カノエラナに訊く、"武者修行"の途中
経過と「今までで一番自分らしい」一
枚が生まれるまで

カノエラナが作詞・作曲・歌・演奏のすべてを手がけるオールセルフプロデュースアルバム『ぼっち2』をライブ会場限定でリリースした。今作はカノエ自身が「今までで一番自分らしい作品に仕上がった」と明かしているとおり、前作アルバム『「キョウカイセン」』で押し広げたバラエティ豊かなサウンドから一転して、ギター弾き語りを中心にカノエラナの原点に還るパーソナルな1枚になった。リード曲「花束と導火線」をはじめラブソングの比重が少し増え、熱い友情ソングからクスリと笑える雨女のブルースまで全8曲を収録。まるで登場人物の息遣いが聞こえてくるようなリアリティ溢れる楽曲の奥には、いまカノエラナがシンガーソングライターとして新たに表現したい核心がしっかりと根付いている。
――年明けのひとり弾き語りツアーに続き、いまも全20ヵ所の全国弾き語りぼっちツアー 「カノエ襲来~また来たヨ!勇者全員集合!~」を開催中ということで。
「なんでまた?」みたいな感じですよね(笑)。バンド編成のライブもたくさんやっているなかで、「弾き語りをもっとがんばりたいな」みたいな気持ちも強くなってきて。(マネージャーに)「またツアーまわるで」って言われて、最初は「え!?」って思ったんですけど、自分のレベルを上げるためのダンジョンが整備されてる感じがするんですよね。
――「ダンジョンが整備されてる」というのは?
前の弾き語りツアーは路上とかインストアだったんですけど、今度はライブハウスなので。やっぱりライブハウスになると、マイクを通すから、繊細な音が全部拾えるし、誤魔化せないんです。だから路上で鍛えた喉の強さだったりを、やっと本番で発揮できるのがライブハウスっていうか。そういうダンジョンを進んでる感じがしますね。
――現時点で約1ヵ月を終えてみて、どんな手応を感じてますか?
ライブのラクさが違うんですよね。前は必死にやってて、終わったらゼーゼー言ってたんです。でも今回は全然いける気がするっていう余裕があるんですよ。
――こなすだけで精一杯じゃないぶん、その余力でより表現を深めていけるというか。
そう、曲によって歌い方も変えられるので、ずっと研究をしてる感じですね。
――そのツアーをまわることが決まったことで、会場限定の『ぼっち2』を出そうっていう流れだったんですか?
どっちだっけ?
マネージャー:同じタイミングぐらいでしたね。インディーズ時代に『ぼっち』を出してから、本人のスキルが上がってきたので、このタイミングで『ぼっち2』 を作って、それを自分の手で届けよう、みたいな感じで。
――カノエくんは、そのアイディアに対しては、どう向き合いましたか?
大変だなあと思いました(笑)。ふつうの曲を作るときよりも、全部ひとりだから、やることが増えるんです。音数が少ないぶん、いろいろなものがバレちゃうっていうのもあって、1回作った曲もバラして耕してから作り直していったんです。
――もともとはバンドで仕上げようと思ってた曲も改めて作り直した?
そうですね。アコギ1本だったら、この間奏はいらないなとか、逆に間奏を伸ばして口笛を入れたらいいかな、とか。最近、ガレバン(ガレージバンド/音楽制作ソフト)でも作るようになったので、いまだからできることもやろうと思ったんです。
――二十歳のときに出したライブ会場限定盤の『ぼっち』のほうも、作詞作曲からアレンジ、演奏まで、全部ひとりで作ってたんですよね。
そうですね。でも当時は本当にギター1本だけで、たまにドラムを自分でちょっと叩いてたぐらいなんですよ。だから前作に比べると、進化してるなと思います。しかも限りなくライブに近いんです。自分が全部やってるから荒々しさも出てると思います。
――今作については、「今までで一番自分らしい」っていうコメントも発表してますけど、それはどのあたりで感じましたか?
いちばん大きいのは、「こういう曲を作ってください」って言われた曲が入ってないことですね。いままでは「こういう曲が足りないんじゃない?」みたいなことを言われて、それを呑み込んで、「じゃあ、がんばろう」みたいな感じで書いた曲もあるので。そうじゃない作品はこれが初めてなんです。だから今回は“カノエラナ”っていうよりは、“素の自分”に近い感じで書いたのかなって。
――前のインタビューのときに、カノエくんって、素の自分で書いたものを、(アーティストである)カノエラナに相談する、みたいなことを言ってたじゃないですか。
そう、それで言うと、今回は(アーティストである)カノエさんは置いておいて、「今回はわたしがとりあえず書くんだ」と。「お前は歌うだけでいい」っていう感じですね。
――そういう作り方をしたものは、やはり出来上がりも違いますか?
いちばん違うのは、自分で聞いても「好きだな」と思えるんですよ。好みというか。私自身、自分の曲を全部好きっていうわけじゃないんです。
――正直ですね。
でも、本当にそうなんです。
――それは、嫌いな曲があるっていう意味じゃなくて、「好き」の強度が違うというか。
そう、好きのバランスが違うんです。それは誰にでもあることだと思うんですよね。自分から出てきたものであっても、自分の一面だけを切り取ったような曲もあるから。でも今回は、全部私の好きな色なんですよ。
――なるほど。いま言ってくれたことと、ちょっと反対かもしれないんだけど、そういう作品が、「じゃあ、いままでとはまったく違うんですか?」って言われたら――
そうじゃないんですよね。
――うん、いままで作ってきた曲とも矛盾してない。だから、逆説的に、カノエくんがこれまでに出してきた作品っていうのも、ちゃんと自分の好きな曲を出してきてたんだなっていう証明にもなってるんですよ。
ああ、そうですね。だから、自分のなかの位置の違いだと思うんです。たとえば、自分っていう大きな円があって、前作の『「キョウカイセン」』では、その外側の線のギリギリまで移動していく作業をしてたんです。その移動距離がちょっと大きくなってた。
――で、その円の中心のいちばん近い曲が今回の『ぼっち2』である、と。
そうですね。『「キョウカイセン」』ではいちばん縁まで行ったから、今回は限りなく真ん中に近い感じに行こうっていう。お散歩みたいな感じですね。
カノエラナ 撮影=風間大洋
――あと、今回のアルバムには恋愛モードの曲が多いように感じたんですよ。
そうなんですよ。何を狂ったんでしょうね(笑)。わたし自身には何の変化もないんですけど。今回そういうニュアンスが多くて、自分でもビックリしてます。
――それは曲を作る前から意識したわけでもなく?
別に、誰と誰が付き合っててもいいじゃないかと思ったんですよ。これを作った当時、芸能系のニュースが荒れ果ててたから。それを見ながら(笑)。
――なるほど(笑)。それで1曲目の「本能的恋愛のすゝめ」で<人生一度きりだ恋せよ人間>っていうのが、アルバムのオープニングみたいな意味合いになってて。
序章みたいですよね。
――「花いちもんめ」のフレーズとか、こっくりさんが出てくるのが、和風のものとか、オカルトが好きなカノエくんらしいです。
ふふふふ。私、花札とか風車とかを家に飾ってるんですけど、それを眺めてたときに、日本の童謡のカバーを弾き語りで入れてみようと思ったんです。弾き語りでライブに出たときに、特に対バンとかで、「こいつ、なんちゅう曲をやるんだ」っていうインパクトがある、かっこいい曲がほしいなと思ったんです。
――で、2曲目の「ねぇダーリン」は、三角関係のドロドロを書いてますね。
この曲を作ったときに、「カノエくん、エグい曲を書くようになったね」って言われたんですけど(笑)、いままで作ってきた恋愛ソングにも、こういうグロさを入れた曲はあるんですよね。ふつうに日常で喋ってるようなテンションで、「これヤバくない?」みたいな感じでリアルな曲を書くっていうのは、ずっと続けてきたことなんですけど。「ねぇダーリン」も、ふつうは歌詞では使わないような言葉を入れてるんです。
――「激しくしたんでしょう」みたいな(笑)。
そういうのって初めて聞いたら、ドキッとすると思うんですよ。いろいろ想像できるように、細かい描写を入れてますね。しかも、それをちょっと軽い感じで歌ってるから余計に刺さるというか。怖い感じに聞こえて良かったなと思ってます。
カノエラナ 撮影=風間大洋
――この「ねぇダーリン」の女の子もピアスをしてて、5曲目に「ピアス」っていう曲があるから、同じ女の子が主人公の曲なのかなと思いましたが?
「主人公が同じなのかな」とか想像できますよね。「ねぇダーリン」も「ピアス」も、ハートよりも星が好きみたいなタイプの女の子かなと思ってるんです。
――わかる気がします。この曲には<あなたはわたしにピアスを開けた>っていうフレーズもありますけど、カノエくんも、たくさんピアスの穴が開いてますよね。
私の場合は、自分で開けたのもあるし、友だちが開けたのもありますね。いまは全部で10個ぐらい空いてます。友だちに「お前、耳がヤバいな」って言われますけど。あと、街中でおばあちゃんに「あんた耳がスゴかね」みたいに話しかけられて、「かわいいやろ」って言ったりとか(笑)。
――カノエくんがピアスを空けるときって、単純にオシャレをしたいのか、それとも何か衝動的に開けたくなるのか、どういう感情なんですか?
わたしは衝動ですね。このあいだ曲ができなかったときにも空けたんですけど。気分転換みたいな。それで曲ができるんですよね。あとは、やっぱり変わりたかったんです。内気だし、人と関わるのが怖いから、ピアスをしてたら、人が近づいてこないかなっていう。
――そう考えると、「ピアス」って、空想の恋愛ソングっていうだけじゃなくて。
そう、自分自身に対してみたいなのもありますね。
――3曲目と「ああ友よ」と4曲目は「同窓会」は、友だちの歌ですね。
「ああ友よ」はウェディングソングになればいいかなと思って書きました。
――<結婚しても/お前が一番に頼るのは私でいい>っていいフレーズだなと。
ちょっと嫉妬深めな感じで、でも平然を装ってる子ですよね。
――この曲もそうですけど、インタビューで話を聞いてても、カノエくんって、たぶんいい友だちを持ってるんだろうなと思うんですよ。
ああ、そうかもしれない。
――たとえば「嘘つき」(アルバム『「キョウカイセン」』)収録)っていう曲は、明け方の4時に友だちの恋バナを聞いて、それを参考にしてできた曲って言ってたじゃないですか。そんな時間に電話で相談し合える関係って素敵だなと思うし。
そうですよね(笑)。たぶん友だちの数は少ないんですけど、濃い友だちがいるんですよね。恋愛の話をしてくる友だちは、「これ、歌詞にしてもいいから」とか言われたりするので、それは本人公認ということで、「いただきます」させてもらってます(笑)。
カノエラナ 撮影=風間大洋
――「同窓会」のほうも、実際に同窓会があったわけではなく?
これはもともと30秒動画で上げてた曲なんですよ。ちょうどハタチになった頃、同窓会があるなあ、みたいなときに書いたんですけど、内容は想像ですね。さりげなく指輪を見せて、「あ、これ?」みたいな女の子がいて、昔その子を好きだった男の子の気持ちになって書いたんです。辛いけど、すごく空気がいい曲なんですよね。
――同窓会っていうテーマに、口笛の響きも合ってますしね。
めっちゃがんばりました(笑)。最近、口笛を吹く機会が増えてきてて、「ちょっと自信ないです」みたいな感じでやってたんですけど。今回は自分で入れたいって言ったんです。それが良いアクセントになりましたね。
――「れいにぃがぁる」は、曲調はブルースっぽい渋い感じだけど、歌詞のテーマは「雨女」っていう遊び心があって。
曲はかっこいいのに、歌詞はアホっぽいっていうのは狙いました(笑)。これはギター1本でもかっこよく聞こえるように作りたかった曲ですね。
――実際にカノエくんは雨女ですもんね(笑)。<運動会 修学旅行/全部雨>っていうのはリアルに?
本当にそうなんですよ。
――この曲の<自意識過剰でもいーの>っていうところが好きです。結局、雨女、雨男って、「自分で思ってるだけだろ」みたいなところもあるじゃないですか。
本当にそう。そんなことを言ったら、世界中に(雨女が)いっぱいおるぞ、みたいなことになる。でも、いい。「わたしの世界だよ」っていう開き直りの曲ですね。
――ちなみに、この曲みたいに大人びた歌唱というか、こぶしを効かせた感じの曲も、カノエくんには多いですけど、影響を受けたシンガーはいるんですか?
歌い方としては、KTタンストールさんのガラッとした声だったり、クリスティーナ・アギレラさんのこぶしをグッと入れた太い声が好きで。日本で言うと、Superflyさんとか。あんまり、かわいい声の歌を聞かないんですよ。だから太い声を求め続けてきたんですけど、わたしの地の声がかわいい寄りなので。それを変えようとしてら、最近は年々、声が太く低くなってきたので、これを利用しようと思って、いろいろな声で歌ってますね。
――で、このアルバムの最後を締めくくるのが、ミディアムテンポの「花束と導火線」ですね。いろいろな愛を歌ってきた最後にクライマックスを飾る曲になってて。
いちばん最初に「本能的恋愛のすゝめ」があったから、それと対になる曲がほしいなと思って書いたんです。最終的に、このアルバムでいちばん言いたいことって、恋愛の対象は何でもいいし、恋愛をしてても、してなくてもいいっていうことなんじゃないかなと思うんですよね。「それぞれのかたちでいいんじゃないの?」っていう。
――それぞれの生き方を肯定するような1枚にしたかった?
そうですね。最近そういうことを表現したいなと思うようになったんです。それはずっとやりたいと思ってたことではあるんです、出せてなかっただけで。
――いま表現できるようになったのは、どうしてだと思いますか?
たぶん、いろいろな人と会ったからだと思います。いろいろな人と会って喋ると、みんなやってることが違うし、性別も違うし、その人にとって大事なものが全部違うんですよね。それがいいなと思ったんです。わたしも、周りのみんなと違うけど、それでいいんだって。そうやって自分のなかでストンと落ちたものが、曲になったなと思います。
――そこがカノエくんにとって、『ぼっち2』を出す大きな意味なんでしょうね。
だから原点とは言えど、昔だったら作れなかった曲たちですね。

取材・文=秦理絵 撮影=風間大洋
カノエラナ 撮影=風間大洋

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