東京都美術館『BENTO おべんとう展』
レポート お弁当文化を“コミュニケ
ーションツール”として捉えなおす

お弁当の思い出って、どんなものがあるだろう? 人それぞれ、思い出す光景や味は違うはず。食生活に彩りを添えてきたお弁当を、コミュニケーションツールとして捉え直すユニークな展覧会が始まった。東京都美術館で開催中の『BENTO おべんとう展―食べる・集う・つながるデザイン』より、参加型の作品も満載な本展の魅力を、たっぷりとご紹介しよう。
「おべんとう」は人と人、人と時間を繋げるコミュニケーションツール
「この『おべんとう展』は、美術館としてはかなり変わった展覧会だと思っています」。
こう話すのは、本展担当・東京都美術館学芸員の熊谷香寿美氏だ。「東京都美術館がこれまで2回開催してきた『アーツ&ライフ』をテーマにした企画展シリーズ第3弾となる本展は、“おべんとう”をコミュニケーションツールとして捉え直すものです。“おべんとう”は人と人、人と時間を繋げるもの。新しい視点を与えてくれるような新作を、各作家に製作していただきました」と、本展の趣旨を語った。
本展担当・東京都美術館学芸員の熊谷香寿美氏。
本展では、主に8人の作家の映像作品、インスタレーション作品、写真作品などに加え、江戸時代の弁当箱や世界の弁当箱が出展されている。誰にとっても身近な「おべんとう」から、そこに内包される見えないコミュニケーションを多角度から眺める、遊び心に溢れた展覧会だ。
(左から)森内康博氏、小山田徹氏(共同制作した娘さん)、北澤潤氏、マライエ・フォーゲルサング氏、大塩あゆ美氏、小倉ヒラク氏
時間や場所を超えた「おべんとうのかたち」
では、いよいよ気になる展示内容を見ていこう。第1章は「おべんとうのいろいろなかたち」。発酵デザイナー・小倉ヒラクのアニメーション作品《おべんとうDAYS》は、キャッチーな歌と歌詞、気になる振り付けで、家に帰ってからも脳内再生されること間違いなし。お弁当の持つ“贈り物”としての魅力がちりばめられており、歌って踊って笑っているうちにお弁当を作りたくなってくるという、鑑賞者の行動を喚起する作品だ。
小倉ヒラク《おべんとうDAYS》と作家本人  2018年 3分21秒 アニメーション:小倉ヒラク 音楽:松本素生GOING UNDER GROUND) 振り付け:flep funce!
料理家・大塩あゆ美の《あゆみ食堂のお弁当》は、ウェブマガジンの連載がきっかけで生まれた写真とレシピの作品。「お弁当を届けたい誰か」について書かれた手紙をもとに、大塩が実際にレシピを考案し、お弁当箱と共に投稿者に届けるというプロジェクトだ。育ち盛りの息子や、料理上手な祖母など、身近で大切な人との関係を繋ぐお弁当の力を感じる。
《あゆみ食堂のお弁当》  2017年 料理:大塩あゆ美 写真:平野太呂
写真家・阿部了の《ひるけ》は、ちょっとドキドキする作品だ。お弁当を開くとき「ふと家に帰るというか“素”になる時間があるんじゃないかな」という阿部の言葉の通り、お弁当とそれを食べる人を写しただけのシンプルな写真の中には、食べている人それぞれの日常が確かに写り込んでいるようだ。
阿部了《ひるけ》  2018年
江戸時代のユニークな形状のお弁当箱の展示では、古くからの日本人のおもてなし精神と遊び心が感じられる。世界各国のお弁当箱の展示は触れられるものもあるので、ぜひ重さや質感を感じてほしい。
江戸時代のユニークなお弁当箱が並ぶ
世界のお弁当箱などに触れる展示もある
目に見えないおべんとうの世界を体感!
第2章「五感で体感!おべんとう」では、2人の現代美術家によるインスタレーション作品が続く。オランダのイーティング・デザイナーであるマライエ・フォーゲルサングの作品《intangible bento》は、「お弁当の精霊」の声を聴きながらお弁当箱の中を探検するような体験ができる。「おべんとうの目に見えない価値を表現した」という本作では、お弁当が持つコミュニケーション、食の問題、環境問題にも自然と目を向けられるような仕掛けがなされている。
マライエ・フォーゲルサング《intangible bento》  2018年
貸出しの音声機器“精霊フォン”からは「お弁当の精霊」の声が聞こえてくる
美術家・北澤潤の作品《FLAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁》は、「おべんとうが生み出す“弱いつながり”」の可能性を探る実験的な空間だ。様々な人達から集まった品々を、アジアの屋台のように所狭しと並べ、来場者と出展者のおすそわけが行われる。会期中にどんどん変化する作品となりそうだ。
北澤潤《FLAGMENTS PASSAGE - おすそわけ横丁》  2018年
会期中は観覧者がおすそわけに参加できる仕組みも
「食べる」が生み出すコミュニケーションのこれから
最後の第3章「おべんとうから考えるコミュニケーション・デザイン」では、「食べること」が生むコミュニケーションについて想いを巡らせる2人の作家による作品が展示されている。美術家・小山田徹の《お父ちゃん弁当》は、幼稚園生の弟のために小学生の姉が「指示書」を描き、父がお弁当に仕立てるという日々のやりとりの記録だ。お題は「プレート火山」や「にゅうどうぐも」など実に多彩。誰かのために作ること、食べてもらうことの喜びを思い出す作品である。
小山田徹《お父ちゃん弁当》  2017年

お題をもとに、自らお弁当の「指示書」を描けるスペースも

映像作家・森内康博の《Making of BENTO》は、中学生のグループがお弁当を考えて、それを自分たちで映像にした作品と、さらにその様子を映した映像作品だ。お弁当作りを通して、様々なコミュニケーションを重ねた中学生たちの記録は、面白おかしくもアツい気持ちにさせられる。
森内康博《Making of BENTO》  2018年

巨大なお弁当箱型スクリーンと、箸入れ型ベンチで映像を鑑賞

会期中は様々なワークショップやトークセッションも行われる。展覧会場を出た後は、お弁当を誰かと食べたくなるような本展。ぜひ、家族や友達、大切な人と楽しく訪れてほしい。

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