【ロングレポート】未来に繋がる<F
UJI ROCK '18>

7月27日(金)28日(土)29日(日)に、22回目の<フジロック・フェスティバル>が新潟県 湯沢町 苗場スキー場にて開催された。そもそもフジロックは数ある夏フェスの中でも特別な存在として君臨してきたが、今年はヘッドライナーのブッキングや、初のYouTubeでのライブ配信など、非常にエポックな年だった。しかもフジロックが苗場で開催されてから20回目ということで最高のプレゼントも用意されていた。全日がハイライトとなった3日間について、じっくりとレポートしていきたい。
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開催週の週はじめ、iPhoneは雨予報だが、他の天気予報は最高気温34℃の酷暑予想だったり、28℃の夏フェス日和予想だったりと予報によって内容が違う。いつも以上に準備万端で当日を迎えよう、逆に安心かもしれない、とフジロックならではの前向きな思考回路が助けていたのもつかの間、25日(水)の午前3時に台風12号が発生し、28日(土)に関東直撃とも予想された。フジロックと隅田川の花火大会の開催をセットで心配するツイートが飛び交い、夏の風物詩としてフジロックが定着していることをこんなところでも実感する。その他にも、フジロック参加者を羨んだり妬んだり、次回の参加を心に誓ったりと内容は様々だが、フジロックに関するSNS投稿が今年は一層盛んな気がした。

それだけフジロックが日本に浸透したとともに、さらに大きな要因のひとつがヘッドライナーにあった。初日はN.E.R.D、2日目はケンドリック・ラマー、最終日はボブ・ディラン。フジロックの常連はいないし、ケンドリック・ラマー以外はフジロック初出演だ。ピューリッツァー賞、ノーベル文学賞を最近それぞれ受賞したケンドリック・ラマーとボブ・ディランという最強リリシストの並びは世界的に見ても貴重であり、「ケンドリックはこの時代のボブ・ディラン。聴けば彼のスケールがわかる」というのはN.E.R.Dのファレル・ウィリアムスがケンドリックのデビュー後に捧げた称賛メッセージだ。今年のフジロックがあっという間に過ぎてしまったのも無理はない。本当に夢のような3日間だったのだ。
結局直撃はしなかったものの、台風の多大な影響をうけた2日目の夜。雨が滝のように降り注ぎ「修行中か」と自分にツッコミを入れながらも、今回一番観たかったケンドリック・ラマーがまもなく登場するという事実の前で揺らぐものは何もない。(登場したホワイトステージは閑散としていた)2013年のフジロック初出演時から5年、その間に『To Pimp a Butterfly』と『DAMN.』という金字塔とともに世界を虜にしてきた彼を見ようと駆けつけた多くのオーディエンスも、きっと同じ心境だったろう。バンドを従えていたものの、彼らはステージの両脇に据え、まるでケンドリックひとりが世界や自己と対峙するさまが展開された90分だった。


▲ケンドリック・ラマー


“カンフー・ケニー”が修行したり闘う割とユーモラスな映像が時おり挟まれながら、自然のモチーフが使用されたダイナミックな映像や、ビジョンに映る「Ain't nobody praying’ for me」といった内省的なテーマとが交錯し、心もとないひとりの男性の逡巡が眼の前で繰り広げられているようだった。澄んだ瞳やラッパーとしては丸い声質に直面すると、そのラップは人を制圧するでも鼓舞するでもないようで、異様なまでに自ずと感情移入する。オーディエンスはほぼ二極化され、歌詞を常に一緒に歌っているファン、開演前に友達に「アイガッアイガッのやつ聴きたいなぁ」(「DNA.」は1曲目にやってくれた)と期待するようなライト層がいたようだったが、後者の人々も、ケンドリック・ラマーのラッパーとしてのスキルや、人差し指を突き上げればすべての意志が集うようなカリスマ性を体験したことで、もっと彼の表現を理解したいと願ったのではないだろうか。もし、そうしたリスナーの母数がこれで増えたらベストだ。日本仕様だったのだろう、他国と比べてオーディエンスに歌詞を歌わそうとせず自分でその分たくさん歌ってくれたケンドリックも、日本のファンに安心してマイクを向ける日が来るかもしれない。


▲ケンドリック・ラマー

同じような意味合いではN.E.R.Dもそう。人数的にはしっかりとグリーンステージに集まったオーディエンスに対して、7年ぶりのアルバムとなったセルフタイトル作からはもちろん、「Get Lucky」含めてベスト的なセットリストを披露したが、ファレルがかなり一生懸命になってサークルを作って盛り上がる術をオーディエンスに教えていたり、「Seven Nation Army」がピークタイムになったことから、アーティストともっと深くてジャストなコミュニケーションを交わすノビシロがあるようにも感じられた。今はその現状を嘆くより、今回のフジロックを機に世界の音楽をひとりでも多くの人に知ってほしい。そして再び、これからもこうやって現行のミュージシャンを日本で観たい。


▲N.E.R.D

天候の良さも助けてか、ほぼ他のすべてのステージが転換タイムだったためか、この2組以上にオーディエンスを集めたのがボブ・ディランであった。予定調和を疎むボブ・ディランらしいかもしれない、ヘッドライナーにもかかわらず3日目のトリのひとつ前にあたる19時前という時間帯に登場したが、他にも嬉しい誤算があった。BARKSで先日お送りしたソニー・ミュージックの担当者へのインタビューの見解では、照明を落とすよう指示する可能性も語られたが(※「答えは神のみぞ知る? ボブ・ディラン、フジロック出演の顛末」)、シンプルな光ながらちゃんとボブ・ディランは照らされ、定点ながらピアノを弾いたりハーモニカを吹いたり歌ったりしているその姿がしっかりとビジョンに映し出されたのだ。たくさんの人が見えるフェス仕様。たまに満足気にニカッと笑ってみせたり、手でパッと広げるポーズを決めながら、ラストの「風に吹かれて」まで、やはりどの曲も大胆なアレンジが施された創造的なステージに人々は聴き入った。演奏が終わり、おもむろに立ち上がってセンターで仁王立ちを決めるまで、天候は安定し、時おり吹く涼しい風が心地よく、3日目にたくさん見かけたディランファンと思しきセンパイ達にとって過ごしやすい環境で本当によかった。

前日の同時間帯に登場したスクリレックスのステージは、好対照とも言えるド派手な照明や特効とともに、雨・風がお見舞いしていたからである。即効SNSで話題になったアンコールでは、X JAPANYOSHIKIが友情出演し「Endless Rain」をピアノ演奏した(スクリレックスはギターを演奏)。事前にTwitterで共演が予告されていたとは言え、驚嘆と興奮とが入り混じっていた会場は、次曲「Scary Mosters and Nice Sprites」でYOSHIKIが渾身のドラム演奏を披露すると純粋な興奮に包まれた。演奏が終わって「ヨシキー!」「ソニー!」(スクリレックスの本名がソニー・ジョン・ムーア)とたっぷりと叫び合う光景は、世界的アーティストがコラボし、互いをリスペクトする気持ちを表現する大舞台としてフジロックが機能していることを伝えたように思う。


▲スクリレックス


▲YOSHIKIとスクリレックス

3日目、一気に青空が広がったグリーンステージで、明るいテンションとグルーブを振りまいた遅咲きの天才=アンダーソン・パークも今回のフジロックで評価が高かった。世界のトレンドを日本でキャッチできる幸せを噛み締められる今年のフジロックのブッキング、本当にすばらしい。その極めつけが、初来日にして1日目のホワイトステージのトリを飾ったポスト・マローンだ。彼の場合はセカンドアルバム『Beerbongs & Bentleys』がリリースされたばかり。わかりやすく「JAPAN」と刺繍されたシャツを着たり、「自分であることを恐れるなよ」と実直に語りかけたりと、日本のオーディエンスに非常に友好的に向き合いながら大ヒットナンバーを披露していく姿はカッコよく、スターらしかった。


▲ポスト・マローン

あらためて振り返ってみると、出演者のラインナップが均一化されているフェスも見られるなか、予想を超えた夢のあるラインナップと言えるだろう。だがこれに留まらないのが、フジロックの真髄だ。


▲夕刻のホワイトステージ

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まずは、オデッザ。本国アメリカなどでの人気からすると今年のフジロックのエレクトロ枠における大注目アクトであったが、想像以上。もっともっと長尺で観たかった。2人の他にも6人ものドラマーが叩くことによるぶ厚い人力ドラムと、ホワイトステージにぴったりの開放感たっぷりの瀟洒なサウンド、そしてそのドラマーや2人のブラス奏者が整然とフォーメーションを形成し、そのバックに映し出されるのは近未来的な映像、と視覚も聴覚も確実に満たすハイレベルのエンターテインメントだった。今年のベストアクトだとする人も多い。早くまた来て欲しい!


▲オデッザ

レッドマーキーでは、オルタナティブな感覚を持った新人の好演が印象的だ。開演前からすでに人で溢れかえっていた多国籍バンド・スーパーオーガニズム、時おり手をポッケに突っ込みながら次々と歌唱していき自分のペースに引き込み続けていた小袋成彬、ショートパンツ姿で奔放なステージングを展開しキュート過ぎたレッツ・イート・グランマ、3日目の深夜0時というタイミングでも、そのフレッシュで明け透けなテンションにエナジーを注入されたCHAI etc…。CHAIにいたっては、昨年のROOKIE A GO-GOの出演者陣の中から投票で見事レッドマーキーの出演を勝ち抜いたというフジロック・ストーリーを描いた。ちなみに今年のレッドマーキーに登場したMGMT、ダーティー・プロジェクターズ、グリーンステージに登場したヴァンパイア・ウィークエンドというラインナップにあのNYインディ黄金期を想起した人も多かった。


▲レッドマーキー


▲CHAI


▲MGMT


▲ダーティー・プロジェクターズ


▲ヴァンパイア・ウィークエンド

それにしても、フジロック会場の奥地=フィールド・オブ・ヘブンは、いつまでたっても大人の階段を登ったような気分にしてくれる。ベン・ハワードはイギリスでの人気ぶりを示すように外国人のオーディエンスが多く、シンフォニックで深遠な演奏に気高いミュージシャンシップを感じ、現代キューバ音楽の最高峰、インタラクティーヴォは、直前に新レーベル「REXY SONG」から最新スタジオアルバムがリリースされ、さらにはこの3日間で別名義を含むとは言え5ステージに出演するなど注目度が高かったためか、雨が降りしきる中でもたくさんのオーディエンスを集めていた。


▲昼のフィールド・オブ・ヘブン

そんな中、最もやられてしまったのが、グリーンスカイ・ブルーグラスである。これが初来日。ミシガン州カラマズーで2000年に結成されたブルーグラス〜カントリーバンドで、即興演奏を多用するスタイルや、お客さんにライヴのレコーディングを許可していてるスタンスから、グレイトフル・デッドやフィッシュ等所謂ジャムバンドのファン達にも魅了されている、というバイオグラフィーは事前に確認していた(それならステージはヘブンで決まりだ)。だが実際ライブを観てみると、自分がカントリー・ミュージックにこれほど心打たれるとは思いもせず、またフジロックに新しい扉を開いてもらう。ロック的なアプローチも交える彼らのスタイルは、カントリーの素朴さとロックの興奮が互いに作用し、演奏のエモーションが半端ない。照明のシンクロも抜群で、5人のシルエットが浮かび上がるシーンの渋さたるや。アンコールの際に見せた飾り気のない人柄もギャップがあって魅力的だ。「もう1曲やるね」というメンバーからの挨拶に「2曲やってよ!」と即答した近くのオーディエンスの声もきっと届いていただろう。届いたに違いない。
▲グリーンスカイ・ブルーグラス


▲夜のボードウォーク。この先にフィールド・オブ・ヘブンが広がる

今年はヘッドライナーが華やかだからこそ、他のたくさんの素晴らしいライブを目の当たりにするたび、200組以上の出演者を誇るフジロックの底なしぶりを思い知った。以上、フジロックの主要4ステージであるグリーンステージ、ホワイトステージ、レッドマーキー、フィールド・オブ・ヘブンの一部のアクトにおいて今年始めて行われた試みが、YouTube生配信であった。

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この初の試みに関してまず頭に浮かんだのが、今年<コーチェラ・フェスティバル>がYouTubeでライブ配信された際に日本でもビヨンセのパフォーマンスに多くの人が熱狂した現象と、フェス文化を日本にもたらした先駆者であるフジロックのパイオニア精神だ。今回は行きたくても行くことができなかった人、参加に二の足を踏んできた人にとっても配信を目にすれば、2018年のフジロックに触れた、という意識を少なからずもたらすことができるだろうし、それはもちろんフジロックのさらなる浸透につながる。これだけ音楽フェスが乱立しているなかで、やはりフェス(本来的な意味での“祭り”)とは、当事者意識をいかに多くの人々にもたらすことができるか?という命題がキーになってくるはずだ。

そのため、YouTubeでの配信によって来場者が減る可能性も頭をよぎるが、「未参加者がフジロックに興味をもつ機会になったら」「フジロックやその出演者、特に邦楽アーティストを世界に紹介したい」という思いが主催者側にはあったようで、未来に投資できるこのフェスの精神性を垣間見たような気がする。ちなみに、配信の合間に流れていたハライチ岩井が歌うソフトバンクの動画「気がしれない FUJIROCK2018」は、お茶の間とフジロックの架け橋になったかもしれない(?)。さらには、「ライブ配信を観て、くやしい想いをした人々が翌年来場してくれることに期待している」という主催者サイドの意図からは、いかに自らがフジロックに自信をもって運営しているかを理解できる(参考:ハフポスト日本版「フジロックは、なぜYouTubeでの世界同時配信を決めたのか。『若干の懸念はありますが…』」)。
今年度は、サカナクションSuchmosマキシマム ザ ホルモンエレファントカシマシThe BirthdayMONGOL800GLIM SPANKY浅井健一 & THE INTERCHANGE KILLS、cero、小袋成彬、eastern youthMISIAD.A.N.といった、邦楽シーンを牽引してきた/牽引していくであろうアーティストのライブが世界に配信された。邦楽アーティストにとっても、あまたある音楽フェスの中でフジロック・フェスティバルへの出演は特別だという声を多く聞くが、YouTube生配信によって今後さらにフジロック出演に対する意欲は高まりそうだ。それとともに、「世界で聴かれる」という意識が邦楽シーンを活性化させることも楽しみである。洋楽勢では、N.E.R.D、スクリレックス、オデッザ、アンダーソン・パーク、チャーチズ、ジャック・ジョンソンらも配信されていたが、バスクのバンド、エスネ・ベルーサのようなフジロックならではの世界の音楽に心奪われるのも面白い。来年以降もこのYouTubeライブ配信はおこなわれるのか、配信アーティストを増加させるのか等はまだ不明だが、ぜひ続けて欲しい取り組みだ。荒れていたチャットの書き込みが悪影響をおよばさないことを願う。


▲サカナクション


▲マキシマム ザ ホルモン


▲cero


▲ジャック・ジョンソン

だが、ライブ配信されないステージにこそフジロックの精神が宿る、という見方も十分できると思う。ヘブンのさらに奥地へと進めば、フジロックの最果ての地である「カフェ・ド・パリ」で加藤登紀子の絶唱を今年も吸収し気高さと活力を受け取ることができたし、ホワイトとヘブンの間に位置するオーガニックなステージ「ジプシー・アバロン」では、折坂悠太という新しい才能と出会った。緊張が見え隠れしながらも、「やってるかー!」という挨拶をかましてくれた粋な態度も頼もしかった。宝物のような出会い。また、2日目の夜23時近く、結構な暴風のなか「ピラミッド・ガーデン」で観たタップダンサー・熊谷和徳も興味深いアクトであり、ヴォーカル/パーカッションとのセッションは情熱的なコミュニケーションと受け取った。
▲夜のピラミッドガーデン

◆レポート(4)へ
さて、今年だけのスペシャルについて。世界で唯一の大人の移動遊園地「アンフェアグランド」がフジロックのモデルとなったイギリスの<グラストンベリー・フェスティバル>からやってきたのである。フジロックの湯沢・苗場開催20周年を記念し、グラストンベリーの会場である牧場の休耕年であるため実施された、まさにスペシャルな空間。インスタレーション、グラフィティー、サーカスパフォーマー、DJが展開され、ジプシー感やレイブ感溢れる非日常な空間にドキドキするが、何よりもこのご時世にここまでアナーキーな世界観を全面に出している光景に胸がスーッとする。妙にこのエリアに解放感を覚えてしまった…(苦笑)。毎年、その年にしかないスペシャルがあるからフジロックは欠かすことができない。かつてオレンジコートがあったこのエリアでは、誰でも参加できるドラムサークル「STONED CIRCLE」を筆頭に、ボルダリングやスラックラインの体験コーナーもあり、いろんなアミューズメントと出会いが待っている。


▲夜のアンフェアグランド


▲STONED CIRCLE

▲前夜祭の花火

個人的に声を大にして伝えたいアミューズメントが、入場ゲートの前に位置する無料エリア「パレス・オブ・ワンダー」で真夜中に最高のパフォーマンスを披露したマルチネス・ブラザーズ・ウィズ・ジョセリオのサーカスだ。綱渡りからはじまり、大車輪のコーナーでは会場に悲鳴と驚きと大きな拍手をもたらし、このチームの人気者である11歳の嵐 マルチネス小深田くんと、17歳のアラン マルチネス氏による「イカリオス」は、アランの足の上で嵐が宙返りをし続けるという彼らの得意技だ。何メートルも上昇する舞台で技を決めようとする際には、あまりにも嵐くんが愛らしいからか、「やめてー!」と思わず叫ぶオーディエンスもいたのだが、見事に技を決めて満面の笑みを振りまく嵐くんにヤバイくらい感動…。しかも、嵐&アランはステージのあとに握手や写真撮影にも応じ、子供が写真をリクエストすると、さっとステージから降りてきた。彼らのことが早速気になって調べてみたら、6男4女の大家族の暮らしぶりが最近はTVでもいくつか紹介されており、子供たちは公演のたび年に何回も学校を転校するという。汗と涙の結晶を私たちはフジロックで拝んだのだ。
▲綱渡りの模様


▲握手に応じる嵐くん


▲パレス・オブ・ワンダー

そして、子供用のアミューズメントとして、メリーゴーランド、フェイス・ペインティング、楽器づくり、布芝居、森の音楽会、焚き火 などを楽しむ事ができるのは、もはやおなじみとなったキッズランド。通りがかると常に賑わっていたように、近年のフジロックの傾向のひとつと言えば、子連れ参加の増加である。子供らもしっかりした雨具やスポーツウェアを着用するようになってきている。キッズランドでプレイパークと初めて対峙し、心と体が成長する子もいるのだろう。だがもちろん、そんなふうに果敢にチャレンジするも、マイペースにゆったり過ごすも、子供の意思次第。キッズランドでも根底にあるのは「自由」だ。


▲キッズランド


▲会場内に点在するアート、“ゴンちゃん”

それに反して、近年のとても残念な傾向がマナーの低下である。折りたたみイスの脚を折りたたまず移動する人の急増が顕著だ。イスの放置、ゴミのポイ捨て/分別、分煙について、かつての「世界一クリーンなフェス」を再びみんなの手で作り上げようと、“ルール・マナー”でも“規制”でもない、あたりまえのエチケットを“OSAHO”(お作法)とするキャンペーンが、主催者発信で初めて行われた。越後湯沢駅から会場までのシャトルバスでも流れていたオリジナル動画も制作され、KEENのブースでは、こういった問題に関する説明を聞いたらネックチューブをプレゼントするという、協賛メーカーによる建設的なブース展開も行われていた。
折りたたみイス問題に関しては、想像力のないマイノリティーの人数が今年は若干ながら減ったような気もするが、いずれにせよ、参加者の自主性を尊重してきたフジロックがこういったキャンペーンを打つというのは危機的状況だと感じている。継続的に向き合うべき課題だ。

また、KiUのブースでは、輪投げゲームをするとその参加費が全額フジロックの東日本大震災復興支援プロジェクト「Benefit for NIPPON」に寄付され、クリアすると豪華商品がプレゼントされるという試みがおこなわれていた。楽しみながら人の役に立てるというのは最高だと思ったし、実際に参加者でにぎわっていた。
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今年もこのロングレポートは長くなってしまった…。だが、本当はまだ書き足りない。いつも驚くフジロックの世界最高峰のサウンドシステム(◆※【チーム・フジロック座談会】世界に誇るフェスを支える鉄壁の仲間達)、初見の人々にとっては度肝を抜かれたはずのMISIAの歌唱力、木道亭が異世界と化したKENJI JAMMERの渋さ。なぜか今年初めて食べたところ天国の煮干しラーメンのおいしさ。テント宿泊者の中には夜中にペグを打ち直す人もいたほどの暴風雨に見舞われた2日目の夜中と比べたら、3日目の序盤は雨風が強いと言えども、さほど気にならなくて、一夜にして自分がタフになっていたこと。
さらになんと、同じくSMASHが主催するキャンプインフェスの元祖=<朝霧Jam>の第一弾出演者が、フジロックの場内で発表されたのだ。しかもラインナップが過去最高レベルの内容で、「絶対行くじゃん、これ」と参加をすぐ決めた人も目にした。YO LA TENGO、ボアダムス、CHAI、JOHN BUTLER TRIO+、SAKURA FUJIWARA、GOGO PENGUIN、clammbon、J.ROCC (DISCO/HOUSE SET)、KID FRESINO、ムジカ・ピッコリーノ、GA-PI、KNXWLEDGE、never young beach、mabanua、mouse on the keys、NAO KAWAMURA、YOUR SONG IS GOOD、SNAIL MAIL、TENNYSON and more! 個人的には、一目惚れしたばかりのSNAIL MAILが朝霧で観れるなんて嬉しい。ただでさえ楽しいフジロックの現場で吉報を受け取る喜びは計り知れないので、今後もこのやり方を是非。
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そして今年も、3日目の退場ゲートでは「SEE YOU IN 2019!! 7/26 fri. 27 sat. 28 sun」のプレゼントが待っていた。早くもみんなの胸がときめく瞬間だ。

総じて2018年のフジロックは、フェスとしての唯一無二のブランドを確固たるものにしたと言える。1997年夏の富士山麓での初開催から掲げる「自然と音楽の共生」というコンセプトを人々に根付かせた上で、今年は世界的な現行のビッグアーティストを見事ブッキングし、YouTubeでの生配信という試みも成功させた。だがもちろん、音楽との接し方にしても、参加者の意識にしても、今年のフジロックを実際に未来につなげていけるかどうかは、私たちの手にすべてが委ねられている。そういう意味でも、とても重要な2018年のフジロックだった。

取材・文◎堺 涼子(BARKS)
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