【動画あり】細川千尋インタビュー~
大阪ザ・シンフォニーホール「CLASS
IC×JAZZ」にトリオで挑む

2013年、スイスのモントルー・ジャズ・フェスティバル・ソロ・ピアノ・コンペティションにて、日本人女性初のファイナリストとなるなどのソロ活動に加え、各地のジャズ・フェスティバルへの出演や、オーケストラとの共演など幅広いジャンルの演奏活動を国内外で行い、高い評価を得ているピアニスト・コンポーザーの細川千尋。クロスオーバーなオリジナル曲とトークも交えたソロ・ピアノコンサートが人気の一方、近年は細川千尋ジャズトリオ(ピアノ=細川千尋、ベース=鳥越啓介、ドラム=石川智)としての活動も活発で、2017年11月に発売されたCDアルバム「CHIHIRO」も熱い支持を集めている。
そんな細川千尋ジャズトリオが、来たる2018年9月28日(金)、大阪のザ・シンフォニーホールで「CLASSIC✕JAZZ 細川千尋 ジャズライブ」コンサートを行うことになった。「このトリオ予測不能!」と題された、クロスオーバーなコンサートに臨む細川千尋に、クラシックホールで行うジャズライブへの意気込みを語ってもらった。
■ルーツであるクラシックとジャズを融合させた「CLASSIC✕JAZZ」
──ザ・シンフォニーホールでのジャズライブのコンセプトと、これに到った経緯を教えてください。
私は小さい頃からずっとクラシック音楽をやってきて、その後にジャズを始めたのですが、色々な方々から「クラシックのエキスを感じる」ということをよく言われるんです。やはり自分のルーツはクラシックをやったことから始まっているなと感じたので、今回の「CLASSIC✕JAZZ」というコンセプトを決めました。
──ご自分のルーツと現在を融合させたものにしたいと?
はい、そうです。
──演奏予定曲目は、グノー=J.S.バッハの「アヴェ・マリア」、ガーシュウィンの「サマータイム」、ドビュッシーの組曲「子供の領分」より 第6曲「ゴリウォーグのケークウォーク」、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」と様々な時代のクラシック音楽。そして、ご自身で創られた「パガニーニの主題による“ジャズ”変奏曲」「Pasion」、ケンプフェルトの「L-O-V-E」、パーカーの「マイ・リトル・スェード・シューズ」といった、魅力的なライナップですが、どのような思いから選曲されたのですか。
とにかく好きな曲を、というのがまず一番にあったのですが、特に私が影響を受けた作曲家が多く入っています。ガーシュウィンはジャズをやっている人がクラシックを弾く時に、最も多く取り上げる作曲家だと思いますし、ドビュッシー、ラヴェルの印象派の作品には、ジャズとの共通点がとても多くあるんです。それでいて、その時代の響きがしっかりと感じられるのが私はすごく好きで。ビル・エヴァンスからは、ドビュッシーやラヴェルがよく使う平行で動く響きをすごく感じるし、逆にラヴェルからはジャズのリズムを感じます。同時代を生きた人たちが影響し合っていることがとても面白いなと思えて、選びました。
──それは、ジャズ黎明期の時代性でしょうか。
それも大きくあるかもしれません。いつの時代もそうなのではないかと思います。例えばパガニーニに関しては時代で言えばかなり昔になるのですが、本当に色々な方がパガニーニの主題による変奏曲を創られているので、それをジャズで創ったら面白いんじゃないかと思って、プログラムに入れています。私も色々な世界の音楽を聴き、影響を受けています​。
細川千尋
■互いのキャッチボールで想像以上のところにいけるPiano trio
──耳に馴染んだクラシックの名曲がジャズの表現でどう響いてくるのかがとても楽しみですが、さらに自作曲も演奏されますね。
去年の12月に浜離宮朝日ホールでやった曲目を何曲かYouTubeに出していて、その中から「Pasion」などを弾きます。元々私は2枚のソロアルバムを出していて、その中でピアノソロで弾いていた3曲を、11月にリリースしたトリオのアルバムにも改めて入れてみたのです。1人で弾いている時よりもすごく鮮やかになったし、色々な可能性が広がりました。元々ソロから聴いてくださっていた方からの反響も大きく、私自身たくさんの発見がありましたので、今回もトリオで弾くことにしました。他の曲も「いつかトリオでやりたい」と思っていた曲ばかりです。
──やはりトリオで演奏することによって、細川さんの中でも広がるものが?
ソロピアノって全部自分でやらなければならないんですね。自分でリズムを感じ、それをお客様にも感じてもらう。また、ベースラインを弾く、ハーモニーを創る……と、すべてを1人で担わないといけない。でもトリオだとその役割を分けられるので、そこは大きいですね。ただ、私はずっとソロでやってきたので、最初はその役割を分けるということに若干の違和感がありました。
──お互いにセッションするということについてですか?
そうなんです。ちょっと不思議な感覚でした。でも3人で何度かライブを重ねるうちに、いい意味で相手に託せるようになりましたし、お互いの信頼関係もできてきて。そうなってくると今度は相手からどんなボ―ルが投げられるのか、どんなアイディアをくれるんだろう?が面白くなってきて、それを受け取った自分からもまた新たなアイディアが生まれるのが、毎回、毎回、新鮮で、そのキャッチボールがすごく楽しくなってきた。もちろんそれはリハーサルをしている時にも感じるのですが、特に本番って、皆の集中力も高まるし、お客様が真剣に聴いてくださるエネルギーも加わって、想像以上のところに行ける感覚が毎回あるんです。だから9月のザ・シンフォニーホールではどんな風になっていくのか、とてもワクワクします。
──お客様が入ることによって更にパワーアップするんですね!
やはりお客様の熱ってダイレクトに感じられるので。温かいお客様が多いと、さらに高められますね。
細川千尋
■音楽はジャンルで分けるものではなく、好きかそうでないかを感じるもの
──クラシックを弾くジャズピアニストといえば、チック・コリア、キース・ジャレット、日本では山下洋輔さんや小曽根真さんなど多くの先達がいます。また、ジャズ寄りのクラシック音楽家としては今回演奏するガーシュインをはじめ、バーンスタイン、カプースチンなども挙げられますが、他に、両ジャンルを股にかけてきた先達の仕事について思うことや、影響を受けた人などはいらっしゃいますか?
学生時代に小曽根真さんのビッグバンドを聴きにいきました。千数百のキャパのステージで私は結構後ろの席だったのに、小曽根さんがステージに出て来てピアノを弾き始めたら、まるで隣で弾いてもらっているような気持ちになったんです。そこにすごく人間味を感じて、元々尊敬していた方でしたが、さらに大好きになり、こんなコンサートがいつかできるようになりたいと夢を持ちました。
いつもジャズをライブハウスで聴かれている方ほど「ホールで聴くジャズってどんな感じなんだろう?」って考えると思うのですが、どこで聴いても変わらなかったらとても素敵だなと思うんです。だから今回も、ホールでジャズを聴くということに構えずに、身軽な感じで来ていただけたら嬉しいと思っています。
クラシックとかジャズとか音楽をジャンルで分けなくてもいいと思えるようになったのは、私が師事している江口文子先生がどんな曲でも見てくださったことからだったと思います。私が創った曲でも、クラシックでもレッスンで何でも見ていただけて。もちろん先生がどちらからも話しをしてくださる素晴らしい方だということもありますが、ピアノの技術も含めてクラシックでもジャズでも音楽の根本は変わらない。ジャンルはありますが、でも心が動くか、動かないかというのが要なんだと思います。ですから私は音楽を聴く時にジャンルでは分けませんし、単純にその音楽が好きか好きじゃないかと感じるだけなんです。
例えば私もカプースチンなどをよく弾いてはいましたが、一方で、私にとって一番心を持っていかれたピアニストはミケランジェリという、完全にクラシックの演奏家でした。またジャズではオスカー・ピーターソンが大好きで、彼も元々クラシックをやっていた基盤があって、すごくテクニックもあるけれども、何よりもそこにいるだけでプラスの“気”を放つ人でした。そこがすごく好きで、私としてはそこにジャンルの壁はないんです。結局どんな人間様なのか、かと。​
──素晴らしい先生に出会われたことも大きかったのですね。
そうですね。江口先生は上原ひろみさんも教えていらした方で、自由に心のままに弾いていいんだよ、ということをすごく教えてくださって。それはジャズを弾く時には何よりも大切なことで、その時の自分がすべて反映されるので、自分に正直に、その時の感覚で創っていくジャズが自分には合っていると感じたのです。それで私は、ジャズピアニストと名乗っているんです。
──クラシックの名曲をジャズトリオで演奏することの面白さ、一方で、もし難しさなどもあれば、お聞かせください。
それは双方紙一重で。クラシックのジャズアレンジはインテンポ(譜面どおりの正確な拍子)で進まないアレンジにしてある曲も多いんです。でもインテンポでない曲を、3人の呼吸を合わせて奏でるということは、最初は少し難しかったです。でも、それこそ回を重ねる毎に3人が一緒に呼吸できるようになってきて。バンド自体が同じうねりの中にいて、同じ呼吸をしていると感じられるようになってきた上で、バンド皆のキャラクターがそれぞれにあること。その感覚が楽しくもあり難しさもありではありますが、でも楽しさの方がずっとずっと勝っています!
──それは何より素晴らしいことですね。そんなコンサートを、どんなお客様に聴きに来て欲しいですか?
ザ・シンフォニーホールではクラシックを聴いていらっしゃる方が多いと思うのですが、ジャズコンサートには行ったことがないという方にも、それほど構えずに(笑)聴きに来ていただきたいですし、一方、ジャズを聴かれる方で「ホールだからなぁ」と思っていらっしゃる方には、どこにいても私は私で変わりませんので(笑)是非気軽にいらして頂きたいと思います。ザ・シンフォニーホールは大阪でのデビュー公演以来、大阪交響楽団の皆様と、2月14日に2年連続でご一緒させていただいた場所で、そこに今自分が一番やりたい形の「細川千尋ジャズトリオ」として帰れるのが、とても嬉しいです。また新しい細川千尋を見ていただけたらと思いますので、是非、聴きにいらしてください。お待ちしています!
【動画】細川千尋さんよりメッセージ

取材・文=橘涼香  写真撮影=鈴木久美子

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