LAMP IN TERREN、“復活”の初野音ワ
ンマンで“新生”を告げた熱演

夏の野外ワンマンライブ「ARCH」 2018.8.19 日比谷野外大音楽堂
8月19日、ひと足早く初秋を感じさせる青空と涼風の中、LAMP IN TERRENが日比谷野外大音楽堂でワンマンライブ「ARCH」を行った。それは彼らにとって初の野音のステージであり、過去最大の観客を動員するライブという挑戦でもあったわけだが、それ以上に活動休止からの復活の場として待ち望まれていた日だったように思う。ご存知ない方のために簡単に説明すると、彼らは松本大(Vo/Gt)の声帯ポリープ手術およびその後の療養のため、今年4月に行ったワンマンツアー「MARCH」のファイナル公演を最後にライブをはじめとした表立った活動をしていなかったのである。前述した通り、キャリア最大の会場に挑むにもかかわらず、だ。そこに大きな不安やプレッシャーが生じたことは想像に難くない。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
ただ、当然ながら彼らは、休止中にただ歩みを止めていただけではない。松本は歌えない間にも新たに曲を書いていたし、ほかのメンバーもそれぞれプレイヤーとして研鑽を積み、バンドとしてもこれまで以上にガッチリと噛み合ったアンサンブルを生み出せるようになっていた。そのことを証明するかのように、SE無しの静かな登場でライブが幕を開けてから実に7曲もの間、彼らは特効の類はおろか照明すらも使用することなく、4人の身体とそれぞれの奏でる音、そして漲る気迫のみで真っ向からオーディエンスと対峙したのだった。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
セットリストに関しても一切の小細工無し、彼らにとって王道と呼ぶに相応しいもの。オープニングナンバー「New Clothes」は、自己に対する理想と現実のギャップや周囲の評価に悩まされた時期を経た松本が、それらの感情との決別を生々しく歌に乗せることで宣言した曲であり、活休前のラストライブでは本編の最後に演奏された曲だ。2曲目の「キャラバン」にしても、ある種バンドのテーマソング的な楽曲として演奏され続けている曲なわけで、冒頭からLAMP IN TERRENという存在そのもの、核となる部分を惜しみなく曝け出していく流れだったと言えるだろう。音にも演奏する姿にも躍動感があふれる川口大喜(Dr)と中原健仁(Ba)のリズム隊がボトムを支え、大屋真太郎(Gt)は要所で前へと進み出たりしながらのびのびとプレイ。松本はといえば、以前より歌声が若干クリーンになった分、時折荒々しくがなる歌唱が映え、良いアクセントとなっていた。術後3ヶ月程度ということで歌声のコントロールに苦慮するシーンも無いわけではなかったが、そこに臆することの無い堂々としたパフォーマンスを展開していく。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
会場のいたる所から飛ぶ「おかえり」の声に対して、まだ足りないとばかりにおどけてみせてから、「ただいま。久しぶり。会えて嬉しいです。来てくれてどうもありがとう」と挨拶。伝えたいことはたくさんあるけれど、ずっと歌えなかった分、音に乗せて届けたいと続け、自ら鍵盤に向かってイントロを奏でた「Dreams」。言葉通りの力強いアンサンブルが、ジワジワと高鳴っていく観客達の鼓動とリンクするようだ。そのままシームレスに突入した「林檎の理」でハンドマイクを手にステージの最前まで進み、客席から大きなコーラスを呼び込んだあと、「ボイド」へ。<空の向こうには 何が広がって どんな風に僕らが 見えているんだろう>という歌い出し、憂いと爽やかさが入り混じる情感豊かなメロディ。この曲は野音によく似合う。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
「めちゃくちゃ固かったよね、みんな(笑)」と、MCで前半戦の自分たちを自虐的に振り返った後、じんわりと明かりが灯ったステージの中央に4人が集まり、8曲目「花と詩人」と9曲目の「multiverse」はアコースティック編成で。イヤモニを入れ忘れてイントロをやり直すことになった松本に、すかさず川口が「固いんじゃない?」と突っ込めば、「今ので柔らかくなりました」と返す。そんないい感じにグルーヴするやり取りそのまま、アコースティック編成の2曲に関しても、いずれも原曲よりもあたたかみが増していて、とりわけ大屋のアコギが味のある音色で印象的だった。「multiverse」ではシャボン玉が風に乗る中を、松本のファルセットが高らかに響き渡っていく。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
ライブも折り返し。辺りが暗くなりこの日初めて派手な照明が使われたこともあって、「innocence」では一際ロックバンド然とした佇まいとソリッドな音で魅せる。この日からリリースされた復活限定盤の表題曲「Water Lily」では、バンドにとっての新機軸といえる打ち込み要素が強いこの曲を、川口がリズムパッドを叩き、中原のベースがクールなグルーヴを生み出すことで、見事ライブならではの形に仕上げていた。4人向かい合ってのイントロから放たれたのは「緑閃光」。内に秘める感情をジワジワと露出させていくような力のこもった熱演を引き継いで、それを一気に解き放ったのは「涙星群の夜」だ。弾き語りで歌われた冒頭のフレーズのあと、眩い光の中を弾けるように駆け出すバンドサウンドに盛大な歓声が沸く。静かに、ちょっとシリアスにスタートしたライブはいつの間にか会場中を満たす熱狂に包まれている。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
「喉の手術をして、それまでの自分と全然違う自分になって。心も体も生まれ変わる一年になった」「人間として、松本大としてまた1から、ゼロから、この場所から一つ一つ積み上げていきたいと思います。ここから始めます」
最後のMCでそう告げた後、松本は客席の中央やや後方に据えられたセンターステージに向かい、「地球儀」を歌った。記者席がそのすぐ後ろだったので、それまでステージを観続けていた前方の観客たちがみな“回れ右”をしてこちらを向く格好となったのだが、松本に向け一心に注がれる視線の元を辿ればみんな笑顔だ。そこから巻き起こる大合唱を聞きながら「ああ、大丈夫」そう思った。順風満帆とは言えない歩みのバンドではあるが、その復活を本気で喜び祝う人間がこれだけいて、今お互いに正面から向き合えているんだから。幸福感に満ちた数分間ののち、松本は去り際に、彼らしくちょっとキザに誓った。
「俺らのことを好きでいてくれる人は、全員幸せにしてやるつもりでバンドやっていくんで。またね」
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
アンコールは潔く一曲のみ、「メイ」だった。歌詞を全て書き起こすことはしないが、この日の野音で歌われることに、いまの彼らが伝えたい気持ちを表すために、これほどピッタリくる曲があるだろうか。活動休止の直前、松本がこれまでの自身の詩作について話してくれたことがある。それは、「~だったらいいな」という願いばかりを書いてきて、「自分はこうだ」と言い切ることを避けてきた。それだけだと聴き手の奥底までは届かないんだと思う、という内容であった。この「メイ」自体はずいぶん前に書かれた楽曲だけれど、そんな彼の心境の変化を映してだろうか。<貴方が僕の証明>と冒頭の歌詞をアレンジして歌われた、かつては「そうありたい」と願っていただけだった歌は、これまでにない真実味を持った決意の証として響いたのだった。
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ
年内にアルバムを出す、という嬉しい報せもあったこの日。待ちに待った復活の日としては当然のこと、バンドがこれまで到達し得なかった領域への新たな第一歩を野音のステージから踏み出した日としても、きっと「僕」や「貴方」の記憶に刻まれるのだろう。新生、おめでとう。

取材・文=風間大洋 撮影=浜野カズシ
LAMP IN TERREN 撮影=浜野カズシ

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