公の場に子連れは抵抗あり!?「あえて
連れていったことでよかったこと」【
インタビュー】

公の場に子連れで行くのはアリかナシか、迷うことってありますよね。ですが、子どもを連れていった結果、思わぬよい効果を生むこともあるとしたら? 国内最大級の詩と言葉のフェス「ウエノ・ポエトリカン・ジャム」の主催者のひとりである三木悠莉さんにお話を伺ってきました。

職場やオフィシャルな場に子どもを連れていくのはアリかナシか、という論争は、古くは1980年代にアグネス・チャンが仕事場に赤ちゃんを連れて行ったことに端を発する、いわゆるアグネス論争の頃から存在しています。
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昨年は、熊本市議会に赤ちゃんを連れて出席しようとした市議の行動が賛否両論を呼びました。
職種によってはすでに子連れ面接や子連れ出勤がOKなところも出てきていますが、この議論、結論が出るにはまだ時間がかかりそうです。特に、運営するメンバーの年齢層が高く、男性中心のソサエティーにおいては、まだまだいい顔をしない人も多いよう。
ですが、実際問題として、育児休暇制度が利用できない自由業やフリーで働いている女性の中には、時にやむを得ずオフィシャルな場に子どもを連れていくことはあるでしょう。
普段から保育園に入れていれば別ですが、たまにある打ち合わせのためだけに子どもを預けるというのは、日本ではまだあまり現実的ではありませんよね。ましてや乳飲み子であればなおさらです。
連れていく方は、他人に迷惑をかけないようヒヤヒヤだと思いますが、ママが子連れでオフィシャルな場に行くことが、逆に周りにいい効果を産むこともあるようです。
妊娠・出産・子育てとイベントを両立させた三木悠莉さんのケース妊娠中に大きなイベントを打つことを決心し、産後数ヶ月で実際にイベント開催にまでこぎつけた女性がいます。
詩人であり、数々のイベントを主催してきた三木悠莉さん。
昨年は、国内最大級の詩と言葉の野外フェス、ウエノ・ポエトリカン・ジャム5を胎動レーベルのikomaと共同主催しました。
三木さんは、イベントのスタッフとの打ち合わせに、ほぼ毎回、産後間もない自分の子どもを連れて参加していました。
初めのうちは、かなり遠慮や心配もあったそうですが、回を追うごとに、“三木さん=子連れが当たり前”、という認識が定着して、子連れで参加することに罪悪感を抱かなくなっていったそうです。また、子どもがいなかったら気づかなかったことや発見も、多くあったと言います。
三木さんにお話をうかがってきました。
イベントをやろうと思い立ったわけ――まず、ウエノ・ポエトリカン・ジャムについて、お話を聞かせてください。開催しようと思ったのは、妊娠中だったとか?
三木悠莉(以下三木)「はい、ウエノ・ポエトリカン・ジャムはもともと詩人で作詞家のさいとういんこさんが2000年に始められて、その後、別の主催者に引き継がれて4までが開催されていて、私は2012年に詩の朗読活動を始めたのですが、その時にはもう開催されていなかったんですよね。
すごいイベントがあったと人から聞いて知って、それで、また誰かやらないかなーと思っていたのですが、だんだん、“いつかやりたいな”と漠然と思うようになっていました。
一昨年の後半に第二子を妊娠したんですが、胎児に頭蓋骨異常があるかもしれないと病院で言われて、家の中がすごく暗かった時期があったんです。
自分では何もできないし、不安ばかりがつのって。それでも、子どもを産むんだし、なんとかして自分や家族を景気づけないとな! と思ったんですよね。
私、妊娠を機に仕事をやめたんで、思いがけず時間があったんですね。それまではずっと働いてきたので、そんなに日中時間ができること自体が久しぶりで。“もしかしてこれって、チャンスなんじゃない?”って。
――なんとポジティブな!
三木「準備する時間はいっぱいあるなって。それで、初年度の主催者のさいとういんこさんに相談して、妊娠中でしたが、やることを決めました」
独身男性スタッフの反応は?
子連れ会議の思わぬ恩恵?――ウエノ・ポエトリカン・ジャムは、谷川俊太郎さんや、松永天馬さんなど、そうそうたる出演者が揃った大きなイベントだったそうですが、運営するにあたって、妊娠していることや出産後のことは不安ではなかったのでしょうか。
三木「そうですね、産まれた後のことは少し心配でした。子どもって小さいうちから個性があるので、いざ生まれてみて、すごく手のかかる子だったらどうしようとか、そういうのはありましたね。
でも、すべては走り出してしまったので・・・妊娠中から、たぶんいろいろ迷惑をかけることもあるかもしれないとは、スタッフのみんなには言っていました」
――他のスタッフは独身の男性が多いそうですね。
三木「そうですね。でも私が子どもを産んで、“実は自分、きょうだいが多くて、弟の面倒をみてました“って言ってきてくれた人がいたり、共同主催者のikomaも、 過去に学童保育や児童相談所で仕事をしていたと話してくれたり、 そういうのはもし子どもがいなかったらしない会話だったと思うの で、面白いですよね」
――彼らを含め、多くの若者が、産まれたばかりの赤ちゃんに会う機会って少ないですよね。ママになって初めて赤ちゃんを抱くという女性もいますし。反対に、なにか批判的なことを言ってきた人はいませんでしたか?
三木「それはなかったですね。初めから、私が主催者とわかっていて、“私=赤ちゃん連れ“が当たり前というか、”あれっ、赤ちゃん”と思っても、次の瞬間には“そっか、三木さん、子どもいますもんね”って納得してくれて」
――赤ちゃんの扱いに戸惑ってしまう人はいませんでしたか?
三木「いちおう初めて会う人には、“赤ちゃんいるんですが、大丈夫ですか?“とは聞いていました(笑)」
――社会が赤ちゃん連れに冷たいとよく言われますが、あれって、要するに、赤ちゃんに慣れていない人が多いだけなんですよね。
赤ちゃん連れにやさしい年配の方は、赤ちゃんに接する回数が多いからスキルが高いだけで、若い人でも、子どもがいない人でも、赤ちゃん連れにやさしくしたい人はいると思うんですが、優しくしたくても慣れていないから、どうしたらいいのかわからないだけなのではないでしょうか。
三木「私も最初のうちは、かなり前もって”子連れで行くのでご迷惑おかけすることもありませんが、よろしくお願いします“って言っていたのが、だんだん直前になり(笑)」
――他の方も慣れていったんですね。赤ちゃんに慣れている人が多ければ多いほど、赤ちゃん連れに優しい社会になる気がします。そういう意味では、赤ちゃん連れで公の場に出ることは、身近なところからできる社会貢献なのでは? と思いました。
三木「そうですかね(笑) 生後1,2ヶ月の子どもを預けることはあまり想像できなかったので連れて行きましたが、結果的に、子どもがいることで会議が滞ることはなかったですね、ありがたいことに」
子連れに冷たい社会というけれど?
現代社会は本当に子連れに冷たいのか?三木「よく、現代は子連れに冷たい社会だと言われますが、実社会で私はそれほど嫌な思いをしたことがないんですよね。SNSとかでそういうことが流れてくるのを目にすることもありますが、同じくらいいいことも社会にはあるんじゃないかと思うんです」
――そうですよね。先ほども言いましたが、社会には、子連れに厳しい人と同じくらい、親切にしたいけどどうしたらいいかわからないという人がいると思うんですよ。
さらに、小さな子どもを連れたママたちの方にも親切を受け入れる余裕がないというか、迷惑をかけまい、とすごく緊張してますよね。それが、“子連れに冷たい社会”を生んでいる気がします。
三木「ネットでそういうことを読むと、世のママとかはこわいなと思って委縮してしまうんですよね」
――上のお子さんの時は、どんな感じでしたか?
三木「上の子どもの時は、やっぱり初めてだったので、私もすごく周りを気にしていたし、バスとかで泣くと、すぐ降りなきゃと思って、実際に降りたりしていました。
だけど、だんだんそこまでしなくても、やさしいおばちゃんとかおじちゃんとかいるんですよね。こっちが勝手に過敏になっていたというか、こっちから遠慮しちゃってたんだってことに、だんだん、2年、3年とかけて気づいていった感じですね。
その経験があるので、二人目は一人目よりはかなり図太く育てられていると思います(笑)」
――街中で会うママたちって、わりと険しい顔をしていると感じるのですが、あれはがんばっているからなんですよね。がんばり過ぎてしまっている。
三木「意外と、人って、助けを求めたら助けてくれるんじゃないかと、私も子どもを二人産んで思えるようになったんですけどね。
ネットでネガティブな声を聞くと、実際以上に大きな声に聞こえてしまいがちだと思うんですが、本当は、助けたいと思っている人も社会にはいて、でも助け方がわからなかったり、ママの方が助けを受け取るのが苦手だったりして、マッチングがうまくいっていないんですよね」
――三木さんのように、子連れの自分のまま社会にいても、受け入れてもらえる体験を、より多くの人ができるようになるといいと思います。
まとめ社会、というとサイズが大きくなってしまいますが、まずは身近なところから、子ども連れで行くことに慣れていってはどうでしょうか。
安心できる預かり先があればあるにこしたことはないですが、子どもがいるから行きたい場所に行けないというのは、しなくてもいい選択なのかもしれません。
それがたとえば、より公的な場であっても、堂々と理解と協力を求めたうえで自分の能力を発揮できれば、誰にも後ろ指を指されることはないはずです。
ちなみに、筆者は数年前、出産をまたぐ2年間、地域の自治会の副会長をこなしました。もちろん、家族や、他の会員の方の協力あってのことですが、赤ちゃん連れで定例会議に参加することで場が和む効果もたしかにありましたよ。
今回インタビューに応じてくださった三木悠莉さんですが、昨年、約900人を動員し大成功を収めたウエノ・ポエトリカン・ジャム5に飽き足らず、今年も走り続けます。
ウエノ・ポエトリカン・ジャム6は、今年は9月15日、16日の2日間開催されます。会場は上野水上音楽堂です。
昨年に引き続き出演する谷川俊太郎、松永天馬を始め、町田康、いとうせいこう、三角みづ紀、文月悠光など、さらに多数の豪華ゲスト陣に加え、100人のオープンマイク(一般からの自由参加のパフォーマンス枠)といった内容で、なんと入場無料!
赤ちゃんやお子さん連れも大歓迎だそうです。
詩や言葉に興味のあるママは、ぜひチェックしてみてくださいね。
【取材協力】三木悠莉 (みきゆうり)
2012年、ポエトリーリーディングを始める。
ウエノ・ポエトリカン・ジャム5、6 代表。 ポエトリー・スラム・ジャパン2017秋 全国優勝。 パリで開催されたポエトリースラムW杯に日本代表として出場。 同会期中開催の俳句スラムで優勝。
2018年は東京予選B大会にて先日、優勝。 今年も全国そして世界を目指す、9歳女児と1歳男児の母。

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