After the Rain、夢の大舞台・さいた
まスーパーアリーナで示した未来への
道標

After the Rain さいたまスーパーアリーナ2018 雨乞いの宴 / 晴乞いの宴

2018.8.8 さいたまスーパーアリーナ
夏台風の近付きつつあった、2018年8月8日という8並びの夜。さいたまスーパーアリーナでは、この季節感を満喫出来る夢のような夏祭りが繰り広げられたのであった。
そらるまふまふによるAfter the Rainが、このたび開催したライブは『After the Rain さいたまスーパーアリーナ2018 雨乞いの宴 / 晴乞いの宴』というタイトルで、2デイズであったこのライブに対してふたつの意味合いがそれぞれに持たせられていたことになるだろう。ここでは筆者が赴いた2日目の模様について書き記していくこととしたい。
After the Rain
まず、さいたまスーパーアリーナの場内に入って真っ先に視界へ飛び込んできたのは、朱塗り風の柱や太鼓橋などをしつらえた完全和風の大型ステージセットで、場内後方には祭りヤグラのようなプチステージとおぼしきものも……。また、2階席や3階席のスタンド淵には、これまた風情漂う祭り提灯がずらりと吊されており、その華やいだ様子からは今宵この場が盛大なる夏祭りの場になる、ということを容易に感じ取ることが出来た。
当然、そうした物理的演出の面からもこの公演に対する期待が開演前から高まったことは言うまでもないが、実際にライブが始まってみるとその期待をはるかに上回るパフォーマンスで、After the Rainは我々を異界の宴へと誘ってくれた。
そらる
まふまふ

いかにもこの季節にふさわしい、夏の海の情景を思わせる「マリンスノーの花束を」。はくちょう座のデネブ・わし座のアルタイル・こと座のベガからなる“夏の第三角”というフレーズが歌詞に織り込まれている「セカイシックに少年少女」。超満員となった観客席から湧き上がる大歓声を受けながら、こうした夏歌たちをそらるとまふまふが歌いあげていくことで、真夏の夜の夢はその幕を開けたというわけだ。
「こんばんは、After the Rainです!」(まふまふ)
「よろしくお願いします!」(そらる)
「すみません、ちょっと正直プレッシャーに押し潰されまして、最初の2曲を歌いながら僕は死ぬかと思いました(苦笑)。だけど、もう大丈夫!」(まふまふ)
「あ、緊張もう取れました? まぁでも、こんだけ広かったら飲まれるよなぁ。だって、1万8000対2だもんね(笑)。メンバーさんたち入れて、多く見積もっても7でしょ。いやでも、勝とう。おまえらも、俺たちに負けないつもりで来いよな!!」(そらる)
After the Rain
なお、この場面ではそらるとまふまふのふたりから、今回のライブに関してのちょっとしたガイダンスがなされる一幕があったことも明記しておこう。
「えーと、それぞれの席にちょっと不穏なモノが置いてあったと思うんですけど、もう着けてありますか? スイッチもついてる? 今回はソレがライブの中で良い仕事をしてくれると思うので、とりあえず次にやる2曲では皆が持って来てるペンライトは一旦消してみてもらってもいいですか?」(そらる)
そらるの言う“不穏なモノ”とは、各客席に用意されていたLEDリストバンドのことで、スイッチを入れると曲に合わせて、光色や点滅回数パターンなどが自動制御されるという、新世代系ライブアイテムなのだ。よって、ここからのアグレッシブチューン「解読不能」と、ロックテイストの強い「生に縋りつく」では速いテンポで一斉に光が明滅したり、客席のエリアごとによって色分けされた光が交錯しながらキラめくという、会場そのものを巨大なライティングシステムとして稼働させた、ダイナミックなスケール感のある光景がさいたまスーパーアリーナ内を彩っていった。
After the Rain
After the Rain

かと思うと、ライブ中盤では着物のデザインを取り入れた衣装にチェンジしたそらるとまふまふが、これまた祭りヤグラ風のデザインが施されたトロッコに乗って「夢のまた夢」をそらるが歌い、まふまふがギターを弾きながら場内を移動し、前述したプチステージへと移動。ちなみにこの時、自他ともに認める高所恐怖症のそらるは手すりを強く握りつつ、ルートがカーブするあたりで「やべっ!」「うわっ!!」と歌の合間に声を発しながらリアルに慄いていたのだが、そらるにとっての恐怖はまだまだそれでも序の口にしか過ぎず……たどりついた後方プチステージでは、なんと「天宿り」に続いて「夏祭り」を歌っている途中に、舞台そのものが高くリフトアップ↑していくという事態が勃発。
高所を苦手としないまふまふは、プチステージでも自由にその上を動き回りながら楽しそうに歌っていたものの、そらるはほぼ腰が抜けた状態でステージの際には絶対に近寄らず、基本的には中央部分で歌うというアリサマで、客席からはそらるへの黄色い声援が上がっていた。
After the Rain
​そらる
まふまふ
このあとライブの後半戦に入る前には9月5日にリリースするニューアルバム『イザナワレトラベラー』から新曲「妖のマーチ」が披露されたり、まふまふが「朧月」をソロで雅びやかに歌うシーンなどもはさまれつつ、いよいよ「アンチクロックワイズ」からはラストスパート・モードへシフトチェンジ。After the Rainにとっての始まりの曲だったという「桜花ニ月夜ト袖シグレ」や、名曲中の名曲である「四季折々に揺蕩いて」でも圧倒的なボーカリゼイションを聴かせてくれたそらるとまふまふの絶妙なコンビネーションは、つくづく希有なものだと感じるに至った今宵。本編最後の曲を歌い始める前には、以下の言葉がまふまふから語られたのが実に印象的だった。
After the Rain
「昨日と今日の2日間は、僕たちAfter the Rainにとってだけでなく……そらる、まふまふ、両者にとって本当に大事な人生の1ページになったと思います。僕らはもともと、こんな大舞台に立てるとか考えずに、のんびりと活動を始めました。今でものんびりと活動をしているつもりではありますが、その一瞬一瞬がどれも大切なもので、「あんなことがあったな」「あんな失敗もしちゃったな」と、いろんなことを鮮明に記憶してます。昔も楽しかったし、今も凄く楽しいけど、そんな日々がずーっとずーっと続いていって欲しいな、と僕は個人的には強く願っています」
ひとつずつの言葉を、噛みしめるように語るまふまふ。そして。ここから先に続いた言葉もまた、まふまふにとっては偽らざる本音であったようだ。
「でも……いつかはこういう日々が終わってしまうかもしれない、ということを予感しているところもあります。それはきっと、皆もどこかでわかっていると思うんですけどね。なので、だからこそ僕はこの今日という日に絶対悔いが残らないようにしたいんです。僕たちの今の活動を、これまでで一番良いものに出来るようにという強い思いを込めて、ふたりで作った曲を最後にやらせていただきたいと思います。これは、僕たちが僕たちのことを書いた曲です。聴いてください、「彷徨う僕らの世界紀行」」(まふまふ)
今度のアルバム『イザナワレトラベラー』に収録されることもあり、現段階でこの楽曲の詳しい内容についてふれることは敢えて避けるが、確かにそれはAfter the Rainの今とやがて来るであろう未来、さらにはもっとその先の未来までを見越したような、奥深い内容の歌として聴こえてきた。それを、ふたりで作ったということがひとつの明確な答えであり、これからのAfter the Rainにとってひとつの道標となっていくのではなかろうか。
After the Rain
After the Rain
さらに、一転してアンコールでは本編だと黒髪だったまふまふがホワイトゴールドの派手髪になって登場し、いつも以上に明るい表情をみせるそらるとともに「脱法ロック」でハジけてみせたあと、このようなくだりがあったことも重要ポイントであったはず。
「あのね、さっきは感極まってしまって「いつかはこういう日々が終わってしまうかもしれない」なんて言いましたけど、別に“もうやれないかもしれない”とか、そんなことを言いたかったわけじゃないんですよ(苦笑)。たとえばほら、僕たちが病気になっちゃったりとか、歳をとっちゃったりして、それでいつか……みたいなことを考えながら感傷的な気持ちで作り始めた曲だったから、ついナイーブになってしまいました!」(まふまふ)
「俺の方こそ、あれでちょっと感傷的な気持ちになっちゃってさ。曲の入り方、間違えちゃったよ(笑)」(そらる)
「それ、言わなくていいじゃない! 最初ピアノが鳴らないうちに歌い始めたのを、ここで暴露してはならない(笑)」(まふまふ)
「予定になかったのに、アカペラになっちゃった(笑)」(そらる)
After the Rain
無邪気に笑いあう、そらるとまふまふ。その姿からも、ふたりにとってAfter the Rainがどんな意味を持つ場であるのか、ということはひしひしと伝わってきた。オーラスを飾った「すーぱーぬこになりたい」での楽しい盛り上がりぶりといい、この夏が終わってもAfter the Rainの今が“夏草やつわものたちが夢の跡”となるのは、まだまだずーっとずーっと先で、8並びのこの日取りのごとく彼らの未来はこれからも末広がりに拡がって行くはずだ、と信じられるような賑やかしい夏祭りはこうして幕を閉じたのである。

文=杉江由紀 撮影=小松陽祐(ODD JOB)、加藤千絵、小境勝巳、坂口正光

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