【ライブレポート】<千歌繚乱vol.1
7>、ひとくくりでは語れない“V系”
の世界

BARKS主催ヴィジュアル系イベント<千歌繚乱vol.17>が、8月15日に池袋EDGEにて開催された。
この日出演したのはヴァージュ、CANIVAL、ギャロ、SAVAGE、ジグソウ、MORRIGANの6バンドだ。真夏の日差しが眩しい時期、その真逆とも言える雰囲気の、音楽性からも見た目からも“黒”が連想されるバンドが集結した。しかし、いずれのバンドも“ただのヴィジュアル系バンド”ではなかった。ひと癖もふた癖もある彼らが作り上げた、それぞれの世界を紹介したいと思う。

   ◆   ◆   ◆
事前に行っていたインタビューで「ジグソウとはどんなバンドか?」という問いに、「見世物小屋」「視覚に訴えかけるバンド」と答えてくれたジグソウ。一体どういうことなのかと思っていたが、それは幕が開けた瞬間に理解できた。まず、ステージとフロアの間には赤い糸が結界のように張り巡らされているのだ。そこに不気味なナレーション、点滅する照明に浮かび上がるメンバーの姿、不穏な靴音。幕開けの段階で、既に世界が作りこまれている。

一曲目「痣」では、マル(G)と智依(B)が深く腰を折った姿勢で楽器を奏でている。そしてマリオネットのような動きのブキミ(Vo)が合図を出すと、操り人形のように動き始める。確かに見世物小屋のような妖しげな雰囲気だ。続く「近所のあの子」では詩季(Dr)のリズムにあわせ、マルと智依がそれぞれギターとベースを左右に大きくふりかぶって、振り子のような動きやターンを見せる。「よくそれで楽器が弾けるな」と心配になってしまうほどの大きな動き。楽曲はどちらかというとシンプルな構成だが、一糸乱れぬパフォーマンスが目に楽しい。曲中にブキミがハサミを取り出してステージに貼られた糸をプツンと切るシーンも。
「見せる」ことに特化しているバンドだと感じたが、「少女TYPE[B]」では頭を振ったり、「ブリキのオモチャ」では行進のようなドラムのリズムにあわせファンが旗を振るシーンがあったりと、観客も置き去りにしない。ラスト「とびおりくん」では楽器陣の徹底したパフォーマンスと一緒にファンも手をあわせてジャンプ、折りたたみを繰り出すなど、ジグソウの世界と見ている側の世界が混ざり合っていく。曲終わりにはステージ上に用意された壇から飛び降りたブキミ。そして無表情に立ち上がると、ジグソウのロゴを模したポーズで幕が降りた。終わってすぐ観客から拍手が起こったのも印象的。彼らはライブのことを“SHOW”と呼んでいるが、その言葉通り自分たちのスタイルを見せつけ、ファンも“SHOW”として楽しんでいたのだろう。
ジグソウとは異なる雰囲気でステージを作り上げたのは、ヴァージュ。この日のセットリストは、前半に切ない楽曲、後半にかけて徐々に熱を上げていく構成。黒いエナメルの衣装に派手な髪色、美しいメイクもそうだし、“ヴィジュアル系らしい”ライブだ。彼らはまず、8月22日にリリースされる2ndシングルより「かくれんぼ」「影」を投下。

ヴァージュの曲は「激しさ」「儚さ」「刹那的」というヴィジュアル系の魅力を網羅している。どの曲も、一気に開けるサビのメロディがとても美しい。透明感ある遼(Vo)の歌声は、たとえヴィジュアル系ファンでなくても聞きやすいだろうなと感じる。ハイトーンで少し女性的な声で、歌詞に込められた気持ちもダイレクトに胸に伝わってくる。激しくダークな面を支える或(Dr)と沁(B)のプレイに、繊細な遼の声と紫月(G)の哭きのギターが乗るというバランスも抜群だ。
ライブ後半は、切ない歌声を響かせていた姿とは打って変わって「死ぬ準備はいいか!」「もっと!もっと!」と力強く煽り倒す遼。「お人形遊び」ではメンバーがかわるがわるお立ち台に上り煽り、それに応えるファンのヘドバンでフロアは嵐が起きたかのよう。この二面性がまた痺れる。そしてMCもなくあっという間にラスト「家族ごっこ」へ。怒涛の勢いでライブを締めくくった。
ヴァージュが作った勢いを増幅させるように、幕開けからファンの折りたたみで迎え入れられたのはSAVAGE。1曲目の「蝙蝠」からフロアにはヘドバンが巻き起こるが、対するメンバーは立ち位置から動かず演奏を続ける。毒気を孕んだ歌詞を、自傷を思わせるパフォーマンスを取り入れて歌う龍華(Vo)がとてもクールだ。続く「Bogus Duty」でも曲のしょぱなからモッシュが起こるのだが、龍華は腰に手を当ててお立ち台の上から「動け!」と命令する。このドSなスタイルは、ここまでのボーカルにはなかった魅力だ。
「潔癖症の僕から不感症の君へ」に入るころには、すっかりフロアはモッシュとヘドバンで埋め尽くされる。SAVAGEというバンド名にぴったりの、獰猛な空間だ。見せる、歌う、演奏する、ということ以上に、彼らはフロア全体を端から端までどんどん熱くさせていくだけのパワーを持っていた。SAVAGEは“毒”をバンドを表すひとつのキーワードに掲げているが、こうやってファンの熱気が広がっていく様子は、まさに毒が浸食していくかのよう。

だがそれでも「こんなもんじゃねえ」「何しにきた」などと煽り、どこまでも満足しないメンバー。MCも曲と曲をつなぐ間もなく、次から次へと楽曲を繰り出してくるスタイルも、まるで弄ばれているかのように感じてくる。ちなみに“弄ばれる”と書いてしまったのは、SAVAGEは激しいだけでなく、どこか色気を感じてしまう部分があるからだ。そんなライブのラストには、暴れる要素をこれでもかと詰め込んだ「「匿名」さんの首輪」。この獰猛さは、きっと中毒になる。
SAVAGEのステージが終わった途端、フロアにはギャロオリジナルのBGMが流れ始め、転換中から否応なしに期待が高まってくる。「扉を開けばもう元の世界には戻れないでしょう」というナレーションと共に現れたジョジョ(Vo)は、紙皿を銀のスプーンで叩きながらフロアを煽る。実はこの紙皿とスプーンは“悪魔が夢を喰らうため”に必要なもので、ライブ前に物販席で配られていたりライブ中にも配られるなど、転換中からお膳立てが抜かりない。
楽しむ準備万端の観客に向け、「極上の悪夢へご招待いたします」と言って始まったのは「PLUTO」。歌詞は残酷で無常。だが、気怠げなジョジョの歌声が心地よく、聴き入ってしまう。続く「淫魔」は、ギャロらしい一筋縄ではいかないメロディがクセになる。ギャロはサウンドも歌詞も独特なバンドだが、ずっと聞いていたいと思うのは、各メンバーの高い演奏力も間違いなく影響している。展開が面白い「蛔蟲」など、レベルが高いからこそできる“遊び”を随所に感じることができるのだ。とはいってもただ音源を再現しているのではなく、ジョジョの感情が昂ぶって叫ぶように歌う場面もあった。

ギャロのライブを見ていて感じたのは、メンバーたちがこのステージを本当に楽しんでいるのだ、ということ。ワジョウ(G)とノヴ(B)が楽器を銃に見立てて遊んだり、ノヴがくるくると回りながらギターを弾いたり、予定調和ではない楽しみ方をしている。とても楽しく“音楽”しているのだ。その気持ちが伝わるのだろう、「大日本黒鶏主義者聯盟行進曲ホ短調」ではウエーブに万歳にジャンプ…とにかくファンも楽しそう。曲前にジョジョが言った「哀しみ、憎しみ、怒り、すべてを食いつくす」「共食い始めようか」という言葉の意味を、理解した。ファンはもちろん、メンバー自身も一緒になって、日々のネガティブを喰らいつくしているのだろう。この楽しみを知ったら、確かに“元の世界には戻れない”かもしれない。
続いて登場したCANIVAL。彼らの一番の魅力は、メロディの良さだと思う。ヘヴィなサウンドでヴィジュアル系ならではの激しさはあるのだが、どの曲もメロに痛々しいほどの切なさを孕んでいる。インタビューで志輝(Vo)は「不条理なことを自分のメンタルがどう処理するか”ということを自分に置き換えて曲を書いてきた」と語っていたが、CANIVALの曲からはどうしようもない状況にあっても「生」に向けてもがく姿を感じられるのだ。

この日のライブの一曲目「RASEN」も、Luvia(Dr)の激しいドラムプレイにあわせたヘドバンから始まり、「命など飾り」と志輝が歌にこめた痛烈な思いが垣間見える。ピアノに少しハスキーな志輝の声がのるボーカルソロのシーンは、特に胸を打つので必聴だ。「Morphine. 」のサビも耳なじみの良い美しいメロディ。ファンとのシンガロングも起きる。一方、ポップな遊び心を詰め込んだ「クソガキ、ツキニナク。」や、ダークな面に特化した「INVIDIA」とさまざまな表情も見せてくれる。
キラーチューン「毒ロマンス」は「あなたのものに何時かなりたい」という悲恋に落ちた女性の気持ちを歌う切ないボーカルソロから始まる…のだが、それを一変させる志輝のデスボイス。もちろんエモいサビも健在で、CANIVALらしい楽曲だ。そしてラストは今日一番派手なサウンドの「MOTEL」。ヘドバン、拳、逆ダイブでフロアを熱狂させてステージを終えた。ヴィジュアル系の音楽は負の感情や情景を美しく昇華させるのがひとつの魅力だが、CANIVALはそれを体現していたバンドだった。11月4日をもって解散してしまうのが、とても悔しい。
そして本日のトリを飾るMORRIGANも、残念ながら9月28日に解散することが決定している。この日はMORRIGANにとって最後のイベントライブ出演とあって、メンバーが登場する前からフロアには大きな拳が上がる。メンバー名を叫ぶ声に呼ばれて登場したARYU(Vo)は、いきなり「死ぬ気でかかかってこい!」と「XISS IN THE DARK」を突きつける。初っ端から歌詞の「消えることなき繋いだ時間を深く刻め」というメッセージが、切ない。
「SELFISH RUSSIAN」では最後のイベントライブのステージに立つMORRIGANへ、ファンがモッシュ、ヘドバン、タオルを回して応酬。MCではこの日同じステージに立った戦友バンドとファンへ「今日ここにいるお前らと、対バンのやつらと、この時間この場所をともにできて本当に良かったです」との温かい言葉を送るARYU。インタビューでは、ここまでバンドを続けてきて、「辿り着いた答えは自己満」だったと語っていたが、それはARYUらしい皮肉だったのだろう。MORRIGANのライブは自己満なんかじゃ決してない。

後半戦は「DEVILPARADE」「THE CATHARSIS」とロックな2曲を畳み掛けて、大暴れ。フロア後方まで全員を音にのせるパワーがさすがだ。そこへ投下された、ラストの一曲「Underworld.」。「いつかきっと消えてなくなる だから俺は歌う」「君を救ってあげるから 此処で生きていて」…終わりを目の前にしたバンドから聞くにはあまりに切ない歌詞。“救済”をコンセプトに掲げた彼らからの熱い思いはしっかりと伝わっていたのだろう、「最高だった、ありがとう」とステージを去ったメンバーに向けて、フロアからはアンコールの声が鳴りやまなかった。
   ◆   ◆   ◆

ライブイベントシリーズ<千歌繚乱>で応援しているのは、インディーズのヴィジュアル系バンドたち。大手の事務所やメジャーレーベルなど、大きな後ろ盾があるわけではない。それでも彼らは、自分たちの信念に基づいて、自分たちにしかできない音楽を届けてくれる。

今回出演した6バンドは、ダークな要素を持っていること、胸にこみ上げるような激情を持っていること、を基準にブッキングされた。インディーズのヴィジュアル系シーンを知らない人が傍から見れば、「似たりよったりでしょ」なんて思われてしまうかもしれない。けれどひとつひとつのステージをじっくり見て見れば、どのバンドにも個性があり、それを自分たちができうる限りの力を尽くして、ベストな形で届けようとする熱い思いがある。決してひとくくりの“ヴィジュアル系バンド”ではないのだ。6バンド分のステージを観終わった後に満ち足りた気分になりながら、そんなことを考えた。

なお、ライブイベントシリーズ<千歌繚乱>の次回公演は9月26日に渋谷REXで予定されている。こちらにはEVERSSICSoanプロジェクトwith芥、ヘルタースケルター、The Benjamin、Moreの5バンドが出演する。今回とはがらっと雰囲気を変え、「歌モノ系」に近いバンドが揃っている。チケットは現在
にて発売中。

取材・文◎服部容子(BARKS)
セットリスト

■ジグソウ
1.痣
2.近所のあの子
3.少女TYPE[B]
4.ブリキのオモチャ
5.とびおりくん

■ヴァージュ
1.かくれんぼ
2.影
3.毒苺
4.二枚舌
5.お人形遊び
6.

■SAVAGE
1.蝙蝠
2.Bogus Duty
3.潔癖症の僕から不感症の君へ
4.ドラマチックな恋
5.「匿名」さんの首輪

■ギャロ
1.PLUTO
2.淫魔-BELPHEGOR-
3.蛔蟲
4.大日本黒鶏主義者聯盟行進曲ホ短調
5.夢魔-INCUBUS-
6.禁句

■CANIVAL
1.RASEN
2.クソガキ、ツキニナク。
3.Morphine.
4.INVIDIA
5.毒ロマンス
6.MOTEL

■MORRIGAN
1.XISS IN THE DARK
2.SELFISH RUSSIAN
3.DEVILPARADE
4.THE CATHARSIS
5.Underworld.


<千歌繚乱vol.18>

日時:2018年9月26日(水)開場17:30 開演18:00
出演:EVERSSIC/Soanプロジェクトwith芥/ヘルタースケルター/The Benjamin/More
会場:渋谷REX
料金:【先行チケット】3,500円 【一般チケット】3,800円 【当日券】4,000円 ※ドリンク代別途

・チケット受付
【先行抽選受付】
7月13日(金)12:00~8月19日(日)16:00
チケット購入ページURL:[チケットデリ] http://ticket.deli-a.jp/

【一般先着受付】
8月20日(月)12:00~9月25日(火)
[イープラス]
チケット購入ページURL:http://sort.eplus.jp/sys/T1U14P0010843P006001P002265279P0030001

関連リンク

BARKS

BARKSは2001年から15年以上にわたり旬の音楽情報を届けてきた日本最大級の音楽情報サイトです。

新着