそうですが、回数を重ねるごとに慣れてきたようですね。
杉野:今回、滋賀で音録りしたんで。割とラフに、もう寝巻きでやってたんで。
谷口:環境がいいんですよ。
杉野:録りやすい。
近藤:リズム隊が録っている間は1日中、寝てましたもん(笑)。“できたかぁ?”って言いながら。
杉野:ほんで、その日のレコーディングが終わったら、みんなでマージャンやってましたね。マージャンやって、そろそろ寝ようかって寝て、次の日起きて、レコーディングして、またマージャンして(笑)。マージャン合宿みたいになってましたね。最後のほうは(笑)。
――毎回、そこでレコーディングしているんですか?
近藤:前回は難波のスタジオクーパーで録りもやったんですけど、今回は滋賀で録りをやって、ミックスとマスタリングだけそのクーパーでやってもらいました。
――今回、なぜ滋賀で?
近藤:泊まりこめるんで、それが大きいですね。
杉野:落ち着いてできるんですよ。
谷口:前々回もそこでやったんで、やっぱりいいなって思って。
杉野:カツカツの環境の中で録るよりは、そっちのほうがラフに録れていいかなって。
climbgrow
――さて、おっしゃるようにレンジの広い作品ができました。ここからどんなところを狙っていきたいですか?
杉野:自分らももちろんかっこいいんですけど、お客さんもかっこいいバンドになりたいですね。(気合を込めて)“ウォイ!”みたいな。外見の話ではなくて、盛り上がり方がかっこいいバンドになりたいです。男の子が最近また増えてきてうれしいんですけど、もっとライブに来て欲しいですね。
――リリース後は『CROSS COUNTER』と題したツアーで全国を回るわけですが、どんなツアーにしたいですか? 意気込みを聞かせてください。
杉野:ハチャメチャにやりたいです(笑)。“次の日もライブがあるから”なんて考えずに、バカスカ全力で全部やったらいいかなって思いますね。
――なるほど。どうですか、最近、ライブの調子は?
杉野:夏やからなのかわからないですけど、歌いやすいですね。喉が開いて(笑)。今度のツアーが始まる10月ぐらいになると、ケアが難しいんですけど。
――ああ、乾燥するから。
杉野:まぁ、そんなしないですけど(笑)、マスクぐらいしてがんばります。
――3人も意気込みを聞かせてください。
近藤:仙台に行ったら牛タンを食いたいです。
谷口:それは意気込みちゃうやろ。何食いたいやないか(笑)。
杉野:今回、北海道があるんで。
田中:初めて北海道に行くんですよ。
谷口:行ったことがないところが札幌含め3ヶ所あるんですよ。長崎とか、茨城とか、そこで新しいお客さんを掴みたいですね。
近藤:前回はお金なかったんで、今回は各地でおいしいもん食いたいですね。
谷口:それしか考えてへんやんか。
――この間、ライブを見せてもらって、侮ってたわけじゃないんですけど、こんなかっこいいライブをするバンドなんだってびっくりして。
杉野:ありがとうございます。
――対バンいるのに1時間半ぐらいライブやっていたじゃないですか。
近藤:(対バンの)倍ぐらいやってたのか。
――でも、その1時間半があっという間だったんですよ。
杉野:普通1時間ぐらいですよね。対バンいたら。俺らも1時間ぐらいだと思ってたら、(マネージャーが)“長いのやれ”って言うから。“えぇ!?”って。まぁ、やりましたけどね(笑)。
――本編の最後だったか、アンコールだったか、杉野さんが近藤さんに“次の曲、ギター1本でもイケるか?”って聞いていましたよね?
近藤:そうでしたね。
――ああいうところが生っぽくってかっこいいと思いました。で、杉野さんはギターを持たずに客席に飛び込んだんでしたっけ?
近藤:あの曲、僕、単音で弾いてるから、“(1本でも)いいよ”って答えましたけど、ほんとは“イヤやなぁ”って思ってました(笑)。
――ハハハ。今回の記事を読んだ人もライブに足を運んでもらえると、そんなところも含め、climbgrowの魅力がよりわかってもらえるんじゃないかと思います。
杉野:そうですね。そう思います(笑)。

取材・文=山口智男

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