ヨーロッパ企画『サマータイムマシン
・ブルース』『サマータイムマシン・
ワンスモア』交互上演記者会見&プレ
ビュー公演速報

15年前の空気を再現した『ブルース』/現在の“企画性”を極めた『ワンスモア』、まもなく全国ツアー開幕!!

1998年に上田誠、諏訪雅、永野宗典の3人で、京都・同志社大学校内の一室から旗揚げした「ヨーロッパ企画」。そこから早くも20年が経ち、それを記念して劇団の初期の傑作『サマータイムマシン・ブルース(以下ブルース)』と、続編となる新作『サマータイムマシン・ワンスモア(以下ワンスモア)』を交互上演する。発売開始と同時に完売が続出している状況ではあるが、大阪で行われた記者会見と、滋賀県・栗東で上演された『ワンスモア』プレビュー公演の模様を、こちらも負けじと2本立てでお届けする。

■「今タイムマシンものをやったら、もっと違うことができるのでは」(上田)
7月6日に、ヨーロッパ企画劇団員+今回のゲスト4人が出席して行われた記者会見。まず上田がこの交互上演について「いつも本公演では、過去にやったことは一旦捨てて、一から新しいモノを作るという感覚でやってるんですが、今回はせっかく20周年なので、20周年らしいことをやってみようと思いました。僕らの初期を飾ってくれた『ブルース』を再演して、さらに2018年のヨーロッパ企画が送るタイムマシン・コメディの新作『ワンスモア』をやって、過去と今を見比べていただくというのが、今回の意図です」と説明した。
上田誠
2001年初演の『ブルース』について、上田は「今僕たちは、ある仕掛けが劇の中心にあって、そのルールやバカバカしさに準じて話を作るという“企画性コメディ”をやってますが、『ブルース』にはすでにその萌芽がある。というか、まんま企画性コメディといえば企画性コメディ。タイムマシン・コメディであり、なおかつ当時(大学生)の僕たちの等身大に近い所を描いた作品です」と振り返った。
「SF研究会」と「カメラクラブ」が隣接する大学の部室に、25年後の未来人がタイムマシンで現れたことで起こる騒動を描いた本作。一度は2005年の再演を最後に「もう大学生(役)は無理だろう」と封印したが「その糊が甘くて、封印が解けてしまった感じ(笑)。今ヨーロッパ企画メンバーはアラフォーですけど、『ブルース』のその後を描く新作と一緒にやる形なら成り立つんじゃないか? と思いました」と、本当に最後(?)の再演に踏み切った理由を語った。
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』2005年再演より
『ブルース』の舞台設定は2003年で、『ワンスモア』はその15年後の2018年現在が舞台。「あの部員たちが部室に帰ってきて、そこでまたタイムマシンに出会います。『ブルース』では(エアコンの)リモコンを取りに行くという、しょうもないことで終わったけど(笑)、今ならもっと上手く使えるんじゃないか? ってなるという。その登場人物たちの気持ちと、ヨーロッパ企画の僕ら自身の“同じ材料で今タイムマシンものをやったら、もっと違うことができるんじゃないか?”という気持ちが重なればいいなあと思っています。(部室の)経年変化はありますが、基本的には2本とも同じ舞台装置でやります」
今回はヨロ企メンバーに加え、4人のゲストが出演。本作のヒロインとして『ブルース』『ワンスモア』両作品に登場するのは、ヨーロッパ初参加となる早織。「私は京都生まれですが、ヨーロッパ企画さんは近いようで遠い存在でした。エチュード(注:ヨーロッパ企画の作品はエチュード〈即興芝居〉の稽古を通して作られる)の稽古も未知の世界で、流れをくめていない発言をしてしまったり(笑)。そんなとき(劇団員の)石田(剛太)さんに、今そのタイミングじゃないぞ〜というのを“シーッ!”と優しい仕草でおしえていただいたことも(笑)」
早織
上田に「岸田國士戯曲賞」をもたらした『来てけつかるべき新世界』(2016年)では、主役に大抜擢された藤谷理子は、『ワンスモア』に現役女子大生役で再登場。「私はタイムマシンで時間を行ったり来たりするその仕組みに、とても弱くて。最初は余裕だと思ってたけど、一昨日から急にわからなくなりました(笑)。“今、どこに行った?”みたいな瞬間がいっぱいあってワタワタしてるんですけど、それも含めて楽しいなと思っています」
藤谷理子
また藤谷と同じく、現役の学生役として「劇団プレステージ」の城築創が初出演。「今稽古していて“すごくいっぱい人が出てるなあ”と(一同笑)。9人とかで舞台上にいるのって、あまり今まで体験したことがなかったので楽しいです。(ヨロ企劇団員の本多力と、髪型がかぶっていることに触れられて)以前舞台で共演した時に、本多さんのポップな所に憧れて真似しました。おかげ様でちょっとずつ仕事が増えてます(笑)」
城築創
同じく『ワンスモア』に、SF研究会の同級生役で登場するのは、これがヨロ企出演五度目(日替わりゲスト含む)で、準レギュラーと言える存在の岡嶋秀昭。「僕は彼らの京都の先輩で、今回2年ぶりに参加して感じたことは“相変わらずだなあ”ということ(一同笑)。これは決して否定的な意味ではなく、劇団の関係性が全然変わってない。この店に行けば、いつも変わらぬ味を出してくれる……みたいな感じで、泣きたくなるような嬉しさを感じています」
岡嶋秀昭

■「『ワンスモア』だけ観ても、面白いに決まっている」(石田)
また会見の恒例となっている、ヨロ企劇団員によるフリップショーでは、本多力と石田剛太と永野宗典が、今回の公演の見どころを紹介。本多は「ノンストップ・タイムスリップ・コメディ」というフリップで説明を始めたものの、やたら「ノンストップ」ばかりを連呼して、上田から「ノンストップだけを言えばいいもんじゃない」といさめられてしまった。
本多力
石田は「ワンスモアだけ見てもおもしろい!!」というフリップで「『ブルース』を観てなくても面白くなるように作りますし、むしろ『ワンスモア』を観れば『ブルース』の内容はほとんどわかる」と主張。そしてこの後の質疑応答で「『ブルース』観てなくて大丈夫ですか?」という質問が飛ぶのを見越して「それはもう、なしで」と、記者たちに釘を刺した。
石田剛太
また永野は「エクストリーム・タイムスリップコメディに耐えられるか!?」という問いかけのフリップに合わせ、以前上田がタイムスリップものの映像作品を作った時「撮影カメラマンが、その(時間構造の)難解さに嘔吐した」というエピソードを披露し「今回も非常に強靭なものになると思いますので、エチケット袋が必要になるのでは」と、少々ぶっそうな予告を残して、このコーナーを締めくくった。
永野宗典
この後の質疑応答では、旗揚げメンバーの諏訪と永野が20周年の感想を聞かれ「思ったより短く感じる20年でした。でも今振り返り(会見冒頭に流された、全公演のダイジェスト映像)で観ると“すげえやってんなあ”と感じました」(諏訪)「旗揚げ公演が楽しすぎて“次やろう!”ってなって、その次やってもまた次の話になってというのが、延々つながってる感じ。そうしていくうちに関わってくださる方が増えていって、輪がひたすら大きくなって、そこは本当にありがたいなあと感じます」(永野)と答えていた。
諏訪雅
また上田には「『ブルース』では、未来人は25年後からやってくる設定ですが、『ワンスモア』を15年後にしたのは理由があるんでしょうか?」という鋭すぎる質問が。これに対して上田は「それは“何となく”としか言いようがないんです。25年後がいいのか、あるいは20周年だから20年後がいいかとか、後になってからいろいろ考えたんですけど(笑)。でも15年の方が、20年とか25年よりもエネルギーに満ちたものが作れそうだなと思いましたし、実際15年という半端なタイミングが劇中では効いていて。完全に昔話になり切らないタイミングで、もう一度タイムマシンを……というのが、ちょうどいい年数だったのかなと思っています」と答え、この時絶賛執筆中だった『ワンスモア』への自信を、チラリと垣間見せていた。
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』記者会見

■そして『ワンスモア』は……伏線回収ぶりも笑いも確実にレベルアップ!!
そして会見から約3週間後の7月28日に、[栗東芸術文化会館さきら]で『ワンスモア』のプレビュー公演が行われた。劇場に入ると、『ブルース』の舞台となったあの部室がまんま再現されていて、リピーターの観客も思わず「ただいま!」と言いたくなる雰囲気だ。実際タイムマシンが登場した時には、観客から「待ってました!」な拍手が起こるなど、いつものヨロ企の舞台とは違う熱が生まれていることが、早々に感じられた。
2018年の夏、あのタイムマシン騒動を経験したメンバーたちが、同窓会の帰りにこの部室を訪れる。現役のSF研究会&カメラクラブの学生たちに活動の状況を聞いたり、思い出話に花を咲かせたりと、和気あいあいと時をすごしている最中に、突然あのタイムマシンが彼らの前に現れた……。
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ワンスモア』プレビュー公演より [撮影]清水俊洋
「同じ材料で、あの時よりももっと上手くやりたい」と意気込んでいただけあり、『ブルース』の時間軸の入り組み方がレベル3だとしたら、今回はレベル5ぐらいに難易度が上昇。かつてのようにお気楽な気分でタイムトラベルをするかと思えば、社会人になったからこその冷静さやキナ臭い事情が出てきたりと、いろんな思惑と時間軸が何重にも絡み合う。まさに会見で永野が予想した通り、あまりのエクストリームさにクラクラするほどだ。
しかしだからこそ、伏線としてしかけられた謎と結果がズバン! と重なったのがわかった時の快感も、『ブルース』より格段にアップ。特に後半に向けての回収具合はすさまじく、客席が拍手付きで笑いの渦に包まれるシーンもしばしば。伏線張りの巧みさには定評のある上田だが、これまでが職人レベルだったとすると、今回は魔術師……いやもう魔王の領域だと言いたい。よくぞここまで伏線に次ぐ伏線、アイディアに次ぐアイディアを、破綻やこじつけを感じさせずに回収&成立できたものだと、平伏するしかなかった。

ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ワンスモア』プレビュー公演より [撮影]清水俊洋

また『ブルース』のオマージュというか、因果はめぐる的なシーンもいくつかあるのが、本作のファンには嬉しいところ。未見の人も、当日パンフの中に『ブルース』の詳しいあらすじが書かれてあるので、それで予習したり、あるいは観劇後に答え合わせ的に読んでもいいだろう。私自身が『ブルース』を初演以来欠かさず観ている、完全にコアな人間なので断言はし辛いが、記者会見で石田が執拗に主張した通り、恐らく『ワンスモア』だけでも存分に楽しめると思う。
これから始まる全国ツアーの最新情報は、ぜひツイッターの公演アカウントとなっている、本作の登場人物ならぬ「登場犬」のケチャのツイートでチェックしてほしい。ちなみに『ワンスモア』でのケチャの行く末も、見逃せないポイントですぞ!
ヨーロッパ企画『サマータイムマシン・ブルース』『サマータイムマシン・ワンスモア』公演ビジュアル
取材・文=吉永美和子

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