あらき、“歌い続けていく”という強
い意志を感じさせた熱狂のステージ
2018.8.11 TSUTAYA O-EAST
題して、『ARAKI OneManLive -COZMIC TRACKS-』。今回あらきがTSUTAYA O-EASTにて行ったライブは、彼にとっての初ワンマン公演であると同時に、今をさかのぼること2013年8月に「青森出身なのに「脳漿炸裂ガール」を歌ってみた」でニコ動デビューを果たして以来、あらきとして迎えた5周年の記念すべき一夜でもあったことになる。
黒地に金のアクセントをあしらった、ゴージャスな和のテイストの衣装。あらきのイメージカラーであるビビッドな赤色に染めた、ハーフアップスタイルでパンキッシュにキメたヘアメイク。全体的になかなかの傾き(カブキ)っぷりを呈した出で立ちで、ファンキーな雰囲気を漂わせたダンスロックチューンとなるこの曲を歌うあらきのパフォーマンスぶりは、言葉で表すなら“粋”の一言だったのではなかろうか。
あらき
だが、それでいてあらきの持っている魅力とは何もパワフルなボーカリゼイションだけではない。「ブリキノダンス」や「少女は夜と鮮やかに」など、ひとしきりアッパーな曲たちを華麗に歌い切ったあとには、O-EASTの大きな特徴のひとつである常設サイドステージ(ただし、普段はシャッターが閉められている)を有効活用し、ワンマンならではのアコースティック・コーナーを設けることにより、しっとりじっくりと深い歌声を聴き手に聴かせるという場面もあらきは用意してくれていたのだ。
あらき
あらき
アコースティック・ギターを肩にかけたギタリストを従え、あらきはここで「しわ」と「Another Hero」を熱唱。ちなみに、「しわ」を歌う前にはこのような発言をしていたことも、非常に印象深かった。
「僕、今年で30歳を迎えるんですけれどもね。仮に80歳まで生きるとして、あと50年。仮に一秒ごとに誰かとひとりずつ新しく出会っていったとしても、地球上にいる70億人のひとたちとは絶対に会い切れない計算らしいです。つまり、何が言いたいかと言うと。そんな風に無理やりたくさんの人と出会おうとする以前に、僕は今ここに集まってくれている1300人のことを大事にしたいな、と思って。(中略)今日のライブで僕のことを支えてくれているメンバーたちのこともそうだし、ここにいる皆さんに対しても、僕は本当にありがたさを感じてます。これからも皆と一生一緒にいられますように、という気持ちを込めて……」
たっぷりとした声量に、微に入り細に入った表現力。あらきがボーカリストとして擁する、底力とでも言うべき一面がここではいかんなく発揮されていたことになるのは、言うまでもない。シンプルに、歌だけでここまで存分に聴かせ切ることが出来るという証明そのものが、そこには確かに在った。
あらき
あらき
「びっくりですよ(笑)。スペシャルゲストのnqrseさんです! 今日は5周年のワンマンということでやっているんですが、もう知りあってから2年くらいですかね。この人との出会いは僕にとってかなり重要なものと言えるので、これは既に自分ひとりだけのライブでもないなと思い、来てもらいました!」
とのことで、さらに次なる「ロキ」では2MC状態でのラップ掛け合いを披露して見せ、これには一層オーディエンス側の発する熱量も上がっていく展開へとあいなった。
また、ある意味ここで燃焼しきったことで、アンコールはアンコールならではの肩から力がちょうど良い具合に抜けたかたちで「セカイ再信仰特区」が歌われることになったのも、これはこれでワンマンらしい流れだったと言えるのかもしれない。
なお、このあとには数年前にあらきの父が亡くなっていたことが語られたうえで、その際にあらきの母が「(アーティストとして)大きくなっていくところを見られないうちに、この人が逝ってしまうのが残念だ」と言っていたこと。だからこそ、自分はまだまだ上を目指していきたいということ。この2点が、卒直な言葉で我々に向けて伝えられるくだりがあったことも付記しておきたい。
あらき
あらき
後日、この「Cozmic Tracks」は動画投稿のかたちでも発表されるとのことなので、出来るだけ多くの方にこの曲を味わってもらいたいのだが……この夜の最初に歌われていた「敗北の少年」とはまた全く別の方向性から、この曲はあらきがこれからも歌い続けていくという意志を、強く表した説得力のある楽曲になっているように思えてならない。しかも、ヘンにシリアスというわけでもなく曲の中ではしっかりとポップセンスもハジけているという、欲張りな贅沢仕様。
あらきの発する燃えるような情熱と、ここからに向けたポジティブな思い。このライブと、新曲「Cozmic Tracks」で浮き彫りになったのはまさにそれでしかない。我々としても、この5周年を経てあらきがより躍進していくことをただただ望むばかりだ。
文=杉江由紀 撮影=小松陽祐[ODD JOB]
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