“愛”が溢れる美輪明宏の音楽会で、
何本もの映画や芝居を観た気分になれ
る珠玉のシャンソンを堪能!

歌手、俳優、稀有な才能を持つアーティストとしてはもちろん、愛とユーモア、毒と洒落にサービス精神をたっぷり散りばめつつ、美と文化、そして無償の愛の大切さを語り続ける伝道師としても多くのファンを獲得している美輪明宏。その美輪が毎年、テーマやプログラムを変えて続けている恒例の音楽会、今秋は『美輪明宏の世界~愛の大売り出し 2018~』と題して開催することが決定した。今年もまたロマンティックでドラマ性の高い名曲の数々を美輪の存在溢れる、そして説得力のある歌声で堪能できる、貴重なひとときとなるはずだ。
ーー恒例の音楽会ですが、今秋はどのような内容、テーマになりそうでしょうか。
ここのところ、前半は日本の抒情歌と、私の作詞作曲した歌、後半はシャンソンというわりふりにすることが多かったのですが、今回はシャンソンを主に構成しようかと思っています。若い方、新しいファンの方からのお手紙を拝見すると、最近はシャンソンを聴いたことがないし、どういうものかすら知らないという方が増えているようなので。
ーーそうなのですか?
「シャンソンを知っていますか?」と聞くと「化粧品の名前ですか?」とか「ブランドの名前ですか?」なんて言うんです(笑)。それで「シャンソンというのはフランス語で、ただ“歌”という意味なんです」とお教えするんですけれど。でも最近ではパリのレコード屋さんですら、日本と同様で置いているジャンルはポップスばかりだと聞きます。エディット・ピアフや昔の大歌手たちのシャンソンはほとんどが片隅に追いやられて“シャンソン・ド・クラシック”という扱いになっているそうです。そのようなわけで、名曲や名歌手の歌を知らない人がいっぱいいるそうなんです。だけど、それではもったいないでしょう? ですから今回はシャンソンを主にして、久しぶりに歌う曲も入れてみようかと考えています。
ーーそれはとても楽しみです。もちろん『愛の讃歌』など、お馴染みの曲も歌われるんですよね。
そうですね。そして、いつものようにプログラムに曲目リストを一応載せておくつもりですが、もしかしたらその日によって何曲か差し替えて歌うスタイルにするかもしれません。
ーーそれもまた、ライブならではの素敵な試みですね。
なんだかちょっと、通販の物売りみたいですけれど(笑)。
ーー“本日のオススメ”みたいな(笑)。
ふふふ。「これがオススメだと思ったでしょう? でも実はこっちなの!」って(笑)。
ーーまた今回のサブタイトルは『愛の大売り出し』、ということですが。
これは「愛の大売り出しをしましょう、私だけではなく、みなさんも」、ということなんです。“閉店セール”という言い方だと誤解を招くといけないから“大売り出し”にしたんです。すべての人生、すべての生活は腹六分でと、私はずっと言い続けているのですが、ケチになってはだめなんです。それは夫婦関係でも親子関係でも、身内であろうとなかろうと、一緒です。ねぎらいの言葉と感謝の言葉は気前よく、120%くらいの大きな声でおっしゃったほうがいい。そうしておけば、摩擦が起きないんです。よく主婦の方が、ご主人や子供たちが家事を手伝わないとか洗濯物をたたまないとか、着ていたものを脱ぎ捨てているとか、いろいろな不満をおっしゃっています。でもきっと手伝ってもらって当たり前、みたいにしているのではないかと思うんです。「こうしなさいって言ったでしょ」って文句ばかり言っていて「はい、ご苦労様、お手数かけましたね」とか「どうもありがとう、助かります」とか、一言でもそういう感謝の言葉を気前よく言えていれば、自分は感謝されているんだと思えるものじゃないですか。ご主人にしたって、頭ごなしに「あなた何もしてくれないのね」って言われてしまうから摩擦が起きるんです。「あなた、ちょっとこれお願い、これやってくださらない?」というような言い方であれば、自分は必要とされているんだと思える。すると自分の存在理由というものが明らかになるから、胸をはっていられるんです、だんなさんも子供さんも。そういうことのためにも言葉というものがあるのに、語彙が少ないせいもあるのでしょうけれど、上手に使えていないのです。
ーーやはり今回も、“愛”をテーマした楽曲が多くなりそうですか。
そうなると思います。今は、なんだか愛も恋もいっしょくたになっていますけれど。日本の人ってみなさん、恋も愛も一緒だと思っていらっしゃる方が多くないですか? そうお思いにならない? “愛恋”ではなく“恋愛”ですし、愛が先にあるということはまずないんです。あの人を誰にも渡したくないとか、離れたくないとか、自分の欲望ばかりが主になっていて自分本位なのが恋。買い物に行っても、恋の場合は「これはあの人が可愛いと言ってくれるかもしれない」「似合うと言ってくれるかもしれない」というように、まず自分ありきなんです。これが愛に入っていくと、自分のものを買いに行ったとしても「あの人に着せたら似合いそう」「これ、確かあの人が欲しがっていたものだわ」と、相手のことばかりに気が行って結局、自分のものは予算的に買えなくなったりする。待ち合わせをしていても、相手が遅れていると烈火のごとく怒って「誰かほかの人と会っていたんじゃないかしら」「私をこんなに待たせるなんて冗談じゃないわ」となる。それが恋でしょう。でも愛になると「仕事で都合が悪かったのに無理をさせていたんじゃないだろうか」とか「電車とホームの間に足でも挟まれてやしないだろうか」とか、とにかく相手のことが心配になってきてしまう。それで1、2時間遅れでやってきて、向こうは怒られると思って「ゴメン!」って謝るんだけれど、そこで「いいのよ、私も今来たばかりだから」と言えるのが愛でしょう。だから恋から始まって、愛の領域に入れればしめたものなのです。そうなれば、もうなんだってかんだって全部許せるわけですから強いんです。相手の裏切りも何もかも、すべて許せてしまう。ですから『ボン・ボヤージュ』という曲を、私はこういう風にアレンジしたんです。初めのうちは裏切られて怒っているんだけれども、2番、3番と進むと「まあ、この人が幸せだったらそれでいい」と思い直すようになり、最後には「もし、うまくいかなかったらいつでも戻っていらっしゃい、あなたの椅子はいつでも用意してありますよ。でもそうならないように、お幸せになれればそれが一番ですからね」と、相手の幸せだけを祈ってあげている。『愛の讃歌』だって、歌詞からしてもちろん愛の歌です。原詩は、ですけれど。他の方の訳詞はだいたいみんな恋の歌になっていて、原詩とは全然違いますから。越路吹雪さんが歌われていたものも、岩谷時子さんが越路さんのために訳されたものですし。でも岩谷さんのあの歌詞だったから『愛の讃歌』が一般的になったので、それはひとつの功績だと思っていますけれど。
ーー流行歌として、当時の日本人には受け入れやすかったかもしれないですね。
原詩のままだと、あまりに壮大な愛を描き過ぎているのでポピュラーにはならなかったでしょう。それと、私が音楽会でも何度か歌っている『人生は過ぎゆく』という曲にしても、男に捨てられて最後には窓から飛び降りて自殺する女の歌なんですけれども、まるでジャン・コクトーの一幕もののドラマみたいですから。よく「美輪さんの歌を聴いていると、映画やお芝居を何本も観た気持ちになる」という風に言われて、特に役者さんとか演劇関係の方、音楽関係の方たちがご覧になるとみなさん私の歌のファンになっていただけるんです。それで「天才の文豪や美術家とか、そういった方たちが美輪さんの虜になっていたということが実際に舞台を観て、歌を聴いて初めて分かった」とおっしゃる。私が自分で言うのもおかしいですけれど(笑)、でも本当にそういう方がとても多いんです。
ーー美輪さんの音楽会は、そうやって歌われる楽曲の数々ももちろん素晴らしいのですが、その歌の合間のおしゃべりがまたすごく楽しいですよね。
みなさん、そうおっしゃってくださいます。
ーー鋭く社会のことを語るだけでなく、笑えるトークも満載で。
それが、パフォーマンスのひとつの手段でもあるんです。最初に舞台に出ていった時、普通に「美輪明宏でございます」って言ったって、つまらないでしょう?
ーーいつも「白鳥麗子です」とか「きゃりーぱみゅぱみゅです」とか、一言目に果たして何をおっしゃるのか、それも毎回楽しみだったりします。
ふふふ。きゃりーちゃんによると、“ぱ”にアクセントをつけると名乗りやすいそうです。ご本人から、コツを教わりました(笑)。とにかく今回のコンサートにしてもロマンティックにロマンティックにと、ムードをそちらのほうへ持って行こうとしていますけれど、それは今がデジタル社会になってきたせいで、みんな少しおかしくなってきていると思ったからなんです。子供たちもスマートフォンを見っぱなしで視神経がおかしくなって、そうなると首から上の神経もやられてイライラするようになり、それが狂気に変わる場合まで出てきてしまう。孤独癖に陥って人との付き合い方がわからなくなったり、言葉が出てこなくなったりもする。親子関係でもなんでもそうですが、人と人との関係には“まばたき”とか“肌触り”、“溜息”や“優しい息遣い”、そういうものが人間同士には一番必要なのです。だからみなさん、最近はアナログに憧れるようになってきて、おそらく、どこかで欲しているんでしょう。なのに、実際にどうしていいのかはわからない。そこでメディアが解決策として飛びついたのが、アナログの人たちです。たとえば藤井七段。完全にアナログの世界でしょう? しかも礼儀正しくて、親孝行で。5時間も6時間も、じーっと、きちっと座って。負ける時には丁寧なお辞儀をして、負けを認めて。立派でしょう。私も以前から言い続けていますけれど、子供さんには将棋、チェス、囲碁を必修科目としてやらせたほうがいい。思いやりが持てるようになるんです、八目先を読めるようになるから。人生の八目先を考えられるようになれば、こんなことをしたらきっと結果はこうなって、親族の人、取引先の人、周りの人たちにどんな迷惑をかけてしまうことになるか、どういう風に思われるようになるかが想像できるようになる。それをすべて計算できる、つまり知力が備わるわけです。そして人間は、演劇にしてもコンサートにしても、なんのために文化というものを生み出したかを考えると、そういう自分自身を守るためでもあるんです。それなのに、戦時中の「文化は軟弱である、国策に反する」という軍隊の考え、つまり「文化は敵だ」という考えがまだどこか、今の男たちの中に残っているんです。
ーーいまだに、ですか?
ええ、いまだに。なければなくてもいい、贅沢なものなんだという風に文化のことを思い続けている実業家や政治家があまりに多過ぎるんです。だったらなぜ、人間はなくてもいいものをずっと大事に育んできたのかというと、精神を正常に保つため、自己防衛のため、情緒障害を起こさないようにするためなのに。そうやって本当に人間に必要で、捻り出されたものが文化なんです。そういったことも改めて考えてみていただけたら、と思います。
美輪明宏
取材・文=田中里津子

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