劇団四季『キャッツ』が首都圏に帰還
、 ”3つの演出変更点”をレポート!

”ジェリクルキャッツ”が首都圏に帰還した。
2018年8月11日(土・祝)に東京・大井町の新専用劇場「キャッツ・シアター」にて初日の幕を開けた劇団四季のミュージカル『キャッツ』。1983年、西新宿での初演以来35年に渡って各地で上演され、間もなく公演回数10,000回を迎える超人気作品だ。首都圏での上演は2012年に閉幕した横浜公演以来6年振りとなる。今回は演出の変更点等も含め、新生『キャッツ』について書いていきたい(注:内容に触れている箇所があります)。
劇団四季「キャッツ・シアター」
まず客席内に入るとさまざまなゴミのオブジェに目を奪われる。7月に行われたシアター内覧会の記事でも書いたが、約3,000点のゴミはすべて猫が見た大きさで作られており、その効果をより表すために、大きなゴミは客席入り口付近に配置されているとのこと。日用品や電化製品に加え、有名キャラクターや東京ならではのゴミのオブジェが飾られているのを探すのも楽しい。
場内が暗くなり、オーバーチュアとともに舞台裏に格納されていた回転席が180度回って猫たちの物語が始まる。
舞台は都会のゴミ捨て場。今夜は年に1度の”ジェルクル舞踏会”の晩。長老猫のオールド・デュトロノミーによって天上に昇るたただ1匹の猫が選ばれるのだ。集まった猫たちは自分こそがその唯一の猫=”ジェリクルキャッツ”だと月の下でそれぞれのアピールを始める――。
劇団四季『キャッツ』【撮影:下坂敦俊】
◆演出変更点1「ジェニエニドッツ(おばさん猫)」
普段は眠り続けているおばさん猫のジェニエニドッツ……だが、深夜になるとゴキブリたちを集めて大掃除をさせている。このシーンの見せ場であるタップダンスが新演出ではよりパワーアップ。演出スーパーバイザーの加藤敬二が内覧会の場で語っていたように、ゴキブリたちは身体の部分にも金具を付け、ボディパーカッションの音を出すことでさらににぎやかで楽しいシーンに仕上がっていた。
◆演出変更点2「マンゴジェリーとランペルティーザ(泥棒猫)」
犯罪王猫・マキャビティのフリをして現れる男女カップルの泥棒猫。歌詞は旧バージョンのまま曲調のみガラっと変わり、より難易度の高いダンスに。アクロバットな動きも増量。
◆演出変更点3「ランパスキャット(けんか猫)」
1幕「オールド・デュトロノミー(長老猫)」のナンバーと「ジェリクル舞踏会」のナンバーの間に入る。リーダー猫のマンカストラップがストーリーテラーを務め、犬のチンとブルテリアとの争いを収めた「グレート・ランパスキャット」の物語が展開。ランパスキャットは通常とは違う未来的(?)な出で立ちで登場し、特に歌のソロはない。なお、このパートは西新宿での初演以来の復活。
事前に発表されていた3つの演出変更点は以上だが、この他にも全体的にかなりの改訂(「ミストフェリーズ(マジック猫)」のソロパート、「スキンブルシャンクス(鉄道猫)」の曲アレンジ、「ラム・タム・タガー」(つっぱり猫)の観客連れ去りダンス→握手に変更等)が行われ、全体的にテンポアップし、明るい方に振った印象を受けた。
劇団四季「キャッツ・シアター」
作品のステージングが明るい印象になった分、より際立ったのが叙情的な2つのシーンだ。
まずは2幕の冒頭に登場する「ガス(劇場猫)」の場面。”落ちぶれた芝居猫”と評される年老いた猫が役者時代を回想して歌うのだが、この役には大きく分けて2パターンの解釈がある。ひとつは本当に元スター役者という構築。もうひとつは大したことのない……言ってみれば二流の役者が過去と思い出を美化し、酔っ払って周囲に語っているという解釈だ。この日、ガスを演じた藤田光之は後者で演じているように見え、より切なさが際立っていた。また、そんな老猫を支える若い雌猫、ジェリーローラム(岡村美南)のたたずまいも愛おしい。
そして『キャッツ』の代名詞ともなっている「メモリー」の場面。
落ちぶれた娼婦猫・グリザベラに対する他猫たちの蔑みや憐み、敵対の表現がより色濃くなったこともあり、彼女の孤独感がさらに強く表現されていると感じた。物語の終盤、グリザベラ(木村智秋)がその魂の全てを震わせて歌うこのナンバーに涙せずにはいられない……これは命を賭けた再生への叫びなのだと。
劇団四季『キャッツ』【撮影:下坂敦俊】
劇団四季をはじめ、ミュージカルの現場で活躍する俳優にインタビューをすると、多くの人が「キャッツを観たことでこの世界を目指した」と答えてくれる。それだけこの作品は子どもから大人まで多くの観客の心に刺さるミュージカルなのだとも思う。
イギリスの詩人、T.S.エリオットの詩をもとに創作された『キャッツ』には起承転結の展開がない。そこにあるのは猫たちのたくましくドラマティックなそれぞれの生きざまだ。だからこそ、私たちは27匹の猫たちの誰かに”自分”を重ね、ロイド=ウェバーの紡ぐ美しい音楽に身を委ねられるのかもしれない。
ぜひ、従来の黒から白の外観に生まれ変わった専用劇場に早めに足を運び、シアター内に置かれたゴミとともに、あなただけのさまざまな思い出を辿って懸命に生きる猫たちの生きざまに触れて欲しい。
きっと、明日からも前を向いて生きていこうと思えるはずだから。
◆劇団四季ミュージカル『キャッツ』は「キャッツ・シアター」(東京・大井町)にてロングラン公演中。
取材・文=上村由紀子
(文中のキャストは筆者観劇時のもの)

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