「芝居を探求し続けることが好き」 
舞台『ニル・アドミラリの天秤』主演
の杉江大志にインタビュー

ゲームからアニメーション、そして舞台へとフィールドを広げながらその世界が愛され続けている『ニル・アドミラリの天秤』。2018年11月1日(木)~11月11日(日)全労済ホール スペース・ゼロでの上演へ向け、着々と準備が進む中、主人公・尾崎隼人を演じる杉江大志が、新たな役どころに挑んでいく胸中を語った。
ーービジュアル撮影の現場でも拝見していましたが、カメラの前に立ち、キャラクターとして滑らかにポージングしていく姿が強く印象に残っています。
まずは……僕もこうして出来上がりを見て安心しました。僕が演じる尾崎隼人のビジュアルはクールビューティーな雰囲気だったんですけど、自分はそういう見せ方はなかなか得意とはいえなくて……でも、できるようにならないといけないなって思ってたんです。自分自身、“クールビューティー”や“大人の色気”とは逆の可愛らしいキャラクターを演じることが多かったから、色気は……特にここ1、2年、自分の中でのテーマでもありますし。年齢に追いついていかないとなって(笑)。そういう中でこうしたテイストの作品でこういうキャラクターを演じることができるのは巡り合わせですね。新たな挑戦にも繋がるし……挑戦でありつつ、でも自分の中でもそろそろそういう表現もできるなっていう手応えもつかみつつはあるので、ずっと僕を見てくださっている方には「あー、大人になってきたなぁ」なんてことも感じていただける作品になればいいですね。
ーー物語の舞台は“大正25年の帝都”。
大正時代、いいですよね。和と洋が織り交じっているような、時代が移り変わっていくような……このぐらいの時代、僕、すごい好きなんです。個人的にはガッツリ『るろうに剣心』のイメージなんですけど(笑)。廃刀令が出て、軍服を着た人がサーベルを持ち、和服にブーツを合わせてたり、街にはガス燈がともって……オシャレだし、ホントに好きな雰囲気なので、この『ニル・アド』の世界観にもスッと入れるんじゃないかなって思ってます。
ーーそして演じる尾崎隼人は帝国図書情報資産管理局・通称フクロウの探索部に所属する青年です。今、どんな人物像を描いてますか?
一見クールだけど、誰よりも熱くて思ったことはすぐなんでも言ってしまう。彼のそういう人間味がいいですね。実際、言わなくてもいいことを相手に言うのは疲れちゃうし(笑)、そんなこと別にやらなくてもいいじゃないですか。下手に喋らないほうが波風も立たずなにも起きずに終わる。けど、そこであえてムダなエネルギーを使ってでも会話していこうとする姿は素敵だと思うし、主人公っぽいよなぁと思います。言動から目が離せないから、人に響くモノがあるんですよね。言いづらいこと言ってまでも自分が納得しないと前に進めないっていうのは……要するに頑固者なんだけど、その気持ちはすっごくわかります。僕もそうなので(笑)
ーー気になったらスパッとその場で伝えたい?
伝えたいですね。もちろんそれで相手とぶつかっちゃうこともありますけど、芝居の話をするときは特にもう頑固。「俺はこう思うけど……」って言われても、自分が納得できないときは「いや、違う違う。はい、まだ違います〜」って(笑)
杉江大志
ーー譲らない(笑)。
最近もある現場で「お前、もっと枠を飛び出せよ。もっと来いよ!」っていう話になったら、相手も負けずと「いや、逆にそっちは毎回気分で芝居するよな」とか(笑)、そういう展開になって。でもね、僕はそれがすっごく嬉しかった。最初は役者同士でのそういうやりとりはなかったから、お互いにより作品を深めていこうとしてストレートに意見を言えたことがよかったなって思ったし、こっちが言うだけじゃなくて返して来てくれたことが、やっぱり嬉しくて。自分は常にそういうふうに作品つくりに向かって行きたいと思ってるので。
ーー今回の座組はどうなりそうですか?
初めましての人と知ってる顔と半々くらい……かな。同世代とはちゃんと意見を言い合った上で噛み合っていければと思いますし、そこをさらに大人の方にグッっと締めてもらったら全体に厚みが出せますよね。座長ではありますが、先輩方には大いに胸を借り、後輩の子は……自由にやれる雰囲気づくりができたらいいな。難しいけど、そこはちゃんとやらなくちゃって思ってます。
ーー原作モノ、2.5次元舞台だからこその取り組み方、というのはありますか?
まずキャラクターの外側を固めるっていうのはもちろんすごく大事なことですけど、役者としてはやっぱりそこを飛び出したいし……みんなも飛び出して来て欲しいって思いますね。例えばアニメだったら1クール30分を9話とかやって、そのボリュームを舞台での2時間に収めると、どうしても観ていて物足りなくなっちゃうところがあると思うんです。
杉江大志
ーーともすると、ダイジェスト的なモノに終始してしまう。
なので、2時間になるからこそ、凝縮された物語になるからこその面白いところっていうのは絶対創っていきたいなと思います。そこはもう1回目で攻めないと、2回目からじゃ遅いですからね。絶対。
ーー演劇としてのジャンプですね。
それが、どこまで行けるのか、どこまでやっちゃえるのかっていうのは、実際に飛び出してみないとわかりません。ホントに飛び出し過ぎちゃうともう「うわっ」て(笑)なっちゃいますから、そこはやっぱり自分でちゃんと分かるんです。だからまずは稽古場でいろいろやってみて、そこでしっかり調整をしていけばいい。僕がいつも2.5次元作品に出させてもらうときは、その飛び出し、“枠を超える”“殻を破る”っていう部分をみんなでやりたいなって思っていて。ひとりだけ飛び出しちゃうとただ暴走してるだけになってよくないんですけど、そういう未知の領域もみんなで踏み込んで飛び出していければ、ホントに作品としての幅も広がると思うんです。原作を理解した上で、自信を持って、説得力を持ってさらに作品世界を押し広げて創った舞台なら、原作の好きな方も納得がいくというか──多分、いろいろ大丈夫だと思うんです。でも、もし原作の枠の中だけに甘んじちゃってたら、誰がやってもいいんじゃない? っていう感触の作品にしか仕上げられないと思います。一番の目標はエンターテインメントとして愉しませたいし、愉しんでもらいたいということなので、とにかく一人ががんばってもダメ。みんなで面白くしてこそ、舞台をやっている意味があるんです。
ーーでは、お稽古に向けて今準備していることなどはありますか?
ゲームをまずちゃんとプレイしたいのと、アニメのほうもしっかり見直しておきたいです。アニメは最初にチラッと観たとき、世界観もだし、時代感もだし、ちょっとファンタジーな感じもすっごく好きと思って……ほんと、これはすっごい好きですね……って、2回言っちゃいました(笑)。元々の世界がガッツリファンタジーだと本当にもう自分たちとは別世界のモノを舞台に上げていく大変さがあるんですけど、『ニル・アド』は日常の延長線上にありそうな……どこかに現実味も感じられる世界観の中でじわじわと事件が起きていくので、お客様も感情移入したくなるポイントは多いと思います。現実味とファンタジーのいい感じの狭間で、生だからこそ感情移入してしまえる世界。そこのいいラインを摑み取りたいですね。
ーー演出の菅野臣太朗さんとは?
もう随分前、まだなにもわかってないときにご一緒して……臣太朗さんにはそのときに役者としての基盤を創ってもらったと思っているので、再会が楽しみです。あれから何年か経って成長した自分、僕もこんなことできるようになりましたよっていう姿も見せたいですし、僕もどれくらい臣太朗さんのやろうとしているニュアンスを汲み取れるようになっているのかっていうのも楽しみです。今回は脚本・演出ということで、どんな風に仕上げてくださるのか、台本をいただくのも待ち遠しいですね。元々原作も舞台映えする作品だと思うので、原作のファンでこれを機に初めて舞台を観に来てくださる方にもぜひ「舞台っていいね」って。「舞台版も悪くなかったね」じゃなくて、「『ニル・アド』を観たら楽しくなって、他の舞台も観てみました」とか、そうやって引き込める作品になるんじゃないかなぁ……したいなぁ……臣太朗さん、よろしくお願いします! なんて、みずからハードル上げちゃってるか(笑)
杉江大志
ーーでは、そのハードルのまた向こうにある、もっと先の自分について考えることはありますか?
この先……自分はどうなっていきたいんだろうなぁ……。そうですね、そろそろ“唯一無二”になっていかないとなって。たぶんそれができないと消えていくんだろうな、と思っています。役者としても人としてもね。上手な役者さんはたくさんいらっしゃいますし、そこに負けない自分だけの武器、魅力を身に付けていかなくちゃいけない。テクニックももちろんですけど、人として醸し出せるなにかを──。“自分にないモノはできない”っていうのが僕の思うお芝居なので、自分の感性を磨き、幅を広げる経験をどんどんしていきたい。吸収できるモノはまだまだ山ほどあるし。自分は飽き性でなにかやっても続かずにすぐやめてっちゃうんですけど、芝居だけは飽きずに“続けたい”と思えるんですよね。
ーーそこには飽きさせない理由があるはず。
お芝居って自分でひとつ“踏んだな”、“ステップ上がったな”って感じられるときがあって、そうなるとすごくなんかもういろいろできるような気持ちになるんです。でもそうなると同時にちょっと飽きるんですよ、芝居に。で、“飽きて来たなぁ”と思うと……突然つまずくんですよね(笑)。思いがけずつまずいたり、すごくできる人との出会いがあったり、“もっとできるようになりたい”って思うことが見つかったり。そうなってくるとまたのめり込み出す、と。
ーーそうそう“無敵”ではいられない。
ハハハッ(笑)。そうですね。なんでもできる無敵感のときはたぶん周りから見たらちょっと鼻につく感じあるかもしれないし、自分でも“ちょっと今真摯じゃないな”って気づくから……そうしたらとりあえず人生の先輩に話を聞きます。大人と飲みたくなる(笑)。そして自分はダメ人間だとわかると、またワクワクしてくるんですよ。挫折すると、ワクワクする、と(笑)。それこそ僕に向けてくれる周囲の人の言葉にハッとして、“だったら今日やってたあれはこうもできるよね”って思ったり、そこでいろいろ気づきがあって、じゃああれもこれもと新鮮な気持ちでお芝居に向かえるので……うん、やっぱり飽きないですね。
ーーある種の快感、ですね。
芝居を探求し続けることが好きなんです。これってね、パズルの最後のピースをはめる瞬間に似てるんですよ。あと、唯一好きな釣りにも似てるし。仕掛けを用意して、ポイントを見つけて、糸をたらして……獲物をつり上げる。そうやってプロセスの全部を愉しみながら、これからも役者の道に挑み続けていきたいです。
杉江大志
取材・文=横澤 由香 撮影=荒川 潤

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