鍵田真由美・佐藤浩希が語る スペイ
ンの歌謡曲と共に贈る『¡ Amor Amo
r Amor ! ~愛こそすべて・2 ~』

鍵田真由美・佐藤浩希が主宰するARTE Y SOLERA(アルテ イ ソレラ) 鍵田真由美・佐藤浩希フラメンコ舞踊団は活発な公演活動を行い、阿木子・宇崎竜童と組んだ『フラメンコ曽根崎心中』をヒットさせたり、本場スペインの「フェスティバル・デ・ヘレス」に度々招聘を受けたりするなど日本のフラメンコシーンをリードする存在だ。二人は公私のパートナーで、公演では鍵田が主演し佐藤が演出・振付・構成を手がける。2018年9月14日(金)~15日(土)、よみうり大手町ホールで行われる『¡ Amor Amor Amor ! ~愛こそすべて・2~』は、スペインの歌謡曲を扱ったフラメンコ・レビューの第2弾で、鍵田と佐藤のダブル主演で贈る異色の舞台として注目される。鍵田と佐藤にスペイン歌謡曲の魅力や公演のみどころを聞いた。
『愛こそすべて』2011年 撮影:川島浩之
スペインの歌謡曲で踊る魅力とは
――純粋なフラメンコや『フラメンコ曽根崎心中』『道成寺』といった創作フラメンコを手がけてこられましたが、スペインの歌謡曲を使って踊ろうと思ったのはなぜですか?
佐藤 僕はカンテ(歌)が好きで、偉大なカンテの歌い手たちが昔からフラメンコの曲の中にラテンの名曲とかスペインの歌謡曲をアレンジして歌っているのを知っていました。スペインのへレスの子供たちなんかもフラメンコのコンパス(リズム)の中に、その時々に流行っている曲を入れて踊るんです。そういう粋でかっこよく自由に遊べる感じがいいな、何かできないかなと考えて2007年の『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』の中で初めて「SE NOS ROMPIÓ EL AMOR」という曲を使いました。
――スペインの歌謡曲の特徴をお教えてください。
佐藤 スペイン歌謡といっても様々で、クプレという一般的な歌謡曲があるいっぽうでフラメンコに影響されているコプラがあります。コプラはフラメンコの純粋な曲調をアレンジして聞きやすく派手にしています。アンダルシアの人たちはコプラが大好きで、フラメンコ以上に歌い踊ります。そういう曲を我々が踊るのは日本舞踊を真剣に習っているアメリカ人が森進一さんの歌で踊る会をやるみたいで一見キワモノのように思われるかもしれません(笑)。でもスペインで長い時間の中で培われているフラメンコの深いところとかコプラを日本人の目で見てきた器の中で料理してちゃんと提示したら、きっと新しい形で喜んでもらえる確信がありました。
――実際に踊られていかがでしたか?
鍵田 『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』の時にヘレスから呼んだ歌い手たちがびっくりしていたんですよね。彼らにとっても初めてのことで、それを佐藤が舵を取っているのが面白かったです。踊る方からするとフラメンコの曲を踊るのと同じで違和感は何もなかったですね。でも歌謡曲なのでドラマ性がさらに積み重なるイメージを持ちながら踊りました。
佐藤 へレスの生粋の歌い手たちに最初は嫌がられたんですね。喧嘩をして、歌い方も指導して……。でも最後に「凄いな、これ!」となりました。2013年に『愛こそすべて』を「フェスティバル・デ・へレス」でやる時にお客さんがどのように受け止めてくれるかなと心配したのですが、1曲目が終わったらロック・コンサートみたいになったんです。大盛り上がりになって、それが最後まで続きました。
(左から) 佐藤浩希、鍵田真由美
――そもそもフラメンコとスペイン歌謡の関係はどのようなものですか?
佐藤 ルーツは全く別々です。スペインの歌謡曲はラテンの曲調だけでなく世界的な文化の影響を受けています。たとえばボブ・ディランとかビートルズとか1960~70年代のベトナム戦争があった頃それに反対して愛と平和を訴えた歌手たちの影響を凄く受けて発展してきました。フラメンコとは全然関係ない人でもフラメンコに対する憧れがあって、ジョアン・マヌエル・セラートのような有名な人たちがフラメンコの曲調を取り入れてアレンジしています。
鍵田 向こうの人たちはトップのアーティスト同士で文化的交流があって、人の交流の中から自然に生まれているんですね。
――鍵田さんは若き日にスペインに留学されましたが現地での生活の中で歌謡曲に接した印象はいかがですか?
鍵田 あちらの人たちはディスコに行ってもフラメンコチックに踊っています。ラテンの曲を踊っても、やっぱりそこにはフラメンコのリズムやノリが隠れていたりします。それは我々が盆踊りに行けば、それらしく踊るような感じに近いかもしれません。先ほど佐藤が話したようにヘレスで踊った時に凄く受けたのは、フラメンコとか歌謡曲とかを分けることを向こうの人たちもしていなくて「自分に届く歌はすべて良いもの」としてジャンルを飛び越えているものがあるからじゃないかと思いました。
『愛こそすべて』から『¡ Amor Amor Amor ! ~愛こそすべて・2~』へ
――2011年にスペイン歌謡曲を用いたフラメンコ・レビュー『愛こそすべて』を世田谷パブリックシアターで発表し、2012年にル・テアトル銀座で再演しました。テーマはずばり「愛」です。
佐藤 フラメンコって元来家族でパーティーをやって踊ったり、笑わせたり、皆で楽しむもので、不幸があってもそれを吹き飛ばして明日を生きる力を得る。そういう芸能なんです。その原点があって、そこから人に見せるようになり、アントニオ・ガデスのような人が出て芸術になっていった。いま、芸術である前の芸能のフラメンコが希薄になってしまっているので、「フラメンコは皆が凄く楽しめるものなんだよ」ということを自分たちなりにショーアップして、エンターテインメントとして楽しめる舞台を創りたいと思うようになりました。創るにあたってスペイン特有の愛に対する強烈で綺麗ごとではない世界観のあり方が面白いので、そういう愛の形、スペインの歌謡曲の世界を伝えたいです。フラメンコとの親和性のある曲だけでなく「これはフラメンコにはならないだろう」という曲も取り入れています。
『愛こそすべて』2011年 撮影:川島浩之
――『¡ Amor Amor Amor ! ~愛こそすべて・2 ~』をどのように選曲・構成するのですか?
佐藤 歌っている内容が前回と全然違うものを選んでいます。もう少しフラメンコの寄りの歌謡曲を選びアンコールを除いて本編は全部新しくします。10曲くらい出来上がっていますが最終的には12曲くらいになるかもしれません(取材を行った2018年8月上旬時点)。
鍵田 佐藤はまず群舞の方をメインに振付を始めています。私はまだ待っている状態ですが何をやるのだろうかと楽しみです。
――鍵田さんが初めて聴く曲もありますか?
鍵田 佐藤がセレクトした曲はずっと前から聴いている曲ばかりなんです。佐藤は移動中とかもお気に入りの曲をずっと聴いていて、そこから出してくるので私も耳慣れている曲ばかりです。
――日頃から聴き込んでいる曲に振付する時のやり方は?
佐藤 詞と曲を理解し体の中に入れて踊り手たちのエネルギーからインスピレーションを得て振付するのが主体です。音楽が体に染みこんでいないと振りは出てきません。
――鍵田さんにお伺いします。佐藤さんの創る振りは音楽を聴いていた時のイメージと同じですか、それとも少し違ったものですか?
鍵田 両方ありますね。自然な感じだなというものと、ドキッとびっくりするようなポジションやポーズをとったりするものがあります。いい意味で裏切るようなこともあります。でも歌詞や曲のイメージとは合っているので納得しています。
(左から) 佐藤浩希、鍵田真由美
フラメンコを極めつつ新たな挑戦を
――『¡ Amor Amor Amor ! ~愛こそすべて・2~』への意気込みをお聞かせください。
佐藤 前作をお好きな方も見に来られるので、新しいバージョン2だと思っていただけるような作品にしたいですね。前回の色は残して、新しい風を吹き込みたいと思います。スペインの歌謡曲をベースにやるんですけれど、それを知らない日本人のお客さんが初めて見ても楽しめるようにします。最終的には前回に引き続いてスペインに持っていきたいです。
鍵田 このシリーズとしては初めてピアノとかヴァイオリンが入るミニ・オーケストラのような編成です。弦楽器も加わるので膨らみが出て音楽的にドラマティックになればいいなと。踊り手はそこに負けないようにしなければいけませんが。
――2018年12月12日(水)~20日(木)には新国立劇場中劇場で『Ay 曽根崎心中』(『フラメンコ曽根崎心中』改題)を12回上演します。そちらも踏まえて今後の展望をお話しください。
佐藤 最初に「近松(門左衛門)の心中ものをやりなさい」と勧められた時には興味なかったのですが、時間が経ち今では歌舞伎の作品にも携わるようになって日本の古典が大好きになってしまいました。でも自分はあくまでもフラメンコが好きで、フラメンコをやってきたからこそ古典の方々とも対等に仕事ができると思っています。それがなくなったら何者でもない何でも屋になってしまう。フラメンコという根っこを深く追求することによって、ひとつのことを極める生き方を続けていきたいと思っています。
鍵田 今でも新人のつもりでいるのですが、そういう訳にもいかなくなってきました。年齢を重ねキャリアを積むと継承することも自然に出てきます。『Ay 曽根崎心中』では今まで私と佐藤がお初と徳兵衛を踊っていましたが、今回初めて工藤朋子と三四郎も踊ります。もう一度フラメンコに立ち戻って、踊りながら伝えて受け継いでいきたいです。『¡ Amor Amor Amor ! ~愛こそすべて・2~』でもアンコールの曲に関しては初演からずっと踊っている曲が出てきます。メンバーが変わってきているのですが、オリジナルの振付や構成を継承していくことが大事で、本当の栄養素が抜けていないか目を向けていきます。同時に今後も新しい作品や曲に挑んでいきます。その両方をしっかり見直しながらやっていきたいと思います。
『愛こそすべて』2011年 撮影:川島浩之
取材・文・撮影:高橋森彦

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