【ライブレポート】鈴木祥子、歌い続
けてきたから見える今と未来

2018年7月21日、とても暑い夏の日に代官山ヒルサイドで行われた鈴木祥子デビュー30周年記念ツアー<1988→2018/30years,/AND THEN...?>。30年。人生の中ではとても長くもあり、何かに夢中になっているとあっという間でもあるような時間。しかし、世の中には30年前にはなかったものが溢れ、ずっと昔からそこにあったような顔で、私たちを取りまく。そんななか30年間、変わらず音を紡ぎ続ける彼女。バンドメンバーに菅原弘明、矢部浩志、名村武、Dr.kyOnを迎えアニバーサリーライブが開催された。
右肩を出した黒の衣装で登場した彼女は、30年の年月を感じさせないほど美しく、そして30年前にはなかった強さをまとっていた。はっぴいえんどカヴァー曲「空いろのくれよん」から始まったライブ。彼女の声を聴きながら、言葉ではなく音としての声を思う。彼女の声=音は、20代だった私をノックアウトし、そして30年が経った今もノックアウトし続けている。1990年に発表された「ステイションワゴン」を別アレンジで。冬を象徴するヒーターと夏を象徴するするむぎわら帽子、この歌の二人は今どこかで幸せにしているのだろうか?
今回のライブで先行発売された『SYOKO SUZUKI THE COMPLETE WARNER RECORDINGS 1998→2000』には、1998年に発売された『私小説』がオリジナルの並び順に戻され収録されている。1998年当時、その当時の事情があり、実現されなかった曲順があったという。その曲順にこだわるのは、まさにLPやCDで曲を聴いていた世代だから。1曲単位で曲を買い、ランダムに聴く世代とジェネレーションギャップがあったとしても、創り手の思いを知ってほしい、そんな気持ちになる。この曲の次には、この曲が流れ、ここでレコードを裏返す。そんな時代が30年前には当たり前にあったのだ。
『私小説』がLPならA面ラストになる「恋人たちの月」。二人の関係を真夏の月に例えた曲。そして、ドラムへ移動。「TRUE ROMANCE」と「月とSNAPSHOTS」。彼女がドラムを叩きながら歌う姿は、いろんな意味でオンリーワンだと思わざるを得ない。曲を聴いていて私のなかに浮かんだ言葉は“最後の砦”。なぜかここがギリギリの場所に思えてくる。“いつまで”なんて考えなかった若い頃と違い、今は“いつまで”を考える。そんな思考を断ち切ってくれる“最後の砦”のように感じた。演奏途中で外れたハイハットの金具を組み立てなおしながら、「ハイハットの演奏にはいろいろな方法があって、ロックならこういう感じ、4ビートのジャズならこんな感じ。。。」と、実演をまじえたドラム・レクチャーになっていくのも彼女ならでは。
ピアノに移り、弾き語りで岡村靖幸さんの「イケナイコトカイ」をカヴァー。激しい歌詞をピアノに思いをぶつけるように歌う。ピアノは、ベーゼンドルファー。そして、誰かを愛することに否定も肯定もないことを思う。続いて、恋は決して甘いものではなく苦しさや悲しさが伴う、恋のもう一面、自分を自分で失くしてしまう姿を歌う「ただの恋だから」。
世界はルールで満ちている。誰かが作ったたくさんのルールというか常識。それらで人は守られもするし、縛られもする。そんなことが彼女の歌には詰まっている。

シングルになる予定だったという、フランス語でプライベートを意味する「プリヴェ」。ただ、ここでの“プリヴェ”は一人ではなく、他者性を失ってしまった二人だけの世界。閉ざされながら、そこにあなたが介在することを初めて理解する。「完全な愛」「依存と支配」と続き、JOURNEYのカヴァーへ。彼女の永年のアイドル、JOURNEYのSTEVE PERRYが使用していたのと同じELECTRO VOICE社製のマイクロフォンで「お気に召すまま」。いったんステージ裏へ。現れたときには、髪をほどき、パンツがスカートに変わり登場。色は黒のままで。
アニバーサリーライブらしく、デビュー曲「夏はどこへいった」。ちなみに、20周年ライブは、この曲の弾き語りから始まった。今回の会場である代官山ヒルサイドは、彼女が1988年9月21日にデビューし、9月26日にデビューイベントを行った場所。床も壁そのままだという。まもなく床の張替えがあるとのことで、30年前と同じ板の上に立っている、とコメント。時の経過を感慨深く思う。若い頃の歌はイタいかなと思っても、ずうずうしくもなったというMCとともに、「風に折れない花」「メロディ」。小泉今日子さんへの提供曲「優しい雨」をソウルっぽくセルフカバー。ラストは、このライブでずっと感じていた、彼女が確かな未来を見ていることを象徴するかのように、新曲「鼓動(ハートビート)」。当日、入場者に配布されたSPECIAL CDに収められている曲だ。もう会えないあなたを思う、切ない歌と理解してよいのだろうか?いや、本当は会えなくはないけれど、会わないと決めた人なのかもしれない。
本編が終わり、アンコールへ。どっちの曲を?という言葉から、「新しい愛の詩」を。CDのブックレッドに佐橋佳之さんが書かれている“冒頭の「東京の夕暮れは予感のように美しい」という一節は天才・鈴木祥子にしか書けないですよね。”の“東京の夕暮れは予感のように美しい”で始まる1曲だ。東京で生まれ育って、故郷がないとずっと話していた彼女だからこその言葉だ。そして、一時期を京都で暮らして、その思いは変わったのだろうか? 続き、しばらく封印していたという「Happiness」。確かに、リクエストがあっても彼女は歌おうとしなかった。25歳という年齢を歌詞に入れることで縛られてしまうというアドバイスも彼女にはどこ吹く風でリリースされた曲。25歳だろうが歳を重ねようが、分かることは分かり、分からないこと分からない。いくつになっても同じように悩むことを歳を重ね人は知る。生きることに年齢は関係ない部分もある。ラストは、オリジナル『私小説』のラスト曲「そしてなお永遠に」。白シャツに黒のジーンズを着こなせてしまう彼女の生き方は、自分のなかに強いブランドがあるからだろう。
2度目のアンコールでは、バンドバージョンで「遠く去るもの(ファーラウェイ・ソング)」。30周年を記念するライブでありながら、MCでは未来を語る彼女。30年歌ってきたから充分だよね、なんてことはどこにもなく、これからへ続くライブとなり、とても明るい気持ちで約3時間のステージは幕を閉じた。彼女の35周年、40周年も楽しみでしかない。
そして、30周年イベントは続き、代官山ヒルサイドテラス内 ヒルサイド・バンケットにて、9月22日には『鈴木祥子デビュー30周年記念ツアー・アフター・パーティー&ライブ「53と12分の1」』が開催される。
鈴木祥子<1988→2018/30years,/AND THEN...?>
1.空いろのくれよん(はっぴいえんどカヴァー)
2.ステイションワゴン
3.恋人たちの月
4.TRUE ROMANCE(鈴木ドラムス)
5.月とSNAPSHOTS(鈴木ドラムス)
6.イケナイコトカイ(PIANO弾き語り)
7.ただの恋だから(PIANO弾き語り)
8.プリヴェ
9.完全な愛
10.依存と支配
11.お気に召すまま(JOURNEYカヴァー)
12.夏はどこへ行った
13.風に折れない花
14.メロディ
15.優しい雨(セルフカヴァー)
16.鼓動(ハートビート)
en1.あたらしい愛の詩
ec2.Happiness
ec3.そしてなお永遠に
wen1.遠く去るもの(ファーラウェイ・ソング)

寄稿:伊藤緑 http://www.midoriito.jp/

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